17 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
知る気配は遠く、またこの場にないことを〈
「ではでは、皆様方はこちらから“退場”を」
耳朶だけでなく脳まで震えるような不思議な
誰も居なくなったバルコニーと下の広場を手すりに腰掛けながら眺める炎ぺらー。
「…………ほんと、人から離れたナァ」
階下の惨状を改めて見下ろした炎ぺらーはどこか空々しい響きを持った呟きを漏らした。
自分が異形になったことは理解したつもりだったのだろう。
しかし、それは“つもり”や“なんとなく”だったのだと実感したのだ。
髭面を燃やした時はほぼ無意識、《
だが、今回のはそうでは無い。
確かに炎ぺらーとしても突然巻き込まれ彼らを呪った部分はあるが、それはそれとして、彼らに恨みはそれほどなかった。
むしろ、裏社会で生きてきた彼らの人脈やこっちの社会で使い勝手の良い強さは十分利用価値があった。
しかし、一切合切灰の山へ変えても人を殺した嫌悪感や罪悪感はなく、まるで砂山を崩した程度の感覚しか残らない。
「……アイツらに言った通りの
後悔はない。だが、このまま異形に心変わりして行った時、自分は
「炎ぺらー様はヒトデナシじゃないですよ」
「炎ぺらー様は炎ぺらー様なの」
「僕たちがおそばにいます」
「悲しいこと言わないでください」
「炎ぺらー様が望むならどんなことでもします」
「「そ→だよ→」」
「うふふ、やっぱり炎ぺらー様はお優しいわね〜」
「お前ら……」
炎ぺらーはふわりと体を包む感覚に気付き周りを見れば魔燒たちが彼に抱きついている。
「ハハハ、いやはや、こんな姿になってからモテモテなんて、人生は面白いナ……」
そうだ、過去がどうであれ今この場で生きているのは炎ぺらーという一個の生命なんだと思うことにした彼は気持ちの整理を少しばかし後回しにする。
「ほれ、戻った戻った。まだまだやることはあるゾ」
『はーい!』
魔燒たちが七つの火の玉となり胸へと吸収され、まるで人間のように深呼吸をして気持ちを切り替える炎ぺらー。
「さてさて、六腕のリーダーはどんなもんカな」
散歩でもするような足取りで惨状の場を抜けた。
━━━━━━
「サキュロント、てめぇはガキの使いもできねぇのか」
六腕として名を連ねるだけの実力はあったはずだが、幻術師としても鍛錬をしていたサキュロントは戦士としての純粋な技量がそれほど高くない。
それでも
内心で切り捨てる算段を立てつつ、初めて相手に意識を向ける。
クライムは
「おや、合流できたようですね」
「……あ?」
「セバス殿!」
急に視界に現れ、警戒したが映ったのは見慣れぬ執事服の老人。
(なるほど、サキュロントが成り代わってた嬢ちゃんの確保か……運が悪ぃな爺)
「みんな集まってたの
━━すことなく、軸足を起点に百八十度回転した。
「……なんでてめぇがここに居る?」
スーツとは違う
しかし、服装なんてゼロにとってはどうでもいい。
彼の胸中を埋めるのは、六腕の半数以上を相手にした奴が無傷で自分の前に立っているのかという疑問だ。
「それはあなたがよく分かっているのでは?」
調査内容とは違う柔和さの欠片も感じさせない目にゼロは調査を請け負った部下の粗雑さに内心で毒を吐き、思考を一度リセットする。
ゼロはそこで顔には出さず閃いたものを考えた。
そもそも、コイツは六腕と戦っていないのではないか、と。
大方、しっぽを巻いてこっちに隠れてたって訳か。と何とか整合性を取り繕った結論を出して思考の端に寄せる。
「ならばてめぇから始末つけないとならねぇ」
「あの世で後悔するんだな!」
六腕最強にしてリーダーの“闘鬼”〈ゼロ〉は臆病者に見せるには惜しいと感じつつも、見せしめを兼ねて究極の奥義を放つことを決めた。
足の
刺青を媒体に発動するシャーマニック・アデプトの憑依
しかし、ゼロは研鑽を怠らなかった。
〈
その猶予の間、シャーマニック・アデプトの力を気によってまとめあげて拳に纏う。
すると肉体を変化させうる膨大な力が純然な力の塊となり、振るえば余波だけで絶大な破壊を可能とする必殺の奔流となる奥義を編み出したのだ。
「はぁあああああ!」
拳を覆う破壊の塊が肌をヒリつかせる強い気配が万能感を煽りゼロの背筋を駆け抜ける。
この力で強化された肉体を持って暴力の嵐を吹かせるのも爽快だが、一撃必殺や拳術家の極意
「喰らえ、これが俺の拳だ!」
ゼロの拳が音を置き去りにする。
━━ペシン……。
胸に吸い込まれるような拳がハエを払うかのように横から振るわれた平手の甲で逸される。
息が、時間が、場の空気が呆気に凍りつく。
文字通り渾身の一撃を羽虫のように扱われたゼロは何も考えられない中、視界が左右でズレる感覚を最後に意識を手放した。
━━━━━━
「……ギリギリのタイミングでした」
“闘鬼”と恐れられた巨漢が正中線で真っ二つになったのを見届けたあと、片脚を天井に蹴りあげた姿勢からゆっくり下ろすオーガミ。
いやいや、そんなことないだろと場の空気はそう言っている。少なくともブレインとロックマイアーはそう思っていた。
「オーガミ様、無事でしたか!」
「ええなんとか、クライム君たちもご無事で何より」
その中でも若くある意味擦れていないクライムの復活は早い。
「しかし、お話の限りだと残りの六腕は……」
「そちらも何とか撃退することに成功しました」
「なんとっ!?」
「はぁー、六腕ってさっきの幻術使いレベルの集団だろ。お兄さん強いんだね」
「運が良かっただけですよ」
あれほどの実力者、それもある程度連携までしてくる相手に、運を味方につけた程度で倒せるだけでも目の前の人物がブレイン並みの強さなのを察したロックマイアーはつくづく味方でよかったと感じる。
最も運を味方にしたというのが本当なのかも怪しく思うが、
「では我々はここで」
「はい、オーガミ様、本当にありがとうございました!」
攫われたという女を安全な場所まで送るのだろう。もしかしたらそのまま、街を出るのかもしれない、漠然と感じたクライムは短い間でも自分に強さを教授してくれた恩師に深く頭を下げる。
「私は何もしていませんよ、今こうして無事なのはあなた自身が勝ち取ったものです。自信を持ってください」
ではまた会える機会がありましたら、そう言って立ち去る彼らを見送ったクライムたち。
彼らのことは敬愛する王女にもきちんと伝えよう。
そう誓い残処理を行なうクライムとまた会う時に味方であることを切に願うロックマイアーだった。