病んデンリング   作:猫驚愕豆腐

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エンヤ

無事に円卓にある大祝福の前に戻ってきたことを確認した褪せ人は深く安堵の息を吐く、その動作を大祝福近くに椅子に腰掛けながら見つめていたフィアは小さな笑みを零す。

「おかえりなさいませ、英雄様。どうやら大ルーンを手にしたようですね、さすが私の英雄様です」

思ってもみない人物が側にいて驚いた表情を浮かべる褪せ人に、フィアは悪戯が成功した子供のような屈託のない笑顔を浮かべながら口を開く。

「あぁ、それと・・・そこの扉の先に二本指と、英雄様が手にしたデミゴッドの追憶から力を引き出せる者がいます。会ってみてはいかがですか?」

フィアが手を向ける先は少しの階段を上って入ることのできる扉で、褪せ人はフィアの提案を数瞬の思考を経てから受け入れて頷きを返す。

「私の役目を奪う気?させないけど・・・っ!」

「そのような意図はありませんよ、貴女では荷が重いと判断しただけですのでっ・・・」

背後から突然現れたメリナに内心で驚愕しながらも表に出すことなく、言い合いからの睨み合いを始めた二人を残し・・・褪せ人はフィアが差していた扉の奥へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

部屋の中は薄暗く、左右に数個ずつの椅子が並べられ、そして部屋の奥には二本指が鎮座しており・・・それを見上げるようにして近付いた褪せ人に、左側から声がかかる。

「おや、あんた・・・新しい褪せ人だね?私は指読みのエンヤ、大いなる意志の使い。指様の言葉を伝える婆さね」

『指読みのエンヤ』の言葉に反応するように二本指は震え、その時受け取った言葉をエンヤが褪せ人へと伝えていく。

二本指は告げる、お前がエルデの王となって黄金律を修復しろと・・・躊躇いなど持たず、デミゴッドを殺してその全てを奪えと・・・君女難の相酷いけど、まぁ頑張ってと・・・っ?

最後だけ他のことと毛色が違うことに首を傾げた褪せ人はそのことを質問し、あわよくば解決策を見出してもらおうと二本指を見上げる。

「おぉっ・・・!なんということじゃ、これは・・・っ!」

褪せ人の問いを受けて大いなる意志の言葉を理解したエンヤは、とても驚いた表情を浮かべて二本指へと視線を向ける。

二人の視線を受けた二本指はまるで人が両手を掲げるように指を天に向け、まるで大いなる意志の心情を表しているかのような姿にエンヤは困惑した声を漏らす。

「どうやら指様にも、見通せぬものであったようじゃ・・・そのことはあんた自身でどうにかするしかないようだね」

大いなる意志でもどうにかできないのかと内心で溜め息を吐いていると、褪せ人を見下ろすように視線を向けていたエンヤが口を開く。

「そう気を落とさなくてもいい、私でよければ相談ぐらいには乗ろうじゃないか。褪せ人同士の痴話喧嘩やそれ以外も見聞きしてきたからね、多少は力になれるかもしれないよ」

エンヤの言葉を耳にして勢いよく顔を向けた褪せ人は、なぜか祈りを捧げる仕草を返すのだった。

 

話を終えて部屋を出ていく褪せ人の後ろ姿を見送ったエンヤは、緊張で杖を握る手に力がこもっているのを自覚して深く息を吐いて力を抜く。

「はぁ・・・やれやれ、私も焼きが回ってしまったかね。少し目にするだけでこれとは、厄介なものだよ・・・」

そう声を漏らしながらも口元は柔らかく緩ませており、褪せ人が通った扉を見つめる視線には愛し子に向けるような慈愛が見受けられ・・・元の態勢に戻った二本指は嫌な予感を察知して心の中で冷や汗を流す。

「あぁ、そうだ・・・指様」

意識と視線が自身に向いたことにできれば予感が当たらないことを祈りつつ、エンヤの次の言葉へと身構えながら意識を向ける。

「彼はその、やはり若い者のほうが好ましいのでしょうか?」

身構えていたはずの二本指でさえその言葉の意味を理解して狼狽えた、それはもう仰け反りすぎて指を壁に打ち付けるほどの狼狽っぷりであった。

「何分こんな感情を抱いたのは随分と久しく、指様のお知恵をお貸しいただければと・・・」

杖を両手で握り締めながらそわそわと落ち着かない様子で足を前後に揺らすエンヤの乙女のような仕草に、二本指の許容範囲を超えたのか指を天へと突き出して大いなる意志へ交信を(丸投げ)するのだった。

 

 

 

エンヤから二本指の言葉を受け取った褪せ人が大祝福のある部屋へと戻ると、メリナとフィアの姿の他に二人ほど人影が増えていることに気付く。

「あっ・・・貴女様、お戻りになられたのですね」

自身に気付いたローデリカの言葉を皮切りに一斉に視線が集中して少し気圧された褪せ人だが、ここで引くわけにはと強い意志を固めて一歩前に踏み出す。

「ゴドリックとの戦いでは世話になった、その後襲撃を受けたと聞いたが問題無いようで安心した」

上から下まで隅々まで眺めていたネフェリはそう口にして安堵の息を吐く、他の者とは違う冷静な口ぶりに褪せ人が内心で安心を感じていると何かを思い出したかのように言葉を続ける。

「それから、その・・・ローデリカから聞いたが、側室を迎えるのなら私も加えてもらえると・・・あ、ありがたい・・・っ」

お前もかいっ!と内心で叫んだ褪せ人は曖昧な頷きを返すことしかできず、それを見たネフェリは好意的に受け取ってもらえたと解釈して頬を緩ませる。

「それとこれも渡しておこう、ゴドリックの接ぎ場で見つけた物だ。お前の役に立ててほしい、それとこっちは・・・私からの、気持ちだっ」

そう口にして『武具塊のお守り』ともう一つ、指輪を押し付けるように手渡された褪せ人は困惑した視線をネフェリに向ける。

「そっ、そんな目で見るな・・・私とて柄にもないことは重々承知しているが、他の者が渡しているのに私だけというのはあまりに不公平だろう?」

違うそうじゃないと思いながら視線を向け続ける褪せ人に、頬を上気させたネフェリは耐えられなくなったのかまた会おうと言い残してその場から駆け出そうとして・・・一度褪せ人に振り返ってから口を開く。

「それと義父とも話をしておくといい、何かと知恵を授けてくれるはずだ・・・で、ではなっ!」

最後にそれだけ言い終えると今度こそその場から駆け出し、廊下の先へとその姿を消すのを褪せ人はただ呆然と見つめるのだった。

 

ネフェリの口にしていたことで思い出したのか、円卓の指導者たるギデオンに報告も兼ねて話をすると告げた褪せ人を見送ったメリナは、小さく息を漏らしてから口を開く。

「正室は私だから、本当は側室なんて設けたくないけど・・・」

「貴女が正室になるかはまだ決まってはいませんが、確かに英雄様を独り占めしたいという気持ちもわかりますが・・・」

メリナの言葉の一部に訂正を加えながらも同意する意思を示すフィア、そんな二人の言葉を耳にしたローデリカは少し控えめ気味に声を漏らす。

「・・・ですがそうでもしないと、破砕戦争のようになりませんか?」

同じ予感を抱いていた二人は沈黙の肯定を返す、しかし今回は前回に比べてさらに規模が大きくなる可能性を秘めている。

何故なら破砕戦争時は不干渉を貫いていた『魔術学院レアルカリア』が、今回ばかりは黙って見過ごすとは思えないからである。

「あの魔術学院の長が黙ってるわけがない、絶対に干渉してくる」

メリナの不機嫌そうな声色を聞きながら、これからの対策を練る円卓組であった。

 

 

 

ギデオンのいる部屋近くの壁に背を付けて佇む『エンシャ』を横目で確認しながら部屋に足を踏み入れた褪せ人、そのことに気付かないほど物思いに耽っていたギデオンだが机を挟む距離まで近づくとようやく気付いたようにゆっくりと顔を上げる。

「・・・ん?あぁ、君か・・・すまない、少し耽っていた・・・いやなに、一応君にも関係する話だ。私の娘、ネフェリのことについてだが・・・斧を振るうしか能がない蛮人だと思っていたのだがね、先程告げられたのだよ・・・''義父よ、孫の顔をお見せする日も近い,,とね・・・・・・君、せめて私がまだ此処に居るまでは・・・問題を起こさないでくれたまえよ?」

真剣で切実に願う思いがこもった言葉に、褪せ人は頷きを返すことしかできないのだった。

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