神樹の森の拾い人〜やはり攻撃できないのに迷宮に潜るのは間違っているだろうか〜   作:イーリスの回想録

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ファースト・エンカウンター!②

 相対する私たち。様子見安定と思っているようですが、花園さえ開けば、初手はこちらが取る事ができます! 

「せーのぉっ!」

「ッ! 切り抜ける……!」

 植物が一斉にアイズさんを包み込み、アイズさんは勢いよく前に己を射出。

「甘い! 【守勢の騎士花】(ガーディフロース)……からの!」

「っ……硬……花!?」

「喰らえ渾身のいっぱぁつ!!」

 カウンターとはすなわち、崩れた相手に叩き込む攻撃です。花園なしでは自分から崩す手段がない私ではありますが、花園さえ出せれば強力な【種】の急速成長と攻防を兼ね備えた様々な【花】により戦場を制圧できます。便利ですね!! 

【守勢の騎士花】は咲くと巨大な硬い花弁を持つ花です。その硬さは推して知るべしですが、少なくとも私は1輪全ての弁を重ねて盾にすれば、村のエルフたちの魔法全てを耐え抜くことを知っています。代償なのか攻撃を受けてから10秒前後で枯れてしまいますし枯れれば柔らかくなるから扱いは注意ですが。

 ついでにアイズさんの体制を崩した植物についてですが、アレは純粋に適当な蔓系の植物を出しただけですので気にしなくても結構。

「っ!!」

「初めて避けましたね! まだまだ行きますよ!!」

 カウンターとして繰り出した槍は綺麗にかわされましたがアイズさんを動かしただけで大成果ですよね? 

 っとアイズさぁん! 大きく飛んで仕切り直しのつもりですね!? そうはさせません、させませんよ! 

【紫紅の罠花】(トラップフロース)!」

 下から現れた巨大な花がアイズさんを包み込みました。これこそ【紫紅の罠花】……こちらからの成長干渉を受けてもなんらかの衝撃を受けるまでは成長を溜め込む、という特性から作られた罠です。踏み締めれば途端にあなたも花の中。食人植物というわけで……っと! 

「なるほど……だいたい、分かってきた」

 風で吹き飛ばして、アイズさん復帰。しかし花の中に居たせいで、なにをどう私が配置したかなんて分かりませんよね? どうしますか、【剣姫】……! 

「こういうのは……こう、だよ」

 暴風、暴嵐。吹き荒れる魔力の風が、花を薙ぎ払っていく。あーっ! あーっ!! おやめくださいおきゃ……アイズ様!! さすがにそれは! ゼロからスタートは!! 

 

 なーんて。

 

「対策してないわけないじゃないですか……アイズさん。【緑黄の胞子花】(インクリフロース)! 」

 吹き飛んだ花たちの代わり、新たな花畑。緑と黄色に染められた、胞子で増える奇妙なそれは寄生式。

 ほら、あなたの腕にもついてますよ! なお頑張ればこれだけで倒せなくもない。正直なところかなりヤバい花ではないかと思っています。まあ……風のせいで本来の相手に寄生するというところには行かなかったのが悔やまれます。

「千日手でも……する気かな?」

「えー……まだやるんですか?」

 胞子と風で光景が塗り代わり続けます。面倒くさすぎる……ので、今こそ打開策! 

 パチンとひとつ指打ち鳴らし、呼び出したるは! 

【蒼の槍花】(ランスフロース)、シュート!」

「なるほど……純粋な飛び道具もあるんだね」

 いいえ、それだけじゃ終わりませんよアイズさん。

【橙の輪刃花】(チャクラムフロース)! おまけにランスもつけますよ」

 細く鋭い【蒼の槍花】で受けさせ、巨大な飛び道具【橙の輪刃花】で視界を一時的に飛び道具で埋めます。

 あとは必殺、1発限りの限定技! 

【宿願の種】(フロースシード)

 の下準備ですね。では改めて……行きます!! 

「はぁぁぁっ! せぃっ! ……!?」

【輪刃花】が弾かれて、レイピアを振り切った彼女の前に、私。完全に振り抜かれた武器、崩れた姿勢、パーフェクトなカウンタータイミング! 

「やぁぁぁぁあっ!!!」

「ッ! 【吹き荒れろ】!!」

 アイズさん。それを、待っていたんですよ。私は。

【白黒の平穏花】(アタラクシアフロース)……!」

「ッ!?」

 体を魔力障壁が包みます。完璧なタイミング、ただ1度だけの【対魔法結界】は確かに魔力の風を無価値に貶め、私の槍が彼女を貫こうとして……アイズさんの目が、見えました。ぎら、と。衰えない戦の気配。確かな天才は、負けることなどない。それを示すがごとく、大きく崩れた体制から篭手、裏拳で槍の穂先を弾ききり、頭を左に振っての天性の回避。蹴り……いやこれはサマーソルト、咄嗟に避けますが胴を打たれ、距離が離れる。

「次。次の一手で終わらせる……はぁぁぁぁぁぁ……!」

「……【希望の種】(ホープフルシード)……これ、死ぬほど痛そうですね」

 風が、集まっている。アイズさんを中心に槍を作り出している。それは、知ることのできない彼女以外には、アイズの代名詞として知られる必殺の一撃。つまりそれは、

「【吹き荒れろ】! 【リル・ラファーガ】!!」

 あえて私は盾をだす以上にはなにもせず、受け入れるように立ったまま。風と共に、所詮は花な私の盾は大きく吹き飛んだ。もちろん私も大きく吹き飛ぶ……身体が地面に落ちる前に一声告げる。

【無色の幻想花】(イミテートフロース)

 身体に傷なく、吹き飛んだという事実すらも失われ、私はまだそこに立っている。私の身体は数秒前の状態に巻き戻っている。消えた花園と、透明な花弁が散る中にあって、槍を突きつける私と、その先を篭手で握りレイピアを突きつけたアイズさんと、にょきっと生えてきて狙いを定めた【蒼の槍花】。

 つまり、これだけやってなお引き分けということです。惜しいところまでいったとは思うんですが……レベル差、大きいですね。またいつか再戦したいものです……武器を下ろします。次の瞬間。

「やりすぎだ馬鹿者どもッ!!」

 ズドッッッ!! などというえげつない音が響きました。何故か私から。

「ぐぇぇーっ!!!?」

「えっ」

「あっ」

 似合わぬ剛腕から杖のフルスイングが後頭部に炸裂し、私は意識を手放すのでした……痛すぎます。どういうことですか、アイズさんの風で吹き飛んで壁に打ち付けた時より痛いんですけど? 

 

 光が見えました。知ってる天井ではないのでつまり知らない天井だ……言いたかっただけですよ。はい。

「うー……ぅあー……おはようございます」

「!」

 あ、エルフさんですね。見た目の特徴がもう1人の有名なエルフの冒険者……レフィーヤさんのそれですね? 

「リヴェリア様ーっ! お客様がお目覚めです!!」

「あー……確か……レフィーヤ・ウィリディスさんでしたか?」

「私のことは知ってるんですね……こちらもお噂はかねがね聞き及んでいます。先の戦いもとても凄まじかったです……改めてレフィーヤ・ウィリディスです」

 軽く世辞を入れつつ挨拶と世間話を交わす。……アイズさん大好き娘っぽいですね。ところどころにアイズさんを持ち上げるというか内心の無意識下で崇拝でもしてるんじゃないかってくらいの思いを感じます……これはこれで怖いです。

 とまで考えていると、ぱたぱたと急ぎ歩む音がして2人とも静かに。リヴェリア様のおなーりーというわけですね。

 

「本当にすまない……単純に、やりすぎた」

「普通にレベル1なの忘れてましたね?」

「その通りだ。申し訳もない……」

 つまりそういうことだ。アイズと互角に殴り合ったソレに思わず怒りのフルスイングを叩き込んだリヴェリアはソレがレベル最低の駆け出しなことをすっかり忘れていた、らしい。

「まあ……なんだ、言い訳だが……それでレベル1と言われても無理があるだろうとは思う。本当に許してほしい」

「いえ別に怒っては無いですよ……模擬戦で魔法互いにぶっぱなす羽目になるとは思わなかったのはこちらもなので。それに……なんとなく壁は超えた気がします。あとで誰か神様に処理してもらいたいところです」

「ほう……とは言ってもアイズがレベル1の新人にあそこまで本気を出すとは思わず……審判も見入ってしまってな。魔法が出た時点で止められなかったのはこちらの咎だ」

「すいませぇん……」

 ちなみに審判を務めたのはベートさんとレフィーヤさんの合議だったようだ。それは止まらないだろう……アイズさん大好きペアにアイズさんの試合を任せるもんじゃないですね! えぇ!! 

「で、入団の方は……」

「それについては……体調はどうだ、今から動けそうか?」

「えぇ、問題ありません」

「二三聞きたいこともあるから長引くだろうが基本的には了承、といったところだ。とりあえず聞きたいことを聞くために応接室には来てもらいたいが……」

「了解ですよ、今から行きましょう」

 そんなわけで連れていかれることになりました。なにか引っかかることでもあったんでしょうね。……なにが引っかかったんでしょう? 

 

「ロキ、フィン! 居るな、連れてきたぞ」

「ありがとうリヴェリア、入ってくれ!」

 フィンさんの声がして、リヴェリアさんが開けます。ここは主神ロキが構える一室とのことで、若干緊張はしていますがまあユグドラシル様いわく「オラリオの神は八割適当な奴」で「上に行くほどろくでもない」らしいという。個人的にはこういう都市構造なら中間よりちょい上くらいが1番腐ってるとは思うんですけど……まあいいです。とにかく入りましょう。

 中で待っていたのはフィンさんと、やけに露出が多い割には色気のない上に凸凹にも欠ける、赤髪の女性……神気を感じますしこちらがロキ様でしょうね。

「尊顔を拝し心より嬉しく思います。私、イーリス・エルター・ヴァランタインと申します、何卒見知りおき下さればと思います、神ロキよ」

「かったいなぁ自分、もっと軽くてええよ? 改めてうちはロキ、ここの主神やっとるもんや……にしても、イーリスたんその服でよく男に寄られんかったな?」

「……?」

 そういえば、まだあんまり自分の容姿について自分で振り返ってないですね。今のうちに容姿だけでもと思いますけど……まあ冒険者向きじゃない安産型と言われていることと緑髪ロングに翠の垂れ目であることを示せば十分では無いでしょうか? 今着てる戦闘衣は緑基調のロングドレスです。ユグドラシル様のお下がりですよ! 一点物ですよ!! そんなことはどうでもいいですか? そうですか。

「……まあ、運が良かったのでしょう。神ロキ、私に聞きたいことがあると伺っております。それはなんでしょう?」

「お、話が早い。じゃ甘えさせてもろて本題なんやがな……【静寂】のアルフィアって知っとるか、そしてそことなんか関わりあるか知りたいんや」

 本当に知らない名前が出てきたので怪訝な顔をしているとは思いますが改めて説明を促すために自分の魔法を絡めてみましょう。

「……【静寂】。知らないですね……そんな二つ名を持った冒険者が居たのですかというところですがなるほど疑問も得心が行きました。私の魔法……【静寂の花園】になにか?」

 ひとつ頷くロキ様。グッドコミュニケーション、という訳ではなく神に共通で許された嘘発見器の権脳でしょう。嘘ではない、というやつですね。それを見届けてから次はフィンさんが口を開くようですね。

「【静寂】のアルフィアは過去この街を滅ぼさんとした大厄、【闇派閥】の首魁エレボスと組んでこの街を襲い、僕ら冒険者によって敗北して『炎に飛び込み自殺する前に男に連れ去られた』。あの男は誰だったのか、という所は謎だ。だが余りにも君とアルフィアの共通点は多い」

 そも、アルフィアという人物を知りえない私はその問いに答えられない。だから、話の続きを促す。

「君は気付いているか? 君が花園を作り出している間、君の髪は緑から灰になる。目も片目が灰になる。目を疑ったよ、まるでアルフィアが生まれ変わったようだったからね」

「それで私が魔法を発動した時目を見開いておられたと、なるほど。しかしとなるともしかしてということもあるやもしれませんね」

「……どういうことや?」

「リヴェリアが彼女の元主神から預かっていた手紙にあっただろう、彼女は拾い子だと」

 そう、私を産み落としたのはもしかしてオラリオからどこかめざして落ちていったアルフィアさんその人ではないだろうかという論は至極簡単に経ちますよね。であれば父親はそのアルフィアさんを連れ去ったという男なのでしょうか……だとしたらだいぶ計算が合わない気もします。しれっと私、19歳ですよ? 

「アルフィアが親……? ありえないやろ。あの出来事が7年前なことまで加味しつつ……イーリスたん今いく「今19ですかね」19!? ……それはええとして……アルフィアが産んだの、15歳行ってないくらいと想定できるが……有り得ると思うか?」

「相当なロリコンでもなければないだろうね……ふぅむ、どういうことだ……?」

 謎、深まりますねぇ……迷宮ですねぇ……。

「……まあ、考えてもわからんならしゃーなしか! とりあえず、【恩恵】刻むのは決まりや!」

「ロキ、いいのか?」

 突然ぶっぱなされた決定の一声にリヴェリアさんが確認を取ります。ロキ様はひとつ頷いて、口を開きました。

「ウチは愛しい子の願いは基本叶えてやるつもりなんやで? ……それが、ファミリアを見守るリヴェリアの願いなら、なおのことやろ。たまの願いや、叶えたる!」

 リヴェリアさんは静かに、ありがとうとも発さずに礼をした。フィンさんはそれを見て目を閉じ、笑みを浮かべていた。優しい空間だった。

 

「んじゃま、【恩恵】刻むからフィンは出てって貰えるか? 悪いなぁ、わざわざ」

「いいや構わないよ、ロキこそ協力してくれてありがとう」

「んにゃ、先に言った通りやから」

 そんな話の後に、フィンさんは出ていってしまって、私は今主神ロキ様のベッドの上で背を晒し横になっています。……あ、忘れてた。

「どうしたんや急に起き上がって、なんかあったんか?」

 怪訝そうなロキ様の前に跪き、髪飾りを取ってロキ様に差し出します。

「んー? ……なんやこれ?」

「それを、私の背の樹神を示す刻印の上に置くかかざして、神力をお注ぎください。それはユグドラシル様からの最後の餞別……なんでも神曰く、鍵だそうです」

 ロキ様は疑問が残るような顔つきのまま、私の背にそれをかざして……発光し、散った髪飾りにやられたようですね、仰け反りました。

「びっくりさせんなやっ!! ……まあええわ、これで恩恵を刻めばええんやな?」

「はい!」

 

「できたで……なんやこのスキルってのがあるけどな」

「「……!?」」

 刻まれた恩恵に、ひどく驚く私とリヴェリア様。数値自体はレベル1の後半といった趣であったがスキルの項目に知らない文字が付け加えられていたために。

「スキル【世界基樹】(ユグドラシル)……あの神様、やりやがりましたか? 効果自体は花園の強化というか運用難易度の低減でしょうか……展開時に一定の方向へ真っ直ぐに花の道を作れるようになったようです」

「それはそれは……厄介そうだな。だがしかしユグドラシル、ユグドラシルか……」

「ユグドラシル、お前過保護……いやこれどっちかっちゅーとご褒美なんかなあ……ウチまで辿り着けたなっちゅー」

 皆さん神そのものの名を冠したスキルですから言いたい放題です。恩恵に神が干渉するって相当……アレですよね? ロキ様? 

「なんか相当問題っすよねこれって目しとるから一応補足しておくとこれはルール違反ギリギリのセーフや……あくどいやっちゃでほんま……まあ実はユグドラシルは厳密には神じゃないからっちゅーのもあるが」

 ……えっ。ユグドラシル様、神ではない? 

「アレこの世界に元々存在した自然存在の具現の最上級やで、分類的には妖精や……なんか神の力使えとるけどウチらみたいに天から呼ばれた訳やないんやで」

 ……知らなかった。知らなかったので諦めましょう! 

「……ま、まぁ、とにかくだ。恩恵が刻まれたならば歓迎する。下の準備も出来上がるだろう、行こうではないか。これから頼むぞ、神樹の拾い子」

「えぇ。全力を尽くします……まずはレベルアップ記録塗り替えますか!」

「胃を破壊しに来るのはやめてくれへんかなあ……!」

 

 私の冒険生活の1日目、まずは歓迎会です。気張っていきま……気張るべきかな……まあいいや! 行きましょう!!

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