「・・・ハァ」
「おい、いきなりため息ついてんじゃねぇよ。」
「・・・そもそも他のギルドに依頼することか?」
「まぁ確かに、自分とこの問題は自分達で解決しやがれっての。」
「・・・チッ、女ってのはどいつもこいつも歳とったらどんな無茶な要求しても許されるとか思ってんじゃねぇだろうな。何が現役は退いたからだ。引退してそんなに年月経ってねぇだろクソが。」
「お前もしかして相当キレてる?」
「・・・ねぇよ。」
「はい嘘〜。アイリーンの無茶振りに悪態ついてた時と口調がまんま同じですー。けどまぁ、責任重大な案件、他のギルド所属のお前に依頼すんだもんなぁ。」
隠しきれて・・・否。
これっぽっちも隠さず、見るからに自分はいま不機嫌です状態のミストガン。
その不機嫌極まった状態のミストガンに後ろからキセルを咥え近づいてくる1人の女。
「お疲れ様。調子はどう?」
「・・・それは、どういう意味でだ?」
「そのままの意味よ。ウチの子達は・・・あーあ、見事に全滅か。」
かつてはS級魔導士として大陸に名を馳せた女。
人魚の踵、マスターダフネ。
「天馬のマスターから聞いたわよ。10年クエスト達成おめでとう。」
「・・・」
「あら、何その目。」
「・・・いえ、別に。」
「ハッキリしない子ね。けどなんとなく分かるわよ。嫌味に聞こえたかしら?」
「・・・貴方も、かつてはクリアしたでしょう。」
「そうね。でもね、私とあなたの違いは誰1人として死者を出さなかった事。」
「・・・俺の場合は周囲を巻き込む要素が少なかった。」
「こいつアイリーンと同じ人種だろ?お前が苦手そうな奴だ。」
「ラウムちゃんも協力ありがとね。」
「俺ただ見てただけ」
「・・・それで、マスターダフネ。再度問いたい。」
「何かしら?」
「・・・何故俺が、人魚の踵の訓練相手なんだ?」
ー3日前ー
「・・・」
体調は良好、魔力も問題ない。
しかし、しばらく何もしていなかったから少し訛ってはいるだろうな。
リハビリがてら何か依頼を受けるか?
「相棒〜」
「・・・なんだ?」
ラウムに呼ばれた部屋へ行くとテーブルの上に封筒が置かれていた。
「どう思う?」
「・・・さぁな。そもそもこの家を知っている人物は少ない。その中から多少は絞れる。・・・が、この押印は人魚の踵か。」
「ミラのやつが教えてくれた中にあったな。女だけのギルドだっけか?」
コイツ、俺よりギルドに馴染んでないか?
「・・・以前に少しだけな。」
「元カノでもいんのか?」
「・・・違う。」
なんでそうなる。
「魔力帯びてねぇし、ただの手紙っぽいぜ。持ってくる間もなんもなかったしな。」
「・・・そうか。・・・・・・・・・・・は?」
「いや、昨日マスターに帰り際お前宛だって預かってたんだよ。」
「・・・それを先に言え。身に覚えのない手紙が気がつけばテーブルにあったのかと思っただろうが。」
「俺一言でもいきなりテーブルに手紙が出現したなんて言ったか?」
「・・・」
言ってない。
「とりあえず読んでみたら?」
そうしよう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おいおいおい、無言でたたむな見なかったことにすんな。なんだよなんて書いてあったんだ?」
「・・・」
「お前が相当めんどくさいと思ってしまう内容と言うことは、その表情で分かった。」
どうするか・・・。
「無視すりゃいいだろ。」
「・・・。」
「めんどくさい事は無視するにかぎるぜ?」
「・・・ああ、出来ればそうしたいな。」
「できねぇの?」
「・・・借りがある。」
「どうするかはお前に任せるよ。」
あの時の判断を後悔している。
クソっ、最初は俺の姿を知るナナだけだと思っていたのに。
「グッ・・・クソッ」
「や、やばい無理。」
「ポッチャリなめちゃいけないよ。けど手加減はしてほしいね。」
「やっぱり強い。」
「・・・ハァー」
「どうだい?ウチの若手株の中じゃ実力は上位なんだけどね。」
フゥーと紫煙を吐きながら問いかけてくる。
わざわざ顔に吹きかけてくんな。
「・・・まだ先の質問の答えを聞いてはいないが?」
「ああ、理由ね。うちに唯一居たS級の子なんだけど、近々か引退するのよ。」
「・・・任務で深傷でも負ったか?」
「いいえ、その子、結婚するのよ。」
「・・・ほう。」
「旦那になる坊やは彼女の昔馴染みらしくてね。街で代々魔導具店を営んでる。籍入れて今後は夫婦で店を繁盛させるんだって。」
「・・・そうか。だが、今のままS級でいれば何かと便宜も図れるだろうに。」
「確かに独り身ならね。けど、女の幸せにとって比べればそんな細やかな恩恵なんて価値はなくなる。むしろ足枷になってしまうもの。」
フゥーと今度は深く紫煙を吐く。
「坊やもそのことを理解しておきな。女の幸せってものは形ある物より形なきものの方が重いのよ。」
「・・・なるほど、大幅な戦力の低下。確かに早急に解決したい事態か。」
「坊や・・・はぁー、まあいいわ。ええ、そういう事よ。だから
唯一のS級の引退。確かに人魚の踵にとっては祝福はすれど痛い話だ。
ここでベテラン勢をS級に上げる手立てもあるが、長く見るなら若手の実力者達を鍛えS級にするのが一番いい。
さて・・・。
「・・・そちらの事情は把握した。その上で言わせてもらおう。」
「ええ。」
「・・・他のギルドである俺に頼むべき事ではない。」
少しづつ回復してきたのか、倒れていたナナを含めた4人も黙って聞いている。
「・・・戦力ダウンは確かに痛手だろう。だが、だからと言って他のギルドのS級に鍛えてくれと?それでは戦力の増強は出来ようとも「ええ、分かっているわ。」・・・ならば何故だマスターダフネ。」
「正直言ってね、私は引退からの時間は確かに微々たるモノだけど、それでも全盛期の力は出せないし感も鈍ってる。経験則からの技術は教えてあげられる。でもね、それだけじゃダメなのよ。今の最前線に立つものの力を、指標を立ててあげないとこの子達は闇雲に突っ走るだけ。」
「ケケケなるほどなるほど、ならばS級ってのはどれだけのやつなのかって見せつけてほしかったわけだ。鍛える云々はこじつけで相棒の力の一端を見せつける事こそが目的だったわけだ。」
「フフフッ、そういうことよラウムちゃん。」
「まんまと嵌められたな?」
・・・チッ。
手紙、知りませんでしたって無視しとけばよかった。
まぁ、こうなった以上何を言っても後の祭りか。
「・・・承知した。」
「フフフッ、手伝えそうな所は手伝うわ。それと今夜のお酌も・・・ね。」