14 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
『何トラブル起こしてるんですか!?』
「
『反省しろ着火マン!』
「いやいや、火がついたら止まらなかったんスよ。多分種族の
『そういえば
「リア充許すまじで、暴れないでくださいヨ?」
『ブーメランしてっぞ。それよりも拾ったっていう人は違法娼館の嬢なんですよね。八本指でしたっけ?明らかにやばい組織の気配がプンプンするじゃないですか……』
「一応、付けてた“影の悪魔”たちを店の前に張り込ませて、何かあれば連絡が来るようにはしてまス」
『なんで、そういう気は回るのにうっかり問題起こすのかなぁ……』
━━━━━━
「━━━━という訳で、怒られてシまったが……デミウルゴス、なんか良い方法ある?」
『……なるほど、さすがは炎ぺらー様。それにモモンガ様も……フフフ、そういう事でしたか』
どういうことだってばよ、炎ぺらーはそう叫びたかったが何とかこらえる。褒めてあげよう。
炎ぺらーが髭面を━━完全耐性を備えた状態のモモンガにすらダメージを与える━━〈
そのため死体は残らず、ナザリックで有効活用などはできなかったが、炎ぺらーがサボりがちだった自身のチカラの確認に大きく貢献できたと本人談。なお、モモンガには「それ以前に自分の力の確認もしてなかったのか」と怒られた模様。
炎ぺらーのスキル、〈灼熱の鎧〉は炎属性の魔法ダメージと環境ダメージを与えるもの。範囲だけでいえばモモンガの〈絶望のオーラ〉系と変わらないが、環境ダメージの特性で〈延焼〉などの更なる持続ダメージを発生させる。
直接的なダメージの性質上、効果は炎属性や環境ダメージへの耐性で簡単に防げるもので本来なら実効果は全く期待できない代物。
だが炎ぺらーが用いれば凶悪な継続ダメージとなる。
〈煉獄の炎〉、炎ぺらーの代名詞でもあるスキル。炎属性のダメージに対する耐性を大幅に下げる
非常に効果が高く生半可な耐性では弱点属性と同等まで落とされるため、『炎ぺらーの姿を見たら、まず手を止めて炎耐性をガン積みしろ』とまでネットで書かれるレベル。
まあ、積んでも無視できないダメージを通されるからか、彼のアンチスレの伸びはギルドの中でも上位に入るのは当然の結果だろう。
閑話休題。
レベル差だけでも絶望的なのに、都合のいい炎耐性を有していない髭面では数秒とかからず〈灼熱の鎧〉によるダメージで灰すら焼き尽くされた。
大した跡も残っていないのを確認した炎ぺらーは“影の悪魔”に店と思われる髭面の出てきた扉周辺を見張らせて、ボロボロな女を抱えて拠点まで転移したのである。
予定よりも早く帰ったことに訝しむソリュシャンに迎え入れられ、一日に三回だけ上位の回復魔法を使えるマジックアイテムの指輪を貸して自室へと戻った炎ぺらー。
しばし備え付けられた椅子に座り、(今回の言い訳を)考え込んだ後、冒頭のモモンガとの会話へと続く《伝言》を発動。
一通りの報告を済ませたあと買い出しに出たが、戻ってきてデミウルゴスに《伝言》を繋げ直したのが現在だ。
「おいおい、そう意味深に深読みしてくれるナ。オレなんてなんも考えてないんだから」
言外にぷるぷる、ボク頭良くないよ。とアピールする炎ぺらー。
『━━っ!?なるほどっ、至高の御方であればこの程度は容易いと……おお!何と遥かな高み、深き策謀なのでしょうか!』
ダメみたいですね。(無慈悲)
炎ぺらーは1ミクロンも正しく伝わらなかったことを理解した。
『では私から次の報告会で作戦の説明をさせていただきます。炎ぺらー様が放たれた〈影の悪魔〉もお手を煩わせないためにもこちらにお任せ下さい』
「……え、あ、うん、ん?ちょ、待っ━━」
作戦?作戦て何?と言おうとした炎ぺらーだが、それよりも早く《伝言》が切られてしまう。
「…………まぁ、いっカ!」
炎ぺらーは諦めた、止められない。乗るしかないんだっ、このビッグウェーブにっ!!
呆然としたい炎ぺらーだが、ノックの後に聞こえたソリュシャンの声に気を引き締め許可を出す。
「炎ぺらー様、人間の治療完了いたしました」
ヘローナとしてのドレスではなく彼女の造物主〈ヘロヘロ〉が作り与えた専用装備に着替え、左の人差し指には渡したマジックアイテムの指輪が嵌められている。
「ご苦労さん、容態は?」
「高位の回復魔法により、骨折や裂傷、複数の性病及び無数の打撲等も全て治癒できました。ご指示の通り、
炎ぺらーはそうか、とだけ呟き立ち上がるが、そこでソリュシャンは跪き頭を垂れた。
「炎ぺらー様、至らぬ私をお許しください」
「ん、どうしたんダ?」
「あの人間をお救いになられた御方の深謀に爪先すら掛けられない我が身に罰を」
「いやいや、罰なんて与えないヨ。むしろ、良く働いてくれて感謝しかない」
今すぐにでも自害を選びそうなソリュシャンへしゃがみこみ上体を起こす。
ソリュシャンの様子が叱られることを怯えた子供そのものに見えた炎ぺらーは目をじっと見て優しく微笑んでみせる。
「ソリュシャンの疑問は尤もだ、市井に紛れ情報を集めるって目的に今回の行動はお世辞にも褒められたものではないネ」
自身の行動を戒めるように言葉を紡ぐ炎ぺらーに、ソリュシャンは反射的に否定しようとするがそれよりも早く炎ぺらーが次の言葉を口から出す。
「だから、今回のことはオレのわがまま。お前たちが至高の御方と敬うヒトは時にこんな突拍子もないことをしたりする。でも、責任は取るゾ?必ずナザリックの利益になるよう、ナザリックに不利益をもたらさないよう頑張ル。だから、こんな情けないオレを助けてくれないカ?ソリュシャンやナザリックのみんなの力が必要なんダ」
ソリュシャンは《龍雷》を受けたような衝撃が走る。
モモンガから任された任務の妨げになる存在を炎ぺらーが助けたこと。それも御方自ら助けたことの意味を理解できない浅慮な自分を失望するのではと不安を募らせていたソリュシャン。
加えていえば、至高の御方に
だが今、
突拍子もない?━━否、それは至高の御方の深謀を理解できないシモベの至らなさだ。
不利益にならないようにする?━━否、至高の御方の一挙手一投足は全てナザリックの利益になることは明白。
情けない?━━否、そのようなことは決してない。
至高の御方の役に立てる、立つ機会を与えて下さった実感は快楽となり全身を駆け巡る。
ナザリック、それも至高の御方の住まう聖域に攻め込んだ愚か者どもから御方の盾となり守る、そうあれかしと造られたシモベにとってこれ以上の喜びはない。
人型の下腹部からドロリとした快楽が広がるのを感じたソリュシャン。でも彼女は不定形だから人間の形をしてようと機能とは関係ない。ないったらないのだ!
ここまで炎ぺらーの言葉からコンマ五秒。
「お任せ下さい炎ぺらー様。私の力でしたら御随意にお使いください。そのためのシモベです」
「ありがとうソリュシャン」
“━━━━!”
一応の話に区切りが着いたところにタイミングが良いのか悪いのか分からないが少しの物音と微かに息を呑む音が聞こえてくる。
「ん?目が覚めたにしては騒がしいな」
「見てきましょうか?」
「オレも行く」
炎ぺらーは包みをソリュシャンに持たせて屋敷内を進むと、娼館の女を寝かせていた部屋の扉を開けた状態で困惑気味のセバスが立っていた。
「女性の寝顔を見るものでは無いぞ」
「これは、……炎ぺらー様」
炎ぺらーはオーガミのままだが、ソリュシャンの格好がプレアデスとしての姿だったため呼び方を改めたセバス。
素早く扉の前からズレて腰からの礼を垂れるのに目もくれず、ソリュシャンから包みを受け取り、彼らに少し部屋から離れたところで待機するよう指示を出した炎ぺらーは扉を半分ほど開けて部屋へと入る。
セバスが顔を上げたあとソリュシャンと共に部屋から一つドアを挟んだ先で待機するのだった。
━━━━━━
女は酷く取り乱した様子だったが、炎ぺらーが扉近くから離れないのを見て徐々に落ち着きを取り戻す。
「どうやら落ち着いたようだね」
炎ぺらーは彼女が自分を観察するような目線に変わったところでにこやかな表情を作る。
「ぁ……ぅ……ぁ……」
何かを言わなければいけない、そう焦りつつも動かぬ舌に、ひたすら戸惑う女の様子を感じ取った炎ぺらーが手に持った包みを開きながら、怯えさせないようゆっくり近付く。
「無理に喋らなくていい。大凡の事情は予想している。少なくともここにいる間は君を傷付ける輩はいない」
異性が怖いと言うならこれからの対応は同性に任せよう。と包みの中身を彼女の前に出す。
ナイトテーブルや台がないため直接掛け物の上に置かれた底の深い木皿からは湯気が立ち上り、半固形となった穀物が汁の中に沈んでいる。
炎ぺらーが隙を見て購入してきた露天の食品。本来はリゾットのようなものだが昨日買った屋台の親父さんに頼んで、より食べやすいよう柔らかくしてもらった。
「熱いから気をつけてお食べ」
「あり……がとう……ござい……ます」
何度も詰まらせながらもお礼の言葉を紡ぐ女に笑ってみせる炎ぺらー。
震える手でゆっくりと掬いあげて口へと運ぶ女。まだ温かいそれを口に入れて咀嚼するのがわかる。
何度も何度も確かめるように、顎を動かし少しずつ噛み締めていく。
徐々に次の一口を求める速度が早くなり、衰弱した彼女であっても掻き込むという言葉が似合う姿に変わって炎ぺらーは内心で安堵した。
「ありがとう……ございました」
それから時間をあけず、木皿を空にした女は深い息を吐いて炎ぺらーにお礼を言う。先程よりも幾分か流暢なのはお腹を満たし、ここに自分を傷つけるものがないと感じたからだろう。
「口に合ったなら良かったよ」
木皿を避けようとした炎ぺらーは彼女の目に大粒の涙が溜まっているのに気が付く。
そして、少しずつすすり泣くような声が漏れる。
「わ、私……こんなに……おいしいもの……食べたの、初めてです……。いつも、いつも、殴られ、蹴られ、辱められ……泣いても、何しても……やめてもらえなかった…………」
嗚咽混じりに自分の事を話す女へ炎ぺらーはただ耳を傾け、静かに微笑みを絶やすことなく柔和な表情を作る。
(工エエェェ(´д`)ェェエエ工、クソ重な話し始めたんでスけどぉ)
……コイツいっぺんノした方がいいのでは?表面上は何も語らず、ただ傍に立つだけだが、内面はどうすればいいのか分からず戸惑うだけの
彼女の身の上は“おおよそ”予想できた。だからといって、憐憫を感じることはあっても憤りを感じた訳では無い。
人間の頃であれば触らぬ神に祟りなしと助けを求められても無視を決め込んだだろう。だが、善人であっても善良や正義感の強さとは無縁だった人格が異形化に伴い、異形の精神が混ざった末に後先考えない行動がたまたま彼女にとって都合の良い展開になったに過ぎない。
彼女の様子を見に来た炎ぺらーが感じていたのは腫れ上がっていない顔の造形はそれほど悪くないと感じる程度。彼の好みからしても美人系よりも可愛い系の方が受けが良いのは余談である。
彼女の独白を静かに聞いてるよう見せて、内心話半分以下で聞き流した炎ぺらーは上着のポケットからハンカチを取り出して彼女の目から零れる涙を拭ってから彼女の手にハンカチを握らせる。
「今は寝なさい。もう少し落ち着いたら、これからのことを話そう」
身の上話はもうおなかいっぱいだよォ、という本音を幾重にも重ねたオブラートで包んで送る着火マン。
「ありがとう……ございます。あの、お名前を……教えて頂けますか?」
「……ここではオーガミと名乗ってる。君の名は?」
「ツアレ、ツアレニーニャです。おやすみなさい、オーガミ……さま…………」
それほど間を置かず眠りについた女を少し眺め、避けていた食器を回収する炎ぺらー。
「今はゆっくり休みな、ツアレ」
カルマ値