【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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18 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

 イビルアイはかつてない窮地に立たされている。

 八本指の複数ある拠点への一斉検挙。大規模な作戦、緻密に練りたかったがラナー王女が言っていた通り、拙速だろうと今は速度を重視しなければ八本指はまたどこかへと隠れてしまう。

 故に規模に対して少ない人数ながらも組み分けを行ったのだが、急遽追加された拠点に赴いたガガーラン、ティナの二人。

 そこで見つけたのは屋敷全体を包む謎の植物と女給仕の姿をした異形。

 人間の腕だろうものを食べていた女性異形を認めて交戦する二人。

 かなりの強敵らしく、二対一でありながら劣勢に追い込まれたところへ駆けつけたイビルアイ。

 イビルアイにして、自分と同等の力を持つ相手に3人がかりで瀕死まで追い込んだ。

 勝因として過去敵対した虫系堕ちた従属神(魔神)対策で編み出したオリジナル魔法《蟲殺し(ヴァーミンベイン)》と相性が良かったことや相手が慢心していたことが大きい。

 しかし、その勝利もあっという間に覆された。

 邪悪な蝙蝠を模した仮面、動きやすさを重視した黒い軽装鎧。

 その上から赤いジャケットに袖を通し、四肢も赤い篭手具足までしている悪魔。

 強大な気配に身動きの取れないイビルアイたちは女性異形が撤退するのを見逃す他なく、それを見送った悪魔は禍々しい様相からは驚くほど紳士的に名乗った。

「初めましてお嬢さん、私は〈ヤルダバオト〉。部下が世話になったようだね?」

 “国堕とし”と呼ばれたイビルアイですら直感した、あれはヒトの相手にできる存在ではない。

 丁寧な言葉から滲み出す悪意と敵意、声を張ることも無い務めて平坦な口調故に余裕が見られる。

 仲間に後退を指示したが、禍々しい紋章がヤルダバオトの足元から浮かび上がって地を滑り、ガガーランとティナの下まで移動すると強烈な魔力によって消し炭へされたことで意味をなさなかった。

「おや、失礼しました。()()()()()()()()()()()()()()()、どうやらお仲間はそこまで強くなかったようですね」

「貴様ァ!」

 冷静を保とうとした最後の理性が怒りに染まり、イビルアイは全力の魔法を叩き込む。

 魔力にも物理にも有効な結晶の槍が降り注ぐが、呆気なく手振りひとつで無力化され、冷静さを少し取り戻すが次の瞬間目の前に現れたヤルダバオト。

「では、さようなら」

 翳された手がイビルアイに伸びる。ゆっくりな動作に見えるのに彼女の体は動かず呆然と立ちつくす。

 しかし、翳された手は相手が体ごと遠ざかり彼女に触れることは無かった。

 代わりにヤルダバオトのいた所に深深と南方の武器〈(カタナ)〉が突き刺さっている。

「大丈夫ですか?」

 イビルアイは自分の肩を抱くオーガミ(炎ぺらー)に気付き、さらに体を硬直させた。

「オーガミ……何故っ、危ない!」

「〈悪魔の諸相:鋭利な断爪〉!」

 こちらを覗き込む彼に状況も忘れるが視界の端にただでさえ尖った爪を能力で強化したのか、さらに研ぎ澄まし突き刺そうとするヤルダバオトに気付く。

 反射的に声を上げるが━━

「問題ないですよ」

 ━━事も無げに避けたオーガミにまたも忘我へと陥る。

「この程度では掠りもしませんかっ!」

 イビルアイでは決して避けられない確殺の刺突を、ダンスでも踊るような動きでイビルアイを抱いたまま避け続けるオーガミ。

 更には相手のスキをついた大振りな蹴りをあえて避けさせることで大きく距離を空けることにまで成功させた。

「お見事!ぜひ名前をお聞かせ願えますか?」

「オーガミ、……今は可憐な花を守るひとりの男。それで、あなたの目的は?」

(なんだっ、今オーガミと目が合った時、動かない心臓が跳ねたぞっ!?それになんでこんなに心が乱される!や、奴の顔がまともに見れないっ!!)

 心からの賞賛をあげるように両手を叩いて余裕を見せるヤルダバオトへ、一瞬視線をずらし芝居がかったニヒルな表情で返すオーガミを見てイビルアイは自身の変化に戸惑う。

「私ヤルダバオトの目的は、この街に流れた我々を召喚するアイテムの回収です」

「こちらで見つけるのは?」

「信用できませんね」

「だろう()、争うしかないのか?」

「残念ながら、それでは参ります!」

 再び爪による猛攻へときに身を捩り、時に片手で構えた刀で弾く。先まで見せたダンスのような流麗さから最小限の挙動で防御する姿勢へと変化した。

(オーガミ、私を庇って……)

 しかし、神業じみた動きでも相手に対して劣勢に追い込まれていく。片手に抱かれたイビルアイを半身になることでできる限り距離を保つが、それ故に片手で対応せざるを得ない。

 せめて全身鎧(フルプレート)のような強固な物であれば受け流しも可能だろうが現状言い出しても詮無いことだ。

 倍の攻め手に徐々に押され、袖や二の腕に幾条の切れ目が入り始める。

 刀も一撃一撃受ける度に浅くない筋を残し、ついには半ばで斬り飛ばされてしまう。

「これで終わりです!」

「いいや、まだだっ!」

「うひゃぁっ」

 渾身の爪突をあえて踏み込むことで回避し、掻き抱くようにイビルアイを胸元へ寄せながら、前方に倒れ込むように上半身を屈ませる。

 必然と胸に顔をうずめる形となった彼女は一瞬で血流が復活したかのように全身が熱を帯びる錯覚に陥るが━━。

「《火精付与(エンチャント・イグニス)》!」

 ━━自身の背後に突如として現れた高熱に温度の存在を思い出す。

「っ!ぐっ!」

 今までの比ではない、警戒を色濃く窺える距離を離したヤルダバオト。

 胴体へ袈裟懸けに描かれた軌跡がいまだ熱を帯びて煙を上げている。

「この私に一太刀……オーガミ殿、その名良く覚えておきましょう!しかし、私にも探さねばならぬ宝がある、ここは引かせていただきます。これより街の一角を悪魔の炎が覆う!それでも追うと言うなら、闇の牙がその命を啜り取るでしょう!」

「ま、待っふぇひぁ!?」

 咄嗟に追おうとするも肩を掴むオーガミに驚き素っ頓狂な声が上がったイビルアイ。

「ふふふ、オーガミ様は良く分かっておられる。このまま追えばどうなるかを……、炎が天高く伸びる時にまた会いましょう!ではこの場は失礼いたします」

 最後まで余裕を崩しきられず空へと逃げ去っていく。

「オーガミ、なぜヤルダバオトを逃がす!?このままでは奴によって街が……」

 イビルアイが振り返ると、彼の持っている刀を包んでいたであろう炎が霧散する。

 その中心にあった刀もただの炭の塊となり、ボロボロと崩れさった。

「やはりこれでは一太刀が限度でしたか……」

 ヤルダバオトがいなくなったタイミングで良かった。と苦笑いするオーガミ。

「お前のそれはなんだ?」

 外見と釣り合わない長き時を亘ったイビルアイの魔法の知識を持ってしても、類を見ない種類のものだった。

「《火精付与(エンチャント・イグニス)》……火の精霊を物品に宿す魔法ですよ。見ての通り付与する物品の強度を減らすのであまり多用できませんが」

「待て、それは第4位階魔法だろ!?」

「……おや、こんなマニアックな魔法知っていたのですか」

 《火精付与》は説明通り物品に火の精霊を宿らせて強化する魔法。使い手としては《精霊使い》や《精霊召喚士》が挙げられるのだが、精霊種であるオーガミ(炎ぺらー)なら種族特性である程度の条件を緩和して取得できる。

 凡そ魔力系魔法詠唱者然としたイビルアイが知っているとは考えてもいなかったため内心で舌打ちをした。

 特異なスキルビルドの炎ぺらーとしては物品の損耗度を代償に支払うが、燃費が良く愛用していた使い手の少ないマイナー魔法。

 しかし、どうやらこの世界にも精霊使いは居たようで、イビルアイの博識さに少し驚くが表面に出ないよう努めた。

 反面、イビルアイは別の意味で驚愕を隠せない。

 普通の魔法詠唱者が覚えていて第一位階、優れた者で第二位階、優れたものが生涯をかけてようやく到れるのが第三位階。

 それ以上は英雄や逸脱者に至る才能を持つことを意味する。

 本人の意思は別として才能と時間、その両方が揃った稀有な存在のイビルアイをして第五位階まで習得しているがゆえ、難度150の〈国堕とし〉などと呼ばれた経歴を持つのだ。

 まだ、二十にも満たないだろうオーガミが既に自身の一歩手前とも言える所にいる。そして、イビルアイが避けることのできない近接攻撃から自分を庇いながらも戦えた強さ。

 強い。なぜ、こんなにも強い貴方(ひと)が〈影の悪魔〉程度に……と乙女回路に走ったノイズで我に返る。

「っ!オーガミ、まさか悪魔に憑かれていたことを気付いていたのか!?」

「……ええ、彼らの目的が分からない限りは下手に手を出すと思わぬ暴走を引き起こしそうだったので」

 首を掻くオーガミに愕然となった。なぜならイビルアイは自身の行動が本当に裏目に出てしまったのだ。

「すまない、オーガミ!私はっ……」

「いえ、おかげで貴方に会えましたから」

「……えっ?」

 自責の念に囚われ、鬱々とした感情の闇に光芒射す。

(わ、私に会えて良かった?有頂天に至った?そ、そんなっ!オーガミも私との出会いにそこまで感銘をっ!?)

 乙女回路は順調に平常稼働(暴走)していた。

「それにしても、なぜこのような場所で?」

 仮面で表情の読めないイビルアイ相手だが、そこは長年表情の動かない姿(ゲームのアバター)を通して、感情の機微を読み取ってきた調和役。

 何を考えてるか分からなくても、思考の先が逸れていることを感じとって舵きりをする。

「え、あ、ここは八本指の拠点のひとつなんだ。仲間が先に駆けつけたんだが、その時にヤルダバオトの部下と遭遇してな。合流して何とか勝ったんだが━━」

「殺したんです()?」

「━━い、いや、追い詰めたがヤルダバオトに庇われて逃げられた」

 突如として変わった()()()()の雰囲気に呑まれつつも、言葉を続けたイビルアイ。

「…………そうです()、話を聞く限り遭遇しただけのようですが戦闘行為自体が不味かったのでは?」

 そういうことかと、イビルアイは納得する。

(ガガーランたちが無闇にふっかけて意味の無い戦闘が始まったと思ったんだな)

 〈影の悪魔〉を従える時点でかなり背後に潜むのが大きな存在なのはオーガミも判断できたのだろう。

 王都に現れた強敵がその関係者であることは、十分に想像できた。

「私は仲間が戦闘するに至った存在が()()()()()とは思えん。ならばそれ相応の()()を見たんだと思う」

「っ、確かにそうですね。少し気が立ってしまい申し訳ありません」

 ハッとするオーガミは素直に謝罪を口にする。

「い、いや、オーガミが思い詰めることは無いぞ!うん!」

(って私に馴れ馴れしく声掛けてるんだ!た、確かに初めてあった時はただの坊ちゃんだと思ったけど、相手は私よりも体術では強いんだぞ!?でも、オーガミは気にした様子ないし、それとも()()()()()()()()()()使()()なのか!?ひゃぁああ!?)

 動かぬ心臓のある胸に手を当て、平たい感触を忘れて物思いに耽けってしまう。

「それで、()()()()()はどうしましょう」

 その言葉で完全にアダマンタイト級冒険者(平時)へと戻るイビルアイ。

「仲間が《死者復活(レイズデッド)》を使えるから大丈夫だが、この後のあるだろうヤルダバオトとの戦いには……」

 死者を生き返らせる信仰系魔法の使える蒼の薔薇リーダー・ラキュース。それでも復活には被使用者の生命力を大量に消費するため、元の強さに戻るまで時間がかかる。

 それでも、復活もできない鉄級以下の冒険者と比べればマシだが、ヤルダバオト相手には通じないだろうと考えたイビルアイは自身の荷物から〈安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)〉を取り出し仲間の死体へと被せてラキュースに連絡を取ろうとして━━。

「……ゲヘナの炎」

━━オーガミの呟きに街の一角を囲う炎の柱へ目を向ける。

 

━━━━━━

 

「……そこまで気配を消すな」

「明らかに場違いですよ」

 片やアダマンタイト、ミスリルや金、鋼鉄に銅。半分程の人数の首にかけられた色とりどりのタグ。━━冒険者たち。

 片や似たり寄ったりな支給品の防具を纏う人々。━━王国騎士たち。

 その端で壁の花ならぬ壁そのものに溶け込みかねないほど存在を希釈しているオーガミを呼び戻すイビルアイ。

 オーガミ(炎ぺらー)は心底やめてほしいと願っているが、既に一部の冒険者の間で「アダマンタイト級(最高位)に声をかけられているどこかの従者っぽい奴は誰だ」と言った内容が漏れ聞こえるため無理だろうと諦めた。

 今はイビルアイに隠れて用意した━━ブレインに渡した物より上等な、しかし炎ぺらーたちには簡単に代えのきく程度の━━刀を手に諸々の事情を受け流していく。

 そんなこんなそれぞれの内情は別として、今回の件についてリ・エスティーゼ王国第三王女〈ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ〉が旗頭として指揮を執っている。

 数刻前、食料やその他物資を保管している倉庫街が謎の炎の壁によって囲われる事件が起きた。

 先行部隊による調査の結果、触れても熱くなく中に入るのは容易だが、内部には無数の悪魔が蔓延っており、少数による撃退は困難。

 また、有志の情報により今回の件を引き起こしたと思われる〈ヤルダバオト〉と名乗る悪魔は非常に強大で既にアダマンタイト級冒険者が複数被害に遭った。

 最高位の冒険者、英雄といっても過言ではない人物が歯の立たない相手に場に居るほとんどの人に緊張が走る。

「しかし、心配することは無い!先のヤルダバオトとの遭遇したが、こちらの〈オーガミ〉によって撤退させることに成功させた!」

 小さな体躯で興奮を表すように激しく腕を上げてオーガミに注目を集めるイビルアイ。

 内心に不平不満を抑え込み、首を掻いてから礼節に則って頭を下げる彼に冒険者は疑惑を含みつつもアダマンタイト級として有名な〈蒼の薔薇〉のメンバーからの紹介で一応の納得をした。

 その中でも一際大きく反応した人物達をオーガミは努めて無視する。

 主要メンバーや組み分けが始まり、ラナー王女が『弓矢』と例えた作戦による撃退戦が詰められていく。

 弓状に展開された騎士、冒険者の混合部隊による防衛線と、ヤルダバオトやその側近と思われる強敵と対応する選抜隊を矢のように敵陣に送り込む陣形。

 加えて、攫われた王国民を救出する部隊もあるがそれは王女の騎士クライムとレエブン公の子飼いの元冒険者チー厶を中心としたメンバーが選出されている。

 防衛線に蒼の薔薇で前線指揮のできるラキュースや合流したティアの配置が決まり、選抜隊の人選で名乗りを上げた者がいたことで話は纏まった。

 各々必要な準備に奔走する一角に彼らは揃う。イビルアイ、オーガミ、そして名乗りを上げた二人組のアダマンタイト級チーム。

「初めまして、私はエ・ランテルを中心に活動させてもらってる〈モモン〉です。こちらはチームメイトの〈マイコ〉」

 漆黒のローブを着た痩せ型で穏和そうな雰囲気を纏う男性がオーガミと目を合わせる。

 その後ろで控えるように立っていた、黒い篭手と同色で露出が少ない布鎧(クロース・アーマー)を装備した夜会巻きの女性も頭を下げた。

「お前たちが最近エ・ランテルで活躍する〈漆黒〉か」

「そう呼ばれています。初めまして〈蒼の薔薇〉の〈イビルアイ〉さんですよね?噂は聞いております」

 ともすれば媚を売るようにも見える腰の低さだが、本人が無意識に放つ強者の気配と余裕を思わせる動じない態度、そして強い知性を窺える目が合わさって丁寧な印象に留まり、首から下がるアダマンタイトのタグが超然とした印象を強調する。

「よろしく、モモン殿」

 イビルアイも丁寧な態度と受け取り、最近まで無名だったことも踏まえれば遠方から来たのだろうと予想付けた。

「オーガミと申します、此度はイビルアイさんに呼ばれ参加させていただいております」

 相も変わらず誰に対しても礼節を重んじるオーガミにイビルアイは少しだけ微笑ましく見守りながら彼らの会話を様子見る。

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「……()()()()()()()()()()()()()()

 なるほど、とイビルアイは納得した。この場にいる時点で関係者であることは明白、ラナー王女の簡単な説明では理解の及ばない部分を補うために話しかけたのだろうと察する。

「……っと、そろそろですね。背中はお任せしますモモンさん、マイコさん、そしてイビルアイさん」

(りょ━━う)解しました」

「よろしくお願いします」

「ああ、任せろオーガミ!」

 あれ、なんでオレが仕切ってるの?という疑問はオーガミ(炎ぺらー)の口から出ることは無かった。

 

 

 

 

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