神樹の森の拾い人〜やはり攻撃できないのに迷宮に潜るのは間違っているだろうか〜 作:イーリスの回想録
「……はぁ」
私は思わず溜息をついた。
「切り替えろ私……イーリスは常に冷静に……」
自分に言い聞かせてもなにか変わる訳では無いのだが、言わなきゃやってられないこともある。
「……?」
どうしてだろう? 目の前で首を傾げる【剣姫】はこの上なく可愛いので1度置いておく。
「ブモォ……」
死にかけのミノタウロスに対しても一旦無視を決め込む。あ、消えた。
誰か教えて欲しい。なぜ、私は──―
「盾を持てないのにカウンターに補正が乗るんでしょうか……ウェポンパリィ、補正かからないどころかマイナスなんですけど!!?」
あと【剣姫】さん。反対方向に首を傾げなおすのは可愛らしいですけどあざとさありませんか?
どうしてこうなったか、振り返ってみましょう。そうそれは私が【転宗】の準備だけは終えて都会……オラリオに到着し初日でダンジョンアタックを敢行したその日のこと。
ゴブリンやらコボルトやら、可愛らしい子達をどうにかひいこらひいこら倒して奥へ進む私がそこにありました。
あ、自己紹介がまだでした。私、『(セイヴィアー・)イーリス・エルター・ヴァランタイン』……括弧の内は私が男だったら付けられていた名前だそうで、せっかくなので頂いてしまいました……という、エルフの森で拾われイーリスと名付けられた拾い子の人族です!
武器はエルフさんたち曰く『ノーブルプライド』という銘らしい両刃の直剣……これ処刑人の剣とかそういうやつだよねやっぱり? ……まあいいか、直剣とエルフさんたちから譲り受けた秘密兵器があります! ……使えないんですけど。
そうなってしまった原因となる私に課せられた異様な縛り、というのが、『盾使用禁止』……厳密には『盾に類する武具の使用時に耐久の数値を一時的に0にする』という最早呪いなそれと、『カウンター以外禁止』……これまた厳密には『自分から攻撃をしかける時力と魔力の数値を一時的に0にする』という完全な嫌がらせのそれでした。
もちろん、力がゼロになろうがチクチクしてれば倒せますが……にしたって貧弱すぎる。ゴブリンをこの切れ味抜群の両刃剣で断つつもりで振ってやっとめり込む程度、とか控えめに言って終わってます。ええ。
そしてコボルトくんにえいやえいやと剣を振るい牙をかわす、微笑ましい戦いの中現れたのがミノタウロスくんというわけです。
追われる音がします。
「ひぃぃぃっ!!? なんか、なんかヤバいです! アレは! アレは不味い類ですよねぇ!? 恨みますよユグドラシル様! 初日から死ぬのはいやいやです!」
あっやばい多分追いつかれるってかリーチ圏内ですよねコレ!? 武器を構えて! 振るわれた剛腕をすり抜けて脱出ッ!! セーフッ!!
「でもでも多分アレ、本来ここに来るやつじゃないと思いますしぃ……アレを追っかけてるなにかがいて味方だとしないと生き残るのはもう無理だしと考えると私がやれることはぁ……足止め、ですかぁ。無理──ーっ!!」
わかってた結論を口に出し、それでもやってやると反転します! 他の冒険者たちに押し付けるのがいちばん多分よろしくない気がしますので!!
「この牛頭ゴリマッチョ……私は逃げませんよーっ! 避けはしますけど」
長い耐久が、始まりました。
始まったんですけどね? 実に面白味がなかったんですという言い方だと変ですか。所詮はモンスターですからワンパターンなんですよね、彼。めっちゃくちゃ安定パターン的なのが見つかるまで早かったです。そうやって腕を潜り、股抜けしたりする命懸けの鬼ごっこにしては少し気が抜け始めた頃、やーっと助けが来てくれた……【剣姫】ご登場という。
「【吹き荒れろ】!」
「うわーっ!!」
「ぶもぉぉぉぉぉッ!!?」
2人まとめて、吹き飛びました。風で。ええ。軽装鎧というか魔法繊維で編まれた服なのでとてもじゃないですが重みはないですし。
「あっ……大丈夫……?」
「あたまが、いたいです。これからは気をつけてくださいね……」
これが私と剣姫……アイズ・ヴァレンシュタインとの出会い。とっても個性的な出会いですけどね!
とりあえず、話を戻しましょう。首を傾げた彼女に対して、まずは感謝からーっ!
「……ええと、まずは助けてくれてありがとうございます。おかげで助かりました……私はイーリス。ユグドラシルのイーリスです。芳名を教えていただけませんか?」
ユグドラシルのイーリス、というのはエルフ間で良くする挨拶ですが、ファミリア未所属なのでまだこれを使っています。ユグドラシル様……樹神ユグドラシルは彼の森を人と変わらぬ零能と人を突き放す全知で生み出し住まいエルフを呼びこみ集落を生み出した不思議な神様です。ユグドラシル様が生み出した森はユグドラシルという名前に決まっていますので、ユグドラシル森のイーリス、というわけですね。
相手が名乗るようで、少し考えてから口を開きました。
「【ロキ・ファミリア】のアイズ・ヴァレンシュタイン。……アイズで、いいよ」
ここで私、ユグドラシル様の御言葉を思い出しました! 偉い! もっと前に思い出しましょう! 減点!!
「……【ロキ・ファミリア】ですか! 不躾なことをお聞きしますが……ハイエルフ、エルフの王族たるリヴェリア・リヨス・アールヴ様がおられるファミリアということに相違ありませんか?」
「うん……そうだよ。イーリスさんは……人なのにどうしてリヴェリアのこと、様付けなの?」
シンプルに気になりますよね。ですが細かくは話しませんよアイズさん。
「生まれというか拾われの関係です。もし、もし良ければなのですけれど……会わせてくれませんか? ユグドラシル様の導きと言えば伝わるはずなんですが……」
とまで言ったところで後ろから新しい気配。獣人のようですね……。アイズさんのお仲間でしょうか?
「アイズ、いつまで……あ? なんだその女?」
「ベート……この子、連れて帰るよ」
「あ゛? 雑魚をか? んでだよ、聞かせやがれ」
かくかくしかじか。納得いってなさそうなベート(仮称)さんですが、どうもアイズさんには頭が上がらない……いやこれ惚れてますね、惚れた女に弱いだけですか。納得です。
「……まあ、アイズが言うなら……だが雑魚は雑魚だ、弁えてついてこい」
地上脱出かくてーい! 生きてますね、私!!
「守ってくれるってことですね、ありがとうございます」
思わず口から冗談も飛び出ます!
「あ゛?」
冗談ですよ!! 睨まないで!!
「地上だーっ!!」
「うるせぇ!!」
「……?」
三者三様のリアクションと共にダンジョンから出てきた私はそのまま彼ら彼女らに連れられてファミリアホーム【黄昏の館】なる場所に案内されました。
そうしてしばらく待つように言われ、緊張でガッチガチになりつつ10分待つと、扉がノックされました。
「あっはい如何なされましたか?」
と反応すると、凛とした声が響きます。
「ご客人、準備はできているだろうか? 用件を伺いたく来たのだが」
「問題ありません。気遣い感謝致します」
「では失礼させてもらう」
入ってきたのは2人……小さな理知的な光を双眸に宿した恐らく小人族の男性と、凄まじい魔力をそのうちに秘めたエルフの女性の2人ですか。女性がリヴェリア様だとすると、男性は……推察するに団長とかそのあたりですかね。畏まっておきます。
「お初にお目にかかります、御二方。私イーリス・エルター・ヴァランタインと申します。この度は時間を頂き感謝の表れも持つことのない訪れに心苦しく思います」
そこまで告げると、団長さんは口を開きます。
「僕はこのファミリアの団長、フィン・ディムナ。それで彼女が副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴ。それと、そこまで固くなくても構わないよ……楽にして欲しい。彼女宛に伝えたいことがあるとアイズから聞いたけど、なにかな?」
私ははい、と声を出してから、リヴェリア様……私個人的に人族ですので形だけしかその尊さに対する理解は出来ていないんです。故に形だけの様付けなのは申し訳ないですが……へ声を届けます。
「私は、ユグドラシルより参りました。ユグドラシル様の御加護を背に今日まで生きて参りましたが、一身上の都合で森を出てオラリオに生きると告げましたところリヴェリア様へどうにかして『神ユグドラシルのお導きをもって訪れた』と言うがいいと訓示を受けましたので、その通りに」
リヴェリア様は、それを聞いてハッとしたように目を開いた。そうして、口を開くと、
「なるほど……ユグドラシルの森から来る迷宮への来訪者とは君のことか。確か森に捨てられた人で、エルフに育てられユグドラシル様の寵愛を受けたのだったか? 過日ユグドラシル様より手紙を受け取った中に記されていた。名前については特になかったが……なるほど、君が?」
質問に対して、頷きで答えるとリヴェリア様は考えを一瞬でまとめてフィンさんの方へ向きます。そして頭を下げました。
「すまない。フィン、彼女をここへ入れてやってはもらえないだろうか……後でロキともきっちり話すのは無論前提とするが、彼女が訪れたのはユグドラシルの訓示による。受け入れられるだろうと彼の樹神が思う者だ、優秀なのも目に見えるようだと思うが」
フィンさんはそれに対して無言で考え込むと、向き直って。
「入団させても構わない。けれど……ユグドラシル様とやらが認める力を見たい。入団テストとして誰かLV3あたりと当てて潜在能力を見たいんだけれど構わないかな?」
「構いません……ステータスの関係でこちらから攻めることはできませんのでそのつもりでお願いします」
「……? わかっているよ格上相手だ。勝てとは言わない……それでは修練場へ案内するからついてきてほしい」
修練場のだだっ広い円の中に、私とアイズさんが立っています。どうしてでしょうか。いや分かってるんですよ、理由。タイミング悪くLV3、4がほとんど出払ってた、それだけです。それにしたって運が無さすぎますが。
「やるからには、本気で行くよ?」
「怖いのでやめてくれませんかね……」
本当に怖い。だけど……相手が【剣姫】であろうとも、対人なら負ける気はしませんね。私のステータスが分かった、あの日から……対人という観点に置いては己を極限まで芸で満たしてきた自信があります。どこまで通るかは不明ですが……やってみましょう! 最終兵器……神槍ユグドラシルも使っちゃいましょうね!
正直、レベル1が初撃を防いだ時点で奇跡だった。アイズの2発目は確実に彼女を刈り取る……そう思っていたのだが、読み外し。2発目を彼女は剣を投げつけて逸らした。同時、蔦が巻きついたような装飾の槍がアイズの連撃を止めるように振るわれる。
「ふっ……はぁっ!」
「やぁっ!!」
槍は巧みに振るわれ、しかし何故か剣とは当たることなく牽制のためにのみ振るわれている。
フィンはイーリスの槍使いが牽制と逸らしを軸に構成された対人特化のそれであることを見抜いていた。
「面白い槍だね……交わらず、近づけない。厄介だ。ぶつかれば力負けするからこその槍の使いかた……格上戦には慣れているみたいだね」
「【吹き荒れろ】!」
「アイズッ!?」
見ている最中に風が吹いた。アイズが魔法を起動したのだ。だが、退かない。時に小さくステップをするだけで回避。流れる剣を初めて槍で受け……大きく吹き飛ぶ勢いを無理やり制御して受け流したのを見てさらに驚く。対人に向きすぎているのに攻撃には移らない……なんだアレは?
「まるで彼女の手札に攻撃札がなく敵を見ていることしかできないような……」
そのころの彼女の心はと言えば。
(あぁもうしんどいです!! 風は強いし! ノーブルは2発で取られるし! 強すぎです!!)
余裕も何もない純粋な焦りであった。その焦りは彼女の中だけでまだアイズに伝わっていない……対人で焦りがバレた時は負ける時なのでバレていないのは当然であるが。
「やぁぁっ!」
「せやぁっ……今! 切り抜ける!!」
「ッ!!」
風を纏い大きく飛び込み、1撃。咄嗟に縦の状況にあった槍……あぁほんとに説明してないですけどこれはユグドラシル様からの贈り物の魔法触媒にもなる槍だそうです、便利ですね……を使って上へ飛ぶ。下を通り抜ける暴風にぞっとするイーリスは、己の反応速度に救われた形になった。
(危ない……あんなのもあるんだ……なんでもありじゃないですかアレ! 小さい嵐ですよアレ! 人の形してるから何とか渡り合えてるだけですよこれ!!)
本音が弱音になった。ので、今こそ打開策の切りどころだと脳が叫ぶ。多数の前で見せるのも癪だが、これから仲間になるのなら惜しくないと図太くもそう考えつつ。
「【大いなる神樹、世界を支える大樹たるユグドラシルよ、我が身の戒めの対価を成す大いなる花の聖域を】……!」
足元から魔法陣が展開され、魔法陣の上に花が咲き誇り始めた。それらの花は違った彩りで、しかし1つの花園として戦場へ顕現する。告げる魔法名は。
「
なぜか周りの、特にレベルが高い人達の目線が厳しくなったり目がかっぴらいたりしてますね……まあいいです! これを使っている間! 私の花園に立つならば! 私は私の縛りを無視できる……わけではないんですけど! 漸く求めていた【カウンター】を使えるようになる! おまけでいくつか効果はありますが……まあとにかく!
「……っ!?」
「やっとです! やっと解禁です!! さあ本番ですよアイズさん! 我が名はセイヴィアー・イーリス・エルター・ヴァランタイン……いざ! 参ります!!」
ユグドラシル様の恩恵より授かりたまい、研鑽し続けたこの力……レベルがいくつ上だろうが通用するってこと、教えて差し上げましょう!
そういえば、と思い出します。この頃の私はだいぶ弱者サイド…というか花園が出ないことにはカウンターすら許されませんでしたからだいぶ苦労しましたね…
私の身を縛る戒めそのものはレベルが上がっても解けることがなかったのですが、どうにかする手段だけは増えていって…神の恩恵が分からなくなっていくんですよね、これから。
懐かしいですね…花園を出すまでなにも出来ないから仲間がいてくれないと困るのに花園出るとカウンターがしたい関係でヘイト集中のために仲間いらなくなりますからね…あの頃の私、マジでどういう苦行ですか…?
強い面はめちゃくちゃに強い、ですけど強い状態を作るのが難しい…レベル1の私をまとめるなら、まあこうですかね?