【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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16 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

 ナザリックでの会議は無事終わり、合図があるまで自由行動を言い渡された炎ぺらーはセバスたち王都組を連れて拠点へと帰った。

 デミウルゴス主導の━━炎ぺらーから譲ってもらっただけと思っている━━作戦が如何様でも、作戦後に王都でやることはない。

 拠点の警護をしていたシモベたちは炎ぺらーにそれぞれ労いの言葉をかけられ、平時と同等の警戒度へと戻る。

 炎ぺらーの脳裏に浮かぶのはこれからの事。

 時間となればセバスとソリュシャンはデミウルゴス主導の牧場が稼働開始とのことで必要物資として、麦などの大量買い付けに回らなければならない。

 屋敷も買ったばっかではあるが残しても意味が無いため、引き払えるよう片付けなければならないが、そちらはまだ数日猶予がある。

 ここにいないメンバーでいえばモモンガたちエ・ランテル組は冒険者活動、アルベド&デミウルゴスは日常業務の傍ら作戦への各自調整で多忙を極め、シャルティアはナザリックの防衛、コキュートスは()()()()()()()()()()()()()

 ほとんどの必要業務もシモベが処理してくれるため、ある意味余裕があるのは炎ぺらーくらいかもしれない。

 なお、守護者はこの世界に来てからかつてないほどの仕事を任され、むしろやる気が天元突破していた。

 仕事があるほど嬉しいとはブラックここに極まれりである。

 王都の朝は早く静かだが、日の出すらまだ早い夜の帳で蠢く気配に気づくものは居ない。

 

━━━━━━

 

「おはよう」

「おはようございますオーガミ様」

 日の出と共に起きてきたツアレが慣れないながらも恭しく礼をする。

「ツアレ、これから少し真面目な話がある」

「真面目な話……ですか……?」

 柔和な笑みしか見たことのない━━初めて出会ったときのような━━オーガミが強い意志の灯った瞳と真剣な表情で話しかけてきたことに目を見開くツアレ。

 着いてきてくれと言うオーガミの後を固い動きで追ったツアレはリビングへと迎え入れられる。

 そこにはセバスとソリュシャンがふたつ並んだ豪奢な椅子を挟むように立っていた。ついでにその対面でかなり疲弊し強ばった面持ちのままオーガミたちに振り返るブレインも居た。

「お嬢様……?」

 セバスはいつも通りの執事服だったが、ヘローナとしてのソリュシャンしか知らないツアレはいつも見ている毎日違うドレスとは全く違う装いに戸惑いを隠せない。

 何度か着替えを手伝った時に見た美しい肢体を惜しげも無く魅せる、肌に吸い付くような曲線を描く丈の短い━━ツアレの知識にないボンデージの意匠が込められた━━黒いエプロンドレスに厳つくも機能美と造形美を兼ね備えるレギンス(金属具足)

 なにか別の職業を兼ね備えたメイド、そんな印象をツアレは受けた。

 思わぬ事態に呆然とするツアレもソリュシャンの前を横切って、片方の椅子へと座り足を組むオーガミに忘我の彼方から帰ってくる。

「お、オーガミ……さま……?」

「とりあえず座ると良い、ツアレニーニャ」

 愛称だったのを本名で呼ばれ、大きく肩が跳ねたツアレは心に小さくないトゲの刺激に思わず手を胸元で組みながらも促された長ソファーへと腰をかける。

「あ、あの……オーガミ様。私なにか粗相を?」

 突然の事に戸惑い、俯きながらも時折オーガミと目を合わせて聞いてしまう。

「粗相なんてしてないよ、……ただこちらの事情が変わってしまって()?」

 かぶりを振ってから変わったオーガミ……否、炎ぺらーの気配をツアレは敏感に感じとる。

「まずは……オーガミは仮の姿でナ、本当は炎ぺらーっていう━━」

 顔を手で覆いズラせば、

「━━異形の者ダ」

 青く燃える炎の(かお)が現れ、姿も煙のように解けて完全に本来の姿を取り戻す。

「「━━ッ!?」」

「まぁ、驚くだろうネ」

 飛び上がるように椅子から立とうとしたブレインが腰を浮かせるも、再び深く腰かける。

「あら意外、ブレインはもっと激しい反応すると思ったンだけど」

「……確かに師匠に会った頃ならビビり散らして逃げたな、でも不思議と今はそんな気が起きなかった」

 それにしては浮き足立ったヨな?誰だってそんだけ強い気配が急に出てくればヒビるわ。とからかいつつも炎ぺらーは━━青い焔の━━眼を楽しそう細める。

「んで、わざわざそれを拝ませてくれたのはなんでだ?」

「ん?あぁ、そういやそうだった。オレたちは直にこの街を離れるんだが……まどろっこしいのは苦手ダ。単刀直入に言うブレイン……それにツアレニーニャ、お前ら人間の世に戻レ」

「はぁ!?」

 今度こそ立ち上がったブレインは肩を怒らせる。

「そりゃねぇよ師匠!俺はまだアンタからなんも教わってねぇ!どうしたらそんな考えになるんだ!?」

「師匠と呼ぶなと……まぁ、アレだ。これでもオレはお前らのことそれなりに気に入ってンだ。だからこそ、バケモンの傍よりはどっか田舎でのんびり暮らす方がマシな死に方すんだろうナって考えたんだヨ」

 頬をかくような仕草をしながら目を逸らす炎ぺらー。

 事実、炎ぺらーはかなり情を移している。ツアレに与えた服はナザリックメイドの物と同じもので最古図書館(アッシュールバニパル)から用意するのに自腹を切ったし、ブレインにも暗視や盲目耐性など複数の視覚阻害を無効化するお守り(タリスマン)を与えている。

「お前たちが思うほどオレは善良なモンじゃないし、ヒトデナシだ。ブレインは武技が使えるから生け捕りにしただけ、ツアレニーニャは偶然が重なった結果。同じ状況が起きても次はない」

 炎ぺらーが軽く指で机を叩くといつの間にか巾着が並べれている。

「白金貨が二十枚、贅沢しなけりゃそこそこ暮らせるだろう……、だから━━」

「い、嫌、ですっ」

「━━ツアレ……」

 静かに、しかし、確かな拒絶の意思を感じさせる彼女の一言に思わず炎ぺらーは言葉を詰まらせた。

「オー、……炎ぺらー様に拾われるまで私は地獄にいました。貧しい村で毎日お腹を空かせたまま畑を耕し、それでも貴族は私たちから色々なものを奪っていく。その上私は望まぬ先に連れて行かれ、飽きたら“あんな場所”へ放り込まれおもちゃのように、殴られ蹴られてきました」

 声音は決して強くない、だが一言一言の重さは彼女の短い人生の中でどれだけの比重だったかを物語るようなもので誰も言葉を発せない。

「でも、ここは……炎ぺらー様の側は違います。温かい食事をお腹いっぱいに食べられ、寒さに震えず眠ることができて、綺麗な服も頂けました。セバス様はお優しく、お嬢様は叩かない、ブレイン様も怖がる私に気遣ってくれます。炎ぺらー様は……オーガミ様としての()()でも私にすごく優しくしていただきました」

 炎ぺらーは確かに見せかけの紳士だったのだろう。温かい食事も、ふかふかのベッドも、体調を気にかける気遣いも。

 だが“オーガミ”の見せかけ(それ)にどれほど救われたのかはツアレだけが知ることで、誰であってもわかるなどというのは烏滸がましい。

「だから……炎ぺらー様のそばを離れるのは……嫌です」

 炎ぺらー相手でも吃っていたツアレとは思えない強い言葉に、炎貌に浮かぶ目のような灯火が瞬きするように揺らめかせる。

「人間風情がっ!」

「止めロ」

 至高の御方の慈悲を無下にする愚か者に思わず唸るような声を上げたソリュシャンを静止した炎ぺらー。

「……ブレイン、お前もカ?」

 

「あぁ、俺も━━」

 確かにブレインは炎ぺらーをただの人間だと思っていた時もある。

 だが、短い時間とはいえ認められていなくとも彼は炎ぺらーを師として仰ぎ見ていたのだ。

 身振りや素振り、絡んできた酔っ払いを()()()たりと親鳥について行く雛鳥のように、彼の動きや考え方を学んでいけば自ずと見えてくるものがある。

(どこをどう見ても師匠の強さを俺が手に入れられねえのは分かっちまった。上限(うつわ)が足りないっ、だけど、それなら俺は俺なりにアンタの強さを見て強くなる……強くなりたい!俺ァもう、アンタって()に誘われる()みたいなもんだ。だが、蛾にだって(ガゼフ)に負けねえ()()()を飛べるんだ!)

「━━俺もアンタについて行くっ!」

 ブレインの頷きに炎ぺらーはそうか、とだけ返し天井を向き一秒、二秒、三秒、……数えること七秒の静寂の後、目の前のふたりへと向き直る。

「分かっタ、なら二人にはこれからも着いてくることを許そう」

 繰り返すがどんな死に方しても責任もてねぇゾ?と締める炎ぺらーに思わずツアレとブレインはお互いに顔を見合わせて安堵した。

「ってことなら、挨拶しなきゃならんヒトがいるナ」

 炎ぺらーはこれ見よがしに目の前で《伝言(メッセージ)》を使って()を呼ぶ。

「さて、相手は一応オレの上司だ。あんまり粗相はすんナよ?」

 上司という言葉にふたりは顔を強ばらせ、時を待つ。すると、闇が生まれ、中から豪奢な服で着飾った骸骨が現れた。

 

 死者の気配と漏れ出す強大な魔力。

 

 〈骨の魔法使い(スケルトン・メイジ)〉、

 否〈死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)〉、

 否々!目の前の存在はその程度では収まらない

 

 

━━《死の超越者(オーバーロード)》。

━━人間種風情が至れぬ極点。

 

 

 ふたりは立って迎えようとしたはずが、椅子に座り直していることにすら気が付かないほどに目眩う。

 

「モ━━アインズさん、抑えて抑えて。普通にレベル差ありすぎて彼らやばいカラ」

 

「む、そうか、アルベドたちに最初が肝心と言われたんですが……」

 

 指に指輪を通すと急速に収まる絶対的な死の気配。

「驚かせたようだな、私が彼の友人で立場上、上司を務める“アインズ・ウール・ゴウン”だ。これから顔を合わせることもあるだろう、覚えておけ」

 その御名(みな)を二人は決して忘れないことを心に誓い、何とか戻った呼吸を整える。

「……ふむ、()()()()()。女、名前はなんと言う?嘘や偽りなく名乗るがいい」

「つ、ツアレ。ツアレ()()()()……です」

 眼窩に灯る妖光に身をすくめながらも、舌をもつれさせても何とか名乗ったツアレ。

「なるほど、ツアレよ。詳しくは話さんが、私は君に少しばかし返す恩が生まれた。全てとは言わんが君の要望を私の名(アインズ・ウール・ゴウン)に誓って叶えよう」

 圧倒的上位者からの思わぬ言葉にしばし忘我するが、炎ぺらーという存在を先に知ったからかその時間は短かった。

「でしたら、……オーガミ様、いえ炎ぺらー様のお傍に居させてください。私の望みはそれだけです」

「ほう、誰かに会いたい、例えば()()()()()()……そんな存在が居そうだったのだが、勘違いか?」

「っ!?……確かに私には妹がいました。ですが、炎ぺらー様に会うまでの過去は私にとって忘れたいことの方が多いのです。妹の存在は気になりますが、今はただ……自分の心を守るだけで精一杯です……」

 力なく椅子から滑り降りて這いつくばるように身を屈め、祈るように両手を組むツアレ。

「なるほど、了解した。炎ぺらーさん、彼女の扱いは?」

「あー、うん、とりあえずナザリックで研修を行ってもらうようにペストーニャと相談はしてたっス」

「では、それ以後はなるべく彼女と行動してください。ギルド長命令です」

「あっ、ハイ。了解しましタ」

「では、私は戻りますから。あとのことをよろしくお願いします」

 言うが早いか再び生みだした闇に飲まれていく超越者。

 恭しく見送るセバスとソリュシャン。首を掻く炎ぺらーと何も発言ができないツアレとブレイン。

「アー、そしたらこっからは作戦の説明ダ」

 何とか凍った空気を温めるため炎ぺらーはさっさと話を切り出す。

「作戦?」

「オレらは八本指に目をつけられたからナァ?━━」

 炎ぺらーは感情の読みずらい炎貌であるが、

「━━誰に(ガン)くれたのか狂犬にもわかるように躾てやらねえと、ナ?」

 あくどい笑みを浮かべる。

 

━━━━

 

「やってくれたな……」

 書かれた内容を理解するとオーガミは手に握った手紙を握り潰す。

 街を離れることが決定したことで様々な物資を買い集めに街中を回って帰る数日。

 買いすぎて必要分以上の揃った麦やらなんやらをナザリックに運ぶ準備を練って帰宅したのだが、空き巣に入られたように荒らされた拠点からは人の気配がしない。

 五人の内、セバス(タッチ)ソリュシャン(ヘローナ)は貴族や大手商会の元へ、炎ぺらーは卸売をしていた商人の所へ、ブレインも自身の買い物に屋敷を離れた。そして、屋敷の整理のため残っていた者は……。

 手紙に書かれていたのはツアレを攫ったこと、そして彼らの開く“パーティ”へと招待する旨。ご丁寧に羊皮紙ではなく、貴重品の紙を使うあたり相手の顕示欲がよく出ている。

「━━とまぁ、本来ならなるんだろうナ」

「その通りでございます」

 オーガミとしての顔で口角のみを歪に持ち上げた炎ぺらーににこやかに答えるデミウルゴス。

「そっちの首尾は?」

「滞りなく進んでおります」

「ふむ、オレの役割は何カナ?」

「炎ぺらー様はご随意に……心のまま、行動していただければ」

(それでも方向性くらいは欲しいんだよナァ)

 結局どんな役割を与えられたのか分からないまま今を迎えた炎ぺらーは不満を飲み込む代わりに長い息を吐く。

「んじゃ、行くぞ、セバス、ブレイン」

「はっ!」

「おう!」

 恭しく頭を垂れるデミウルゴスに背を向け散歩に行くような足取りで外へと向かう。

 ブレインに合わせた━━彼以外にとってはそれこそ小走りにも満たない━━速度で最短の道を駆ける三人は大きな門が見えてくるが、そこで先頭の炎ぺらーに合わせ彼らは足を止める。

 門が見える影に覚えのある気配を感じ近付けば、金属鎧の少年が門を監視するように潜んでいた。

「君は…………」

「っ!オーガミ様!ブレイン様も……」

 黒い鎧を装備した少年『クライム』は声をかけられるまで気が付かなかったのか、炎ぺらーたちを見て驚愕した。

 炎ぺらーはオーガミとしての仮面を被り直しクライムと目を合わせる。

「私たちは彼らに招待されまして、クライム君は?」

「私達は八本指の施設へ突入するために……」

 時間が無い中、簡潔に話を聞くと彼らは協力者たちと共に複数ある八本指の施設へ強襲をかけていて、クライムたちは目の前の炎ぺらーたちが呼ばれた施設への突入に向けて偵察中とのことだった。

「ああ、今駆け寄ってくる人がそのお仲間ですか」

「っ!!?お兄さん凄いね、《透明化》してる俺を見つけるなんて」

 元オリハルコン級冒険者で現レエブン侯子飼いの『ロックマイアー』は即座に透明化を解除し両手を上げて降参する。

「その様子だと中の様子を見てきたようですね」

「ああ、……中には女が捕らえられていて、広場には六腕のうち五人は揃っていた」

 炎ぺらーの質問にクライムの目配せを受けてから答えるロックマイアー。

「なるほど、では不躾ですがこの二人とともに人質の救助に向かって貰えますか?」

「なっ!?それではオーガミ様がお一人になられますが!」

「心配ありません、それに向こうとしてもその方が好都合でしょう」

 確かに炎ぺらーが酔っ払いに絡まれてた時にクライムの前で見せた力の一端だけでは、彼ら基準で強者を5人も相手させるのに不安もあるだろう。

「お願いしますね」

 だからこそ炎ぺらーは柔和な笑顔だけを向けて、()()()()()()()()()()()()()()()()()クライムにこれ以上否と唱えることをさせず、一礼して門へと向かった。

 

 

 

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