「いやぁ~にしても昨日のシャーリーンすごかったわ~。会場も超湧いてたし!思わずうちも叫んじゃったわ。昨日でかなりファンボ増えたんじゃね?」
「ファンボって何?」
「ファンボーイのこと。普通にファンでいいでしょそこは・・」
選抜レースの翌日。ステイシャーリーンは放課後、友人二人と遊びに出かけていた。このところ練習続きだったのでたまには息抜きも必要とトレーナーが休みにしてくれたのだ。
「にしてもうちらも契約結べてよかったわぁ~これで将来安泰?間違いなし!そして約束の地、暮れの中山で激突・・完璧なストーリーじゃね?」
「私もあんたも仮契約でしょうが・・ていうかそもそも私ダート路線だし・・つうかこれからが頑張り何処でしょ。6月の選抜レースで結果をだしてそこからはもうデビュー戦の時期に入るんだから・・」
ステイシャーリーンの友人2人はそろって今回の選抜レースで好走できたため、それぞれ仮契約を結ぶことができた。友人達と過ごせる時間が増えたことに喜びを感じながら、賑やかなファストフード店の店内でまわりに負けじとわいわい話を進める。
「そういえばシャーリーンは仮契約は一応終わったんだよね?本契約をトレーナーと結べたの?」
「あっ・・・」
ハンバーガーをほお張ろうとしたステイシャーリーンは間抜けな声をだして呟いた。あのレースの後、みんなで喜びを分かち合って興奮してはしゃぎまわっていたので全く気が付かなかった。トレーナーも自然な流れで祝福してくれたので頭の中からすっかり抜け落ちていた。
「マジ?それ一番重要なことじゃね?なんなら選抜レースの結果より大事じゃん」
「なんかあんたが正論言ってるの久々に聞いた気がするわ・・実際そこの所大事だし明日でいいから聞きなよシャーリーン」
「うん。聞いてみる。すっかり忘れてたぁ・・」
店を後にし、寮に戻るステイシャーリーン。携帯電話を取り出し、トレーナーに連絡をしようとするも、指がなかなか動かない。もし断られたら。そんな不安が脳裏をよぎり、行動に移すことができない。昨日のレースで栄光を手に入れたウマ娘とは到底思えない顔でステイシャリーンは床に就くのであった。
次の日、授業を終えたステイシャーリーン。私いつも通りですよ。そんな顔でトレーナー室にやってきた。なるべく自然な装いなつもりだが、心臓はバクバクしていた。―――お疲れ様。といつもの返事をもらったステイシャーリーンは猫が縄張りで領土主張するかのようにソファに座りくつろぎ始める。―――ちょっと待っててね。と山内がデスクワークをしながらステイシャーリーンに声をかけると、数分後、2枚の紙を持ってソファに腰を下ろした。
「改めて昨日の選抜レースの勝利、おめでとう。僕も自分のことのようにうれしかった」
担当した子が勝利するのはいつになっても嬉しいもの。山内はにこやかな顔でステイシャーリーンの前に書類を差し出す。
「それで改めてなんだけど・・シャーリーンが良ければ契約を続けたいと僕はおもっているのだけどシャーリーンはどうかな?」
正直トレーナーが書類を持ってきた時点で感じてはいたが、改めて言葉として聞くことができると嬉しい。ステイシャーリーンは二つ返事で快諾し、勢いよく書類にサインし始めた。―――内容をよく見なさいと怒られたが、仮契約と記載されている内容はほぼ変わらないとのことなので、―――じゃあ大丈夫ですねと笑顔で返すステイシャーリーンに山内は苦笑しながら、自分もサインを書いて割り印をする。ステイシャーリーンも割り印の代わりにサインで済ませた。
「じゃあこれを僕は提出してくるから。これはシャーリーンの控えね。なくさないように」
そういってクリアファイルに入れてくれた書類をステイシャーリーンに渡した山内は部屋を出ていった。
誰もいなくなった部屋で1人、ステイシャーリーンは両手で書類をかざしてまじまじとみる。嬉しい気持ちが込みあがってくる。トレーナーの元で力をつけてメイクデビューして、後々はG1出場もあったりして・・?妄想してにやにやが止まらないステイシャーリーン。傍から見れば書類を大事に抱えてにやつくウマ娘。ただの変態である。
コンコン
ドアをノックする音で我に返ったステイシャーリーンは返事をするか迷った。この部屋の主は自分ではない。だがしかしこの部屋に尋ねてくるということは用事があるということに他ならない。勝手に部屋に招き入れていいのだろうか。迷っている間にもコンコンとノックする音が響く。ステイシャーリーンは咳払いをすると、少し意識した声で――どうぞ。と返事をすると少し間が空いた後に2人のウマ娘が入ってきた。
「あの・・ここは山内トレーナーのトレーナー室で間違いないでしょうか・・?」
「失礼します・・」
1人は赤毛のショートカットで元気がありそうな子だ。もう1人は黒髪のロングで優しそうな顔付きをしている。2人ともどこがで見たことがある顔をしている。ステイシャーリーンは思い切って声をかけてみた。
「あの・・勘違いだったら申し訳ないんですけど私達どこかであったことありませんか?」
「多分気のせいじゃないと思う。私とシャーリーンさんはクラスは違うけど同じ学年だよ。もしかしたら廊下で何回かすれ違ってるからそのせいじゃないかな?あっ自己紹介が遅れた・・私の名前はブリーズシャトル。シャトルって呼んでね。んでこの子が―――」
「マスカレードアイと申します。よろしくねシャーリーンちゃん」
「ステイシャーリーンと言います。よろしくお願いします」
自己紹介をされたのでステイシャーリーンも立ち上がり、自己紹介をする。どうぞどうぞと2人をソファに案内してお水を汲んで二人に差し出す。来客に応対する事務員気分を味わっていると、山内トレーナーはいないのかと質問をうけたステイシャーリーンは只今席を外して・・といいそうになったが、すぐに戻ってくるといい二人との会話を楽しんだ。
「それにしても昨日のレースすごかったね!私も見てたけど会場もりあがってたよ!」
「3バ身もつけて勝つなんてすごいわ。シャーリーンちゃんが完全にレースを支配してたって感じだったもの」
「いやあれは全部トレーナーのおかげだよ。トレーナーに出会う前は散々な結果のレースばっかりだったし・・」
「それでもシャーリーンちゃんがすごいことには変わりはないわ。期待に答えるために努力をかさねてきたのでしょう?」
ステイシャーリーンはレースに至るまでの経緯を思い出す。地道なトレーニングが多かったが、それでも腐らずにやってきた。結果が出た時は本当に嬉しかった。トレーニング内容の話を2人にすると、二人は興味深々で食いついてきた。すこしだけ自慢げな顔になったステイシャーリーンの話に熱が入ってきたところで、ドアがノックされる。―――戻ったよ。と山内トレーナーの声がするのでステイシャーリーンは返事をすると、ドアを開けた瞬間おぉといった顔で3人をみた。その瞬間、訪問してきた2人は一斉に立ち上がり頭を下げた。
「私達の入部をどうか認めてください!お願いします!」
「お願いします!」
これもしかして・・?少しだけ気まずそうな山内の顔をみてステイシャーリーンはデジャブを感じずにはいられなかった。