IS学園 校長室
「な、それは本当なんですか」
普段からおどおどしていることで有名な
校長は麻耶を落ち着くように目配せする。
「本当です。今はまだ少数の人間しか知らないことですが、確かな情報です。」
「し、しかし、それが本当ならばISの存在が根本から覆すことになります。」
「ええ、そうです。だからこそ山田先生には確認しに行ってほしいのです。」
そういって校長は一枚の書類を麻耶に渡した。
「これが、その人です。」
書類には一人の男の写真と経歴が書いてあった。
書類を受け取った麻耶は先ほどまでの困惑した顔をやめ、普段生徒には見せないような真面目な表情をする。
「わかりました。私はこれからISを撃破したという男に会いに行ってきます。」
そういって麻耶は部屋を出ようと校長に背を向けたところで、校長が麻耶の背中に声をかけた。
「そうそう、彼はこう呼ばれているみたいです。イヌワシと」
写真には冴えない二十代後半の男が写っている。名前は
「厳父のために」
「厳父のために」
「イヌワシのために」
「厳父のために」
「トリさんのために」
それぞれ戦闘を開始する前にいつもの様に祈りをする。当然Iイルミネーターをつけているため、その声は厳父、イヌワシ、トリと様々な異名を持つアラタにも聞こえる。
アラタ自身あまり良い気ではないため、過去それとなく言ってみたものの、現在でもこの習慣は変わらない。
戦闘前の儀式が終わり、それぞれの戦術単位が戦闘を開始するなか、前に進んでいた戦術単位Pから連絡が入る。
「こちらジニ、目標1を目視しました。」
「よし。グレネードで吹き飛ばせ。」
「わかりました。」
次の瞬間、イヤホンから爆発音が聞こえ。Iイルミネーターによって表示されていた敵戦術単位が消える。
敵トラックはダチョウ隊が偵察、監視していたためにその数と配置を正確に把握しており、ジニが今一つ目を吹き飛ばしたため、残りの数はあと5。
「よし、グエンの隊は狙撃を開始。」
「了解しました。」
トラックを爆破されたことに動揺した敵をグエンの狙撃で倒してゆく。
状況はこちらが有利である。
元々敵はこのようなところで奇襲が来るとは予測してなかったのだろう、戦闘開始直後からその動きは組織的ではなかったが、ジニによるトラック撃破によりそれがより一層際立った。
敵の中には道から森の中にいるジニ達を攻撃しようとするものがいるが、グエンの狙撃で倒す。
あと1個になった敵トラックもジニのグレネードによって吹き飛んだ。
戦闘後、それぞれの戦術単位に撤退を命じたことにより。アラタは一息ついた。
手に持っていたタブレットも腰にホルスターに入れ、壁に貼ってある森の中の地図とにらみっこする。
現在、ミャンマーと中国は戦争状態にあり。巨大な森を挟んで両者それぞれ攻めきれず、いわゆる泥沼のような長期的な戦争となっていた。
そこに新田良太、通称アラタが率いる傭兵隊は中国の領土拡大を心よく思わない人達の思惑と支援によりミャンマー軍に雇われている。現在の主な仕事は森の中に浸透しようとする中国軍の撃退だ。
アラタは今後の敵の予想と、その対策をある程度考えると司令室という名ばかりの小屋だけにある。パソコンの電源を入れた。
ジニ達が帰ってくるのは夜になるだろう。それまでに仕事を片付けよう。
次にアラタが顔を上げるとカーテンの無い窓は闇を映していた。
集中しすぎたと思いながら時計を確認すると、ジニ達がキャンプにつく予想時間の15分だった。
慌てて広げていた資料を片付け、部屋を飛び出すとあと5分で到着すると連絡がイルミネーターに入る。
しまった。いつももっと余裕もって迎えるのに。集中していた原因である昨日来たスポンサーからのメールを思い出し、再び囚われそうにったが、頭を切り替えジニ達を迎えることだけを考える。
部隊が帰ってくるとアラタは、出来る限り迎えの言葉をかけるように心掛けている。
教育のためだ。
山田麻耶がタイについたのは事例をもらった一週間後だった、当初の予定では翌日には出発するはずだったが、日本政府からのとある「もの」を新田に渡して欲しいと頼まれたものの、受け渡し直前になって不備が発覚。修正するのに時間がかかり予定を大幅に遅れての現地入りとなった。
初めて降り立つ国に緊張しながらゲートを潜ると、黒髪で中華系の顔立ちをした女性が声をかけてきた。
事前に連絡を受けたこの国での支援者の一人だろう。言われた通りに一目でわかる。
この国でチャイナドレスはあらゆる意味で目立つ。
「はじめまして、私の名前は
大輪の花の様な笑みを浮かべながら、リさんは手を伸ばした。
両手が大きな旅行バックで塞がっていた麻耶は、荷物を地面に下ろし手を握り返す。
「はっ初めまして、私はIS学園でIS技術教師をやっている山田麻耶です。」
「話は
着いてきて、そう言い終わる時には李さんはもう既に空港の外に向かって歩き出している。
麻耶は慌てて旅行バッグを抱えながら李さんに遅れないように、早足で歩き出した。
スリットから見える李さんの足は長く。普通に歩く李さんと速足の麻耶、歩幅の差は身長のせいだと思いたい。
フライパンの上に置かれた氷みたいに、汗が出た。
気温の違いは知識としては知っていたが、これ程とは。
空港から高架鉄道からへ、高架鉄道からホテルへ。
外を歩いたのは比較的短い距離だったが、その短い間でも熱は麻耶を別の国に来たことを認識させた。
豪華なホテルの会議室に通された麻耶は、出された冷えたお茶を飲みほし、外の暑さと、逆に肌寒さを感じる程の冷房にさらさられること10分。
李さんが入ってきた。
挨拶もまずまずに、向かい合いに座った李さんは本題を話始める。
「まず初めに謝るはごめんなさい、実はイヌワシは今ここにいないの。
本来の予定では昨日の深夜にはタイに着いているはずだったけれど、向こうで緊急の用事が入ったために出発が遅れ、今こっちに向かって来てる最中なの、到着予定時刻は昼だから
会えるのは今日の夜になるは」
緊急の用というのが気になったが、元々はこちらの側のミスで予定が急遽変わってしまったのだ。こちらが謝ることがあっても、李さんが謝るころではない。
こちらこそ、すみませんと麻耶は頭を下げる。
「それで出来た時間を使って貴方にはまず、イヌワシに直接会うよりもその仲間での一人であるシュワという人に会ってもらいたいの」
「それはどうしてですか、理由をお聞きしてもよろしいですか」
「今回、貴方の目的はイヌワシ。新田良太の人物調査だとお聞きしました。
「はい、そうですが」
「シュワという人物は私よりも付き合いが長く。また彼は私が知らないイヌワシの一面を知っているはずよ」
「李さんが知らない一面ですか」
「ええ、一面よ。イヌワシと会えばわかると思うけど、彼は非常に単純に見えて複雑。そして複雑に見えて単純なのよ。
彼の仲間に彼を
出会った印象からおとぎ話を信じるような人だと李さんを思えない麻耶は、その実在する人物を指して
だから麻耶は問うた
「その
「
会わないとわからない。そう言われた麻耶はそれ以上追及しないことにした。
その後麻耶と李は、今後のことについて話始めた。
「初めまして、シュワです。」
そういって出された手は筋肉質で、日々どれだけ体を鍛えているか一目でわかる程だった。
まさかタイで、イヌワシ以外に日本人に出会うと思っていなかった麻耶は動きを止めたが。直ぐに手を握り返し、初めまして山田麻耶です。といった。
李さんの勧めで、イヌワシの仲間に会うことになった麻耶は。彼女の部下である李晴〈リ・セイ〉の案内で、NGOのタイ支局へと足を延ばした。
NGOタイ支局では李さんから連絡を受けた男性が二名、麻耶を出迎えた。
両方ともスキンヘッドで筋肉質という点では共通していたが、シュワと名乗った男性は老い感じさせるほどには年を取っており、表情は終始笑顔だ。アロハシャツがよく似合う。
もう一人は、グラサンに黒いジャケットとまるで絵にかいたマフィアのような恰好で、
来てそうそうタイの熱に負けそうだった麻耶はその恰好で暑くないのかと思う。
「こっちの人相が悪いのは
マフィアを見ると確かに人相がわるい。
ソファに腰を掛け、お茶を一杯すすったところでシュワさんが切り出した。
「話は李さんから聞いているよ。と言ってもこっちもイヌワシの奴に特別詳しいってわけじゃないからな。」
「ですが、李さんよりも付き合いは長いと聞きましたが」
「まぁ。確かに李さんよりも付き合いは長いといえるがほんの数日分だ。
ほとんど李さん変わらねぇよ。ただ、確かに李さんと違った面のイヌワシを知ってはいる。」
「それは李さんも言っていました。私とは違う、一面をしていると。その一面とはいったい何ですか」
麻耶の問いに、シュワはちらりと麻耶を見る。
まるで観察するような視線に、何とも言えない不快感を抱く。
信用していないことがよくわかる視線だ。
「ああ、俺は仲間になる前はイヌワシと敵対していてな。その時に思ったよ。こいつはすごい奴だって」
けらけらと、可笑しそうに笑うシュワさんに、頷こうとしていた麻耶の顔が動きを止める。
敵対していた。つまりこのケラケラ笑っているこの人は傭兵部隊を率いる男と戦ったことがあるのか。
「あの、失礼ですがシュワさんは新田さんの仲間になる前は何を・・・」
シュワは横に座っている梶田の顔を見ると、やっぱり可笑しそうに笑いながら僧だよと答えた。
そう。総。僧。麻耶の眼に目の前の男性が元がつくとはいえ僧には見えない。
「まぁ。僧と言っても大きな宗教じゃないからな。有名ではあるが。ほら日本に住んでいるなら聞いたことがあるんじゃないか、***という新興宗教の名前。元々俺はそこで僧をしていたんだ。」
こいつと一緒になと、シュワは隣の梶田を肘で突く。
***。確かに麻耶は聞いたことがあったがその理由が、その新興宗教は東京でテロを起こし新聞一面を飾ったからだ。
テロの仲間がこんなところにいることに麻耶は頭を抱えた。
そんなことを気にしないかのようにケラケラ笑い続けるシュワを見て、麻耶は気持ちを入れ替え本題に戻ることにした。
「それで、一度敵対していたシュワさんに聞きたいんですが、新田良太さんはどのような人物ですか」
麻耶の雰囲気を感じ取ったのか、シュワは笑うのをやめ。観察するかのようにじっと麻耶を見つめる。
一分、二分、今までが嘘のように静かに時間がながれ。シュワが口を開いた。
「アイツはすごい奴だよ。本人は否定していたが、アイツは人間じゃない。いや確かに人間なんだが、その本質は別物だ。」
「アイツのこと、李さんはなんて言っていた。」
「
「
それは直接的なものではないが、確かに存在し。普段は見えないが、正しく使うとそれは現実を揺らすことさえ出来る力だ。」
「現実を揺らす、ですか」
「ああ、そうとしか言いようがない。アイツの履歴は呼んだんだろ。」
「はい、信じられないことが多かったですが」
「だろうな、傍から見たらまるでおとぎ話のようなもんだ。だがあれは本当にあったことで、それは奴の力のおかげだ。」
言いたいことをいいえ終えたのか、シュワは笑顔を浮かべ、ぬるくなったお茶をすすった。
お礼をいい、部屋を出ようとすると麻耶に終始黙っていた梶田が声をかけた。
「アイツとはいつ会うんだ。」
「今日の夜に会う予定ですが、それがどうしました。」
「気を付けろ。アイツにはライバルが多いからな」
何を言っているのか理解できないが、とりあえずお礼を言ってから麻耶は部屋を出た。
麻耶が新田良太の経歴を読んだとき、初めはどこかのプロパガンダかと疑った。
最終学歴は専門学校卒業で終わっているが、それから約7年間の空白期間後に就職している。
その後就職した会社が倒産。何を考えたのかネットで求人をしていた大手民間軍事会社、自由戦士社に応募する。
これがどうやら傭兵稼業の始まりの様で、その後自由戦士社で努めるも、勤務先を原住民達に襲われ、捕虜となりその後の行方がつかめなくなる。
行方が分かった時には既に独立しており、25名の部下を率いていた。
各地を転々としながらも素晴らしい戦果を挙げており、イヌワシという二つ名はこのころに着いたと思われる。
日本に一度帰国後、タイへと飛び。李さんたちのバックアップもあり、3000人という大規模な傭兵部隊となる。
その後、約三千人の指揮していた新田は、ミャンマーに雇われる形で中国とミャンマーの小競り合いに参加していた。
これには裏があり。中国の領土拡大をよしとしないミャンマー周辺国と先進国が中国への牽制的な意味で新田を支援していた。
けれど、新田は予想より遥かに高い戦果を上げ。中国はミャンマーと本格的な戦争を開始してしまう。中国軍の14万人という圧倒的な武力を恐れたミャンマー軍は新田一人を生贄として差し出そうとし。
全面的な戦争を予期していなかった支援者たちも、新田の元から去って行った。
結果、一人で中国と戦争をすることになった新田だったが、何と14万人の中国軍を相手にたった3千人で勝ってしまったのだ。
これには誰もが驚き、早々に裏切ったミャンマー軍は中国軍戦争をすることを決意し、支援者たちは再び新田の元へ集まった。
現在、新田は再びミャンマー軍に雇われる形で中国軍と泥沼の様な戦争をやっており、終わりがいつになるのか誰しも予測でなくなっている。
たった3千人で14万人の軍に勝ことがどれだけ異常なことか、IS学園に努める麻耶は知っている。だからこそ麻耶は新田の経歴が信じることが出来なかった。
シュワと話終えた麻耶は、李さんが経営するホテルへと戻った。
李さんが経営するホテルなだけに、非常に豪華であり、その一室を借りることに臆したが、これも仕事だと割り切るとそれもしなくなった。
通された部屋は、日本にある自宅よりも大きな面積があり豪華の一言である。
持ってきた資料と、先ほどあった李さんとシュワさんの会話から新田良太の人物調査の書類を製作すると、新田良太と出会うまでまだ時間があるために、少し休むことにした。
それから李さんから連絡が入るまでの時間、普段なら使うことがない豪華ホテル特有の施設を堪能した麻耶は、李さんとの待ち合わせ場所までリラックスしていった。
待ち合わせ場所は、李さんと会話した会議しつであり、麻耶がつくころには李さんは既に席に座って待っていた。
李さんとともに待つこと10分、会議室のドアがノックされた。
読んでください、ありがとうございます。
次は13日に投稿する予定です。