【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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01 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

「失礼いたします、アインズ様」

 

 ナザリック地下大墳墓、第九層。ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点。ギルド長“モモンガ”はほんの数時間前に自らの名をギルド名に変えたことをシモベ達へ周知し、守護者統括の役職を持つアルベドにこれまでまとめた情報を改めて報告されている時で、あまりにも突然のことだった。

 

「セバス、下がりなさい。今はアインズ様とナザリックの今後に関する大事な━━」

「よいアルベド。セバスとてそれは知っている、それでもここまで来たのならよほどの急務だろう」

 守護者統括“アルベド”は楚々とした態度を崩さず厳しい言葉を飛ばすが、アインズの言葉に渋々と下がった。

 かく言うアインズも遅れてやってきた青春とも言って良いネットゲームのサービス終了時に、突然異世界に渡ったわ、同時に愛するギルドメンバーが創造したNPC(Non Player Character)たちが突然意志を持って動き出すわ、自分もゲームのアバターである異形種族の死の支配者(オーバーロード)になるわ、とトラブルが重なり「何があったし」という疑問と「また面倒事かよ」という疲弊する精神を端に避け冷静に報告を待つ。

 事務的なやりとりすら、愛する人と睦言を交わす逢瀬のような時間を楽しんでいたアルベドは、アインズの言葉で守護者統括に相応しい表情のまま、鷹のような鋭い目をした老執事“セバス・チャン”を促す。

「はい。第5階層にて燃え盛る七色の炎の渦を確認しました」

「何!?」

 侵入者という発想に思わず立ち上がりそうになるが驚愕の発露は瞬間にして霧散する。

 種族“死の支配者”が属するアンデッド系モンスターのスキル〈精神作用無効〉だとアインズが考える効果のおかげで、彼の大きな感情は抑制され予想外の事態にも比較的平静を装うことができた。

 そして、その恩恵でセバスの言葉の違和感に気づくほどの冷静さを取り戻す。

「すぐに排除しなさい」

「待て、セバスまだ報告には続きがあるのではないか?」

 冷酷なほど事務的なアルベドと止め、セバスに続きを促す。

「はい、アインズ様の指示通り、厳重な警戒を行っていたシモベからの報告によると、接近を試みたシモベが炎の渦を守るように7体の異形種と遭遇。

 主の眠りを妨げることを良しとしない発言をしたと……。そして、接近したシモベが……至高の御方の気配を微かに感じたとのことです」

 鷹のような鋭い眼光宿る双眸を逸らすことなく報告するセバス。

 

七色の炎、7体の異形、そして至高の御方というワードから急速に答えが手繰り寄ってくる。

「……“炎ぺらー”さん!アルベド、ナザリックの警戒レベルを最大まで引き上げろ。私は第5階層に行き、確認する」

「しかしアインズ様、その間の御身の安全に問題があります」

「セバスとコキュートスをそばに控えさせる。アルベドはデミウルゴスと共にナザリック内で他の異常がないか確認せよ」

「……畏まりました」

 食い下がろうと逡巡したアルベドは自分が付いていくだけの理由をでっち上げられず素直に上意を請ける。

「往くぞセバス」

「畏まりました」

 

━━━━━━

 

「コレハアインズ様」

「よい、それよりも状況は?」

 第5層大白球までセバスと転移すると、すぐに気がついたコキュートスと配下の雪女郎(フロストヴァージン)たちが跪こうとしたのを制するアインズ。

 視界の端には地下墳墓とは思えぬ広大な“敷地(マップ)”を持つ一階層の天井までゆうに届く火柱が立っている。

「ハイ、依然トシテ動キハアリマセン」

 幾つか報告されるがセバスからの報告と大差はないことで安心と不安の種が少しばかし大きくなるアインズ。

「わかった。では私はこれから渦に近づく。コキュートスとセバスは私の護衛を務めよ、ただし私の指示があるまで敵対行動を行うな」

「畏まりました」

「畏マリマシタ」

 

(もしもあの炎が炎ぺらーさんのものだったら、火属性への耐性は意味をなさない)

 

 空間を隔絶する能力は多岐にわたり、炎のエフェクト(見た目)をしたスキルや魔法には〈ゲヘナの炎〉など候補は挙がるが、炎ぺらーは取得していないとアインズは知っている。

 他にも覚えている限りあのようなものがないことを内心で苦々しく感じ、改めてこの世界に来たことで様相の変わった能力(チカラ)へ警戒心を露わにしながらも考えることを止めない。

 今のナザリックで奇行に走る友人の意図が読めないアインズは短いながらも今回の件について持てる全ての知識━━PvPのノウハウや把握している炎ぺらーのスキル、魔法、プレイスタイル、性格に至るまで━━全てを動員し熟考する。

(炎ぺらーさんは確かに放火魔みたいなことをするけど常識人。基本的にはノリでアホなことに()()()()()()()()人だけど、俺なんかより頭も良い。それに弱体化するものはあっても暴走を起こすようなスキルもないはず━━━━)

「アインズ様ソロソロ彼女達ガ現レルヤモ知レマセン」

 コキュートスの言葉に思考を隅に寄せ、炎ぺらーというキャラに()()するだろう“彼女達”を待つため、警戒しながら足を進める。

 

 さらに近づくと、突然目の前に七色の炎が上がる。

 炎の魔物としか形容できない恐ろしい気配にシモベ達は咄嗟に前へ出ようとするがアインズが手で制し動きを止めた。

 

 轟々と燃え猛る炎の魔物は勢いを変えないまま小さく圧縮させ、残り火を残滓の如く振り払い、しっかりとした足取りで近づいてくる。

 近付いてきたことでその姿がはっきりと輪郭を持つ。

 

「ここより先は」

 黒いマントをたなびかせる少女を先頭に、

 

「我々、魔燒(ましょう)の主」

 “青い業火”を迸る長い髪の少女が、

 

「炎ぺらー様が寝てるの」

 “黒い烈火”を纏う金髪の少女が、

 

「僕たちとしても君たちに危害を加える気は無いよ」

 “無色の浄火”を滾らせるボーイッシュな少女が、

 

「お願いですから時が来るまでそっとしておいてください」

 “白銀の怪火”を吐息のように漏らすローブを纏った少女が、

 

「ただ、主の眠りを妨げるのでしたら」

 “虹色の爆炎”を振りまくにこやかな女性が、

 

「「シモベでもヨーシャしないよー」」

 “藍色と黄色の灯火”を揺らめかせた仲良く手を繋ぐ瓜二つな双子が、

 

 目の前に現れた。

 

「……久しぶりだな“()()”よ」

「お久しぶりです、“()()()()”様」

 マントを羽織る少女が一歩前に出て恭しくお辞儀をする。それに合わせ後ろの7人も続く。

 アインズは自分を知っている(覚えている)か不安な部分が大きかったが彼女たちが炎ぺらーの名前を呼び、強い警戒心を抱いていることを察して、営業職の勘を信じなるべく穏やかな口調を作り知人として振る舞う。

 最初の掴みに悪印象を感じなかったアインズは安堵したが、捨てた直後に()()を呼ばれて心になんとも言えない違和感を覚える。もっとも自身の名前なんてこの事態を前にすれば努めて無視できる事だと思考にすら乗せずにできたのも大きいだろう。

「確認するがあの渦の向こうに“炎ぺらー”さんは居るのか?」

「はい。ですが……」

 警戒心以外で表情を変える少女の顔はお世辞にも吉報でないことを伺えるアインズは無い眉を顰める。

「我々が目覚めた時には既に意識が無く、猛る業焔の欠片すらも……」

「会わせてもらえないだろうか?」

 背後に控えるセバスとコキュートスがなぜ配下のモノに願う形なのか疑問を感じるが言葉には出さない。

「我が主、炎ぺらー様の朋友にして所属されたギルドの長であれば構いません……ですが」

 先ほどまで見せた少女としての表情がなりを潜めギロリとアインズの背後を睨む。

 溶鉱炉の火すら生ぬるい剛炎のゆらめきを放つ眼光……否、眼窩に納まる邪炎の眼球が彼女達も異形種であることを再認識させられる。

 

 しかし、その気配も突然と晴れる炎の渦と共に霧散した。

 

「炎ぺらーさん!」

「「「「「「「「炎ぺらー様!」」」」」」」」

「「アインズ様!」」

 

 慌てて全員が顕となった中央を目指す。駆け出す後ろ姿は部下も上司も変わらない。

 

 雪原に横たわる人型、属性を示す自然現象を纏わず光を濁して透過する灰色の結晶。それが精霊(エレメンタル)系に属する異形種の死亡状態と酷似し、絶望、悲観、呆然……様々な感情がないまぜに爆発するも精神抑制の働きで沈静した。

 しかし、燻るような焦りは消えずすぐさま近寄り上半身を起こす。

 体格だけなら守護者であるアウラやマーレよりひと回り大きいくらいのそれは、紛れもなく再び会うことを心の底から願った友人の姿(アバター)

「炎ぺらーさん!起きてください!ようやく会えたんです、私を……()()()()()()()()()()()()()()

 軽く揺すり、肩を叩く。リアルで高等な教育を受けたことのない“モモンガ”の精一杯の看護。

「炎ぺらーさん!」

 こんな形でしか再会できないなら、会いたいとは願わなかった。だがそれでも、会えたのならまた話したい、語らいたい、……()()()()()()()()

「う、うぅ……」

「炎ぺらーさん!?」

「……ぉ、モモンガさん?ここはユグドラシル?はは、オレ……死んでも見る夢はユグドラシルか……やっぱ、大好きなんだ()……」

「夢じゃないです!炎ぺらーさんは生きてます!」

 なぜ友人が突然、自分が死んだような発言をするのか不思議でならないが、今大切なのは寝惚けて意識のはっきりしない友人にこの状況が現実であることを認識させなければならない。

「え、嘘だー。一瞬前まで火だるまだったんで()よ?しかもリアルで、……ログインもできる状況じゃないで()し」

「本当なんです!起きてください!」

肩を叩く力を強めて、少しでも覚醒を促せるようにしながら声をかけるアインズ。

「…………ぉお?」

 結晶の奥、人でいう目のあたりが大きく揺らめき、双眸を瞬きするような火が灯る。

 同時に胸の部分からも火が猛り出て徐々に全身を満たし、あっという間に外へと溢れ真っ赤な炎は煌々と燃え猛る青の炎へと変わっていく。

 抱き抱えた結晶が瞬時に完全燃焼を示す青焔の塊と化したのだが、そのまま触れていたアインズはもちろん━━

「あっづぅううう!?炎ダメ(ダメージ)めっちゃあっづぅ!」

 ━━慌てて友人を放り投げる。

「あだっ、放り投げる事ねーで()()、モモンガさん!それ以前にフレンドリィ……」

 投げ捨てられ怒り心頭の炎ぺらーはモモンガを指さし抗議しようとして自らの煌々と燃える青焔に包まれた腕に気付く。

「燃えてるぅうう!!!???」

 鎮火させたいのか雪原を叩くが、その度に地震が起きたかのように地面が揺れる。

 ロールプレイ寄り……と言うかテーマに特化したキャラビルドとはいえ、取得した種族と職業の合計がレベル100(カンスト)に到達して得たアバターのステータスは決して低くない。むしろ筋力はモモンガよりも高い。

 故に断続的な地揺れで周囲の雪が音を立てて跳ね、溢れる青焔に触れた雪は瞬時に昇華しモヤを作る。

「炎ぺらーさん!《灼熱の鎧(ヒートテクト)》のカットを!」

「んな話してる場合じゃないでショ!現在進行形で燃えてるんでスよ!?」

「とにかく、今は俺の話を信じて念じてください!」

「ええい、ままよ!止まレぇえええ!」

 モヤの中でへっぴり腰で両手を突き出す炎ぺらーはみっともない姿を作るだけの事はあったのか、身に纏う青焔は結晶内に収まった。

「「アインズ様!」」

 あまりに取り乱す至高の御方に放心していたシモベたちはようやく復活。

 セバスは至高の御方々に決して当たらぬように、同時に周りのシモベにも被害が出ないように全力で制御した発剄によりモヤを吹き飛ばす。

 

「と、止まった……?」

 晴れた中にはへっぴり腰の炎ぺらーと少しばかし煤で汚れたアインズ。

「ご無事でs『炎ぺらー様!!!!!!』ガブリンチョッ!?」

 主人の無事を確認しようとした執事(バトラー)淑女たち(ガールズアンドレディ)に吹き飛ばされ、雪原へと埋もれる。

 そんなことを気にも留めず8人の女性は自らの造物主である主人に万感の想いを込めて飛びつく。

「どわふぅ!?」

 踏ん張りの利かない炎ぺらーは筋力対抗することも出来ず雪原に押し倒される。

「会いたかったです炎ぺらー様!」

「この日をどれだけ待ったか!」

「二度と離れたら嫌なの!」

「本当に心配したんですからね!」

「ずっとお側にいさせてくださいぃ!」

「隣に……ただ隣に!」

「「うわぁああん!」」

 強者たる気配を放っていた魔燒と呼ばれた存在はただの美女(と美少女)集団と化して炎ぺらーに抱きつき想いの丈をぶつける。

 二転三転とする場面についていくことができず、大勢の美(少)女に抱きつかれた友人をどうするべきかも不明で内心あたふたしていたアインズ。

「大丈夫かセバス?」

「こ、これは申し訳ありませんアインズ様!」

「良い、ああなった女性は早々に止められないだろう」

「たしかに……その通りでございます」

(え、その通りだったの?)

 蚊帳の外なのはハッキリしたため、セバスを引き上げながら彼女たちへの反応を観察するアインズ。

 なお、未使用のままなくした相棒が居た彼は、セバスが納得したことに驚きを隠せない模様。

「ちょっ、た、助けてぇモモンガさん!おっぱいで窒息すルよォ!」

微かに見える結晶でできた手が見えるもスルーを決め込むアインズ。

 

 だが、アインズに表情筋があればその顔は喜色に染まっていることに周りのものは気づくことができただろう。

 

 

 




書き貯めたものを放出していきます。
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