【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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14.5 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

 暗い空間に灯された《永続光》が照らすそこは辛うじて部屋だとわかり、心許ない光が形作るのは円卓と九つの椅子。

「さて、最初に議題にするべきは……ヒルマ」

「あいよ、うちの麻薬畑にしてた村がいくつかやられちまったよ。これじゃあしばらく黒粉の出荷量を抑えないとね」

 内容に反してあまり気落ちしている様子のない女性。肩などが露出して彼女の艶やかさを引き立てつつも下品にならない、女性の色香とはかくあるべしと体現するのが八本指“麻薬売買”の長“ヒルマ”。

 彼女が今主だって扱うのは“ライラの粉末”という名前の麻薬。黒粉とも呼ばれ、水に溶かして飲用するもので、多幸感と陶酔感をもたらす。しかも依存性が強いため、リピーターも多く付きやすいと彼女にとって都合の良い商品だったのだが、最近その生産場である村が焼き払われてしまった。

 さすがにこの状況では今まで通り流通させるのは難しいだろう。

「相手は?」

「さぁ、それらしいものはなかったよ。ただ逆に言えばそこまで周到なことができる相手なんて多くないからね」

 惚けつつも相手の情報を最低限だけ渡すヒルマ。同じ組織の傘の元にしては余りに出し渋った態度だが、彼らにとってこのくらいは普通。

 所詮はお互いが協力という名の相互利用しているに過ぎない。

 彼らこそ王国の裏を牛耳る組織“八本指”、その幹部たちである。

 元々ひとつの組織ではなく、いくつかの組織が更なる利益を求めるために徒党を組んだというのが正しい。

 組織の活動も麻薬売買、奴隷取引、密輸、金融など計八部門に別れ、それぞれの長が自身の管轄内を管理しつつお互いに連携を取り合っている。

 組織名だって、四神信仰のひとつ、土神の従属神で“盗みの神”と呼ばれたものが八本の指を持っていた事に因んで付けられたにすぎない。

 そして、表立っては協力し合いながら、裏で互いの利権を奪い合おうと画策しているのだ。

「おい、ヒルマ。俺たちを雇わねぇか?お前が集めてる雑魚では役に立つまい」

 部門の長のみが座ることを許された一席に座る男が口を開いた瞬間、ヒルマの後ろに控えた護衛だけでなく、他の部門の護衛たちすら警戒と緊張を孕んだ息遣いに変わる。

「いらないわ。アンタらにウチの重要拠点を知られたくもないしね」

 ヒルマはこの場に集う長として恥じぬ態度を示すが、その裏で生存本能が警鐘を鳴らし続ける。

━━この男を怒らせてはならないと。

 “闘鬼”と渾名されるに相応しい覇気を携える大男。彼の傍にのみ護衛は居ない。

 否、護衛など彼にとっては不要のものなのだ。

 それどころかゼロが本気になれば、この場の全員が大した抵抗もできず血祭りにされるだろう。

「じゃあ、その話アタシが代わりに受けたいわ」

「なんだコッコドール、落ち目のお前に払えるのか?」

 化粧と香水の匂いを漂わせる男、奴隷取引の長“コッコドール”が薄くも上品な色合いの口紅で彩られた唇を動かす。

「大丈夫よん、ゼロ。あの黄金のせいで奴隷売買は法律で禁止になっちゃったけど、蓄えはきちんとあるもの」

「ほう、それほどの厄介事か」

 警備部門の長、闘鬼“ゼロ”は野性味のある目を細めてコッコドールに興味を持つ。

「すまないわね、ウチの従業員と処分予定だった女が行方不明なの。しかも店の前から忽然と居なくなられたからか他の従業員がビビっちゃってね。もちろんそんな子達は後で()()するとしても、お客が遠のく芽は早めに摘みたいの」

 しかも、と意味ありげに一度だけヒルマを見たコッコドール。

「どうも、店の近くを通った坊ちゃんが〈蒼の薔薇〉と会ってたみたいなのよねぇ」

「ほう、蒼の薔薇か……」

 ゼロの口元が肉食獣を彷彿とさせた口角を描く。

「こっちから上手い具合にその坊やを揺さぶってみるわ。それで大人しければ良し、もし釣れた時は……お願いね?」

「釣れてほしいものだな」

「やーねぇ、そんな面倒はお店で起こさないでよ。それよりもその商会、武器や防具、マジックアイテムも扱ってるらしいの」

 溜めるような息遣いで興味を誘うコッコドールにゼロも思わず眉を動かす。

「相場からは安値で取り扱ってる割りに品はかなり良いらしいわ」

 そう言ってゼロに護衛経由で渡した指輪は筋力を上げる効果があり、ゼロの持つものよりも若干ではあるが効果が高いというものだった。

「ほう、とするとただの金持ちの道楽か」

「そうでも無いみたい、どうもいくつかルートを絞って流通させてるみたいよ」

 コッコドールのみ把握している情報では少しでも下を見て買い叩きを行ったり、商売上の契約を違反した者、加えて後暗い━━密輸や金融など八本指の関係がある━━場所は全く相手にしないらしい。

 こちらの気配を察知していると言うよりは黒い噂の有無や相手を見て取引しているようなのはこれまで洗った足跡から判断できた。

「それなら懐にたんまり貯めているだろう。突つき甲斐がありそうだ」

「最近、エ・ランテルの方で新しいアダマンタイト級冒険者も生まれたみたいだし、備えておいて損は無いわ」

「ほう、それは初耳だな」

 初耳と言いながら全く動揺した様子のないゼロにコッコドールは一応、これから世話になる手間賃代わりに少し話し始める。

 全体で共有して自分が不利益になるわけではないというのも話を振ったきっかけだ。

「そうねぇ、私が聞いた話だと最近起きたエ・ランテルでのアンデッド騒ぎを解決した立役者なんですって。リーダーは魔法詠唱者で名前はモモン、まだ二十代くらいで第3位階魔法を複数会得してて、聞いた話だと第4位階も使えるって噂の天才。し・か・も、ちょっと痩せ型で背があって、この辺じゃ珍しい黒髪で、顔立ちは可愛い系、性格も誠実で穏やかなんですって!姿絵も見たけどなかなか良い腰つきだったわぁ」

 熱っぽい吐息混じりに、座りながら器用に腰をくねらせるコッコドールにゼロを含め他の全員が引いた。コッコドールの護衛は慣れているため、少し顔を歪ませる程度だが内心は似たりよったりだ。

「……それで、他には」

「え、ああ、他にはオーガだかゴブリンだかを吹き飛ばすモンクの女とふたりだけのチームで、トブの大森林に君臨してた森の賢王を倒して従えたり、護衛依頼の途中で現れたギガントバジリスク?ってのを二頭討伐したのが認められて銅からあっという間にアダマンタイトまで上り詰めたんですって」

 モモンの話をしている時に比べ明らかに興味なさげなコッコドール。ゼロとしてはモンクの女やギガントバジリスク討伐の話を詳しく聞きたかったがコッコドールの様子から大して知ってないだろうと諦めた。

 聞いた話も━━モモンの外見の話以外は━━自分が手に入れたものと大して違わないため、無理に聞き出そうとしても無駄だと見切りをつける。というか、これ以上コッコドールの話を聞きたくない。

 話に食いついたせいで妙な空気になった会議の責任を取らされる前にゼロはそれとなく本筋に話を運ぶ。

 ここぞとばかりに乗った他の長たちのおかげで会議は進み始める。

 他の部門はそこまで目立った問題も起きず、多少の調整でなんとかなる範囲だったためお開きとなった。

 そして、どの部門の長も今回の話で出た家からどこまで美味しい汁が吸えるか、気付かぬうちに舌なめずりする。

 

 ()()()の視界に入った“獲物”の運の尽きを存分に味わってもらおう。

 

 今回も甘い蜜は我ら(八本指)の腹に収まると誰もが疑いようもない。

 

 影が不規則に揺れるのにも気づかず、ほくそ笑むのだった。

 

 

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