走り抜ける風   作:ブリンカー

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35話

 選抜レースを終え、次々と引き上げていくウマ娘やトレーナー達。山内も同様に引き上げ、長谷に別れを告げるとトレーナー室に戻った。

 

 

 (それにしても長谷がスカウトに成功したウマ娘は面白そうなウマ娘だったな。あれじゃ長谷の保護者だ)

 

 

 甲斐甲斐しくお世話をしているウマ娘にたじろぐ長谷を思い出し笑いながら部屋に入った山内は訪ねてくるであろうサラホウヨウの仮契約書を用意して待つ。ほどなくして廊下の方からツカツカと複数の足音が聞こえてきた。

 

 

 

 「お疲れ様でーす!トレーナー選抜レースどうだった?いい子いた?」

 

 

 

 「私達にもついに後輩ができるんですか?」

 

 

 

 はしゃぐステイシャーリーンとブリーズシャトル。それをなだめつつ、遅れてマスカレードアイがやってきた。3人とも選抜レースの結果が気になるのか、興味津々の様子だ。

 

 

 

 「ああ。1人スカウトに成功したよ。もうそろそろ来る時間だと思うんだが・・噂をすれば」

 

 

 

 山内が時計を見ながら返事をした後に、トレーナー室をノックする音が聞こえる。聞こえる声も山内が先ほど出会った少女と似たような声をしている。間違いないだろう。入室を許可すると、礼儀正しいお辞儀をした後に1人の少女がやってきた。サラホウヨウが自己紹介をした後、ステイシャーリーンとブリーズシャトルが――おぉー!!と感嘆の声をあげていた。

 

 

 

 「うぉー後輩だ後輩。これで私も先輩かぁ~」

 

 

 

 「サラちゃんって呼んでもいいかな?私ステイシャーリーン!よろしくね!」

 

 

 

 「マスカレードアイと申します。よろしくね」

 

 

 

 「お前らまだうちのチーム入りが確定したわけじゃないからな・・一応個々の3人がうちのチームメンバー。んでこれが仮契約書。しっかり読んで問題なかったらサインをして。わからないことがあったら聞いて」

 

 

 

 山内はそう言いながらソファに座って対面しているサラホウヨウに仮契約書を手渡す。サラホウヨウは仮契約書を手に取って数分まじまじと見つめた後、問題ないと判断したのかサインを書いて山内に戻した。仮契約書を受け取った山内は立ち上がると提出してくると言って部屋を出ていった。

 

 取り残されたサラホウヨウ。チームメンバーと雑談でもしといてくれと言われたが、ここにはジュニア級のウマ娘はサラホウヨウ1人。当然アウェー状態だ。

 

 

 (なにか話題はないかな・・?)

 

 

 気まずい空気にならないようにそう考えた瞬間、サラホウヨウが声をかけるまでもなく、2人から質問攻めの嵐を受けた。

 

 

 

 「サラは今ジュニア級なんだよね?あっ私ブリーズシャトル!好きに呼んで!選抜レースの結果はどうだった?」

 

 

 

 「サラちゃんはスカウト受けてやってきたんだよね?」

 

 

 

 「あ、はい。えっと・・」

 

 

 

 元気な2人に押されたじろぐサラホウヨウ。――元気な2人でごめんね。とマスカレードアイがサラホウヨウに温かいお茶を差し出しながら対処しきれないサラホウヨウをフォローをする。

 

 

 

 「いいえ、そんなことないです。優しそうな先輩方で安心しました」

 

 

 

 「聞いた!?シャーリーン。優しそうな先輩って今言ってたよ!」

 

 

 

 「多分主にアイちゃんのことだと思うんだけどなぁ・・」

 

 

 

 「いーや、私も入ってるね。優しくないのはシャーリーンだけじゃない?」

 

 

 

 「はー?私の方がシャトルちゃんの10倍優しいですぅ~!」

 

 

 

 「なにをぉ~?」

 

 

 

 「シャトルちゃんのおたんこにんじん!」

 

 

 

 そう言いながらきゃっきゃといつものプロレスが始まり、はしゃぐ2人。――元気な先輩達だ。サラホウヨウはマスカレードアイが入れてくれたお茶を飲む。ほんのり温かいお茶が心地いい。少しずつチームの雰囲気を理解していくサラホウヨウ。

 

 

 

 「私達ね」

 

 

 

 「はい?」

 

 

 

 「3人とも同期なの。私達がこのチームに入った時、正確にはシャーリーンちゃんが1番最初に入ったのだけれど。入れ替わりの時期だったみたいで先輩がいない状態だったの。だから先輩、後輩っていう関係にあの2人は憧れてたんじゃないかしら。後輩をチームに入れるってなった時、すごいはしゃいでたわ。勿論私も喜んじゃったけど。だから今はちょっとテンション高めだけど、慣れてきたら落ち着いてくると思うわ。これからよろしくね」

 

 

 

 「はい。私このチームに入れて本当によかったです」

 

 

 

 なんとかやっていけそうだ。意気揚々と入ってきたものの、怖い先輩がいたらどうしようと思っていたが、杞憂だったようだ。サラホウヨウは心の中でそう思うとマスカレードアイの気遣いに感謝する。

 

 

 

 「そういえばなんでサラちゃんはこのチームに入ろうと思ったの?」

 

 

 

 「私は・・メジロラモーヌ先輩のレースを見たことがあるんです。そのレースはちょうどトリプルティアラが掛かっていたレースで。ラモーヌさんが1着でゴール板を駆け抜けた時凄くかっこよく見えたんです。3冠というプレッシャーに負けずに堂々としているあの人の走りをみて私もああいう風になりたいって。それで担当トレーナーは誰なんだろうと調べたら山内トレーナーという方と言うのを知って」

 

 

 

 「それでここにやってきたのね。じゃあ山内トレーナーにスカウトされた時ビックリしたでしょう?」

 

 

 

 「はい!まさか声をかけてもらえるなんて思ってもいませんでしたから。なるべく平常心を保つようにしていたんですけど内心はドキドキでした。えっと・・」

 

 

 

 「アイでいいわ」

 

 

 

 「アイ先輩はどうしてこのチームに?」

 

 

 

 「知りたいかい?それはね・・」

 

 

 

 いつの間にかこちらの話に加わっていたブリーズシャトルとステイシャーリーン。マスカレードアイへの質問を何故か決め顔のブリーズシャトルが答えた。

 

 

 

 「逆・・スカウトかな・・」

 

 

 

 「別にかっこよく言う必要ないんじゃないかな・・」

 

 

 

 呆れるステイシャーリーンにお構いなしでブリーズシャトルは喋り続ける。

 

 

 

 「私達3人とも選抜レースでいい結果でなくてさ。んで最初シャーリーンが声かけられたらしいのね。それでシャーリーン泣きながら何度も頭下げて逆スカウト。んで根負けしたトレーナーが折れたって感じ。その情報を聞きつけたアイと私も次の選抜レースで何回も頭下げてチーム入りを認めてもらったんだよね・・」

 

 

 

 サラホウヨウは少し驚くと、当時を思い出したのか少し恥ずかし気な3人。噂には聞いていたがまさか本当だったなんて。その噂がでた後、選抜レースでは一時期逆スカウトがブームになったぐらいには話題になっていたのだ。

 

 

 

 「でも私もスカウトされてなかったら山内さんにお願いしに行ってたと思います」

 

 

 

 「でしょ?いやーガッツのある後輩が入ってきて私は嬉しいよ!これから一緒に頑張ろう!」

 

 

 

 そう言いながらサラホウヨウの手をとったブリーズシャトルはぶんぶんと手をふりながら握手をする。そんなやりとりをしているうちにトレーナー室に山内の声が響く。

 

 

 

 「なんか少しの間にものすごく仲良くなってるね。チーム内の仲は良好になりそうかな?」

 

 

 

 サラホウヨウを加え4人となったチーム。一旦4人をまとめた山内は続いて3月のクラシック前哨戦の話にうつって行った。

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