病んデンリング 作:猫驚愕豆腐
「―――ともあれだ、君がそうではこちらも困るのだ。わかるだろう?」
大祝福の前で頭を抱える褪せ人の姿を見て大体のことを察したギデオンは呆れた声色で諭すように話しかけ、褪せ人もまたこのままではいけないと理解して俯かせていた顔を上げる。
「そもそもこの程度、苦難のうちにも入らんさ。君の場合これから先・・・いや、伝えても詮無きことだったな」
いや教えろよという抗議の視線をギデオンに向けるが、当の本人は気付いてないふりをしてそっと顔を明後日のほうへと向ける。
「まぁ、そのなんだ・・・何かあれば話ぐらいは聞こう、話ぐらいはな」
それだけ言うとゆっくりとした足取りで廊下の先へとその姿を消すギデオン、歩き去る後ろ姿には何故か哀愁が漂っていた。
ちなみにコリンはというと常時我関せずといった様子で視線を向けることはなかった、きっと金仮面卿に思いを馳せていたのだろう・・・決して関わると面倒そうだからという理由ではない、決して。
ギデオンとの会話で少し心に余裕が戻った褪せ人が重い腰を上げたタイミングでメリナが廊下の先から姿を見せ、褪せ人を視界に映すと顔を綻ばせながら駆け寄ってくる。
「いないと思ったらこんな所にいたんだ、誰かと話していたの?男?女?」
最後の問い掛け時に声のトーンが一段下がったことに頬を引き攣らせながらも、ギデオンと情報交換をしていたと告げるとそうなんだと頬を緩ませながら返事をする。
「あっ、フィアのことは心配いらないよ。話はちゃんとつけてきた、円卓にいる間は協力関係でいることに決めたから・・・どうせいずれ、ね?」
黒い笑みを浮かべて同意を求めてくるメリナに曖昧な頷きを返してから、歩みを再開するために円卓を訪れる前の祝福の場所へと戻るのだった。
膝をついて光と共に姿を消した『忌み鬼マルギット』に辛くも勝利を収めた褪せ人は、深く息を吐いて緊張を解いてから現れた祝福に手をかざす。
―――♡
少しだけ身体への締め付けが強くなったことに褪せ人は眉を顰め、原因である霊喚びの鈴で呼び出した霊クラゲの遺灰・・・クララへと視線を向ける。
自身に関心が向いたことを察知したクララは褪せ人の身体に巻き付けた足にさらに力を込めて擦り寄り、未だ消える気配のないクララに困惑しながら強い視線が突き刺さっていることに気付いてそちらに視線を向ける。
「祝福で休めば自然と消えると思う、それともずっとそのままでいるつもり?」
メリナの鋭い視線と冷めた声色の問い掛けを耳にした褪せ人はすぐさま祝福の側に腰を落とし、離れたくないと駄々を捏ねるように身体を揺らしていたクララだが抗いきれずにその姿が消える。
「一つ目の大ルーンのあるストームヴィル城に着いたね、貴方なら問題なく進めると思うけど頑張って・・・ご褒美として私の身体を好きにしてもっ―――」
メリナが言い終える前に立ち上がった褪せ人は駆け足でストームヴィル城へと向かい、取り残されたメリナはその後ろ姿を見つめながらそんなに照れなくてもいいのにとズレた感想を抱くのだった。
ストームヴィル城の正門が閉まっていたために横にある建物に足を踏み入れた褪せ人は『門衛ゴストーク』の話を聞き、正門ではなく横道からストームヴィル城の中を進むことに決めて歩き出す。
嵐鷹の足に着いた剣で突かれながら流刑兵を蹴散らしながら奥へと進み、部屋に閉じ込められていた失地騎士の盾にぶん殴られつつ数度の挑戦で倒すとさらに先へと進む。
そこからも数多くの兵士や騎士を倒しつつストームヴィル城を駆け抜けた褪せ人は、とある部屋で倒れた騎士を見下ろしながら佇む勇者装備を身に着けた女性に出会う。
「っ!――お前は、そうか・・・いや、ただの独り言だ。褪せ人だな、私も同じ褪せ人だ・・・名はネフェリ・ルー、戦士だ」
今までの経験から内心で警戒心を上げていた褪せ人だが、落ち着いた様子で自己紹介を交わす『ネフェリ・ルー』に少しだけ警戒心を緩める。
ネフェリはストームヴィル城の主『接ぎ木のゴドリック』への憤りを口にし、戦いを挑むのなら助力すると口にして小さく微笑みを向ける。
そのことに褪せ人は頷きで返すとその場を後にしようと踵を返すが、その姿を目にしたネフェリが声を上げる。
「あっ・・・ま、待てっ!」
まさか引き留められるとは思っていなかった褪せ人は動きを止めて顔をネフェリに向ける、そこには先程までの凛とした戦士の顔ではなく頬を朱に染めて視線を彷徨わせるネフェリの姿があった。
「お、お前は男勝りで強気な女を・・・どっ、どう思う?」
突然の質問に疑問符を浮かべながらも自身の考えを口にした褪せ人に、ネフェリはどこかホッとしたような表情を浮かべて胸を撫で下ろす。
「そうか・・・それがお前の答えか、そうか・・・引き留めてしまって悪かった、また後で会おう」
そう口にして元の凛とした表情に戻ったネフェリに見送られながら、君主の待つ玉座へと足を向けるのだった。
褪せ人の後ろ姿を見つめながら必死に抑えていた表情筋を緩めたネフェリは、熱を持つ頬に手を添えて艶っぽい息を吐く。
「咄嗟に引き留めてしまったが、迷惑ではなかっただろうか?いや、それもあるが・・・あんなことを言われては、さすがの私も動揺してしまうな」
自身が投げ掛けた質問に真っ直ぐ答えてくれた褪せ人の言葉を脳内で何度も思い返し、その都度口元を緩ませていたがすぐにハッとして周りに視線を向ける。
「いかんな、こんな姿誰にも見せられない・・・気を引き締めなければっ」
そう声を漏らすネフェリだが、どうしても先の褪せ人の言葉が脳裏をチラついて口元を緩ませてしまうのだった。
「―――父祖よ!ご照覧あれぃっ!!」
自身の左腕を切り落として飛竜を接いだゴドリックの熱波を受けながらも鋭い視線を向けて剣を構える褪せ人を見て、その背に張り付くクララとネフェリは胸を高鳴らせて心を奮い立たせる。
飛竜の放つ火炎に向かって駆け出す褪せ人に魅せられたネフェリもまた、瞳に強い闘志を宿してその場から地を蹴って駆け出すのだった。
負傷しながらもゴドリックから勝利をもぎ取った褪せ人はネフェリとの再会を約束し、背に張り付くクララを祝福に休むことで引き剥がしてから玉座の間からストームヴィル城を抜ける。
目の前に広がるリエーニエの湖を眺めながらそこに
その道中に祝福を見つけた褪せ人は立ち寄ろうと歩みを進めたが、近くに立つ目隠しをした女性の姿を見て一瞬動きを止める。
「・・・あはっ」
目隠しをしているにも拘らず褪せ人のほうへと顔を向けると口角をこれでもかと上げて笑みを零し、それを目にした褪せ人は背筋に冷たいものを感じて無意識のうちに臨戦態勢を取る。
「そんなに警戒しないでください、私は貴方の敵ではなく導く者です。私はハイータ、指巫女となるために彼方の灯を辿っているのです・・・ですがその前に、指の加護は私に微笑みかけてくれたようです」
そう口にして一歩前に足を出す『ハイータ』に、褪せ人は触れてはいけない何かを感じて一歩後退する。
「・・・どうして離れるのですか?貴方の巫女である私を置いて、他の女の手を取って・・・っ!」
褪せ人の雰囲気を感じ取ったハイータは叫びに似た声を上げながら距離を詰める、それを躱すように横に飛び退いた褪せ人は呼び笛を吹いて霊馬のトレントを呼び出すと飛び乗って湖に向かって駆け出す。
「――っ!右に避けてっ!」
褪せ人の腰に手を回して後ろで横向きに相乗りしていたメリナの言葉に、すぐさま右にトレントを動かした彼らの横を黄色い炎が通り過ぎる。
横目で後方を確認した褪せ人は炎の発生源が先程のハイータであることを認識すると、木々などの間を駆け抜けて遮蔽物として活用しながら何とか炎を避けて撒くことに成功する。
「危なかったね、貴方の側に私が居るのに・・・変な女っ」
頬を膨らませながら褪せ人の腰に回した腕の力を強めるメリナ、その姿に苦笑しながら近くの祝福まで辿り着いた褪せ人は一度円卓に立ち寄るために移動をするのだった。
「さすがに、逃げられてしまいましたか・・・」
褪せ人の気配が遠ざかったことで動きを止めたハイータはそう声を漏らすが、その表情からは悔しさを感じているようには見えず、逆にどこか嬉しそうな雰囲気すら醸し出している。
「指様の言う通り、少し時間を掛けないといけませんね・・・それまでは側を離れることは許しましょう、ですがっ―――」
目隠しの中で見開かれた瞳には怪しげな炎が揺らめき、ハイータの決意を表すようにその勢いを増す。
「他の女に
口角を不気味なまでに吊り上げて笑みを零すハイータは、ゆっくりとした足取りでその場を後にしながら褪せ人に思いを馳せるのだった。
呼び出した遺灰の攻撃は呼び出した本人には当たらない、つまり背中に張り付いたクララの毒液は褪せ人のお腹から出る。