バイデントの名・・・・・・・か。
「・・・か、考えてなかった」
あーそうだよ。考えてなかったよ。
完成してから慣れるため、訓練を積んでいるうちにラクサスの一件。
あの筋肉バカのラクサスの一件で!
あの雷バカのラクサス一件で!
あの短気バカのラクサスの一件で!
ハァ、まぁいい。そうだな、コイツにも名をつけてやらなきゃな。
「うふふ、遅れないでね?」
「・・・ダンスのリードは基本は男のはずなんだがなぁ?」
互いの踏み込みが地面を抉ると同時、互いの中間地点で衝突する。
片方はムチのようにしなりながら、風邪を切る蹴りを絶え間無く繰り出す。
片方は槍をまるで体の一部かのように操り突きや斬撃を浴びせる。
「水はね、何処にでもあるのよ。例えばそうね・・・坊やの立っている大地にだって」
「っ!」
「逃がさないわよ?」
「・・・はあああっ!」
触手のように迫る大量の水にたまらずさがる。
(逃れるのは不可能と判断して破壊するつもり?)
「無駄よ?水はどんな形にでもなれる。そして私の魔力が続く限り終わりはないわ。」
「・・・壊れて仕舞えば終わり。そんなに甘く無いことはわかっている。」
だからこそ前へ!
(すり抜けた!ファンタズム・・・確かに厄介な魔法ね。本人自身さえも幻とすることができる魔法。)
「・・・影法師!」
途端に3人に増える。
「数でゴリ押すつもりかしら?」
「・・・。」
それぞれが個々に強化の付与を行いダフネに攻めかかる。
しかし、歴戦の猛者。
たかだか3人。それだけの人数、それだけの手数。
過去には倍、倍以上の敵と単独戦闘の経験など掃いて捨てるほどあった。
今回とて同じだ。
本体含めて薙ぎ払う。
「ちょっと・・・期待はずれね。【水切り】」
石を投げ、水の上をどれだけ跳ねて飛ばせるかを競い合う遊び。
それをモチーフにしたのだろう。
数十とダフネの周りを浮遊する薄く平たい水の軍勢は、まるで水面を跳ねているかのような動きでミストガン達に当たる。
水は高出力で噴射させることでダイヤモンドさえも切断する。
ダフネは自身の魔力を数mlの水に込め圧縮操作する事で、ダイヤモンドをまるで紙のように切断する威力を付与していた。
「あっ!」
その事に着弾のコンマ数秒前に気がつく。
己自身が期待していただけに、それ以下だったミストガンに。
そして、久しぶりの全力戦闘に加減の調整ができていなかったことに。
「しまった!坊や!」
想像したのは血飛沫を上げ倒れ伏すミストガンの姿。
「・・・ふむ。」
ではなかった。映る光景は懐に入りバイデントで全力の薙ぎ払い、自分に攻撃を仕掛けるミストガンの姿。
「がっ!」
この戦い初、まともに攻撃が通る。
肺から強制的に酸素を吐き出され吹っ飛んでいく。
「っ!」
だが、このまま吹き飛ばされるわけにはいかない。
咄嗟に地震が吹き飛んでいく方向に大きな水の球体を生成する。
そのままドボンッ!!っと水の中に突っ込む。
「ぶはっ!ゴホッゴホッ!はぁーはぁーはぁー
・・・・・なんなの一体何がっ!」
「幻影槍々!」
(な、何アレ⁉︎槍・・・の軍勢?)
展開され続ける実態のない槍の軍勢。
それは次第に集まり唸る。
まるで生き物のように、まるで大自然の水のように。
一本の槍が、数十、数百、数千、数万と数える事が不可能な槍達が大河のように唸り狂いダフネを飲み込まんと襲いかかる。
「・・・狂い滝」
まるで数百メートルから落ちる滝の様にダフネに降り注ぐ。
ダフネの命を確実に奪うために。
「いいわ・・・そう、これよ!さぁ、踊りましょう!!!!!」
噴火するマグマの様に打ち上がる大量の水。
「・・・勝負!」
質量と質量の勝負。
互角なれど、重力は星の中心へ向かう。
重力・・・勝敗を分けたのはただそれだけの差。
「あぁ、あああああああああああああああああああああ!」
槍の滝、そして自身の打ち上げた水を巻き込んだ大質量に押し潰されるのだった。
「ん・・・・んぇ?」
「・・・起きたか。」
「星・・・夜?」
自分がどれだけ眠っていたのか空を見て、だいぶ長く気を失っていたことを悟。
「良い夜空ねぇ。」
「・・・良い星空の元では、酒と良いが、良い豆を使ったコーヒーが格別だ。」
「あら、ありがとう。」
「・・・ミルクと砂糖は?」
「ミルクだけ頂ける?」
「・・・ん。」
2人、夜空を眺めながらコーヒーを味わう。
焚き火の音、満点の星空、格別のコーヒー。
戦いで疲れた身体にじんわりと沁み渡る。
「最後の荒々しい攻めだったわ。」
「・・・長引かせればこちらが不利だ。少しばかり賭けだったが届いて一安心と言った所だ。」
「やっぱり、その魔法はデメリットも大きそうね。」
「・・・魔力の消費がな。・・・一般的な魔法を一つ行使するのに消費される魔力が10としよう。・・・対するこちらは50と言ったところか。」
5倍、並の魔導士なら即魔力切れを起こす。
そんな魔法をポンポン使うのはミストガンの魔力量が常人の遥か上をいくからできただけの事。
「ねぇ、私の水切りをどうやって防いだの?」
「・・・」
「影法師だったわね、アレは既に消滅させていたからないとして、自身を幻にするのはできるのでしょうけど、おそらく高い集中力が必要、あの場面で出来たとは思えない。」
よく見ている。とミストガンは内心舌を巻く。
ダフネの指摘はほぼほぼ当たっていた。
「・・・虚月だ、虚月は嘘を写す。」
「?」
「・・・虚月は魔力消費は激しいが、発動範囲内の魔法の虚像を作ることが出来る。」
「えーと、整理させてね。あなたの虚月は一定の範囲内の魔法を幻にする事が出来る。・・・・・・で、あっているかしら?」
「・・・より正確に言えば、範囲内の魔導士に幻を見せている。自分の頭の中にあるイメージがそのまま幻術として映し出されるんだ。・・・だが、実際に俺から見れば、ただ魔力を無駄に放出しているだけで魔法は発動していない間抜けな姿にしか見えんがな。」
「私の中の水切りのイメージを私自身が見ていただけ・・・か。魔力の消費は激しくても、戦いの中で虚月を発動され続けられたら、敵は何もできずに終わりね。・・・あと、間抜けは撤回してくれるかしら。」
「・・・別にあなたを間抜けと言った訳ではないが、すまない。」
虚月を発動させ続ければ戦いは確かに支配できるだろう。
続けることができれば。
「・・・確かに虚月を使い続ける事ができれば、戦いにおいて圧倒的に優位に立てるだろう。発動させておけば、任意で好きなタイミングで効果を発揮できる設置型魔法。・・・一回限りのな。」
「一回・・・じゃあ連発は無理なのね。」
「・・・ああ、ここぞと言うタイミングでしか使わない。相手の虚をつくための魔法と思ってもらえればいい。」
また、2人コーヒーを味わう。
何も語らず、ただこのゆっくりとした時間を余韻に浸りながらダフネは思う。
(強いとは思ってた。近接戦闘、槍術、魔法のどれもが高水準。でもなぜかしら、確かに本気で彼は私と訓練をしてはくれたけれど本気ではなかった。より正確に言えば・・・全力で魔法を使っていなかった。)
今も焚き火に枯れ枝を焚べ新しくお湯を沸かしているミストガン。
(魔力消費が悪い魔法と言うのはわかる。けれど、それを無視すれば一方的に倒すことも可能な力。訓練に付き合うために抑えた。なんて言われればそれで納得をせざる得ないけれど・・・何か違う気がするのよねぇ。)
時間にしては短い攻防の中で、違和感が拭えなかった。
かつてはS級として名を馳せた自分と、現S級の男。
その間にある何かが
(まぁ・・・いずれ知るれることを期待しましょう。」