【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

13 / 51
今回は短めです。


12

12 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

「私は『蒼の薔薇』のイビルアイ。お前に憑いた悪魔の気配を感じて駆けつけた」

 首元の冒険者プレートを見せるイビルアイに警戒心を緩める青年。

 しかし、完全に警戒されていないといえば嘘になるとイビルアイは感じるが特段気にすることはなかった。

 青年の格好からしてどこかの貴族や令息、又はそういう人物の従者であろうことは十分に察せる。

 どんな有名さも見合うだけの貴族位(肩書き)を持たなければ、ただの平民としてしか映らないのが貴族というものだと長い人生で学んだ彼女は仮面の中ですら表情を歪ませない。

「そうですか、それはありがとうございます」

 しかし、青年はそこらとは少し違った。

 折り目正しく、王国の流儀ともやや差異はあるが礼節に則った礼をする青年にイビルアイは内心で感嘆の息を漏らす。

 イビルアイ……否、王国に住む者にとって貴族や力のある商人は傲慢を絵に描いたような人種しかいない。少なくとも大多数がそう映ってしまっている。

 特に貴族は長年の安寧から自らの権力に溺れ腐り落ち、既にかつてあった特権階級の役割など忘れ去って久しい。

 中には自身の所属する『蒼の薔薇』のリーダーのように貴族としての意思を忘れていない者もいるが、そんな者は全体から見ればアゼリシア山脈の天辺程度しかいない。

 それ故にまだマシな貴族もいるのだな、と感じたイビルアイ。だがそんなものは彼女にとってどうでもいい。

「悪いが少し話を聞かせてもらおう」

 少し思案した上で「分かりました。ではお礼も兼ねてお食事をご馳走させてください」と柔和な笑みを浮かべて願い出る青年。

 イビルアイも少し思案し、(まあ、魔法で防諜はできるし問題ないか)と了承した。

 

━━━━━━

 

 冒険者チーム『蒼の薔薇』がホームとして利用している宿屋の食事処へと青年を連れてきたイビルアイ。

 青年を引き連れる足は定位置と化している一角に向かうがそこには誰も座っていない。

 リーダーである“ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ”も、戦士の“ガガーラン”も、双子の忍者“ティア”と“ティナ”も今取り掛かっている案件……それも冒険者としての依頼とは別件で忙しく駆け回っている。

 それでまだ戻っていないのだろう、とイビルアイとて〈影の悪魔〉を感知しなければもう少し帰りが遅かった事実を再確認した。

「とりあえず座れ、立たれたままでは話もできん」

 大人しく座った青年を確認してイビルアイは防音の魔法を発動しようとするが、先に青年が店員を呼びつけイビルアイに声をかける。

「今腹は減っていない。……そうだな、これとコレを後でメンバーが来たら出してくれ」

 ご馳走すると言った彼の手前、何も頼まないのは流石に気が咎めるイビルアイは食べられぬ自分よりも仲間に奢る方が建設的だろうと数種類のメニューを店員に告げる。

 青年ら小袋を店員に渡すと、イビルアイの優れた聴覚が聞き取った言葉から察するに、小袋には彼女の言っていた分とお酒を数本分の額が入っているのを察した。

 そこまで頼んでないとも思ったがさりとて気にせず店員が去るのを待つ。

「さて話だが、まずお前は誰だ?」

 完全に店員が離れたのを確認して防諜の魔法を唱え、控えめに言っても傲慢としか取れない上から目線で話を促す。しかし、イビルアイにとってこれは当たり前だ。

 彼女は既に何百年も生きた〈吸血鬼〉。しかも、この世界では圧倒的強者。『難度』で言えば150はある“国落とし”だ。彼女からしてみれば同じチームのメンバーですら、集まって難度90なのだから一対一ではまず負けないだろうという自負も強い。

 加えて言えば“影の悪魔”は彼女の長い人生で何度か討伐したこともあり、状況が味方すればチームメンバーでもひとりでなんとか倒しきれる。

 もちろん貴族のボンボンでは御しきれる訳もなく、影に潜まれても気が付かない程度なら青年はそこまで強くないと考えられ、良くて(シルバー)、普通なら護身術以下の素人程度だろうと判断した。

 もっと言えば青年の態度から多少大きく出ても問題ないと判断したのもあった。

「名乗るのが遅れましたね、私は“オーガミ”と申します。最近この街に来ました“シーカー商会”の代表息女である“ヘローナ”お嬢様のお傍付きをさせて頂いております」

 イビルアイの態度に眉すらゆがめず柔和な笑みを浮かべるオーガミは座令ながら、やはり礼節に則った動きで礼をする。

 相当躾られたのだと確信が深るが、それよりもそんな商会は聞いたことがない。

 大方帝国や聖王国から流れてきたのだろうと判断したイビルアイは仮面越しに目を合わせる。

「そうか……。オーガミ、単刀直入に言うがあの悪魔はお前程度では相手にならん。見たら即逃げろ」

「……と申しますと?」

「あれは影の悪魔というモンスターだ。単純な強さでも難度80を超えるが、さっきのように影から影へと移る能力もある」

 難度という言葉に聞き覚えがないのか首を傾げるオーガミにイビルアイは説明を追加する。

 難度というのは冒険者組合で定められたモンスターの強さを表す指標。

 一例として一般的なゴブリンは1から10、オーガが11から20程度とされ、モンスター以外を同様の尺度で測るなら、冒険者最高ランクのアダマンタイトチームが90以上、オリハルコンチームで80前後。

 そんな説明しつつ、多少腕に覚えがある程度では難しいだろうと言外に語るイビルアイ。

「なるほど、冒険者の方々はそのような目安をしているのですね」

「もちろん、これに当てはまらないことも多い。ゴブリン相手でも油断すると痛い目を見るぞ」

 もしもイビルアイの普段を知る仲間がいれば、あまりの饒舌っぷりに“イビルアイめ、色を知る年齢(とし)か!”と破顔()するだろう。

 理由としては普段は偉ぶっている貴族━━の関係者に見える━━オーガミの腰の低い態度に気を良くしたのもあるが、同時に炎ぺらーの持つ“皇帝”職のスキルによって、交渉事にプラスの補正が付いていることが大きい。

 普段のイビルアイちゃんなら他人にはツンドラ、仲間や身内にはツンツンデレツンくらいの態度だけど、スキルには勝てなかったよ……。

「その様子だとどこで憑かれたかわからんようだな。それにその風貌、南方の出だろう?」

「ええ、ですがお嬢様たちには良くしていただけてます」

 その後もいくつか会話の後、外をちらりと見たオーガミは話の区切りで立ち上がる。

「申し訳ありません、そろそろお暇させていただきます。イビルアイさん、貴重な時間をありがとうございました」

「ああ、くれぐれも悪魔には気をつけろ。もう助けてやれないかもしれん」

「はい、重ね重ねありがとうございました。失礼致します」

 折り目正しい礼をするオーガミを見送るイビルアイ。ふとテーブルを見れば数枚の銀貨が置いてある事に初めて気付く。

「やれやれ、躾がされているとここまでか」

 まさか数段劣る相手にしてやられ、なんとも言えない気持ちが湧いたイビルアイ。

「それにしてもアイツらもそろそろ帰ってくるはず……うおっ!?」

 背後に気配なく立っていた人物に驚き、イビルアイは椅子の上で飛び上がる。

「なんだ、ティアか……脅かすな」

 姉妹そっくりな顔だが何となく見分けのつく仲間に外套の下で動かぬ心臓を撫で下ろす。

 しかし、無表情ながらも真剣な雰囲気を感じ何かあったのかと言葉を待つと……。

 

「イビルアイ、色を知る年齢(とし)?」

 

 なぜそうなる!?と叫ぶ声が夕暮れの店内に響く。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。