【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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15.5 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

 時は遡りオーガミが帰ったあと、イビルアイはティアからのからかいを何とか躱している間に他のメンバーも続々戻り、みんな揃った段階で料理たちが運ばれ、事情を聞いた皆はありがたくいただいていた。

「本当なの、イビルアイ?」

「ああ、街に悪魔が忍び込んでいた」

「おいおい、随分と穏やかじゃないな」

 リーダーであり、王国で唯一第5位階信仰系魔法《死者復活(レイズデッド)》の使える神官戦士〈ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ〉は仲間からの報告に思わず聞き返し、『あれは胸じゃなくて大胸筋』と言われるほど筋骨隆々な女戦士〈ガガーラン〉もおどけながらもその目は真剣そのもの。

「強敵ではあるが倒せない相手ではない」

 イビルアイの言葉を、国堕としと呼ばれるだけの実力と長い年月で培った知識量に裏打ちされた言葉の重みを履き違える仲間はいない。

「紛れ込んだ可能性」

「目的はなんだった?」

 瓜二つな忍者姉妹〈ティナ〉と〈ティア〉も表情を変えることなく料理に舌鼓を打ちながらも冷静に状況を分析する。

「分からない、だが悪魔が潜んでいたのは最近王都に来た商人の従者だった。聞いた限り呪いや惹き付けるような生まれ持った異能(タレント)持ちではないようだ」

 オーガミの姿や話を脳裏に浮べたイビルアイは首を振る。確かに彼自身から発せられる気配はどこか希薄であったが印象が強い。

 見れば自然と目に留まり、いない場でも頭の片隅に残り続ける。

 商人としてある意味最も重宝される人物像だろうことは商売に興味のないイビルアイでも察した。

「その商人ってもしかして〈シーカー商会〉の事?」

「ああ、そう名乗っていたが……何故それをラキュースは知っている?」

 商人の従者とも言ったが、王都の商人は善し悪し除けばかなりの数が居る。家を出たとはいえ貴族であるラキュースなら古参の商人や商会を知っていてもおかしくはないが、最近王都に来たばかりのオーガミたちはまだ地盤もできていない新規勢だと言っていたのを覚えているイビルアイは疑問を口にする。

「ラナーがかなり気にかけていたのよ。それにこっちへ帰る途中で、馴染みの装具屋さんが卸してもらったって言ってたの」

 これとこれね、とラキュースは首飾り(ネックレス)腕輪(ブレスレット)を取りだした。

「ほぅ、こいつはなかなかの逸品じゃねえか」

 腕輪を取ったガガーランは込められた効果(魔法)を感じ取り目を見開く。

 筋力(STR)耐久力(VIT)を上げる腕輪。単品の効果量は自分が装備しているマジックアイテムより低いが、両方を同時に上げられる物はそうそうお目にかかれない。

「こっちのネックレスも凄い……遺跡に潜ってもここまでのは滅多に出会えない」

「でもかなり高そう、体でも差し出して買ったの鬼ボス?」

「そんなわけないでしょ!」

 首飾りを見ていたティア、ティナが邪推するが、ラキュースは頬を真っ赤に染めながら否定して値段を口にする。ちなみに彼女の装備する鎧の名は無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)と言うが今は関係ないだろう。

「おいおい、詐欺じゃねぇのか?」

 値段を聞いたガガーランが零す言葉に首肯で同意するティナたち。もっと値が張るものだと思ったのだ。

「本当よ。私も気になって聞いたらその値段はシーカー商会の指示らしいわ」

 売り値の利益は仕入れ値の五割、それがラキュースの聞いた話だった。

「不可解、売る側はいくらでも誤魔化せる」

「そうでも無いみたいよ、少しでも約束を破ったらもう二度と卸して貰えないらしいの」

 商会の卸店は既に王都だけで二桁に届くが今も贔屓にされているのはその半分にも満たない、とラキュースは付け加える。

「『儲けたいのであれば、より良いものを買っていただきたい』って強気で持ちかけられるそうよ。商魂たくましいと言うか、豪胆なのかしら」

 確実に売れる商品だからこその強気。自分たちが普段装備しているものと同じ品質のマジックアイテムを取り扱う商人ともなれば、それこそ多少の旅費を捻出しても近隣から買い付けに来る冒険者も居るだろうことは想像が容易い。

「それにしても、これ程のものをどこから仕入れているんだ?」

 この質のマジックアイテムともなれば、相当難度の高いダンジョンなどに潜ったのかと思うが商人と言うなら強さは大したことないだろうと考えをめぐらす。

 あとは、商人らしく自分たちで元冒険者でも子飼いにしているか、腕の良い職人と専売契約しているのだろうと予想を立てたイビルアイたち。

「さぁ、さすがにそこまでは聞いてないみたいよ」

 聞いても教えて貰えないでしょ、と肩を竦めるラキュースに納得する他メンバー。

 商人とはものを売り買いすることで儲け()を得る生き物。自分からその糧を教えることは自分の利益を減らすことに他ならない。

 であれば、おいそれと他人に教えることはないだろう。

「っと、話が逸れてきたわね。とりあえず、悪魔が街に潜んでいるかもってことなら少し手を分けておきましょう。イビルアイ、しばらく街の様子を見てもらっても構わない?私はこの事も含めて早めにラナーへ伝えに行ってくるわ」

「分かった、少し街を回ってみよう」

 悪魔のことは気にかかるが、今自分たちがしなければいけないのは王都に巣食う闇〈八本指〉を対処すること。

 麻薬生産所と成り果てた辺境の村々に備わった畑は焼き払ったが、奴らがこのまま手を引くことは無いだろう。

 とすればこれまで以上に警戒されてしまうのは目に見えている。

 最悪、彼らの最強戦力〈六腕〉とも遭遇する危険はあるが、人手も足りず個々に頼らざるを得ない。

 ラキュースでなければラナーへ報告も相談もできない。

 ティアやティナの隠形は悪魔退治よりも八本指対策の方が適しているし、彼女たちのバックアップに経験豊富なガガーランの対応力は必要。

 イビルアイの知恵はどこでも活躍できるが、悪魔の難度を考えると彼女であれば想定以上の相手でも対処が可能でもある。

「それじゃあ、みんなよろしくね」

 蒼の薔薇、王国でも数少ない最上位冒険者。彼女らの足はまだまだ止まらない。

 

━━━━━━

 

「やはり、悪魔が街に入ってきている……なんの目的だ?」

 ラキュースたちがそれぞれ行動を開始してから数日、イビルアイが街を回ったところ悪魔の影をかなりの数確認できた。

 それも普通の街ではありえないくらいに。

 〈影の悪魔〉級の悪魔が一体、それより低位の悪魔が三体、気配だけなら十回は超える。今まで当たり前に住んでいた側からすれば耳を疑う出現数だ。

「これは改めてチームで共有した方がいいな」

 一体一体は彼女にとって大したことない。だが戦っても即座に撤退を選ぶ辺り、なにか目的があって行動していることは明らかで、イビルアイも徐々に彼らの目的の方へ意識が傾く。

 近くに悪魔の気配がないことを確認したイビルアイは急ぎ宿へ戻る頃にはラキュースも王城から下りて、ドレスから冒険者としての装いに着替え終わっていた。

「どうやら、そっちも終わったみたいね」

「あぁ、だがあまり良くない状況だ」

 さすがに揃えた情報の重要性から集合してから話すには遅いと判断したイビルアイは席に座りつつ話し始める。

「ココ最近の悪魔の出現頻度は異常だ。しかも、こちらの一当てにすぐさま逃げに徹する。組織だった行動まではまだ確認できていないが、おそらく横か縦の繋がりはあると私は睨んでいる……━━」

 ━━しかも相当な上位者がいる、とイビルアイが含んだ言葉をこれまでの付き合いから読み取ったラキュースは息を飲む。

「単体でアダマンタイト冒険者に匹敵する強さの悪魔を複数従える存在……そんな存在がいるなら━━」

 ラキュースの最後にこぼした言葉は決して恐怖に支配されたものではない。

 

━━恐ろしいわね、でも私は戦う。

 

 瞳に意志の炎を携えたラキュースへ強く頷き返す。

 その姿に、『人間の素晴らしさは「勇気」の素晴らしさ。勇気とは恐怖を知り、我が物とすること』と十三英雄のひとりが謳ったことを思い出すイビルアイだが冷静な部分は口を開く。

「だが、相手の狙いが分からない限り後手に回らざるをえない」

「そこが問題よ、イビルアイはなにか心当たりがない?」

「ないが……、いや……もしかしたら、ラキュース街の地図はあるか?」

「ええ、一応」

 八本指の拠点が王都にもあるだろうと睨んでいたため、街内を詳しく描いた地図を取り出す。現在の町並みと異なる部分も多いが、土地勘で十分補える。

「確か最初は……次は……」

 イビルアイは手持ちの小袋から小石をいくつか取り出し、地図の上に並べていく。

「やはりだ……、こいつらは人の集まる場所、特に物流の集中してる場所を中心に回っている。それなのに人を襲う様子こそなかった、探し物を優先しているのか?」

 表通りや冒険者の集うバザー、商会の多い通りに大きな宿屋など人も物も、頻繁に出入りする場所が多い。しかも徐々に王都の内側に入り込んできている。

(おそらく、オーガミに憑くか、影を利用して探し回る予定だったのを私が見つけたからか……)

 奴らも自分たちを感知する存在に気づいたが故に増援を送ったに違いない。イビルアイは自身の浅はかな行動が厄災の笛の音を鳴らしたような気がして、奥歯を噛み砕かんばかりの力が篭もった。

「奴らの目的は物か人……それら両方かもしれん」

「つまり悪魔は探しもののために王都の奥深くまで入ってこようとしてる可能性が高いってこと?」

「おそらくは、だ……。これ以上は直接聞くしかないだろう」

 悪魔に聞いて答えが返ってくるかは知らん、とばかりに投げやりなイビルアイ。大量にシモべを使ってまで探すものが何なのか、それともそれ以外なのか、これ以上は予想すら立てられない。

 ラキュースは歯がゆい思いをしながらも気持ちを切り替える。イビルアイが予想以上に大きな情報を持ってきたことでこちらも端に置いていた問題に向き合う。

「とりあえず、そっちの詳しい話はまたみんなが来てからにしましょう。こっちも結構大きいわ」

「王女のところで何かあったのか?」

「ええ、クライムがあなたの話していたオーガミと街でばったり出くわしたみたい。その時に八本指に睨まれたから違法娼館や彼らについての情報を集めてたらしいわ」

「あの、馬鹿は!」

 何をすれば裏稼業の人間に目をつけられるのだと頭を抱えるイビルアイ。そんなことになれば商売どころではなくなるのは子供でもわかるだろうに。

「どうやら、商会の噂を聞いた八本指が荒い手口で脅迫してきたらしいの」

 聞けば状況証拠にも満たない情報だけで罪をでっち上げられたとのこと。

 それでもあまりにお粗末すぎるやり方にイビルアイの冷静な部分から疑問が口に出る。

「八本指がいくら大きい組織でもそれは強引すぎないか?」

 八本指は確かに大きな組織だ。その根の先は正しく貴族のところまで伸びて養分を吸っているのは少し調べれば簡単に掴めた。

 改めて国の腐敗がいよいよの所まで進んだことへ老いても座り続けるしかない王に内心で舌打つが、だからと言って彼らの思い通りに行く訳では無い。

「これはその話を聞いたラナーの推測だけど、その、……彼らが目をつけられたのは私たちのせいでもあるらしいわ」

「……なんだと?」

 ラキュースの言葉にイビルアイも思わず聞き返してしまう。

「八本指の麻薬生産場を潰して回っている私たちを炙り出すためみたい。もちろん、シーカー商会が貯め込んだ物や金を搾り取るのが主だけど、彼らから私たちへ情報が流されてると思われたんだわ」

「なっ!?」

 自分たちとの関係を疑われたのがオーガミの狙われる理由だと聞いて驚きに立ち上がるイビルアイ。

「彼らは関係ない!助けた、助けられたの関係だ!」

「それでも、現に巻き込まれてしまったわ」

 仲間の善行が誰かを苦しめる大悪行を引き寄せるとは思わなかったラキュース。

 冒険譚の英雄に憧れ飛び込んだ世界は想像よりも夢の無い部分は多く、しがらみによる動きずらさを感じ歯噛みすることも多いが、それでもなお手を伸ばしてきた。

 助けられなかった人はいても、自分たちのせいで善良な民草が不幸になるとは思わなかった彼女にしてみれば親友の言った推測は認めたくない気持ちが強い。

 だが、親友の言葉はそれを認めてしまうほどの言葉だ。

「『あなたたち(私たち)は証拠を残さなすぎた。そんなことができるのはこの国でも指折りに数えられてしまう。そんな人を目で追った先に甘い香り漂う果実が、簡単に採れる位置にあれば手を伸ばしてしまうのが彼ら(八本指)でしょう?』」

 自分たちが八本指の活動を妨害しているとバレなくても、それができる集団だと認識されている。

 直接会ったことのないがこうして調べ始めて知った実力者集団である六腕を自分たちが警戒しているように、相手もまたそうしていたのだろう。

「私が……考え足りず行動したばっかりに……」

 イビルアイはラキュースが見たことないほど動揺している。

 一体の悪魔を退けた結果、大量の悪魔を呼び込み、知り合いを王都の闇に蹴落としてしまった。

 悪魔に関しては間違いなく良いことをしたはず。あの段階で気付かなければ、より多くの犠牲者が出ていたかもしれない。少なくとも悪魔による被害は表立って起きていないのが証拠となるだろう。

 しかし、八本指に関しては運が悪かったとしか言い様がないこと。

 悪魔が取り憑かなければ、蒼の薔薇に関わらなければ、彼らの行動がもう少し大人しければ、たらればを気にすればキリがないとラキュースはお腹に力を入れる。

「起きてしまったことを悔いても意味は無いわ、イビルアイ。これからどうするか、それこそが大事だってあなたはわかるでしょ!」

 ラキュースの発破にイビルアイは思考の袋小路から抜け出す。

「そうだな、忘れていたよ」

 暗がりの先に光を見つけて項垂れた頭が持ち上がる。止まった思考が再び歩き出し切り替わる。

 

「ならみんなが戻ってきたら早速作戦会議よ!ラナーからの情報にも進展があったの」

 

 幾多の思惑と思惑は複雑に絡まり合い、王都と言う盤上で混沌を形成していく。

 

 

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