病んデンリング   作:猫驚愕豆腐

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セレン、時々ハイータ

「あなたは何も考えず、全て私に任せていいの・・・そうすれば辛いことも痛いこともなく、ずっと共に居られるわ・・・だからっ――――」

優しく語り掛けるように降り注ぐ言葉と共に、迫る気配を感じながらこのまま身を任せてもいいかという思いを抱き・・・頭に強い衝撃を受けて気配が霧散する。

 

 

 

ハッと沈んでいた意識が覚醒した褪せ人は勢いよく上体を起こし、痛む頭に手を当てながら周りを見渡すように首を回す。

「目が覚めたか、我が弟子よ」

自身が学院前の祝福の側で寝ていることに疑問符を浮かべていると、背後から声をかけられたので顔をそちらに向ける。

「まったく、彼女には困ったものだ。学院に戻れたのは嬉しいが、我が弟子を独り占めすることは許していないというのに・・・」

ふぅっと溜め息を吐く魔女の輝石頭を被った女性は、不思議そうに自身を見上げる褪せ人の視線に気付いてあぁっという声を漏らす。

「そういえば名乗っていなかったか、私はセレン。お前の魔術の師匠だ」

自身の師匠だと名乗る『魔術師セレン』に困惑した表情を浮かべる褪せ人、それを想定していたのか驚いた雰囲気を出すことなく手を差し伸べる。

「カーリアの女王のことは気にしなくてもいい、お前は自分のやるべきことをするといい」

差し伸べられた手を取って立ち上がった褪せ人に話しかけるセレンに頷きで返し、未だ離されることのない手へと視線を向ける。

「・・・んっ?あぁ、すまない。またこうして我が弟子の手を取ることができて、柄にもなく感傷に浸ってしまっていたよ」

そう口にしながらも離そうとはせずに感触を堪能するように力を込めては抜いてを繰り返す、褪せ人が手を引っ込めようとするとそれ以上の強さで引き留める。

「も、もう少し触れていてもいいだろうか?我が弟子の体温を感じていると、気持ちが落ち着くんだ」

不安げな声色でそう口にするセレンに強く出ることもできず、褪せ人はただただ肯定の頷きを返すことしかできないのだった。

 

「すまない、少しみっともない所を見せたな。もう大丈夫だよ、お前とはこれからはいつでも会えるのだから」

そう口にして名残惜しそうに手を離したセレンは腕を組み、学院を見上げるように顔を上げる。

「さて・・・我が弟子にはやるべきことがあるように、私にもやるべきことがある。今は一時の別れだが、すぐにお前の元へと向かうとしよう・・・その為にも、カーリアの女王との話し合いが必要だな」

上げていた顔を下げて褪せ人の方へと向いたセレンは一歩前に踏み出し、魔女の輝石頭の口部分を褪せ人の頬へと当てる。

「これくらいなら問題ないだろう・・・なに、ちょっとした前払いのようなものさ。では我が弟子よ、また(まみ)える日を楽しみにしているよ」

それだけ言い残して学院の中へと歩き去るセレンの後ろ姿を眺めながら、告げられた言葉の真意に気付けずに首を傾げつつも先へと進むために封印から学院の外へと乗り出すのだった。

 

昇降機に乗る前に振り返ったセレンは、封印を通って消える褪せ人の後ろ姿を確認する。

「ふぅ・・・まさかここまで緊張してしまうとは、生娘でもあるまいに」

独り言を呟きながら褪せ人の姿が消えるのを確認して昇降機に乗ったセレンは、先程彼の手を取った自身の片手に視線を落とす。

「あぁ、これはいけないな・・・輝石魔術の源流の復興を、真摯な探求を望んでいた頃が懐かしく思えるよ」

キュッと手を握り締めたセレンは小さな笑いを漏らし、学院に続く渡り廊下を歩む。

「まぁ今も望んでいないわけではないが、私も馬鹿ではないさ。再び禁忌に触れて我が弟子と交流ができなくなれば、今度こそ狂ってしまいそうだ」

そう声を漏らしながら彼方へと顔を向けたセレンは、自身の愛する弟子の姿を思い出して魔女の輝石頭の中で歪な笑みを浮かべる。

「制約を解いてくれたことには感謝しよう、カーリアの女王よ。だがな・・・我が弟子を独り占めすることだけは容認できないな、そもそもラニも承諾しなさそうだが・・・まぁいい、それよりも・・・」

そこで言葉を区切ったセレンは自身の身体へと視線を向け、少し考える素振りを見せてからもじもじとした様子で小さな声を漏らす。

「私の素顔やこの身体を、我が弟子は気に入ってくれるだろうか・・・?」

乙女のような悩みを口にするセレンのそわそわした様子に、通りかかった魔術師たちはそっと視線を逸らして見ないフリをするのだった。

 

 

 

封印を通って学院から出た褪せ人はメリナが渋っていた理由に気付いて小さな溜め息を吐き、少し下げていた顔を上げて歩き出そうとした瞬間に両頬を挟むように掴まれる。

「み~つけたっ♪」

ハッと気付いた時にはすでに逃れることができず、瞳に黄色い日を滾らせたハイータの眼差しによって瞳を焼かれる錯覚を覚える。

「あはっ、あはははっ・・・!さぁ、私の褪せ人様・・・共に混沌を広め、三本指様に見守られながら婚姻をっ「させないっ!」―――きゃっ!?」

チリチリと脳を焼かれるような感覚に襲われていた褪せ人だが、元凶であるハイータが唐突に横に吹き飛んだことで片膝をついて額を押さえる。

「大丈夫!?気をしっかり持って、トレントを呼ぶからすぐに此処から離れようっ!トレント!」

霊馬の呼び笛を吹いてトレントを呼び出したメリナはふらつく褪せ人に肩を貸しながらトレントに乗り、今回はメリナが前に乗ってトレントを走らせる。

「逃がすと、思ってるのですかっ!!」

倒れた状態から顔を上げたハイータの瞳から黄色い炎が揺らめき、意識のはっきりしてきた褪せ人が咄嗟にメリナを抱き締めてトレントの背から横に飛び降りることで回避する。

メリナを庇うように背中から地面に着地した褪せ人は痛む身体をすぐに起こすとハイータへと視線を向け、どこか恍惚とした笑みを浮かべるハイータを警戒しながら距離を取る。

「あぁ、いけません・・・他の女を抱き締めるなど、私以外の女をっ・・・貴方の巫女は私だけなのですから、許されることではありませんよねっ!!」

再び瞳から黄色い炎を溢れさせるハイータの苛立ちを含んだ叫び声を上げる姿に、褪せ人は背中に嫌な汗が流れるのを感じる。

「さぁ、そんな女は捨てて・・・私と共に三本指様の元へまいりましょう?」

「させないっ・・・狂い火になんて、彼を渡さないっ――ぁっ」

そう口にしてこちらに手を差し伸べるハイータに、褪せ人は深く息を吐くと彼女に向かって威嚇するように声を上げるメリナを強く抱き寄せる。

「そう、ですか・・・それが貴方の答え、なら・・・力づくで連れて行くまでですっ!!」

黄色い炎が迸った瞬間に横に飛び退いた褪せ人の肩を掠めた炎は後方の木を焼き崩し、メリナに隠れているように告げた褪せ人が武器を構えると同時に第三者の声が耳に届く。

 

「それは困るな、そんなことになれば俺がラニに何を言われるかわからないからな」

 

そんな言葉が聞こえた瞬間に褪せ人とハイータの間にドズンッという重い何かが飛来し、立ち上る砂煙が晴れる前に声の主が立ち上がる。

「っ!――きゃぁっ!?」

それと同時に突き立てていた特大剣を引き抜くと氷結の爆発が起こり、突然の闖入者に呆気に取られていたハイータは防ぐことができずに後方へと吹き飛ばされる。

褪せ人もまた突然の出来事に武器に手をかけた状態で動きを止めていたが、倒れ込むハイータに目もくれず自身に顔を向けた者に視線を向けて口を開こうとしたがそれを遮るように声がかかる。

「今は悠長に話をしている暇はない、すぐに此処を離れるぞっ」

それだけを口にした『半狼のブライヴ』は褪せ人の返事も待たずに小脇に抱えるようにして持ち上げ、ハイータを一瞥してから大地を蹴ってその場から駆け出す。

「逃が、しませんっ・・・!何処へ行こうと、必ず追い付いて連れ戻しますから!あは、あははははっ!!」

口元を歪に歪めながら大きな声を上げて嗤うハイータの姿に悪寒を感じて身震いする褪せ人、その光景を眺めていたブライヴは小さく息を吐いてから呟きを漏らす。

「何をしたらあぁなるんだ?まったく・・・お前には驚かされてばかりだな」

遠ざかるハイータからブライヴへと視線を向けた褪せ人は、心外だとばかりに眉を顰めるが反論できないのか口を閉ざすしかないのだった。

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