【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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10 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

 エ・ランテル、“黄金の輝き亭”。街で最も栄えた料理店であり、煌びやかな宿。

 席もほぼ埋まる盛況ぶり、そこかしこで静かに、しかし熱の帯びた歓談が響く━━

「こんな料理食べられたものじゃないわ!」

 ━━のだが、今日は少々様子が違う。

 甲高い女の声に眉をひそめた客が睨もうと目を向けた瞬間、自身の鼓動が一際高鳴るのを感じとった。

 その姿はまさに宝石。

 やや暗めの色調でまとめられたドレスは金属でできているのかと思わせるほど艶やかな光沢があり、見たことも無い上質な生地が使わているのが伝わる。

 細やかな刺繍と袖や裾に盛り込まれた小さなフリルだけのシンプルさではあるが、それ故に仕立ての良さが最大限に引き出されたまさに職人芸。

 過度な装飾では至れない清廉さと宝石の山すら見劣りする絢爛さを兼ね備えている、美しいものを形にしたとしか形容できないドレス。

 そんな一式でどれほどの値がかかっているのか想像に難しい逸品。それだけでも目を引くのに、着る人物もまた決して服に負けない美貌の女。

 金髪碧眼ならエ・ランテル、ひいてはリ・エスティーゼ王国でも一般的な容姿だ。だが、その髪は金糸のような美しく、瞳は深くも鮮やかな碧。

 噂に聞く“黄金”と名高き第3王女に匹敵する美貌を備えているのだろうと見る者に思わせる説得力がある。

 そんな女性が声を荒らげ、厳しく躾られたのだろう指先まで礼節が染み込んだ所作からは隠せぬほど不満が溢れ出し、長い金の髪を不快げに揺らして美しい顔を歪めた。

「お嬢様……」

 眉をひそめながら見ていた周りの人たちに届いた静かな声で、景観に溶け込んでいた青年の存在に気が付く。

 気が付いた人間はもう一度目を奪われた。

 詰襟の南方の服(スーツ)に輝く金属製のボタンには一つ一つ彫刻が彫られていて、たまたま席の近かった金物に造詣の深い商人は細工の細やかさと()()()()()()()()()()()()()()()()に気付いて飲みかけのスープが空いた口からこぼれる。

 女の服同様、彼の服装もまた輝いて見える見事な仕立ての服で、あれ程の服装を従者も纏えるならさぞや富んだ家なのだと想像が容易い。

「オーガミ、すぐにこの町を発ちます。準備をさせなさい」

「もう日も暮れますが?」

「二度は言いません」

「……かしこまりました」

 食事の味がよほど不満だったのだろう眉を吊り上げながら口元を拭いて席を立ち上がる。

 上階にある部屋へ続く階段を登って行く途中、すれ違う自分の老執事すら目もくれず、苛立たしげに表情を歪めたまま奥へと消えていった。

 残ったのは美女とは言え、女の癇癪にあてられ冷めきった空気のみ。

「どうかしましたか、オーガミ?」

「……執事長。実は━━」

 美女を追って階段に近づいた青年が耳打ちをすると老執事は鷹のような目を細め頷き返す。

「お嬢様をよろしく。……大変失礼しました、お詫びとして本日は我らがお代を払わせていただきます」

 老執事の言葉に冷めた空気も幾分か戻り、青年は階段を登り老執事は隅で食事をしていた服に着られているとしか見えない男へ話しかけたことで場の空気は完全に戻った。

 黄金の輝き亭、その佇まいに違わぬ料金設定のため専ら近隣の貴族や街の有力者が通う都市一番の宿兼食事処。

 

━━━━━━

 

「あとは竿を上げるだけ、あっさり食いつくものだな」

 街道なのだろうが舗装もままならぬ道を馬車は駆ける。

 値段が高い部類の割に、造りがお粗末なのか時折乗客に道の悪さを伝えた。

「至高の御方の深謀を前に愚かな人間共では逃れることなんてできないでありんす」

「シャルティア様の言う通りにございます」

「はい、私もそのように考えております」

 何気なく青年が漏らした言葉を対面に座る━━ナザリック地下大墳墓第一・第二・第三階層守護者で《真祖(トゥルーヴァンパイア)》の━━シャルティアが答え、先ほどヒステリックな不満を全方位ぶちまけていたとは思えない美女、戦闘メイド集団“プレアデス”のひとり“ソリュシャン・イプシロン”と執事長(セバス・チャン)が同調し、レイから最も遠い窓際に立つ吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)も大きく頷く。

 四人がかけられるだろう席を占有する青年はどう言い含めるか考えながら膝の上に乗った金毛の塊を撫でるが、その様子を羨ましそうに眺められてるのに気付き手を止める。

「あー、その信頼はありがたいが()、今回のようにことを運べるとは思わない方がいい()。常に相手が自分たちよりも強者や知恵者であることを想定して動くん()。罠をくぐり抜けて自分の首を落としにくる、そのくらい慎重に物事を考えなければ、油断と変わらん」

 黄金の林檎亭でのやりとりと同じ格好でありながら、馬車の座り方だけで本来の立場が丸わかりだが青年こと、オーガミに扮する炎ぺらーはどう言葉で言い含めれば彼らにわかりやすいかを考えて伝える。

『御意!(でありんす!)』

 素直な返事に心地よいものを感じる炎ぺらーであるが、(あ、これ絶対わかってないやつダ)と背もたれに体重全て投げ出したくなるのを我慢して辟易するのであった。

「それで、あとどれ位なんだ?」

「まだ街道から逸れ始めたばかりのようで、これから彼らのアジト近くまで行くようです」

 盗賊系職業を取得する不定形の粘体(ショゴス)のソリュシャンは片目を手で覆い、外で御者を務める━━セバスが話しかけていた服に着られているとしか言えない━━男の様子を監視しながら外の様子を伝えた。

「とするとまだ時間はあるか」

 どの程度の場所にあるか不明だが、街から出てすぐの所にアジトを構えるほど愚かではないだろうことを考えると時間を余らせてしまう。

「それじゃあ、昔話でもするか。なにかリクエストはある?」

『っ!!?』

 馬車に乗ったままではさすがに夜空を呑気に眺めるわけにもいかないし、何より自分が喋らないと場が持たないな、と察した炎ぺらーは記憶の戸棚を眺めながら話しかける。

 しかし、その一言はシモべたちに衝撃を与えた。

 

━━至高の御方の話を直接聞かせていただけるだけでなく、望んだ話題までしていただける?

 

 ここが楽園か……、今日この時この場に集えたシモベはそれだけで全身を快楽が駆け巡る。

「はい!ペロロンチーノ様のお話が聞きたいです!」

「なっ、シャルティア様ずるいのでは!?でしたらヘロヘロ様の話をお聞かせ願います!」

「それならば私はたっち・みー様のお話が聞きとうございます」

 まるで早押しクイズのように主張を続けるシモベたちが甥や姪が遊んでとせがまれたときの光景とダブる炎ぺらー。

「それなら、あの話だな。題するなら【ドキッ!ポロリもあった“覗き大戦(ピーピングウォー)”】」

 

━━━━━━

 

「なんとそのような戦いが……」

「ヘロヘロ様……」

「ペロロンチーノさまぁ……ズビズビ」

(ええぇ……)

 思った以上、否予想斜め上を行くシモべの反応に驚く炎ぺらー。

 彼が話した内容を端的に言えば『運営が用意した旅館風ダンジョンを使ったイベントで、ペロロンチーノを筆頭に珍しくノリノリで参加したヘロヘロが攻略しようとして、たっち・みー相手にガチバトルを仕掛けた』というものである。ちなみに本当に……本当に珍しく炎ぺらーの立ち位置はたっち・みー側で、話を聞いたウルベルトにはたっち・みーを背中から裏切(アゾ)ろうとしてるのでは、と疑いをかけられたほど。

 ついでに言うとヘロヘロが乗り気だったのは彼が【覗きもの】を好んでいたからだ。仕方ないネ。

 話の余韻に浸かったシモベたちも大きく揺れて止まった馬車に真顔となる。

「っと、時間もちょうどよかったみたいだ()。そら、起きろ」

「んー、せっかくイー感じに寝てたのに空気が読めないカトーセーブツなの」

 膝の上で寝ていた金毛の塊、金髪の少女で魔燒のひとり〈辺獄烈火のベル〉が膝から起き上がり、飛びかかる寸前の猫のような姿勢で伸びをする。十代半ばのような外見でありながら、レア素材“極・一撃熊”の革を使った仕立ての良いレザーコートの上からでもわかる発育の良い肢体に成るたわわな果実が揺れてるのを見て、シャルティアは炎ぺらーから見えない角度で白目を向いた。

「もう十分堪能しただ()、引っ込んでろ引っ込んでろ」

「はーい」

 ベルは手のひらに乗るサイズの黒い炎となって、炎ぺらーへと吸収された。

 ほどなく乱雑に扉を叩かれ、出てこいと催促する怒声が響き、青年の姿の奥に蒼く揺らめく大火を幻視するような邪悪に満ちた笑顔の炎ぺらー。

 

「それじゃあ、諸君。“狩り”の時間だ」

 

━━━━━━

 

 彼らは傭兵団とは名ばかりの野盗集団だった。

 ただ奪い、ただ犯し、そしてなにも生み出さない。

 今日とて、街に潜ませた仲間のザックが釣り上げた金持ちの令嬢だという大変見目麗しい金髪の美女を攫い、身ぐるみ剥いで金をいただくついでに美味しく食ってやろうと下卑た考えを巡らせていた。

 相手は疑いもせず、まんまと引っかかったのを聞いて『なんと頭の良くない人たちだ』『自分たちがどれほど愚かなのか、これから俺らがたっぷり体に教えてやろう』『だがしかし、男は死ね』と下卑た笑みを浮かべる。

 予定よりも早く動き出し、全員というわけにはいかなかったがこの人数を前にすれば関係ないだろう。

 

 そう、そう思っていた。この目の前の光景を見るまでは……否、見ても信じることができなかった。

 

 事前に細工を施し、片側の扉を開かないようにした馬車。唯一出入りのできる扉の前へ━━彼らにとっては必勝の━━布陣を敷き、万全を期した体勢で迎え撃つ。

 野盗の中でも気の早い何人かがつまみ食いでも狙っているのか扉の前に集まり、武器片手にがなり声を上げている。

 扉が開き最初に出てきたのは豪華なドレスに身を包んだ━━少女と言っていい年頃の━━銀髪の女で、困惑が広がった。

 金髪の美女じゃねえのか、なかなかでけー乳してるな、揉み甲斐のありそうで楽しみだ、へへっおりゃァあのくれぇの小娘犯すのが最高に好きなんだよ、などのなぜ話と違う少女が居るかなど疑問にも思わず下世話な話が飛び交う。

 この場でそれに疑問を抱いたのは離れて荒くれどもを束ねていた仕切り役とその隣で眺めていたザックのみ。

 疑問に答える者はおらず、少女が手を無造作に振ると三人の首が飛んで赤い水柱を作る。

 彼ら傭兵団とは名ばかりの野盗集団“死を撒く剣団”。今日この時より奪う側から奪われる側になった。

 

━━━━━━

 

「コイツらから引き出せるのはこんくらいカね」

 御者を務めた男(ザック)がソリュシャンに指先から腕、体とゆっくり飲み込まれる様子を眺めながら退屈そうに馬車のタラップへ腰かける炎ぺらー。

 自分で出る気満々だった炎ぺらーはシモベたちの懇願で、こうして高みの見物と洒落込んでいた。

 頑張れー見てるぞーの応援だけでシャルティアが扉を開けてすぐ居たアホ共を即席のポンプに変え、吸血鬼の花嫁たちは殺さない程度に彼らを痛めつけ、ソリュシャンが毒をばら撒き動けない者を作り、セバスが直近の護衛として炎ぺらーの傍を任される。

 即席ポンプを作った後でこれ以上殺すなよー、と炎ぺらーからお達しのあったシャルティアは少し落ち込むも狙いを足に限定して小指を振るう。それだけで足は斬り飛ばされ、そこかしこで絶叫が上がった。

 足切り(物理)にかけられた彼らは幸運だ、だって最初のひとりは美少女に触れられることなく拳圧だけで息子ごと下半身が爆ぜた(意味浅)のだから。

 一見すると炎ぺらーはなにもしてないように見えるが、実は本人の意図とは別に、職業〈皇帝(エンペラー)〉のスキル〈扇動Ⅴ〉〈闘気増強Ⅲ〉〈テンションアップⅢ〉によって彼らのステータスを一時的に上昇させている。

 数分もかからず死屍累々な惨状を作り出したシモべたちにご苦労!と声をかける炎ぺらー。それを聞いて全員が恭しくこうべを垂れ、一部が別のものも垂らした。

 シャルティアや吸血鬼の花嫁が持つ〈魅了の魔眼〉で瀕死の状態でも情報をペラペラ喋ってくれて便利だナァと彼らの様子を眺めながらシャルティアに《転移門(ゲート)》を開かせる。

 事前に連絡していたため、滞りなくデミウルゴスの配下が現れて彼らを運び込む。

 ナザリックで有効活用してもらうように「何人かは情報抜いたら好きにしていいヨ、こっちの情報だけは漏れないよう処理して楽しんでナ」とデミウルゴスへの言伝を頼んで見送った炎ぺらー。

 彼らから得た情報から森の奥に根城として使ってる洞窟があり、抜け道もある、集団でもブレインという奴がかなりの強者で武技を扱えるとの事。

 そのため念を押して装備を本来のものに整えたソリュシャンも同行してもらうこととなった。セバスと魔燒のひとり〈爆炎地獄のアスモ〉は一足先に王都へ向かわせ、拠点の準備を進めてもらうように指示を出す炎ぺらー。

 アスモは魔燒の中で唯一《転移門》を使える。こちらから連絡が着き次第、ナザリック経由で《転移門》による移動をする予定だ。

 ……彼女は設定に『極度の方向音痴、ひとりでは目的地につける方が稀』というのがあるため、不安がこびりついているが大丈夫だろう。たぶん、きっと、メイビー。

 自分で走ろうとした炎ぺらーはシャルティアたちに止められ、先行するソリュシャンを追うように吸血鬼の花嫁が抱えられて進むこととなった。無論、抱える栄誉を賜った吸血鬼の花嫁は嫉妬され、ソリュシャンがプクーとなって可愛かった、まる。

「どうやら、この森はお粗末ながらに罠が仕掛けられているようです。私の踏んだ場所を通って着いてきてください」

 そりゃあ、ナザリックのトラップと比べたらいかんぜよ。性能は言うに及ばず、心理的、魔法的に計算された魔窟と落伍者の悪知恵では違いすぎる。

 さすがヘロヘロさんの作ったシモべだけあって優秀だな!と褒めちぎる炎ぺらーは元NPCの褒め方をわかっているが、褒められてはしゃいだソリュシャンがペースを上げたせいでちょっと大変だった。レベル差がね……、吸血鬼の花嫁はそこまでレベル高くないから……。ところで、彼女たちってプレイヤーメイドじゃないのに実はものすごく可愛くない?

 そんなこんなでアジトの近くまで無事にたどり着いた炎ぺらー一行は木々の間に身を潜めて作戦会議である。

 盗賊のアジト攻略はっじまるよー。

「見張りは二人、腰に鈴をつけて侵入者対策としていますね。また、入口そばに落とし穴も確認できます」

 ソリュシャンのスキルで罠を看破する傍ら、シャルティアへと指示を出す。

「シャルティアは眷属を出して半数ずつを左右から回り込ませて、裏口の位置を確認、一箇所だけならその場で警戒させ、出てきたヤツを逃がさないようにしてくれ。オレらは正面からだ」

「了解でありんす」

 シャルティアの〈眷属召喚〉により出現した〈吸血鬼の狼(ヴァンパイア・ウルフ)〉や〈古種吸血蝙蝠(エルダー・ヴァンパイア・バット)〉を散開させた。

 しばらくして眷属が配置に着いたのをシャルティアが感じ取り行動が開始される。

 音もなく近付いたソリュシャンが見張りを立ったまま神経毒で彫像のように痺れ殺し、トラップを飛び越えて侵入。

 要所にあるトラップを解除しながら進んだ先から荒くれどもの喧騒が響く。それを

聞きながら突っ込んだ先は生活しやすいよう掘り広がっていて大勢で飲めや歌えと侵入者に気付かない彼らは呑気に騒いでいた。

 そんな落伍者たちの晩餐をシャルティアの《集団全種族捕縛(マス・ホールド・スピーシーズ)》で残さず動けなくしたところをソリュシャンの毒が炸裂。

 名も無き彼らはそうして《転移門》によって在野からさよなら、グッバイ。

 ここまで三十分程度。鹵獲ではなく、殺戮を中心にすればさらに時短可能だがタイムアタックでは無い。

「炎ぺらー様、奥にいくつか部屋があり、ブレインと思わしき人物を発見、ご指示通り吸血鬼の花嫁たちにひと当てさせ、こちらへと誘っている途中です。また奥の大部屋にはたくさんの女性が……恐らく彼らによって攫われたのでしょう。それと大部屋のさらに奥で隠し通路が確認できました」

「ご苦労だったナ、ソリュシャン」

「勿体なきお言葉です!」

 ソリュシャンの言葉を聞いて隠し通路で待機するよう指示を出す。

 広がったスペースに並んだ粗雑なテーブルやイスで(獲物が逃げないよう)バリケードを作るため、暇つぶしも兼ね投げて遊んだ炎ぺらーとシャルティア。

 ほどなく手傷負うことなく広間へと飛び込んできた吸血鬼の花嫁。

 ゆったりとした歩みで刀と思われる武器を腰に差した男が登場する。

 細身でありながら実戦で鍛え抜いたのであろう鋼のような筋肉、四方に伸びた髪や苔のように生えた髭すら荒々しい外見に嵌っていて、期待できそうだと炎ぺらーは分析した。

「人間の男と子供?そいつらの飼い主か?随分と忙しねぇ子猫ちゃんたちだったな」

 じゃれつくもんだから少し可愛がってみたらすぐ逃げる臆病者みたいだが、と挑発目的で煽る男の言葉にシャルティアが吸血鬼の花嫁たちを睨みつける。

 怯えたふたりをかばって炎ぺらーが手振りを見せると男も誰が一番の親玉なのか理解して、炎ぺらーに向き直り納刀した相棒に手をかけて腰を落とす。

「それで、こんな所まで何の用だ。どうやら他の連中は居ないみたいだが……」

(さっきの吸血鬼は問題ない。肌と牙を見る限り呑気に爪研いでる嬢ちゃんは二匹のリーダーか?だとするとあの()()()()()が分からねえ。親玉なのは確定だが、マジックアイテムかなんかで従えてるのか?)

「なに少し暇を与えたんだけさ。今回はあんたが武技の使い手だと聞いたんでね、ちょいと腕試し代わりに……」

 男の警戒を歯牙にもかけず虚空━━炎ぺらーのアイテムボックス━━から刀を取り出し、同じように構えた炎ぺらーに眉をひそめる男。

「俺に刀で挑もうってのか?」

「挑みなのかは試してみたらどうだ?」

「……面白い」

 男の雰囲気が変わった。気配は波立たぬ水面のように静かで彼の周りだけまるで気配の檻が囲ったような印象を炎ぺらーは受けた。

 炎ぺらーはまだ知らないが、男はオリジナルの武技〈領域〉によって知覚範囲を拡大している。

 一歩でも踏み込めば瞬時に反応する彼の制空圏。たとえ百の矢の雨だろうと反応して切り伏せるものだ。

 

 ただし、頭に凡百のものであれば、と付くことをブレイン・アングラウス()は知らない。

 

「秘剣・虎落笛!」

 〈領域〉に踏み込んだ敵へ強力な一太刀を浴びせる武技〈神閃〉を重ねる絶技が先の先を取った炎ぺらーに━━

 

「遅せぇヨ」

 

━━届くことなく後の先をも奪われ、編み出した必殺の一撃を抜き放とうとした瞬間には懐へと潜り込まれていた。

 

 ブレインが知覚できたのは刀を抜くことすらできず、柄頭を鳩尾へ打ち込まれる感触と暗転する意識だけ。

 

「なかなか腕だナ、こりゃあ良い拾いモンだーネ」

 

 開始から一時間、“死を撒く剣団”は名も無き集団として蹂躙されつくす。

 

 遅れて数時間の後、冒険者たちが使い潰された女たちだけ残るアジトへと踏み入った。

 

 冒険者を観察する集団が森に潜んでいることを気付けるものは既に居ない。

 

 

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