「ポーリュシカさんのおかげで、なんとか一命は取り留めたそうだ。」
「おおっ!」
「よかった!」
「へっ、あの爺さんがそう簡単にくたばるわけがねぇ!」
ラクサスが起こしたバトル・オブ・フェアリーテイル騒動は終わり。
怪我の差異はあれど皆命の別状はなく、今はギルドにて好き好きに飲み食いを楽しんでいた。
「だがマスターもお年だ。心労を重ねれば今後このような事が起こらんとは限らん。皆、肝に銘じておくように。」
本当に分かっているのか?などという無粋な事はこの際言わないでおこうと思いながら、エルザは皆を見つめた。
ラクサスと雷神衆によるバトル・オブ・フェアリーテイル。
石に変えられ、それを助けたい皆の思いを利用し争わせ、最後には町の人々の命さえも手にかけようとした内輪揉め。
しかし、結果的には怪我の大小はあれど死傷者はなし。
一時生死を彷徨ったマカロフも一命を取り留めた。
その安堵からか、普段以上に酒が進みむ皆の盛り上がりを理解して今日ばかりは良いだろうと自分も普段ならば1日一つと決めているショートケーキ、現在3個目に突入していた。
「ゴクッゴクッゴクッ・・・・・・・・・プハァーーーーーーーー!この一杯のために頑張った!」
「「「「一杯じゃなくて一樽・・・まてなんだ後ろの空樽の数!!」」」」
「皆んな、もういつも通り。」
「あい!カナはいつも以上に飲んでるけど。ルーシィも今ぐらい暴れたら?モグモグ」
「暴れないわよ!」
「けど、本当にやるの今夜のファンタジア。」
「マスターの意向だからな。それに、俺たちの事情で楽しみにしてる街の奴らをガッカリさせるわけにはいかねぇだろ?」
「そうよね。あとグレイ、服。」
「ジュビアもファンタジアを見るの初めてなので楽しみです!以前から見てみたいとは思ってたんですけど・・・ファントム所属だったから。」
「な〜にいっちゃってんの!」
「カナさん・・・空樽の数増えてません?」
「言っとくけどジュビア、あんた参加する側だからね?」
「ええ!ジュビアが!」
「モグモグ・・・怪我人多いからね。モグモグモグモグ動ける人は全員参加だって。」
「そゆこと♡」
「ええ!で、でもジュビアはその新人だし。あっ!決してイヤとかじゃなくて、あ〜でもでも」
困っているんだか、喜んでいるのか。
締まりのない顔で悩むジュビアを肴に、酔っ払いどものペースは加速する。
そして、ジュビアと同じくギルドに入って初のファンタジアを経験する者が他にもいるわけで・・・。
「て事は・・・アタシもッ!!!!」
「困ってんのか、喜んでんだか。」
「ケガ人多いからね。動ける人は全員参加だって。」
「それにあんな状態で参加できるわけねぇーだろ」
顎で指し示した先にいる二頭の竜。もとい二人のドラゴンスレイヤー。
「ふごご!ごごごごふご!ふぉーふふふごごご」
「無理だね、参加できるわけねぇーだろ。」
全身包帯を巻いた痛々しい姿の二人に一同よく生きてたなぁという視線を送っている。
「ふご!ふごごごーご!」
「それは関係ねぇーだろ!」
「何言ってるの?てか、なんでわかんの?」
「ドラゴンスレイヤー同士、何か通じるもんがあるんじゃねぇか?」
「ああ〜そういう考え方もあるか。まっ、あの二人は確かに参加は無理ね。ん?」
突如、入口の方が静かになる。かと思えばだんだんと声を荒げる者たちが増えていく。
「え、なに?どうしたの?」
「おい、一体なんだってん・・・・・・・・・なっお前!」
皆の視点は一点に・・・・・・今回の騒動の主導者ラクサスへと注がれていた。
やれどなたら下げて現れた。よくも顔を出せたな、いまさら何をしにきやがった。などなど責める言葉の嵐。しかし、当の本人は涼しげな顔でギルド内を進む。
「・・・」
かたわらに一言も発さない顔全体を隠した者を連れて。
「てめぇ!何しきやがったラクサス!」
「じじいは?」
「ふざけんな!お前にマスターを会わせるわけねぇだろ!」
「グレイ落ち着いて!」
今にも飛びかかりそうになるグレイをルーシィは間に入り必死に止めるが、その声は怒りで頭がいっぱいの状態のグレイに届いていない!
「テメェのせいでみんな傷ついたんだぞ!辺りを見ろ!バトルオブフェアリーテイルだ?マスターになるだ?ふざけんな!今度はフリードの術式もない。どうせやり返しにきたんだろ?そこの覆面野郎がどんな奴かしらねぇが、今度は全員が相手だ。」
皆もグレイと同じ考えなのか、各々が武器や魔法の準備を終える。
一触即発
「・・・ハァー。」カツンッ
手に持っていた杖を床に打つと、たちまち魔法は軒並み効力をなくし消失、武器はありえないほどの重さになり手から落ちてしまう。
「あ、あれ!?なんで‼︎」
「か、剣が・・・持てねぇ・・・おもてーーー!」
「開け金牛宮の扉タウロス!・・・あれーーーーーーー!?」
「グッ!何しやがったテメェ」
誰もかれも魔法が発動しない。
「ケケケケケケケッ、ほんと血の気の多い奴らだなぁ?」
羽音を立てて覆面男ことミストガンの肩に降り立ったのは、嘴をソースで汚したラウム。
「魔法が使えねぇのは、俺様の魔法レクイエムのせいだよ。お前らが発動した真実と発動し終えた事実を一緒にして矛盾させる。するとたちまちご覧の通り、魔法はそもそも発動しないという結果になるわけ。ケケケケケケケッ」
「なん・・・だそりゃ!?」
「ウソ何それ」
反則じみた魔法。事実ラウムによって皆の魔法は封じられた。
が、何事にも完全はない。
一見すれば無敵に聞こえるレクイエムもそれ相応の代償はあった。
「まぁただ・・・むちゃくちゃ魔力を食うからもう使えねぇけどな。
さっきのでスッカラカンよ俺の魔力。」
「・・・アホ鳥」
「おうおうテメェ、
助けたのは覆面男ではなく自分達の方だという。
魔法を無効化させておいて助けた?
「ルーシィ無事かい!」
「ロキっ!」
眩い光と共に現れたスーツの美男子。
フェアリーテイルでも有名人の一人に挙げられるロキ。
有名と言っても女性関連で有名だが。
「タウロスが召喚されたはずなのに精霊界から出れないと慌てていたんだ。だから勝手だが自己判断で来させてもらったよ。無事でよかった。」
「タウロスが⁉︎そう、ありがとう。」
「それでルーシィ・・・状況の説明をお願いできるかい?ラクサスと謎の覆面。コレは最後の悪あがきだと捉えても?」
「ま、まって私達も状況を把握しきれてないの」
「じゃあ本人達に聞くしかないようだね。ラクサス、それと覆面の君。」
「・・・」
「・・・」
「おうおう俺は無視か?まぁいいけど。ああそれと魔法が発動しなかったのは俺のせいケケケケケケケッ!」
「君は覆面君の使い魔か何かかい?」
「さてねぇ?まぁ、さっきので魔力はスッカラカンだから無視ってのはかまわねぇが、お礼くらい言ってくれてもいいと思うんだが?」
「そ、それよ!アンタ、ええーと名前なんだっけ?」
「ラウム」
「何で魔法を封じたのが私達を助けたことになるの?」
「ぶっちゃけた話、お前らの魔法が封じられたのは副次結果だ。コイツの魔法を封じる為に全魔力注ぎ込んで最大出力で使っちまったから効果範囲もお前らに及んじまったのよ。」
「・・・つつくな」
「ケケケッ!」
「つまり、君がマイスイートハニーを穢そブベラッ!」
「誰がハニーじゃい!」
「そうかラウムと言ったか?その話が本当ならば感謝しよう。」
まるでモーゼのように、人混みか左右に割れそこを通るは妖精の女王エルザ。視線をミストガン一点にこめて。
「ミストガンが杖をついたの時に発動させた魔法を封じる為に行ったのだろう?」
まさかのカミングアウト。今の今まで正体不明の仲間だったミストガンが、目の前の覆面男だと我らの女王が断言した事に皆耳を疑った。
「ミ、ミストガン⁉︎マジで⁉︎」
「初めて見た!」
「今まで謎に包まれてたやつがついに・・・でも覆面だからまだ謎だ。」
「てか、男だったのか!」
「オメェは女だと思ってたのかよ⁉︎」
「いや、ラウムが肩にとまった時から薄々そうじゃないかとは思ってたけどなるほどねぇ〜」ゴクゴクッ
「ええー!!あれが最強候補の最後の1人⁉︎」
誰もかれも驚きの声をあげる。
「んな事どうでもいい!」
姿形されわからなかった仲間に皆興奮するが、1人の叫びに皆静まり返る。
「グレイ」
「ミストガン、アンタが後から参加したのは知ってる。なら分かるだろ?みんな傷つけられて・・・それなのに何でラクサスの隣にいやがる!」
「グレイ落ち着け。」
「エルザは黙って「オメェが黙れや氷野郎」んだとくそ鳥。」
「どいつもコイツもそんなだから、コイツはラクサスについて来たんだろうが。」
「はあ?」
「・・・おいラウム」
「オメェもオメェだぜ、わざわざギルドの恥の争いの街の被害を住人に知られねぇ為に、街全体を幻術で覆って破損してる建物や道を隠してらから他に回す魔力まんまり残ってねぇだろうが。それなのに無茶してコイツら全員眠らそうとしてよぉ。アイんんっ・・・お師匠も言ってたろう、魔力の残量を正確に把握しろ。でなきゃ思わぬ形で発動する魔法は思いもしない被害を生むってな。俺がレクイエムで止めなきゃ最悪全員一生眠ったままだったかもだぜ?」
「・・・」
全員が理解させられた。
ラウムは、ミストガンも自分達も最悪の状況になることを防ぐ為にやったのだと。
そして呑気に事態が終息したと思っていた。バトルオブフェアリーテイルによってでた被害は何も住人達だけではない。建物や、道といったものに出ていた。それを放っておけば・・・結局は責任追及を受け、マスターの事だ自ら辞めると言い出しかねない。
それをミストガンはたった1人で幻術で街を覆い。修復が完了するまで持ち堪える気でいた。
「なるほど、それでお前達が来た理由は?など問わない。マスターなら奥の医務室だ。目は覚ましている。」
「エルザっ!」
「皆聞け!もし面会を止めようとするならば、私はミストガン同様ラクサスを守る!」
「その為に、己の姿を晒してまでこうして来たのだろう」
「・・・すまない」
「さぁ、2人とも早くマスターに会ってやれ」
2人は連れ立って医務室に続く扉に向かう。
しかし、横から包帯グルグルまきのナツが割り込む。
皆、ナツがエルザの宣言を聞いても割り込む姿に息を呑む。
「ナツ私が「んがもががががぶべっべぼ!」は、はぁ?」
「「・・・」」
「ぶべばぶ!」
ラクサスを指差し息を大きく吸い込んだ。
「ぶべらがばばば・・・びば、らぼぶれば!ばがぎづぶぶぶべびばら!ごぶぶらだばべりばごげば!」
続け様にミストガンを指差し
「ごんがぶばべららぼだぎがふ!ぶべぼがばびづでれぼばびばぼ!」
再度息を大きく吸い
「ばばぼぶぼぼぶびぼぶばびぼろ!」
一同理解不能。どこの言語だ。
ならば理解できる人に翻訳してもらうほかはない。
「てな訳で、翻訳よろしく。」
「『3対1で・・・いや、こんなザマじゃ話にならねえ。いつか、俺がもっと強くなったら勝負しろラクサス』ミストガンの方には、『お前もだミストガン!いずれお前も俺が倒す。だからその時は勝負しろ。後、今回は助かったありがとう』だとよ。」
「こんなザマとか助かったってなに?3人で勝ったんでしょう?」
「・・・・・・・・・いや、俺も正直あれを勝ちだとはいいたくねぇ。俺とサラマンダーはなす術もなく負けた。あの2人は次元が違う。マジでバケモンだ、ファントム戦に参加してたかと思うとゾッとするぜ。」
2人はナツの隣を通り過ぎ、医務室に続く扉へと歩いていく。
「〜ッ!」
無視されたのかと思い振り返り、2人にまた理解不能言語をかけようとしたナツの目に飛び込んできたのは、片手を上げるラクサスの姿。
言葉には出さない。だが皆がこの意味を理解する。
そしてラクサスはそのまま扉へと入っていく。
しかし、ミストガンは立ち止まり振り返って言った。
「・・・考えておいてやる。」
そう言い残して、ラクサスに続いて扉へと消えて行った。
時間は少し流れ・・・夜。
普段ならば街灯の光のみの街が、昼間のように煌びやかな光と活気があった。
収穫祭の目玉であるフェアリーテイルによるパレードだ。
最前列、もしくは少しでも近くで見ようとパレードの両サイドには人、人、人。
「・・・」
「・・・」
しかし、その人混みから離れて奥まった路地に佇む2人。
ラクサスとミストガン。
パレードを遠目で眺めながら並んで立っている。
「・・・破門?」
「ああ」
「・・・そうか。」
「驚かないんだな。」
「・・・おおかた予想できたことだ。・・・しかし、後々荒れるな。」
「既に荒れてるさ。」
「・・・雷神衆か」
自分を慕ってくれる者達のことを考えているのか、表情には少しの後悔とアイツらなら大丈夫だという期待が見え隠れしている。
「ナツが投げた魔導具、アレはお前が渡したものだろう。」
「・・・ん?」
そういえばナツにもしもの時の保険に渡していた物があったと思い出す。
フェアリーロウ発動のタイミングで、俺が渡した魔道具を説明した通りに使用したみたいだが・・・。
「三大魔法の一つを封じたアリャなんだ?」
「・・・いや、封じてなどいない。確かにあの魔道具は、一度だけ魔法の発動を乱し無力化させる魔導具だ。」
「なら完璧に無力化させられたが?」
「・・・そうか?だが・・・お前は無事だろう?」
「ん?」
「・・・ん?」
「「ん?」」
何言ってんだコイツ?みたいに見られても実際にそうとしか言えんぞ。
「・・・説明が悪かったな。発動を乱す。・・・正確には魔法を使用した者の魔力を内部で暴発させて魔法発動を阻止する魔法具だ。」
「内部って・・・まさか体内の」
「・・・それ以外に何がある?」
「テメェ!なんてもんあのバカに渡してんだバカ!」
「・・・それでもお前は今ここにいる。フェアリーロウは己が敵と認めたものだけに作用する。・・・・・・ラクサス、魔法に嘘はつけなかったな。」
「・・・・・・・・・・・・チッ。」
華々しいパレードが目の前を通過していく。
住人たちの喝采や花火の音・・・。
「医務室からお前がジジイに用事を済ませて出て行ったあと・・・まぁ、ジジイにも言ったが俺は」
「・・・お前がギルドの事を思っている事は知っている。・・・が、今回はやり方を間違えたな。」
「ああ、間違えた。」
「・・・」
「・・・」
「・・・これからどうするつもりだ?」
「さてな。まぁ、いろんな所を回って見聞を広げるつもりではいる。」
「・・・そうか。・・・・・・旅は良いぞ。」
「なぁ、聞いていいか?」
「・・・ん?」
「お前、何でギルドに寄りつかなった?仕事を取る時は、わざわざ眠らせるようにまでして。・・・やっぱりアイツか?」
「・・・寄りつかなかったのではない。・・・本来は旅をする為に師の元を出た。そもそも俺がギルドに入ったのは旅に必要な金を調達する為に過ぎなかったんだ。」
「へぇ。そりゃ初耳だな。」
「・・・誰にも言ったことがないから当然だろう。・・・最初は旅の費用を得る為だけのものだった。」
「・・・」
「・・・だが、マスターにギルダーツがしつこくてな。少しはギルドに顔を出せ、皆と喋れ。まぁ、当然無視したわけだが。」
「クククッ!」
「・・・・・・そうしたら2人がかりで俺をボコボコにしてくれてな。」
「は?」
「・・・しばらく旅は出来そうもなく、するとマスターが『完治するまで毎日ギルドに顔を出せ。皆と積極的に接しろとは言わん。ただ見ているだけでいい』とな。」
懐かしむように
「・・・いきなりギルドに入ってから一度も顔を出したことのないガキが、大怪我を負って初めて顔を出すのはいささか問題だろう?だから最初は存在を偽る魔法を使って通ったんだ。・・・適当なテーブルに座って、そこにいる奴らの会話を聞き、ギルドの雰囲気、騒ぎ、表情。・・・どいつもこいつも楽しそうに喧嘩して、笑い合って認め合う。・・・いつしか今日はどんなギルドを見れるかと楽しみになっていったよ。」
「・・・怪我が治って、早速旅に出たが・・・・・・どうしてもあの騒ぎを肌で感じたくてな。だが・・・完治するまでも、皆に姿を見せなかったから・・・その。」
「タイミングを見失って今ってか?馬鹿じゃねぇか。」
「グッ!」
「ハハッ」
「フフッ」
男達の笑い声
それは喝采の中に静かに消えていった。