09 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
「炎ぺらーさん、二日続けて叱られてる理由わかります?」
「分からないっス、キリッ」
「テメーこの野郎!ナーベラルほっぽって何幼女と乳繰りあってんじゃ!?」
「失礼ッス!乳繰りあってたんじゃない、営業スよ!ついでにツバをつけてただけっスね!」
「手を出すなと言ってんじゃバカモンがァ!」
━━━━━━
「それで、ホントのところはどういう意図があったんですか?」
散々口撃の撃ち合いを楽しんだ炎ぺらーとモモンガは椅子に座り直し顔を突き合わせる。
「プリュムちゃん……あーっと、オレがエクスフィア渡した子の妹さんが焼きカーラーンの首飾りをしてたんスよ」
「カーラーン!?」
思わず立ち上がるモモンガを宥めて、続きを話し出す炎ぺらー。
「モモンガさんの考えた通り、そのカーラーンっスね。伝説の木材シリーズの中で最高の火耐性を持つ、〈焼木カーラーン〉っス」
伝説の木材シリーズ。ユグドラシルに存在した伝説の素材系でもっともポピュラーかつマイノリティー街道を行くこととなった不遇の素材系統。
入手難易度は伝説の鉱石シリーズに比べ簡単故に持っているプレイヤーは数知れないが、その扱いは残念の一言。
木材シリーズは総じて原木、または一次加工の状態では火耐性が低く、第5階位魔法以上の魔力系火属性魔法を覚えていると燃えてしまい、採集できないというのが発覚してからは産廃の代名詞となってしまったほど。
しかし、それは違うと認識しているプレイヤーはかつてのギルド“アインズ・ウール・ゴウン”を含め三桁に届かない人数程度だろう。
そうでなければもっと、レートが高く扱われているはずなのだ。
伝説の素材は総じて特殊な工程や別の素材、またはその両方を加えることで飛躍的に素材の能力を引き出す。引き出さなくても一定以上の性能を誇るのは伝説の鉱物シリーズだけ。
例えばカーラーンであれば、原木の状態で工房レベル7の炉で6時間焼いて、第5階位の信仰系強化魔法をかけると素材名が〈焼木カーラーン〉となる。
仮にこの素材で武器を作れば、ヒヒイロカネの鎧すら意味をなさない攻撃力を持つものができるほど。
そして防具に使われた際の火耐性が高いため、炎ぺらーとの相性がすこぶる悪い。いくら、廃課金の廃プレイヤーとはいえ、ゲームに定められたルールを逸脱することは無く、対策を練らなければ不利になってしまう。
炎ぺらーにとって火属性が効かない相手は、それこそ手足を縛られた状態で戦わされるのとほぼ変わらない。
普通のプレイヤーなら他の魔法を覚える。例えばモモンガであれば、《
しかし、炎ぺらーはそんなもの知ったことかとひたすら火属性の魔法を修得し続けた。
結果的にそれゆえの特典はあったが釣り合っているかは本人のみぞ知る。
閑話休題。
つまるところ焼木カーラーンがもしこの世界で普及しているのであれば炎ぺらーはその能力の大半を封じられた役立たずになりさがるだろう。
「彼女の家に原木があるのも確認しましたシ、話によればご先祖さまから受け継いだものらしいので育てば切れるようになるかナァと」
「だからってエクスフィアを渡したのは危険では?」
「まあ、危ないっちゃあ危ないですが」
エクスフィア。炎ぺらーが少女たちに説明した通り、装備者のステータスを向上させるアイテムだ。
だが、炎ぺらーはもっとも重要である
通常、アイテムを装備して上がる数値は固定値だったり、倍率分だったりする。
例えば、筋力値を10上昇、耐久を20%上昇などだ。
魔法でも《
であれば、エクスフィアは一体どういった系統のアイテムかと言うと、“レベル”を上昇させるアイテムだ。
エクスフィアのレア度によって上がるレベルが変わり最大10。上位アイテムの〈クルシスの輝石〉であれば最大15上昇する。
しかも、この上昇するレベルは異形種を取得した扱いになり、装備し続けると外見も含め人型の異形〈
異形種は種族の基本能力が高く設定されている。
例えばモモンガは魔力系魔法詠唱者の職業レベルと〈
だがそれ以外、例えば筋力は30レベル戦士職と同等程度の数値を持つ。
とはいえ、ステータスが多少あっても戦士系職業を取得していないモモンガでは、戦士職が覚えるスキルを持ち合わせていないため、30レベルの戦士として活躍できない。
それ以前にユグドラシルではレベル差が10もあればまともにやり合うのすら難しいゲームバランスだった。
そして、モモンガが前に出るより“死の騎士”を召喚して、壁にした状態で魔法をブッパした方が効率が良い、という結論に至る。
せいぜい、自分たちが使わなくなって久しいレベル帯の狩場に気分転換で遊びに行く時にしか役に立たない性能である。
まあ、
閑話休題。
話を戻せば、つまるところ炎ぺらーが扮するレイが少女たちに説明した事はほとんどデマカセである。詐欺でももう少し正鵠を射るもの。
炎ぺらーを含む、アインズ・ウール・ゴウンではレベルアップによるステータスの強化だけなら、他の職業や異形種のレベルを取得した方が良いとされたからだ。
エクスフィアの実験は既に凍結されている。登場当時は珍しいレベル底上げ系のアイテムとして注目された故、躍起になって実験を繰り返したが、結果は元々異形種である自分たちには無理して組み込むほど旨みのあるものでは無いという結論に至った。その時に検証がある程度済まされたため、今は見向きもされないアイテムである。
炎ぺらーの言った毒素というのも正確ではない。
確かにエクスフィアを装備し続けることで姿も異形となるが、テキストには「装備者の負の感情を糧に成長する無機生命。体内のマナバランスを崩し無機生命体に変貌させる」というものが記されているだけだ。
もっとも異形種としての見た目も、変色した肌とのっぺりとした頭に一ツ目が浮かぶ巨人は見た目だけでも“吸血鬼”系にも匹敵する不気味さがある。
マイナーながらにグロさで非公式の嫌われモンスターランキングの上位に食い込むほど。
「危険でもまだマシな危険ですし。それにほら、レベルアップ系の装備をこっちの人が装備して大丈夫なのかの実験になるじゃないでスか」
「炎ぺらーさん……」
サラッと言われた一言にモモンガは驚きを隠せない。
「あ、ちゃんと自分が人外になってるのは理解してやってまスよ。そりゃあ、他の人を今までと同じに見れなくなったのには思うところはあるっスけど、それはそれ。まぁ、これでなんか問題あれば村との関係に亀裂とか入りそうですけど、そこも含めて色々措置するっス」
漠然と抱いた違和感にモモンガは一瞬首を傾げる。
「具体的には?」
「全部焼いちゃえばええンや」
「おい」
この着火マン、それが目的か。相変わらず、毒にも薬にもならない相手なら焼いてもいいと考えてるのか、とモモンガは呆れる。
今回に関しては一応薬になる可能性の方が高いということを忘れているのか?と疑うも、ある意味最も
「それは冗談として、多分問題ないんじゃないでスかね」
「根拠は?」
「彼女たちは恩で縛ってる。この時点でこちらを疑うことはまず無いっス」
「それだけでは不十分でしょ」
指を一本立てて振る炎ぺらーにモモンガは先を促す。
「二つ目、彼女はアレをそもそも手放さない。あれは彼女達の目標に対する不可欠なファクター、手放せばもう一度逆戻りになるのが見えててやるのは愚か者以下でス」
仮に売却されてお金に変換されても、彼女たちが街で暮らさない限り無用の長物。要らんものを手に入れるだけにそんな手間はかけない。
そんなことするなら、こちらも相応にするだけっス。と言い切る炎ぺらーにモモンガは(こいつ、自分はただの作業員だとか言ってたけど経営者側の人間なのでは?)とか考えるが、(あ、だから謀殺されたのか)と彼の死因の根幹に触れたような気がして思考をボッシュートした。
「三つ目、それこそ恩を仇で返すなら行いの咎は受けてもらうだけっス」
クズ紙を丸めるように立てた三本の指を逆の掌で折りたたむ。
「あとは幼女ちゃんたちが思った以上に可愛かった」
「
ここまでシリアスに作った顔?で聞いていたモモンガは知っている。炎ぺらーは割とこういう自分の好み、相手の美醜や自分の矜恃で突飛なことをする。
かつてこんなことがあった。
ギルド最盛期、突然サーバーを移動した炎ぺらーを心配して追いかけた先で見たのは少女のNPCを侍らしてグヘグヘ言っている姿。
あまりの行動に一部ギルメンから「うらやましぃ!俺もペったん少女hshsしたい!」「これだからブルジョワジーは……」「正義降臨!」とのコメントをもらうが仕方ないね。
後に炎ぺらーが連れ帰ったNPCは人間職限定の超強力職業への転職に必要なNPCだということが判明しててんやわんや。
なお、少女だと思っていたNPCは女装少年だと判明し、さらなる物議を醸し出した。
閑話休題。
「モモンガさんは難しく考えすぎなんスよ。もっと自分本位で感じたまま行動すれば良いんじゃないスか」
「いやいや、そういう問題じゃないでしょ!?」
「そういう問題っスよ」
おどけてみせる炎ぺらーに頭を痛めるモモンガ。
「モモンガさん明日には街に出るじゃないですか、目的は冒険者やりながら情報収集と外貨獲得を兼ねた息抜きでショ?そうすると否応なく人と関わるんでスよ。しかも、色々な人が色々な思惑で動き回るんでスからね?」
なら気遣いしいなのもいいですが気晴らしにも頭を割かないと、とメイドに用意させていた紅茶に口をつける炎ぺらー。
「モモンガさんの性格上、全く周りを気遣わないってのが無理なのは重々承知っス。だからこそ、羽を伸ばす時まで背負い込む必要は無いんスよ」
まあ、人と関わる仕事が息抜きになるかはモモンガさん次第っスけどねー。と空になったカップの取っ手に指をひっかけて揺らす炎ぺらーにモモンガがこわばった肩を解れるような気分を味わいながらソファに深く座り込む。
(そうだよな、これから行くところは俺にとって未知であるけど人の営みがある街なんだ。ならヘタに気を張っても疲れるだけなんだから、観光気分でもいいんだ。……リアルで観光とかしたことないけど)
そこまで自分の中で区切りをつけたモモンガははたと思い出す。
「炎ぺらーさん、結局どうするんですか?」
「なにがっスか?」
「外に出るって話、ですよ。一緒に旅してくれるんですよね?」
そもそもとしてカルネ村への訪問は外の雰囲気を味わうのが目的で、支援物資を持って行ったのはついでで、エクスフィアの件はハプニングの部類である。
あわよくば、外の世界に興味を持ってもらい“
「あー、うん、何度も言うけど冒険者は無いッスね」
「なんでぇ!?」
「だって、ねぇ……ただの傭兵っスよ?めんどいめんどい」
「でも冒険者ですよ、ダンジョン
「無理無理、普通に考えてそうダンジョンなんかがポンポンできるわけないっスよ」
ゲームじゃないんだシ、とケラケラ笑う炎ぺらーに(俺らの現状がゲームよりも珍しい状態なんですけど)と思うがモモンガもそこまで期待していた訳では無い。
モモンガも外での活動に向け、最初に外貨獲得ができる仕事を考えた。
考えた上での候補は公人を含む務め人、商人、冒険者である。
務め人はリアルを思い出すためモモンガ的にも乗り気ではないし、まずそういったものは安定性は高いが実入りは少なく、ある程度身元保証がなければなることはできないだろう。
商人は務め人に比べれば間口は広いだろうが売れるとは限らないし、売るものの選定に時間がかかる。何より収入が安定するとは限らない。炎ぺらーの指摘でユグドラシルで低位のアイテムだったものもこちらではかなりの価値が見出されているため、市場が荒れることが予想できて候補から外れることとなった。
加えて言えば商人系の職業を持っていないモモンガでは多少とはいえ利率が下がるのはもったいない精神も働いて適材を探す方に気が行ってしまう。
となると、冒険者というのは適しているのではとモモンガは考える。
力こそ全て、とまでは言わないがそれでも力に一定の信用と信頼を置かれるから身元不明でもある程度の名声も得られる。且つ上位のランクに至れば高額の報酬とたくさんの情報が入ってくる。
長く街に住めば他にも候補は挙がるだろうが、現状では冒険者が有力候補であるだろう。
よほどの失態を犯さなければ、街の情報や状況次第で別の職業に転職というのもありだろうと夢がひろがりんぐなモモンガ。
なにより冒険者という響きが良い。ユグドラシルプレイヤーたるもの、未知を既知に変えていくのは大変魅力的だ。
傍から見ている炎ぺらーはモモンガのはしゃぎっぷりとそこまで誘われて断るのにも微かな罪悪感を感じつつも脳裏に過ぎるは守護者統括の怒り狂う表情。
(これでオレも冒険者やる〜なんて言ったらアルベドガン切れするナ。「てめぇやっぱりモモンガ様に取り入るだけの能無しかぁ!」とキレる姿が目に浮かぶ浮かぶ)
炎ぺらー、正解!ついでに言えば、
だからこそ、炎ぺらーはこう答えた。
「予定通り、オレは━━━━」