病んデンリング   作:猫驚愕豆腐

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思っても見ないほど評価やお気に入りが増えて驚いている今日この頃。
皆様ありがとうございます、感想も返信は行っていませんがちゃんと読ませていただいております。


ローデリカ、時々フィア

ラニとの会話の内容を押し倒されながら詰問された褪せ人は、疲弊した様子で祝福に触れると腰を下ろして休息を取るのだった。

 

祝福の側で片膝を立てて座る褪せ人は、当たり前のように隣に腰を下ろすメリナを横目で確認して内心で疲労の溜め息を吐く。

「あっ、そうだ。このままのんびりするのもいいけど、せっかくルーンが貯まっているんだから能力の引き上げをするのはどう?」

何かを思い付いたような声を上げたメリナに恐る恐る視線を向けた褪せ人は、割と普通の内容に驚きの感情を抱いたが表には出さずに頷きを返す。

「わかった、じゃあ・・・抱き締めて?」

全然普通じゃなかったわと頭を抱えかけた褪せ人だが、まだ望みがあると信じて視線をメリナに向けて問いを投げる。

「巫女様の使う術を行使するには私と貴方が強く、強くっ!触れ合う必要があるの。だから、んっ」

両腕を広げながら瞳を閉じて少し顎を上げるメリナの姿に、抱き締めた後にナニカする気だなと察した褪せ人はそっと距離を開ける。

「逃さない・・・っ!」

しかし褪せ人の動きを読んでいたかのように距離を詰めてきたメリナに抱き着かれ、慌てて脱出を試みようとした褪せ人の耳に能力引き上げが完了した音が響く。

話は本当だったのかと思いながらも未だに抱き着いて離れないメリナに視線を向け、これからどうやって穏便に引き離せばいいかを考えなければいけないことに、今度は耐えきれずに口から溜め息が漏れるのだった。

 

 

 

朝を迎えたことを上空を見上げて確認すると、主にメリナとのやりとりで疲れた身体に鞭を打って立ち上がる。

「もう行くの?もう少しここでのんびりしていてもいいけど」

自身とメリナの目的を果たすためには進まなければならないと説得を試みたことで、ハッと何かを思い出したような表情を浮かべたメリナはすぐに立ち上がると褪せ人の手を握る。

「そうだった、私には使命が・・・そしてやり遂げなければいけないことがある。ありがとう、貴方のおかげで目が覚めた。目先の甘い蜜に飛び付くんじゃなくて、後に果たすべき本懐の時まで出来るだけ我慢する」

メリナの言うことはよく理解できなかったが、動く気になってくれたことに安堵の息を吐いた褪せ人は目的のために歩き出す。

「貴方の言う通り、ここで立ち止まっていても意味がない・・・黄金樹の麓、一軒家・・・新婚生活、子供は二人・・・ふふふっ」

先を歩く褪せ人の後ろ姿を眺めながら、向かうべき目標(幸せな未来)を思い描いて口元を歪ませるのだった。

 

 

 

メリナが不穏なことを口走っているとは露知らず、草木に潜む兵士を倒しながら森を抜け、兵士の野営地を駆け抜けた先の関門で数度巨人に叩き潰されながらも、めげることなく挑み続けて勝利を収め・・・道なりに進んだ先に現れた狼も蹴散らした褪せ人は、崩れそうな廃墟と化したボロ屋を見つける。

「そこに誰か、いらっしゃるのですか?」

少し沈んだ声を耳にした褪せ人がボロ屋に足を踏み入れると、深紅のフードを被った女性が床に手をついて座りながら自身を見上げる姿があった。

「あぁ、あぁっ・・・貴方様は、この先のお城に進まれるのですね」

そう口にして顔を伏せる女性と目線を合わせるように片膝をついた褪せ人に、女性はポツリポツリと接ぐ蜘蛛の話を零す。

「私もその一部へと成ろうと思っていたのですが、貴方様のおかげで私の気持ちは固まりました」

最初の沈んだ声よりも少し弾んだ声を上げる女性は俯かせていた顔を上げて真っ直ぐに褪せ人を見つめた後、懐から何かを取り出して献上するように両手を褪せ人に向けて差し出す。

「私の名はローデリカと申します。不束な女ですが、どうか側に居ることをお許しください」

『ローデリカ』の差し出された両手に視線を落とした褪せ人は、そこにあるものに見覚えがあることに硬直して伸ばしかけた手を引っ込める。

「安心してください、何もすぐに嵌めてほしいというわけではありません。私は貴方様の側に居られるだけで幸福なのです、ですから後の側室にしていただければと思います」

前例があるので訝しげな視線を向けていた褪せ人だが、ローデリカの表情に嘘は見受けられないことから大丈夫だろうと考えて躊躇いがちに手を伸ばす。

「・・・ですがっ」

伸ばした手はローデリカの両手に包まれるようにして握られ、逸らすことを許さないような強い意志を感じさせる瞳を向けられた褪せ人は息を呑む。

「もしも貴方様が私を正室に迎えてくださるのなら、至らない身ではありますが懸命に奉仕をさせていただきます」

静かにだが確かな思いを感じさせる声色を耳にしたせいか、褪せ人もまた自身の手を包む両手に空いた片手を添えて真剣な瞳をローデリカへと向ける。

「・・・あの、そんなに見つめられるとっ」

頬を薄紅色に染めてそう声を漏らすローデリカに、褪せ人はハッとしたように両手を離して掌に乗る指輪を一瞥してから握り締める。

「それと、この子も連れて行ってあげてください。私といるよりも、貴方様と共にいたほうが喜ぶと思いますから」

ローデリカが差し出した『霊クラゲの遺灰』を受け取った褪せ人は、会釈を返してから踵を返してボロ屋を後にする。

「どうかご無事で戻ってきてください、貴方様・・・次に会う時は私も、我慢しなくてもよろしいですよね?」

歩き去る褪せ人を見つめるローデリカの瞳は褪せ人のみを映しており、側に立っていたメリナの姿も声もその深淵には届いていないのだった。

 

 

 

「円卓という場所に、行きたい?」

ローデリカとの出会いの一幕を終えてから少し進んだ先の祝福で腰を下ろした褪せ人に、メリナは開口一番にそんな疑問を投げ掛けた。

そもそも円卓がなにか分からない褪せ人は、率直な疑問で返す。

「円卓は貴方以外の褪せ人が集う場所、言うならば集会所みたいな所。情報交換なんかもそこでできると思う」

メリナの言葉になるほどと頷きを見せ、そこにはどうやって行くのかを尋ねると待ってましたとばかりに目を光らせる。

「私を抱き締めてくれればいい、んっ」

少し前に見た光景が目の前に現れたことで溜め息を吐きかけた褪せ人だが、ふと天啓でも降ってきたかのように目を見開く。

 

逆に考えるんだ、逃げれないのなら向かっていけばいいのだと・・・っ!

 

何故かトチ狂った思考を巡らせた褪せ人は、きっとここまでの道のりで相当疲れていたのだろう。

そんなわけで両手を広げて瞼を閉じるメリナのことを優しく包み込むようにして抱き締めた褪せ人、だが本当に抱き着かれるとは思っても見なかったメリナは狼狽する。

「(大好きな人の温もりに、匂いに包まれてっ・・・!これすごっ、脳が溶かされて思考が纏まらなっ―――)あわっ、あわわわわっ」

まるで壊れた機械のように言語能力を失ったメリナに、驚いた表情を浮かべてすぐに解放しょうと両腕を広げた褪せ人だったが、無意識のうちにメリナが強く抱き着いていた為に引き剥がすことができなかった。

 

 

 

そしてふと気付く、いつの間にか周りの景色が変わり、数人の同志から何してんだコイツという視線を向けられていることに。

慌てて立ち上がった褪せ人は、メリナの拘束が解けていることに気付いて視線を下げる。

「――えへ・・・」

その先では瞳が蕩けきったメリナが女性がしてはいけない顔を晒しており、何とも言えない気持ちになりながらもトリップしているメリナを近くの椅子に座らせるのだった。

 

 

 

メリナが正気を取り戻さなかったため一人で円卓にいる者たちと話をし、『聖職者 コリン』からは「私は何も見ていませんから」と顔を逸らされながら告げられ、『百智卿、ギデオン=オーフニール』からは「面倒事だけは起こさないでくれたまえよ」と釘を差され、『鍛冶師のヒューグ』は何も見ていないので普段通りの対応を受けた。

 

そして現在開いている唯一の扉を潜った褪せ人は、奥のベッドに腰掛ける黒いローブを身に纏い、黒いフードを目深に被った人物が目に入る。

「待っていました、私の英雄様」

褪せ人の姿に気付いた人物は喜色を滲ませた声を上げ、その口元は感情を表すように緩んでいる。

「さぁ・・・そんな所に立ち尽くしておらず、こちらまでおこしください」

そう口にして手招きする人物に訝しげな表情を浮かべながらも、促されるままに部屋の奥へと足を踏み入れる。

「英雄様がいらっしゃるのを今か今かと、首を長くして待ちわびておりました。温もりを感じられない日々はそれはもう苦痛で、どうしようもなく狂おしいほどに・・・」

顔を俯かせながら胸の前で手を組んでそう声を漏らす女性に、褪せ人は今までの出会いを思い出して半歩後ろに後退する。

「ですがそれも過去のこと・・・また私を、このフィアを抱いてくださるのですよね?」

ゆっくりと顔を上げた『死衾の乙女 フィア』は褪せ人へと視線を向け、ただ茫然と自身を見つめるだけの褪せ人に首を傾げる。

「英雄様?・・・あぁっ、そういうことですね。今日は初心に帰るという意味で白にしてみたのですが、黒や紫のほうがお気に召しましたか?」

突然色の話をし始めたフィアに疑問符を浮かべる褪せ人、その様子にさらに何かに気付いたような声を漏らしたフィアは徐にローブの裾をたくし上げる。

「実物を見せたほうが、英雄様も判断がしやすいですね。私が至らぬばかりに・・・」

レースのあしらわれた純白の下着を目にした褪せ人はすぐさま視線を逸らし、その行動に何かを勘違いしたフィアは口を開く。

「白は、お気に召しませんでしたか・・・では次は違う色をっ――あら?」

少し気落ちした声色で零したフィアは途中で区切ると視線を褪せ人の背後へと向け、どうしたのかと不思議に思った褪せ人が振り返る前にけたたましい音が部屋中に響く。

「いたっ!私を置いていくなんて酷い、夫婦は常に寄り添うものでっ―――」

音を立てたのはトリップから復帰したメリナで、どうやら部屋を出入りするための扉が閉まっていたらしくそれを開け放った音だと気付く。

「・・・円卓が非戦で良かったですね、そうでなければっ」

「候補にすら上がらなかった負け犬の遠吠えなんて聞く必要ない、行こう?」

忌々しげな視線を向けながらそう声を漏らすフィアを相手にすることなく褪せ人の手を取るメリナ、しかしそれを黙って見ているはずもなく・・・乾いた音が部屋に響く。

「・・・邪魔するの?」

「私と英雄様の逢瀬の邪魔をしたのはそちらでしょう?」

「逢瀬?一方的に盛ってただけに見えたけど?」

君も大概だったのでは?という言葉をすんでのところで飲み込んだ褪せ人は、自身に注目が向いていないことに気付いてひっそりとその場を後にする。

 

背後から聞こえる喧騒に耳を塞ぎながら大祝福の前まで戻ってきた褪せ人は、どかっと乱暴に近場の椅子に腰掛けると頭を抱えて深く溜め息を吐くのだった。

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