【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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20 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

 

「くっ、《魔法抵抗突破化水晶騎士槍(ぺネトレートマジック・クリスタルランス)》!」

 かざした手を起点に水晶の槍が空を駆ける。しかし、槍は標的にあたる前に撃ち落とされた。

「…………」

 赤金(ストロベリーブロンド)の髪をなびかせた小柄なヤルダバオトの配下であるメイド悪魔がその手に持つ見たことの無い武器(銃器)から放たれる小さな礫(弾丸)によって正確に落とされてしまうことに苦い顔を作るイビルアイ。

それに加えて……。

「スリ潰スゥ」

 蒼の薔薇の半数と戦った虫系異形があれから回復したのか、赤金髪の悪魔と同種の仮面を被って共に攻めてくる。

 〈虫使い〉の能力をフルに発揮し、様々な虫による千変万化の搦手と赤金のメイド悪魔による正確な射撃は見事なコンビネーションを発揮して、イビルアイを徐々に追い詰めた。

「あっちはちょうどいいみたいっすね!」

「至高の御方々が話し合う間くらいは持たせてくれるかしら?」

「ゴミ虫でもそのくらいはできて欲しいわね」

「三人とも少し気を抜きすぎじゃない?」

 激しい戦闘で離されるメイド悪魔とマイコを演じてイビルアイから離れながら隠れ、奥まったところから観戦しているルプスレギナ・ベータ、ソリュシャン・イプシロン、ナーベラル・ガンマ、そしてマイコであるユリ・アルファ。

 メイド悪魔に扮するメンバーは仮面を外し、素顔を晒していた。

「少しくらい平気っすよ、それにナーちゃんが《敵感知(センス・エネミー)》の魔法の巻物(スクロール)下賜されて、ソーちゃんがスキル使って、私だって炎ぺらー様から直々にシモべを貸していただいてるっす。……魔燒の方々も何人かこっちに居るっすからね」

「ルプー、《敵感知》だけじゃないわ。モモ━━アインズ様から他にも相手からのカウンター魔法に対する対策をご教授いただいたんだから端折らない」

「私もスキルを強化するアイテムを下賜されているのも忘れないで」

「わかってるっすよー」

 にへらと締りのない表情をするルプスレギナ。

 だが、内心では直接至高の御方々からアイテムを下賜されたことやその神算の欠片を教授されたことにほんの少し嫉妬していた。

 役割分担と言えばそれまでだが、ユリやソリュシャンは側で働かせてもらいながらも様々なマジックアイテムを任務のためとはいえ下賜されている。

 ナーベラルとて炎ぺらーがアインズ様が手ずから救った村(カルネ村)に赴いた際の護衛役を任され、今度はアインズ様から直接教えを賜った。

 それに引き換えルプスレギナは退屈なカルネ村の監視と報告。今回は多くのシモべを預けられているが、自身がこうして前線に出ているため、実質的に率いているのは魔燒である。

 今こなさねばならないのはヤルダバオトの配下の一人として相対することと、魔燒から強者や王都の中で不審な動きをする者がいた時に、それとなく至高の御方々やデミウルゴスへ伝えるメッセンジャーだ。

 役割が与えられることほど誉れ高いことはないが、それはそれとしてもこうして姉妹と設定された者達が直接接していた(さま)を見せられると心の隅に不満が募る。

「なーんで、皆殺しじゃダメなんすかね?そっちの方がきっとずっと面白いっすよ……」

 これほど大きな場所だ。人がうじゃうじゃ居て、こうしてゲヘナの炎()に誘われてわらわらと集まってきているだろうに。

 数々の村を、人を、全てを焼き滅ぼしてきた炎ぺらーが何故それを一息にやらないのか、ルプスレギナにはわからなかった。

 アライメントと設定(根付いた嗜好)からどうしてもその疑念を拭いきれないルプスレギナの様子から考えていることを理解したユリとソリュシャンが大きなため息を吐く。

「あのね、ルプー。これがとても大きな計略のひとつだって理解してる?」

「ダメよ、ユリ姉さん。理解してたらこんな顔しないわよ」

「ちょ、それは酷くないっすか!?」

 突然のダメ出しに思わず反抗するルプスレギナ。

「じゃあ、今回の計画は何が目的?」

 同時刻、自分たちの偉大な支配者も同様の話をしているとは考えも付かないユリが教師のような雰囲気を纏いルプスレギナへと答えを求める。もし炎ぺらーたちが見ていれば「うわ、仕草違うのにやまいこさんそっくり」と零していただろう。

「えーっと、人間をさらうことっすよね?」

「他には?」

「えっと……わかんないっす……」

 何とか思い出したひとつを口にするルプスレギナだが、他にもある目的がすっかり抜け落ちていることに気が付き大人しく降参した。

 なんとも複雑な気持ちで大きく息を吐いたユリはソリュシャンと視線を交えてから膝を折って俯くルプスレギナと視線の高さを合わせる。

「ルプー、まず今回の目的は他にも三つあるわ」

 指をひとつ立ててルプスレギナの前に見せた。

 人間だけでなく、倉庫にある物品の確保、これらの原因を至高の御方々に唾を吐きかけた八本指(愚か者ども)へ押し付けること、そしてヤルダバオト撃退による名声の獲得。

 自分が覚えていたものの他に3つも挙げられたルプスレギナは驚き、それほどの策略を息をするように編み上げた至高の御方々への忠誠を内心で高めつつもユリの言葉に続きがあるような感じがして先を求めて視線を送った。

「ルプー、あなたの役割をよく思い出しなさい」

「……怪しいヤツや強いヤツを至高の御方々とデミウルゴス様に━━っっあぁ!」

 気付くと同時に《連鎖する龍雷》に受けたような衝撃に襲われるルプスレギナ。

 身を傷つけるようなものではないが、むしろ快楽の雷撃が全身を貫いて腰砕けになるほどだ。

「未知の強者に対する鳴子……お、御方々の身をまもる……ジューヨーな役割っす……」

 自身に預けられたシモべはその端末で、これらの情報を戦場で違和感なく伝えられ、いざとなれば真っ先に生命を以てお守りする事ができる。

 今はこうして至高の御方々によって違う役割も任させる信用を受けながら、本来の役目も果たせられる。

 至高の御方々から向けられた信頼は思わず、どこぞの真祖よろしく大変なことになりそうなのを理解できてしまう。

「ええ、だからここで惚けてはいけないのルプー。しっかりしなさい!」

 今最も危険な任務を遂行してるのはルプスレギナだと考えるユリが彼女の両肩を軽く触れ、忘我しかけている意識を威力を弱めた〈発勁〉で叩き起す。

 「わっひゃぁ!?」と情けない声を上げつつも意識を帰還させたルプスレギナは先までの意気消沈顔を潜めてナザリックのシモべにふさわしい表情へと切替えた。

「あら、そろそろ次の段階みたい」

「思ったよりも大きいわね」

 倉庫街を越えて王都全域に届きかねない地鳴りが響く。

 現地でもかなり(Lv50程度)の強者である自分たちが転ぶことは無かったが、これまでの調査でおおよその人間の脆弱さを体感できているソリュシャンは少しだけ疑問に感じる。

(『魔王の強さ』演出にしては大きすぎる気はするけど、あちらは至高の御方々と直接のやり取りをしているデミウルゴス様や護衛兼補佐のマーレ様が加減を間違えるとは思えないし……。この世界的強さの頂点(英雄級)二人がかりな分、当初より魔王ヤルダバオトの強さを上方修正したのでしょう。まったく()()()()()()()が無いと測れない弱者しか居ないなんてね……)

 ソリュシャンたちシモべからしたら当然の常識もこの世界に生きる下等生物ではこうして見せてやらなければ分からないのが心底憐れに思えるほどだった。

 

 

 どこかのポンコツ皇帝が部下にがんばれ♪がんばれ♪ムーブをカマした結果であり、「やっちまったZE☆」のてへぺろ顔を骸骨上司にコツン(重低音)されたことは余談である。

 

━━━━━━

 

「何だこの揺れはっ!?」

 《飛行》の効果で地面から浮いている状態故体感できていないが、視界にある全てが揺れて建物の鳴動する様は不死者(アンデッド)であるはずのイビルアイをして、本能的な警鐘が全身へ駆け回り身を竦ませた。

「……ムゥ〜、時間ゥ〜」

「…………」

 不満そうにガチガチと仮面の下で顎を鳴らす和風メイド異形、手に持つ長物の構えを解きながらもこちらを観察する赤金のメイド悪魔。

 彼女たちの零した言葉は聞き取れず続きだけでも聞き取ろうとした時、倉庫街の一角━━丁度、オーガミやモモンがヤルダバオトともつれ込んだ方向から凄まじい爆音が響く。

 煙る空間から弾き出されるようにオーガミが飛び出てきて石畳を削りながら着地し、モモンも《飛行》によって中空を滑りオーガミのやや後方で杖を構え直した。

 二人とも服の至る所ボロボロで見る者に戦闘の凄惨さを伝えるが、その眼はいまだ闘志に充ち、絶望の中で希望を忘れていない。

「流石は、と賞賛させていただきます」

 煙の中で横に腕を振る動作だけでモヤを四散させたヤルダバオトも言葉こそ余裕のあるものだが、相対する二人と同様━━否、それ以上に多くの細かい傷が刻まれていた。

「……ですので、もう少し本気を出させていただきましょう!〈悪魔の諸相:豪魔の巨腕〉!」

 仮面の奥から滾る闘気を身に纏い突進するヤルダバオトが踏み込みで石畳を砕き、イビルアイの眼では捉えることのできない刹那で剛力の加わった鋭い手刀を振るう。

 二振りの剛腕から繰り出される竜巻のような手刀の乱舞を時に刀で、時に体捌きで対処するオーガミ。一太刀ごとに火花散り、さながら流星の煌めきの中戦っているような美しさすら感じたイビルアイは姿の見えないメイド悪魔たちに気付かないまま手が止まり、見守ってしまう。

「一人に構っている余裕はないぞデ━━っ、()()()()!《魔法最強三重化(マキシマイズトリプレットマジック)・雷撃(・ライトニング)》」

「っ!!」

 三条の雷がオーガミに夢中になっていた所を貫き、イビルアイの魔法をいとも容易く無効化したヤルダバオトが怯まされる(ノックバックを発生させる)

 紫電燻るヤルダバオトが硬直した隙をオーガミは逃さない。

「《火精付与(エンチャント・イグニス)》!!はぁあああ!」

 強い踏み込みからの袈裟斬り、弧を描く切り上げ、炎の渦で巻き上げ、虎を象った炎が襲い、そして全てを抉るような強烈な斬撃。

「一呼吸に五つもだとっ!」

 (あくま)をも滅する必殺の連撃(やいば)を打ち込んだオーガミにイビルアイは衝撃を受ける。

(あの若さで第四位階魔法に加えて武技まで修得し、それを五連続で放つなんて英雄中の英雄じゃないか!かつての十三英雄にだってそんなやつはいなかったぞ!?)

「流石ですね!ではこちらも相応に相手しましょう!〈覚醒・第二章(WAKE UP・TWO)〉!」

 ヤルダバオトもこれまでのダメージから本気を出したのだろう。

 懐から小さな笛を出し腰帯(ベルト)に翳すと取り付けられ、荘厳でありながら酷く歪んだ音色を奏でて紅霧を発生させた。

 膨大な魔力の紅霧が暗闇を紅く色付け天に輝く月がイビルアイの仮面に隠した双眸のような朱に変わり不覚にも彼女はそれを美しいとすら感じてしまう。

 しかし、一種の結界じみた空間を作り出す威圧感からすぐに意識を三人へと戻す。

「オーガミ!」

 ヤルダバオトの足元から仲間を倒した紋章が浮かび上がり二人を急襲するのを見てイビルアイは思わず声を張り上げる。

「っ、モモンさん!」

「はい、合わせます!」

 紋章の衝撃を受けながらも英雄二人は肩を並べ、身に纏う闘志を滾られせた。

「食らっていただきましょう!〈闇が屠る獄砕の蹴撃(King's Burst End)〉!!」

 マントをはためかせ、街一つを容易に滅ぼせる魔力を纏いながら流星のごとき蹴りを放つヤルダバオト。

「《魔法最強化(マキシマイズマジック)・連鎖する龍雷(・チェイン・ドラゴン・ライトニング)》!」

「《魔法最強化(マキシマイズマジック)・連鎖する炎竜(・チェイン・フレイムドラゴン)》」

「「〈天火星・稲妻炎上破〉!!」」

 二体の竜が絡み合い巨大な竜の顎と化してヤルダバオトとぶつかり全てが爆風に呑まれ、炎と雷と闇の魔力が吹き荒ぶ。

 予想以上の余波で見た目相応に軽いイビルアイは吹き飛ばされかけるが、いつの間にか後ろにいたマイコによって支えられる。

「た、助かった」

「いえ、お気になさらず」

 二色の竜は勢いのまま空へと登り、夜空を飾る星のひとつなって消えていった。

(天火星……文字通り、天に火の星を灯すということか。しかし、ふたりはなぜ……)

 ()()()の割に息が合った攻勢に疑問を抱きかけたイビルアイは強烈な強者の気配に身を総毛立たせて屋根の上へと弾けるように見上げる。

「ふふふ、流石はモモン殿、オーガミ殿と言った所でしょうか」

 所々煤がついているがそれでも未だ余裕に満ちた態度で屋根の上に腕を組み見下ろすヤルダバオト。

「しかし、今日のところは引かせて頂くとしましょう」

「逃がすと思うか━━って、オーガミなぜ遮るっ!?」

 ヤルダバオトの背後に控えたメイド悪魔たちも撤退の準備に入っているが、ここで逃がせば更なる被害が広がると考えたイビルアイの激昴をぶつけるが、オーガミはイビルアイを彼らから守るように動く。

「やれやれ、分かっていないのはあなただけのようですよ。イビルアイ殿」

「なんだとっ!」

「我らの()()()()()()、それを邪魔するというのであれば今この街に溢れる悪魔たちを()()()()()()無秩序に暴れさせましょう」

 ヤルダバオトが仮面の下を歪に歪んだ笑顔で染めている様を幻視し息を飲む。

 現在、〈弓〉の隊列が阻む悪魔の進行。これはあくまで悪魔たちが何らかの意図を持って、冒険者たち防衛線へ攻めていることで成り立っている。

 しかし、その枷を外されればたちまち王都は悪魔達で溢れかえり、防衛線が何の役にも立たなくなってしまう。

 それ故にイビルアイ以外のメンバーは彼らがこの場において討ち滅ぼせなかった時点で、彼らが大人しく引くといえば頷くしかないことに気づいたのだと遅ればせながら考え至る。

「ええ、それで良いのです。ではモモン殿、オーガミ殿、失礼致します」

 まるで目上の者にするような礼儀正しい所作で頭を下げて、霞むように消えていくヤルダバオト。

 場を沈黙が支配してどれほど経っただろう。ドタドタと様々な音を鳴らして広場へと駆け込んでくる集団。

 先頭を行くのはラキュース率いる〈弓〉の中でも抜きん出た実力のある冒険者たち。戦線復帰は難しいと思っていたガガーランやティナもいることに気付き、無茶をしてと自身を棚に上げつつも仮面の中で密かに表情を緩めたイビルアイ。

 続く集団を目にしたイビルアイは思わず目を見開く。

 第二の集団、各自自身にあった装備で固めた傭兵集団のように見える彼らは共通して王国の証が刻まれている。すなわち貴族社会でも珍しい平民出身で固められた王直轄の戦士団。

 それを率いる王国最強戦士と名高いガゼフ・ストロノーフが警戒している。

 なぜ王直属の軍団が此処に?王の護衛に就くため、此度の戦場には立てないと王女が言っていたと覚えているイビルアイはその集団の中心を見て納得と驚愕を得た。

 リ・エスティーゼ王国現国王〈ランポッサ三世〉。既に老齢となりながらも未だ王位に着き、慈悲深いが同時に腐りきった貴族の手網を握れない程度の能力しかない人物が鎧を纏い両の足で歩いている。

 彼の目は戦場に立つ勇士としての気配を纏い、気炎を迸らせていた立ち居姿にイビルアイは納得する。王国の危機に座して待つことを選ばず、こうして戦場へと立ったのだろう。

 そうすれば彼を守るという理由で戦場に出ることのできなかったガゼフを自身へ降りかかる危険と引替えにこうして送り出せたということ。

「街の悪魔が続々と退去を始めたのでもしやと思ったのだけど……イビルアイ」

「うむ、オーガミ、モモン殿、勝どきを」

「そういうのはモモンさんお願いします」

「えっ、え━━んふっ!オーガミさんがやっても良いのでは?」

「(無言の笑顔)」

 圧の強いそれに押し負け、モモンは杖を暁光へと掲げる。

 

『うぉおおおおおおおお!!!』

 

王都防衛戦の勝どきが朝焼けを揺らした。

 




入れ忘れたネタ(大嘘)

モモン「炎の呼吸か……うむっ!声を張りたくなってきた!」
(中の人ネタ)
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