【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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16.5 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

 “今日の演目”を聞いて浮かれるスタッファン・へーウィッシュが八本指の所有する施設のバルコニーでそれなりの酒を片手に階下の広間を睥睨した。

 夜の帳は降りきり闇が懐を広げ、バルコニーからでは影に溶けて詳しく把握できないが━━“八本指”の警備部門やその他部門で仕事や要人の警護を担当している━━大勢のならず者たちが揺れる灯りに照らされ視界に映り込む。

 演目のため焚かれた篝火がそこかしこに点在し、特に中央は多く焚かれ、薄暗くもぼんやりと輪郭のわかる壁際とは違い煌々と全容を顕としている。

(はっ、照らされてる舞台に群がる様はまさに下民(むし)に相応しいな)

 囲いとそのまわりに群がった下々、そしてそれをバルコニー()から眺める優越感をスタッファンはワインと共に嚥下した。

 下に居るどいつもこいつもスタッファンにとって把握する必要も無いと切り捨てる程度のクズどもだが、その中でも存在を認める人物たちが居る。

 篝火で区切られ照らされた“処刑場”に自然体(呑気にしか見えない姿)で相手が来るのを待っている複数の影、八本指が誇る屈指の強者集団“六腕”。

 彼らは一人一人がアダマンタイト級冒険者に匹敵する強者で、その上この場には四人も揃っている。

 たとえ実力があると噂の王の寵愛を受けるだけの平民(ガゼフ・ストロノーフ)でも相手をするのは厳しいだろうとスタッファンは考えていた。

 そんな対戦カードの相手はあの新参の生意気な小僧。

 

 結果は()()()()()()()()()で、まさに蹂躙劇(ショー)

 

 もうすぐ、始まる演目に思いを馳せつつも、できるならやつがボコボコになるのに合わせて、金髪女を殴りながら眺めたいと不満を覚える。

(そういえば、このスタッファン様が手元に置く玩具として()()()()()()()()()()()を持ってたシーカー商会の小娘は“具合”が良さそうだったな。ちっ、()()()()()()()()()()()は居なかったから違うのを相手にしたがつまんない反応だったし、八本指め質を下げやがって)

 無聊の慰めに小僧がズタボロになった後、商会の小娘に相手させる妄想して(予定を立て)喉を潤す。

 そうして杯を半分ほどまで空にしていると下で動きがあったのか薄暗い暗闇の中でも微かに見える影が明かりで区切られた舞台に出てくる。

 南方の服と思われる━━スタッファンにとっては業腹なことだが、自分のモノよりも━━仕立ての良い服を着た痩せ型の青年オーガミ(炎ぺらー)だ。

(はははっ、ビビり散らしているじゃないか!いい気味だなぁ!)

 スタッファンの知る薄気味悪い笑顔を貼り付けることなく、酷く感情の薄い表情をスタッファンは怯えと読み取り目を輝かせる。

(そうだ、やつをボコボコにしろ!おれをせいぜい楽しませろ、クズども!それくらいしかお前らに生きる価値はないんだからなぁ!)

一匹(ひぃ)二匹(ふぅ)、……四ですか、六腕と聞いたのでてっきり六だと思ったんですが」

「ふふふっ、あんた程度に全員でなんてそれこそ面白みがないじゃない」

「少しぐらい手加減してやらないと、可哀想になるからな」

「……ただ切り伏せるだけでは示しもつかん」

「せいぜい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「地獄に、不死王ねぇ……()()()()()()。せめてこいつが落ちるまでは持たせてくれ()

 懐から取り出した白金貨を指で弾いた。

 どうやら劇の前としてはまずまずの口上、と普段吟遊詩人(バード)の詩すら下賎の雑音と言って聞かないスタッファンは空になった杯を掲げ、次の物を催促する。

━━パシュン━━

 杯を受け取りながら果実が割れるような音に下を見るとそこには頭のないローブ姿の異形(不死王を名乗っていた六腕の一人)に蹴りを放った姿勢で止まる青年の姿が移った。

「はぁ……?」

 それは誰がこぼした疑問の吐息だったのだろう。だが、誰のものでも構わない。なぜなら、その場にいる全員の気持ちを代弁したものだったのだから。

 青年は感情の灯らぬ目を崩れる六腕のひとりだったもの(デイバーノック)から近くにいた者へ捉え直すと、次の刹那には青年の貫手がその無骨な鎧を背中まで突き抜け一秒もせず全身鎧の六腕(ペシュリアン)()()()に包まれ腰ほどの高さの二本柱を残し燃え尽きた。

「う、うわぁあああ!」

 煌びやかな服装の六腕のひとりである青年(マルムヴィスト)は漸く動き出したと思えば腰のレイピアを抜き、彼の人生で最も速く放ったと見る者にすら感じさせる背後から心臓への一刺しを放つ。

 尤も、その一撃は心臓どころか服にすら触れることなく近づいた端から煙のように溶けて、その事に気付いた彼は呆けたような表情のまま、腕から侵食されるように全てが炭に置き換わり動かなくなった。

 その様に見向きもせずこの場で生き残った六腕の女(エドストレーム)は《舞踊(ダンス)》の魔法のかかった全ての三日月刀(シミター)を自在に動かし青年へと強襲させる。

 自身は守りを固めるつもりなのか一歩、後ろに下がろうとするも……。

「あっ」

 いつの間にか背後にいた青年とぶつかって、コロリと首から上が地面に落ち、その顔はただただ疑問に固まったまま虚空を見つめた。

「落ちる前に終わったカ」

 先程弾いたであろう白金貨を地面へ落ちる前に手の中に収める青年。

 

 静寂。

 

 パチパチと弾ける火の音が聞こえるのに、まるで忽然と人が居なくなったかのような静けさが場を満たす。

 なにをした?なにをした?なにをした?なにをした?なにをした?なにをした?なにをした?なにをした?なにをした?

 

 あの青年(バケモノ)はなにをしたんだ?

 

「ハロー、スタッファン殿?」

「ひぃい!」

 意識の空白、忘我のすき間、戦士ですらないスタッファンの多大な認識外から現れたのは下で暴れていた青年。

 思わず浮き足立った弛んだ体がテーブルやイスを弾き倒してしまい、寧ろ青年との障害物を取り除く結果となる。

「き、貴様!私に手を出してみろ!その時はあの娘も一緒に━━」

 そこから続く言葉を発する前にスタッファンの視界は暗闇に覆われる。

「ほーん、で?()()()()()()()

 唐突な浮遊感の後、足を引っ張られるような感覚に首が悲鳴を上げる。

「あが、あががががが!」

 視界を覆う暗闇の隙間、青年が万力のような力で頭を鷲掴みにされていることを足のつかない浮遊感と肥太った自重を伝える首の激痛で知ることとなった。

 声を上げるも辞める気配はなく、徐々に暗闇は青く煌めく焔になる。

 スタッファンは困惑のまま暴れた。どんな仕組みが彼は知らないが、六腕をあっさり倒した青年の炎は人を殺すのに十分な威力が備わっていることは明白。

 だがどれだけ振りほどこうともがけどもピクリともしない。それどころか青年の手は焼きごてのように顔面を焼き、あっという間に視界が煮え立ち白濁する。

「ヴヴヴヴヴッ!」

 スタッファンに幸と不幸をひとつずつ賜った。

 『六腕のように一瞬で死ぬことを許されない』不幸と、

 『そのことに気づくことなく』一度意識を手放せた幸運。

 

 

 

「あぁん、このような愚物でも至高の御方を讃える歌を歌わせてあげるなんて、至高の御方々は慈悲深いのかしらぁん」

 なお、それとは別に地獄がまだある模様。

 




クズの心理描写考えるのめっちゃ楽しい。

でも、そのクズをズタボロにするのはもっと楽しい。
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