「まだか!」
「すみません。通信状態が悪く本部との連絡がつきにくい状況で。」
「復旧を急がせろ。解析班にニルヴァーナの解析結果も急がせるように伝えろ!時は一刻を争うぞ!」
ラハールと共に出た部隊と後方部隊も合流し、仮設拠点を設置して早急にニルヴァーナの弱点を調べるべく、評議院本部との連絡を取り合いながら本部解析班の連絡待ちとなっていた。
その仮設テントの一つでしばし休息を取るミストガン。
「・・・」
「なんか浮かない顔だな。」
「そう見えるか?」
「おう。」
「問題ない。」
「そうか?いつもなら一拍間が空くくせに即返答してるのにか?」
「・・・」
「気づいてなかったのかよ。で?何考えてた。」
「私もお聞きしてよろしですか?」
少し疲れた様子でテントに入って来たラハールに、椅子とお茶を出して休む様に促すと、感謝を告げて一気に飲み干した。
「ふぅ。それで何か気がついたことでも?」
「・・・カナの占いを・・・覚えているか?」
「はい。正直よくわからなかったヤツですね。」
「・・・これまでの状況で当てはめると、何かと合っている部分がある。」
一つ黒の手足、これはニルヴァーナの事だと推測できる。
げんに、六本の足がある。
そして、光と闇。恐らくこれがニルヴァーナと言う魔法の正体を表しているに違いないこと。
二つ六芒星、こちらは恐らくオラシオンセイス。
噂で聞いた程度だが、オラシオンセイスのマスターゼロは6人を倒す事で姿を現すと聞いたことがある。それぞれに生体リンク魔法を仕込んでいるのかは知らないが、六芒星は召喚にも用いられる魔法陣の一つ。故にこの仮説の可能性が高い。
「・・・何度考えてもこの二つの仮説の可能性が高い。」
「ですね。しかし、肝心の」
「光と闇・・・ね。一体どんな魔法なのやら。ちょっとだけ楽しみだな」
「た、大変です!」
一区切りついたところで、慌てて入ってくる隊員に再び高い緊張感が走る。
「何事だ!」
「と、とにかく外へ!」
そう言われて外に出てみると。
そこには浮かぶのがやっとの状態の飛行船がいた。
「・・・あの派手な装飾にペガサス。・・・まず天馬の所有する物で間違いないだろう。」
「けどボロボロだなぁ。あの翼も魔法で補強してるし何より・・・あ、飛ばしてた風魔法か、空気の魔法かしらねぇけど今切れたな。」
「「あ、落ちてくる」」
「のんきに言ってる場合ですか!総員退避!退避ー!」
蜘蛛の子が散る様に逃げる。
「・・・はぁ。こんなものを持ち出したなら。アレを破壊くらいはしてから堕ちろ。」
「まったくだケケケ」
「ミストガン!?」
「仁王・腕」
霞の腕がどこからともなく現れ、落ちてくる飛行船を優しく包み込みそっと地面へと下ろした。
「それも幻術かよ。」
「・・・そもそも幻術は相手を惑わし騙すのが目的だ。俺の魔法はそれを現実にし効果そのものを与える。・・・この魔法だって相手を脅すだけの魔法だ。」
「それを一気に強力な魔法に変えちまう時点でとんでもないよなぁ。」
「・・・本質はそこじゃないがな。」
「そうだった。」
墜落してきた飛行船へ乗っている者を心配するのでもなく、ただ冷静な1人と1羽。
普通ならば、混乱やその場で固まる者。救助へ走る者など様々だが、この者達だけはただ落ちてきた者をキャッチしただけに過ぎないと言う感覚。
「なんなんだアイツら・・・。」
誰かが発した言葉に、その場にいる者達の多くが賛同した。
「・・・どうだった?」
「ブルーペガサス所属の魔導士3名を救助しました。3人とも重症ですが、命に関わることはありませね。医療機関でちゃんと治療すればちゃんと治ります。今は、応急処置を終えて眠っていますよ。」
「・・・そうか」
「ケケケ、けど根性あるなそいつら。3人であの飛行船飛ばしてたのかよ。見るからに本来の飛行機能はダメになってる感じだったぜ?」
「正しくは2人ですね。1人は分析や解析の部類の魔法を使う方でしたから。」
「そりゃすげぇなケケケ」
「そして、その者のおかげで分かりましたよ。ニルヴァーナの正体が。」
「「!?」」
「光と闇を入れ替えるそれが超反転魔法ニルヴァーナです!」
「・・・な」
「なな!」
「「・・・なんだそれ?」」
「シリアスな雰囲気ぶっ壊すのやめてもらっていいですかね!!」
「だって光と闇を入れ替えるって言われても・・・ねぇ?」
「・・・だが、占いの最後の暗示はニルヴァーナで決まりだろう。」
「ブルーペガサスのヤツはどんな魔法だって?」
「それが,,,」
聞く前に気を失ったか。
ニルヴァーナがどんな魔法なのか、止める方法とか色々聞きたかったが仕方がない。
「受けた者の善悪を入れ替える魔法だそうです。善の心を持つものは悪の心。悪の心を持つものは善の心。それが、ニルヴァーナだと。止める方法については、足の内部にあるラクリマを6つ同時に破壊しなければならないそうです。」
めっちゃ情報得られてるやんけ。
あのままの流れだと、気を失って聞かなかったと思うじゃん。
「・・・」
「あの、なにか?」
「・・・いや、ちゃんと情報は得られたんだなと」
「はい。今は治療を受けつつもう、少しニルヴァーナについて調べていただいています。」
「・・・そうか」
情報が得られたのはミストガン達にとって行幸だった。
情報を元にこれからの対策と、ギルド連合が敗れた際の対策を練る時間ができた。
しかし、最初はジェラールを捕えるために少数精鋭で来た為、バラム同盟の一角であるオラシオンセイスを相手取るには不足。
「ここは一度撤退しましょう。」
妥当な判断だと言える。
ミストガン達の今回の目的は、ジェラールの捕縛。
その過程で、オラシオンセイスのたくらみに鉢合わせたに過ぎない。
物資も戦力も不足。
今回は撤退をしたとしても、探し出す方法はいくらでもある。
今は、早くこの事態を評議院本部へ知らせて周辺地域と危険勧告と避難。
そして、相応の戦力を整える事にある。
そう、それが当然の判断。
現場の、部下の命を預かるラハールとしての。
「・・・そうだな。・・・では、ここで別れるとしよう。」
だが、この男には当てはまらない。
「何を言っているんですか⁉︎」
「・・・お前は、急ぎ部隊を率いて撤退しろ。・・・俺は、あれを押さえてみる。」
「そんな!無茶です!あの巨大な移動物をあなた1人でなん「・・・誰が1人だと言った」え?」
「・・・あそこには、俺がよく知る・・・・・・諦める、などと言うことを知らない・・・フッ・・・笑えてくるような馬鹿共がいる。・・・どれだけ心配しようと、
今も移動を続けるニルヴァーナに向けるミストガンの目は、仕方がないと呆れながらも優しく弟妹達を見守る兄のようだった。
「・・・では、互いが無事ならばまた会おう。」
エンチャントを施すと、ニルヴァーナへ向けて駆け出す。
そのミストガンの後を追うラウム。
「おい、空気だったじゃんかよオレ。」
「・・・む?そんなことはなかったと思うが?」
「あったわ。でも、さっきお前が言ってた馬鹿共って、お前も含んでだよな?」
「・・・いや」
否定する。
しかし、ラウムから見てみれば危険だと分かっていても、仲間を見捨てることのできないミストガンも間違いなく馬鹿の1人だと心の中で呟くのだった。