ー20××年 ×月×日ー
「はぁ はぁ はぁ・・・クソッ」
月が照らす夜。
その中を走る。
服は所々裂けており、体も傷ついているのだろう血が滲んでいた。
男は走る。ひたすらに走る。あてもなく、ただ逃げるために。
男は指名手配犯だった。男を含めた男女数人の犯罪グループ。
しかし、彼等はついこの間まで服役していた。
数年前、一般家庭に強盗に押し入って3人家族の内2人を殺害した。
その2人の子供も、殺害しようとしたタイミングで警察が到着し、あえなく逮捕された。
そして、裁判の判決で受けた服役期間を終えて、数年ぶりのシャバを楽しんでいた時、彼等の前にヤツは現れた。
出所祝いと称して、もう2度とあんな場所に戻るもんかとグループで酒を飲んでいたところに、1人の人間。
黒のフード付きの長袖のコート、黒のパンツ、黒のブーツに黒の手袋。
全身黒尽くめ、顔には仮面。白地に五芒星だけが描かれた仮面。
男か女かも分からない。しかし、これだけは分かった。
こいつはヤバい。
男がそう思った時には、仲間の1人の首が飛んだ。
先ほどまで酒を飲み、2度と犯罪には手を染めてたまるかと誓い合っていた仲間。その首が宙を舞い、落ちて来た。
仲間の女が悲鳴をあげる。
それを皮切りに、皆が一斉に逃げ出す。
車に乗って逃げる者。
バイクに乗って逃げる者。
自分と同じ様に走って逃げる者。
しかし...
車はエンジンがかかった瞬間に爆破。
バイクに乗って逃げた者は、走り始めてすぐ腰から上と下が泣き別れる。
散り散りに走って逃げた奴らからも悲鳴が上がる。
一体なんなんだ!何が起こっているんだ!
ここまでかなり逃げて来た。
息を殺しながら周りをうかがう。
誰もいない。
「・・・ふぅーーーーーー」
大きく、大きく息を吐き出す。
とにかく助けを求めなくては、このままでは殺される。
しかし男には連絡手段がない。あるのは小銭だけ。
「公衆電話は!」
もう一度周りを見渡し、公衆電話を探す。
すると、ふと男はここら一帯に見覚えがある様に見えた。
いや、ある様にではない。あるのだ。
何せここはかつて、自分が捕まった場所なのだから。
「・・・よう」
「!」
背後から声。
振り返るとそこには、あの黒尽くめがいた。
「ヒッ!タ、タスケ...ガッ!」
顔面を鷲掴みにされる。頭が軋む。本当に人間なのかコイツは!
そう思えてしまうほどの力。
「・・・10年だ。この時を10年まった。」
そう言って仮面に手をかける。その下にあったのは。
「お、おまッ」
男が最後に見たのは...。
「・・・終わってみるとあっけないなぁ」
声変わりしたばかりなのだろうか、見た目と声のトーンに若干の違和感を感じるぐらいの、少年が夜道を歩く。
「・・・これで生きる生き甲斐ってやつ?無くなっちまったなぁ。」
誰に聞かせるまでもなく、ただ呟く。
しかし、何かに気が付き目を細め、口が裂けそうなほどの邪悪な笑み。
「囲まれてるねぇ。多いなぁ。素人じゃない・・・となると警察か?この間の依頼の件で御用かな?」
少年は、なぜ自分が囲まれているのかは、理解している様だった。
「・・・この状況も・・・悪くない。」
いつの間にか両手にサバイバルナイフ。
そして・・・・・・駆け出した。
そこはまるで、何重にも黒い絵の具を塗りたかったかの様な場所。
風は感じない。
温度も感じない。
恐怖などと言ったものですら感じない。
ここは一体どこだ?
疑問に思うものの、それを声に発することができない。
まるで海の中をただ漂う様な感覚。
しばらく感覚に身を任せていると、前方に何かがいる。
大きい。
並大抵の大きさではない。
ヒグマ?いや、比べるのも烏滸がましい。
ではサメか?それでもまだ足りぬ。
では鯨か?否!もっと大きい。
だんだんと全貌が見えてきた。
その生き物?と言っていいのだろうか?
体は牛か羊のようで、人間に似た顔、曲がった角、虎の牙を持ち、爪先はヒヅメではなく人間の爪。
まさに怪物。
しばし睨み合う。
あぁ、この化け物は俺を食いたいのだ。
そして、俺も食いたいのだ。
それは自然の理。腹が空けば飯を食う。ただそれだけ。
どれだけの時間が経ったのだろう?
化け物と戦い始めてから、一体どれほど経ったのか。
1時間? 1日? 1年? 1万年?
分からない。しかし、ようやくだ。
ようやく殺した。
こっちも死にかけているとはいえようやくだ。
不思議と痛みはない。
だが、腹が減っている。どうしようもなく。
目の前には化け物の死体。
化け物の死体に歯を立て肉を食らう。
不味い。クソ不味い。
とても食えたものではない。
されど、食欲が空腹がそれを許さない。
肉を食い、血を啜り、骨をしゃぶる。
声は出ない。
されど、手を合わせることはできる。
ご馳走様でした。
そこで意識は途絶えた。
「・・・久々に見た」
なんとも不思議な夢だ。
「大丈夫か?うなされていたが?」
目の前には、おとぎ話に出てくる魔女が被っていそうな帽子を被る赤髪の女。
「・・・」
「ほぅ、この私を無視か?」
「・・・貴女から心配をされるとは」
返答を返すと女は立ち上がり、言葉を紡ぐ。
「
「!」
咄嗟にバンダナを脱ぎ投げ捨てる。
すると空中で爆発し、ただの布切れと成り果てた。
殺す気か?この女。
「さぁて、修行を再開するとしましょうか?せいぜい、死なないように立ち回りなさい。
「・・・クソババア」ボソ
ちぃ、俺の周囲に生えていた草花にエンチャントしやがったな。
流石は、師匠。伊達に年は食ってないか。
「次、ババアなんて言葉が聞こえたら・・・分かってるね?」
「・・・」
「返事は?」
「・・・分かった。」