11 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
「うっかりユグドラシルのポーション経由で身バレして?街を壊滅させるほど規模のアンデッド騒動を一晩かからず解決して?懇意にしようと思った冒険者チームが殺され激おこプンプン丸のまま、犯人のひとりを
『いや、あの、その……』
「なんでちょっと冒険者してきますー。って出てってイベント盛りだくさんナの?トラブル起こさないと死んじゃう体質にナったの?」
『トラブル体質は炎ぺらーさんじゃ……』
「ンンン??拉致しても問題ない人間を多数捕まえて、未知の技術『武技』の使い手も回収、シモベ達は怪我も問題もなく、想定以上のトラブルは発生してない、うちのチームに何か?あ、少ないですけど外貨も回収できまシたね?」
『いえ、その……なんでもないです』
「わざわざ、冒険者するならパートナーは誰がいいか聞いてきたから、
『ほんとその件はありがとうございます』
「でもさすがっスねモモンガさん。そっちもなんとか任務達成してギルドからの評価は上々、ポーション職人も確保できたんでショ?」
『はい、なので近々ナザリックに一度報告に戻ろうと思います。デミウルゴスが各地に作った情報網もかなり情報が仕入れられてるみたいですし、そっちの確認も含めて』
「了解っス」
《
「アルベド、オレも向かうわ」
「了解しました炎ぺらー様」
畏まってこそいるがモモンガとの距離感に比べると離れた位置で、頭を浅く下げたアルベド。部屋には『今日の炎ぺらー様係』なる日替わりの傍付きメイドこそいるが、最低限の礼は尽くしているとアルベドを咎めない炎ぺらー。
メイドも違和感を感じていても至高の御方が指摘しない様子を見て、なにも発言はしなかった。
「モモンガさんも近いうちに一度戻ってくるみたいだから盛大に迎えてやりナ」
「はい、畏まりました!」
見るからに上機嫌となったアルベドを見送り、メイドに視線を移す。
「頼んでいたものは見つかったカ?」
「はい、こちらでございます」
そう言ってどこから取り出したのか、先程まで持っていなかったはずのものを机に置くメイド。
細長い袋を手に取り口紐を解いて中身を取り出した炎ぺらー。
それはひと振りの刀。シンブルな柄、デフォルメされた猫の顔を象った鍔、やや反った鞘に収まり、抜き身になるのを今か今かと待っているように見えた。
完全に袋から取りだし、再び机の上に置いた炎ぺらーは先程から机の上にある小箱を開けて蝶の装飾の施された金縁の
〈
多様な魔法を習得していない炎ぺらーはこうしたマジックアイテムで苦手な分野や多数の専門外を補うプレイヤー。
鑑定魔法も含め、補助的な魔法の効果を持つデータクリスタルやマジックアイテムはかなりの数を所有し、低位であっても炎ぺらーにとっては重宝したものが多い。
片眼鏡を通し、目の前の刀が聖遺物級であることを確認すると眼鏡をしまい、刀も袋に戻す。
「えーっと、たしかリュミエールだったか、ご苦労さん。もうすぐ出発するけど、あとちょっとよろしくナ」
「はい!行ってらっしゃいませ炎ぺらー様!」
そして準備を済ませた炎ぺらーはアスモに連絡して開いた《転移門》をくぐるのだった。
━━━━━━
リ・エスティーゼ王国の首都でセバスたちが確保した拠点へ《転移門》を潜る炎ぺらー。
無事王都へと辿り着いたセバスたちによって数日で手に入る中では比較的上等な戸建てを入手するが、あまりに汚い屋敷(シモべ基準)だったためセバスやソリュシャン、さらにはナザリックから追加で呼び寄せたメイドたちがフル稼働で掃除と調度品の調整を行った。
商人としての
閑話休題。
《転移門》を抜けて踏み入れた玄関ホール。磨き抜かれた花崗岩のような石材の床を半分ほど埋める大きな絨毯、漆に近い何かで塗り固めた落ち着きのある独特な色合いの壁面、左右に伸びる廊下と奥にはスロープが導く2階への階段。
この世界では上の下程度なのだろうが、炎ぺらーにとって既に我が家と認識しているナザリックに比べれば粗末の一言。
それでも、リアルの価値観でいえば十分に豪華だ。天然の木材と石材をふんだんに使った建築、はめ込みではない開けることのできる窓はアーコロジー内に住んでいた炎ぺらーであっても手の出せない贅沢なものだった。
装飾も注文通り現地に溶け込めるレベルの調度品のみで固められているのか必要最低限に見える。
ゆっくりとそれらを睥睨してから、居並ぶ人物たちに目を向けた。
「至高の恩方に忠誠の儀を」
拠点清掃の責任者であるセバスと魔燒のアスモを先頭に、ソリュシャン、ナーベラル、エントマの三人、ナザリックのメイド八人が並び、跪きこうべを垂れる。遅れて一番後ろで所在なさげに立っていたブレインも慌てて続く。
「ご苦労さん、短い時間で良くここまで整えた」
楽な姿勢に崩して良いと言った炎ぺらーの言葉に立ち上がるシモベたち。
「セ……タッチ、問題はなかったか?」
「はい、滞りなく拠点の清掃と家具の搬入は終わりました。ご指示の通りブレイン・アングラウス様は客人待遇で部屋を用意しております」
炎ぺらーが目を向ければブレインは挙動不審に目を激しく動かす。
「うちの治癒士に診てもらった限り問題はなさそうだったが……ブレイン、体調はどうだ?」
「あ、ああっヒィ!は、はい!だ、だだ大丈夫です!」
緊張気味でも普通に受け答えしようとしてシモベたちにめちゃくちゃ睨まれたブレインは完全に萎縮してしまった。
「お前たち、ブレインは客人だ。一応……な、だからそう脅かしてやるなよ」
『はっ!』
声の揃った返事に鷹揚に頷く炎ぺらー。
「良し、なら後片付けが終わり次第それぞれの持ち場に戻ってくれ。解散!」
再び繋がれた《転移門》を抜けていくメイドたちに声をかけつつ見送る炎ぺらー。
声をかけられたメイドたちは某お船の擬人化ゲーのキラ付けのような輝きを放ちながら戻っていった。配下を鼓舞する“皇帝”職のスキル継続時間と直接労われた喜びが合わさり、仕事の効率が170%まで達したせいで普段はやらない現在量産中のモモンガ印“死の騎士”たちの鎧磨きまで終わらせたのは少しあとのこと。
そんなことが起こるとは知らない炎ぺらーは残ったセバス達を一瞥してからブレインに近づく。
「ほら、折っちまった刀の代わりだ」
そう言って手に持っていた袋をブレインに突き出す。
正確には折ったのは炎ぺらーではなくシャルティア。というのも、道中一度だけブレインが目を覚ました時、反射的に刀に手を伸ばすも敵対行動と取ったシャルティアに鞘ごと殴り飛ばされた。
幸いにも気絶しただけで済んだブレインだが、炎ぺらーの制止がコンマ数秒遅ければ鞘ごと刀のついでにブレインも砕け散っていたであろう。
「え、あ、ああ……ってコレはっ!!」
袋から取り出した刀の柄と鞘の作りだけで一級品だと直感するブレインは誰の前であるか忘れて鯉口を切った。
猫科の正面顔を象った鍔から生える曇りのない刀身、計算されたかのように走る乱刃の刃紋、澄んだ水のようにすら見える鎬、刃先から峰そして見えない茎まで歪みの無いことが見ただけでも想像できる一級品以上の業物が収まっていた。
「凄い……なんて業物なんだ。俺が使ってた刀はナマクラだったのか?」
力を求めてブレインは数々のマジックアイテムを自分の目で吟味してきた。強くなるための鍛錬以外で、唯一の趣味と言っていいほどにこだわりを持って買い物をしてきたのである。
折れてしまった愛器である〈神刀〉だって、それまで何振りか見てきた中でも至上の逸品だと思っていたのだ。
「どうして俺にこれを……?」
「あー、まー、部下のやらかした事だからな責任は取る。それにお前に用意できる中ならそれくらいがちょうどいいだろうしな」
これほどの業物、由緒ある家宝なのではと野盗の用心棒だったブレインでも尻込みしてしまう。自分はこれを手にするだけの力があるのかと。
そんなことを考えてるのは炎ぺらーもつゆ知らず、ぶっちゃけブレインの持ってた刀微妙すぎて、あれと同程度の武器とか持ってなかった。
コレクター気質の強いモモンガ程ではないが、比較的物持ちの良い炎ぺらーでもさすがに神刀程度の性能の武器を持っていないため
ついでに言えば、某ギルメン著【誰でも楽々PK術】曰く、『必要以上の恨みを買う事は無い、時にはドロップ品の返却することも大事』という教えに従い、今回の件はあくまで炎ぺらー的にはその言の範疇に入る。
「オーガミ様……いや、師匠!」
這いつくばって頭を下げるブレイン。破られた自身の『秘剣・虎落笛』、少女の細腕に砕かれた元愛刀、どちらも彼にとっては衝撃的すぎて受け入れられなかった。
たが、あれ程の圧倒的強さを自分と同じ
「師匠、ねぇ……」
炎ぺらーは首を掻き、数瞬考えると器用に手袋のまま指を鳴らし後ろへ仰け反ると、まるで最初から持っていたかのようにセバスがこの家で一等の豪奢な椅子を用意する。
幅のある座面に腰かけ、肘置きに立てた腕に顎を置き思案気に目を細める。
「そもそも弟子なんて取る気はないんだが……」
断られたがそれでも懇願を続けようとしたブレインへ、不敬だと敵意を向けるシモべたちを手振りのみで抑えた炎ぺらーは値踏みするようにブレインを見やる。
「んで、なんでそんなこと言い出したんだ?」
「俺は……私は強くなりたいんです。昔、御前試合でガゼフ・ストロノーフに負けて、それが悔しくて悔しくて、次は絶対に勝ってやるって」
「ガゼフ・ストロノーフ……ねぇ」
そいや、モモンガさんがカルネ村を救った時に会った王国の戦士長がそんな名前だったけナ。と思い出しつつもブレインの言葉を咀嚼する。
「今のお前に教えることはできないな」
嚥下した言葉に対する炎ぺらーの返答は否。
「そこをなんとか!頼む!」
至高の御方に懇願するだけでなく、決定の言葉にも縋りつこうとするブレインにプレアデスたちが殺気立つが、セバスの制止で動きが渋ったところを炎ぺらーの言葉で不機嫌そうな表情すら引っこめる。
「なぜオレが拒んだのか、それをよく考えろ」
ウチのこと喋んなければ、外に出してもいいぞ、とだけ言い残して立ち上がり、庭先で待機している石造りの番犬たちを撫でながら歩いていく炎ぺらー。
護衛は影に潜んだ
ちなみにモモンガの護衛は傍付きのユリ・アルファだけであり、それはそれで物議を醸し出すものだった。
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王都とは名ばかりで栄えていると言うよりも古いだけという印象が拭えないと炎ぺらーは感じた。
石畳での舗装は一部だけで、雨が降ればあっと言う間にぬかるんでしまい歩きづらい大通り。これでは交通の便はかなり滞るだろう。
人々は一部を除き、カルネ村に比べればマシだが仕立ての良いとは言いづらい服装をしている。
何よりも大半の者が表情に影が差し、お世辞にも賑やかで明るいとは言い難い。これではわざわざ足を運んだのに見るべきものがあるとは思えなくなってしまう。
(とりあえず、今日は何もなしかナ?日も傾き始めてるし、適当にみんなでつまめるものを何品か買うカ)
そう決めた炎ぺらーだが、数少ない探知系魔法とスキルに何かが引っかかる。
二階建て超の家屋に囲まれているため視認こそできないが、探知魔法の反応を頼りに警戒しつつも、あえて反応をしない。
「伏せろ!《
突然《
水晶の槍が地面へと刺さり、影から飛び出すように別の影に移る一体の“影の悪魔”。
小さな影から聞こえた舌打ちの音に、表情が険しくなっていた炎ぺらーは慌てて苦笑いを作り声をかける。
「えっと、一体何があったのでしょうか?」
使い込まれたフード付きのマントを羽織る子供程度の大きさの影は逡巡してから炎ぺらーに向き直る。
「私は『蒼の薔薇』のイビルアイ。お前に憑いた悪魔の気配を感じた」