【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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小話三つ分でやや長めです


20.5_1

20.5_1 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

【王国の人々】

 

━━━━━━

 

 王国でも数少ないアダマンタイト級冒険者チーム《蒼の薔薇》の面々がいつもの宿屋で食事を囲む。

「ぷはぁっ、ひと仕事後の一杯。コイツァホントたまらねぇな」

 豪快に杯を煽った女戦士……女?あー、うん、生物学上女な戦士ガガーランは口元を拭い、疲れと共に大きな息を吐き出す。

「お疲れ様ガガーラン。復活後で辛いのに動いてくれたのはありがたかったわ」

 優雅さを忘れない所作の染み付いたラキュースも流石の疲労で微かな陰りは見えるが、その表情は明るくむしろ達成感に溢れている。

「鬼ボスは人使いが荒い」

「これは匂いを嗅がせるべき」

 元いた暗殺集団イジャニーヤでの厳しい訓練で表情が崩れることの少ないティナとティアもチームメイトのみが感じ取れる雰囲気に疲れが出ていた。

「仕方ないじゃない。別の所で活動する人たちがああして一番大変なところを肩代わりしてもらえたのよ。流石に街を守ってもらった立場の私たちだけ怠けるわけにはいかないじゃない」

 珍しく音が出そうなほど大きく杯を呷るラキュースは王都を守った三人の英雄を浮かべ思いを馳せる。

「確かになぁ。〈漆黒〉の“モモン”だったか、ありゃ良い男だ。ついでに童貞っぽくて良いな」

「それで迷惑かけてるんじゃないわよ」

「モモンを守る“マイコ”の鉄壁具合には脱帽」

「匂いも嗅がせてもらえないかなりの強者、俄然興味出た」

 〈童貞食い(チェリーキラー)〉を性癖とするガガーランの脳裏に漆黒のローブに包まれた程よい固さ……であろう臀部の輪郭は強く焼き付いていた。

 だが、今も微かに残る手の痺れが、仮に復活前であっても彼の相方の守りを抜けて届かせることができないだろうことを戦士の勘が強く訴えてきてモモンの臀部以上に強く刻まれている。

 ティアも格別の美貌を持つマイコに少しでも肉体接触しようとあの手この手で攻めたが、ラキュースに叱られるまでガガーランを諌める傍らに対処されてしまった。

「「それよりも……」」

 忍者姉妹が口を揃え、テーブルの一角を見つめる。

 

「くそっ、どうして私はあそこでまた強く出てしまったんだ。いや、私はアダマンタイト級冒険者として振舞ったに過ぎん。いやしかし、共に強敵を退けた仲間、いわば戦友……たとえ彼が一商会の一人とはいえ、そこはもっとこう親しくというか、共に並ぶ者然とした友好的な態度でも良かったのではないか?いやいやしかし、それでも相手は私以上に強者だぞ、第四位階……いやあの時使った《連鎖する炎竜(チェイン・フレイム・ドラゴン)》ってもしかして第五位階?それ以上?そんな凄い魔法を使える上、武技を扱えるとか……あれ、もしかして強い?めっちゃ強い?え、あ、心臓が、動いてない心臓が締め付けられる。なにこれなにこれ、知らない知らない知らない、こんなの知らない。なんで笑ってくれたんだ、なんで優しくするんだ、おかしいだろ、私すごく偉そうだったぞ?なのにあんながっしり抱きしめ……貴族の坊ちゃんだと思ってたけど思ったより筋肉質だったな。安心感半端なかった、〈吟遊詩人(バード)〉のみんなごめん……英雄ってあんな風にかっこよく戦えるんだな。その上強く抱きしめたままなんて唄の通りなんだな……あれ、や、やっぱり、オーガミも私の事、す、す、すきだったり?あ、あ、あ、あ、心筋が、久方ぶりに動きそうな心筋がつるっ、助けて、助けてオーガミっ、抱きしめて、よしよしして、くんくんさせろ━━」

 

 飲み物の苦味が増した気がして眉をひそめた面々は先程までよりも飲むペースが落ちた。

「あー、イビルアイ?なにをそこまで戸惑ってるの、別に二度と会えないわけじゃないでしょ?」

 目の前のちっちゃ頼れる仲間が先の戦いで別人とすり替わっている可能性をほんの少しだけ感じたラキュースはなんとかその一言を絞り出す。

「………………」

 ピタリ、それまで表情の見えない百面相で蠢いていたイビルアイが止まった。

「……会えないんだ」

「え?」

「『自分たちは八本指に目をつけられた。勢力が弱まったとしてもあの手の組織が全く無くなることは無い。このままでは卸した先にまで迷惑がかかってしまうので、復興にある程度目処が立てば王都を出ます』……だと……うぅううううっ」

「それは……」

「致し方なし」

「実際、結構な量の復興資材と糧食が振る舞われた」

「ホント八本指にさえ目をつけられなければなぁ。俺っちも今回イビルアイの世話になったからお礼だ、って筋力増加の腕輪貰ったぜ?かぁっ、あれで童貞臭がすれば最高だったんだがな!」

 事実、作戦終了後に設営された炊き出しは全てシーカー商会から提供されたもので今回の参加者や保護された住民たちにその名は深く刻まれることとなった。

 ガガーランだけでなく、ラキュースは回復魔法の効果が上がる耳飾りを、忍者姉妹は敏捷と器用が強化される腕輪を貰い受けている。

 ちなみにオーガミは『お嬢様のことが旦那様に伝わったようなのでその再教育も含めて本家に戻される』とも言っていたがイビルアイは会えなくなることに混乱していたため、その辺はうろ覚えだったり……。

「オーガミさんたちもそうだけどモモンさんたちも結局、王からの褒美は何も受け取らなかったわね」

 今回の王都防衛戦の功労者であるモモンとオーガミ、加えてイビルアイは国王ランポッサ三世と第三王女ラナー、そして第二王子のザナックの連名により、かなりの報酬を約束する旨が伝えられたが、モモンたち漆黒は『自分たちはレエブン侯により雇われ、その仕事をこなしたに過ぎない。それ以上の報酬は分を過ぎるため、緩やかに辞退させていただきます』と言い、オーガミもまた『此度はあくまで私情により轡を並ばせていただいたに過ぎず、もしそれでもと仰るなら勇士方を労わっていただきたい。自分たちが戦えたのは何よりもまず王国の兵士と冒険者が手を取り合い、民を守り抜いてもらえたからに他ならない。彼らこそ英雄と称えられるべきです』と1銅貨たりとも受け取らなかった。

 せめて短剣くらいは、と勧めるもそれも固辞された。イビルアイもこれに倣い受け取らなかったが、本人は報酬(そんなこと)よりもオーガミの(気になる)ことがあったため問題ない。

 なお、某骸骨王は一瞬、短剣くらい受け取ってもいいんじゃね?とコレクター魂に火が灯りかけるも着火剤くんのダメです、の笑顔に吹き消されたことはみんなには秘密やよー。火付けに火消しされるとは……。

「オーガミぃ……行くなぁ」

 悪夢にうなされるアンデッド(睡眠不要)とは小噺にもならない状態のイビルアイ。

 

「申し訳ないですが、それは少し難しいですね」

 

 しかし、それも唐突に終わりを告げる。

 

「お、オーガミっ!?」

 音もなく現れた陰に流石のアダマンタイト級冒険者も驚きを隠せない。

「……誰か気がついた?」

「見事な隠行」

「これは有望」

「良い男ならもうちょい堂々としろよな!」

「オーガミ……街を出たんじゃ……?」

「もうすぐ発ちますが……少し心残りがありまして」

 そう呟くオーガミはこれまで見た顔のどれとも違い、歯切れの悪い言葉と頬を搔く姿には見た目相応の青年らしさが滲み出ていた。

「これをイビルアイさんに受け取っていただきたくて」

「わ、私にか?」

 上質な布張りの小箱を差し出されたイビルアイは混乱の中、無意識に受けとり顔色を思わず窺えばオーガミが照れたように頷く。

 イビルアイは箱そのものが宝石だとでも言うように震える手で恐る恐る蓋を開ければ中には金属でできた角が丸い三角形のバレッタが鎮座していた。

 小ぶりなものではあるが、金の下地に鮮やかな五輪の青い薔薇が彫り込まれている。

 板のように薄く、つるりとしていながら精巧な彫り物がされている一品……否、逸品であった。

「ふぇっ……?」

「仮面はきっとなにか事情があるのでしょう。ただ、仲間思いのあなたに感謝と……ほんの少しの下心を……」

「ッッッッ!!?」

「いずれ、また。なんて……」

「まぁっ!」

「ほぅ……」

「これは、絵になる……女であればっ」

「せめて十年、いやさ五年っ」

 では失礼します。と言うが早いか音もなく店を出ていくオーガミを見送るが、離れたところに行くほど集中して追うことができなくなり出入り口をくぐる頃には意識は石像と化したイビルアイへと移る。

 

「え、あ、え、あ、え、あ━━━━」

「イビルアイ?」

「きゅー……」

 

 湯気を上げて気絶するイビルアイにてんやわんやするのであった。

 

━━━━━━

 

「お兄様にレエブン侯、ごきげんよう」

「人払いは済ませてある、とっとと気持ちの悪い仮面を脱げ」

「殿下」

 王城が第三王女の応接室にて今回の立役者たちの会合の幕は堂々と、しかし驚くほど少ない人数で開かれた。

「仮面だなんて、酷いですわ」

 “黄金”と褒め称えられる美貌を持つ少女〈ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ〉は悲しげに眉をひそめ、両の眼を潤ませる。

「だと言うならせめて目を伏せろ、そうも真っ直ぐ見られると鳥肌が立つ」

「あら、残念」

 一度瞬きをすれば、潤んだ瞳は途端に平時へと戻り、表情も無表情に変わった。

「それでは今回の件、改めて整理致しましょう」

 内心の恐怖に蓋をしてレエブン侯は切り出す。

「悪魔による王都襲撃、何とか撃退はできましたが王国の損害はかなり大きいです」

 王国は長い歴史を重ねた結果、政治を司る貴族の大半が腐敗し、民にとって良い国ではなくなってしまった。

 税は彼らの私腹を肥やすために吸い取られ、時には働き手や村娘すら連れ出す様は人攫いと変わらない。

嘆かわしいこと、と理解はしているが既にそれを是正するだけの力を、王も国も持っていなかった。

 内部が腐り落ちかけている状態に加え、隣国のバハルス帝国は収穫期を狙い戦争を仕掛けてくるため、専業兵士の少ない王国では収穫に必要な人手ですら戦場へと駆り立てなければならず、年々生産数が落ち込み国として崩壊の一途を辿っている。

 だというのに、今回の悪魔襲撃で王国の民と倉庫の物資を魔王に持っていかれた。

 ただでさえ使えるリソースが少ないのにそれをごっそり無くなったのだから、国を生かせる方法が狭まってしてしまう。

「しかし、我々にとっては好ましい結果も残っています」

 傷跡は大きいものの、今回の襲撃において現国王は老齢にも関わらず最前線に立ったことで民の支持を受け、対して貴族たちは自領防衛を建て前に引きこもったことで民の不興を買った。

 第二王子であるザナックもまた、戦場で兵を鼓舞したことは民たちに認知されていて大きな支持を受ける。貴族派閥に担ぎ上げられている第一王子が貴族たちと同じ選択をしたことも合わさり強い追い風となるだろう。

 ラナーは巷でも噂される聡明な頭脳によって今回の要となった作戦を立案していて、その騎士クライムも人質奪還の功を立てたため、元々の支持を磐石のものとした。

 これにより現在、国王を推す貴族たち“王派閥”と力を持った貴族の集団“貴族派閥”の争いにおいて、王派閥は非常に優位な立場へと傾いている。

 レエブン侯自身も此度の英雄“モモン”を招き入れたのは知る人ぞ知る事だが、彼は貴族たちの間で“蝙蝠”と揶揄され、両派閥にとってはどっちつかずの半端者であるため、半ば放置されていた。

 彼がそういった立ち回りをする真意を知る者は驚くほど少ないが。

「特に武闘派と民にも知られるバルブロ王子にとって、今回の件で大きく印象を悪くしたでしょう」

「ああ、つい先程すれ違った時に随分と皮肉を言われたよ」

 ザナックは大袈裟に肩を竦めて見せるが、雰囲気は相変わらずである。

「それよりも俺は噂の“シーカー商会”が気になる。妹よ、お前は顔を合わせたのだろう。どうだった?」

「どうもこうも八本指はなぜ()()に仕掛けたのか私には理解できませんね」

「というと?」

 ラナーが眉間シワを寄せ顰める表情にザナックは思わず聞き返してしまう。

 なにせ、彼にとって妹は理外の頭脳を持つ化け物だ。

 その妹が今まで見せた表情と言えるものは作り物でしかなく、あくまで周囲に溶け込む処世術としての演技でしかない。

 だというのに今は心の底から理解できないと普段自分が妹を見る時に隠す感情と同質のものが表情に現れている。

「私がお会いしたのはシーカー商会の令嬢の従者と名乗った方ですが、おそらく彼が跡取り……もしくは当主本人ではないかと思いますわ」

「「はぁっ!?」」

 今回シーカー商会から顔役として立てられたのは最初から最後まで“オーガミ”と名乗る青年だった。

 その青年は魔王ヤルダバオトを退けた英雄の一人でもある。

「な、なぜそうお思いで?」

「だって彼、一度も商会の確認をとっていないのに物資を運び入れてたし、その後もいくつかの確認を自分で判断してましたわ」

「……それは、今回の件について任されたからでは?」

「それなら一度はヘローナ様でしたか?令嬢の方も顔を見せても良いものです。それに私わざと彼に商会の上の方が判断しないといけないようなものも渡したのだけれど、迷いなく書き込んでたわ。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、それもどこかの街へ移るにしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「「………………」」

 思わずザナックとレエブンはお互いの顔を見合わせてしまう。

「つまり、なんだ、シーカー商会は今回のことを予想してたってことか?」

「うーん、予想してたとは言えないと思います。━━」

(どちらかと言うと、アクシデントを利用した?ラキュースたちから聞いた時はただ巻き込まれただけかと思ったけど、その後の対応がかなり早いわね。これは思った以上に大きな組織が後ろにある、()()()と直接話したことからも考えると……まぁっ!ホントに上手く利用されたのね、だとすれば次に()()()()()のは帝国か聖王国あたりかしら?もう少し直接()()()できれば良かったのだけれど、……もしかしてそこまで含めての対応?組織的な動きは私では到底敵わないわね。でも、それなりの成果さえ見せれば……)

「━━ですが、シーカー商会は今回の件で王都から離れるので今後の影響力は最小で済みますね」

「……商人というのは恐ろしいな。(まつりごと)から遠いというのに、生活に食い込める分、民意を募りやすい」

 もし王都から立ち去るようなことがなければ、王都の商人としてかなりの地位を築けただろう。

 それこそ、多岐に亘る商品を扱っていたとも把握しているザナックやレエブンは兵の装備も揃えられるようになれば一気に取りまとめられ、表の八本指と称されても不思議ではないのではと考えてしまう。

 王は旗印であり、国は民の集まりだと考えるザナックには王に成り変わる旗印予備軍がどんな思惑があるにせよ、国から離れることにひとまず息を吐いた。

「それで俺たちは如何にするのが効率がいい?」

「このままでも問題ないですね。ただ、バルブロお兄様や貴族派が地位の向上を狙って動き出すので、それをレエブン侯に抑えていただければ」

「確かに……。彼らは確実に発言力を取り戻すため大きく出てきそうですな。かしこまりました」

 

 こうして彼らが伸ばす謀略の糸は確実に巣を形成していく。

 

 

━━━━━━

 

 

「はっ!はっ!はっ!」

 陽が出てくる頃には訓練場で騎士〈クライム〉は鍛錬に汗を流していた。

 足元には水溜りもできていてどれほど真摯に訓練をしていたのか察することができるだろう。

「無茶な鍛錬は体を痛めるとこの間言ったつもりだったのだが」

「っ!ガゼフ戦士長!」

 刃を潰した訓練用の剣を下ろし慌てて礼をするクライムを手で制すガゼフ。

「今日も早いな」

「はい、どうしても落ち着かなくて……」

 ガゼフから目を逸らし両の手と剣を視界に収めるクライムだが、その目に映るのは先日の悪魔による王都襲撃。特に倉庫に閉じ込められていた民たちの姿だった。

 親と離れ離れにされた子供、自分のことよりも妻の行方を探す夫、不安に押しつぶされて憔悴した女性。

 中には張り詰めた緊張から救助に駆けつけた騎士や冒険者に掴みかかり声を荒らげる市民も居た。

 誰もが暗く淀んだ目をしていたとクライムはよく覚えている。

 孤児であるクライムに愛する家族は居ない。だが、一生かかっても返せない恩人にして懸想する相手がいた。

 もし引き離されてしまえばきっと自分も彼らと同じ顔をするだろう。

「……六腕を撃退できたことで調子に乗っていた自分が恥ずかしいです」

 自覚していたはずだ、己の才能の無さを。

 血が滲もうと、声が嗄れようと、決して英雄の域に指すらかけられず、一流すらおこがましい。

 それでもあの人を守る力が欲しいと求めている時出会えた。

 オーガミ。シーカー商会の令嬢従者で自身の理想のような人物。

 出会えたのは偶然。街を散策している時人だかりの中心で酔っ払いが子供を囲って何やら騒がしくしていたところをあっさりと鎮圧してみせた。

 かなり無理言って稽古━━九死に一生を得るような経験でもそう呼ぶならだが━━をつけてもらえ、強くなれた気がした。

『小さな血吸虫(ノミ)が巨大な(われわれ)の血を吸うことを“勇気”と呼びますか?』

『恐れを知らない者などノミ同然です』

 そう言って隠れていた八本指の刺客を事も無げに撃退した彼の強さの一端を知る。

「私とて同じだ、クライム」

「えっ……」

 突然の言葉にガゼフを見てしまうクライム。

「クライム、私とて弱い。いや、強いなどと自惚れていただけなのだ」

 ガゼフは知っていたはずだ。法国の特殊部隊《六色聖典》を退ける魔法詠唱者の存在を。

 自分が部下と共に奮闘しても地に伏す相手を退ける。

 その意味を考えず、王国最強の呼び名に甘えていた。

 魔王ヤルダバオトが放つ強大な魔力を秘めた流星のごとき蹴り。

 直接見ることは叶わなかったが、周囲を満たす紅霧と感じられた魔力の奔流……その溢れ漏れる力の気配は戦士でしかないガゼフでも滅びる街を幻視するほど。

 絶滅の時が脳裏に浮かび何とか尊き王だけでもと思った瞬間、()()()()()()()()としか言えない炎と雷の竜が天へと昇った。

 それをたった二人で生み出した英雄より自分は強いわけが無い。

 自分の弱さを改めて突きつけられた。

 しかも、その内の一人はかつて御前試合で雌雄を決した“ブレイン・アングラウス”の師匠だと、復興の糧食を運び込んできたブレイン本人から聞いた。

 かつてよりお互い強くなってるはずのなのに、それでも届かないと理解するのに十分であった。

 この世に三人、敵対すれば確実に負ける人がいる。

「世界は広い、その事を忘れていた」

「戦士長……」

「強く、強くなりたい……忘れていた……この気持ちなくして、更なる高みなど……望めないのだと」

 腕力だけでは無い、かの人らは魔法詠唱者でもあるのだ。学が無いなどということもない。

 平民だと、学がないと、貴族に侮られた時は悔しくもこれ程の無力感はなかった。

 学ぶに遅きはない、ならば……。

「クライム、その指輪はお前に譲る」

「しかしこれは戦士長のっ!?」

「良いのだ、俺とてそれは貰い物。改めて自身を鍛える俺にはもう必要ない」

 作戦の時はお守り代わりに渡した指輪。

 戦士としての力量を上げる、今も生きる伝説の十三英雄から譲り受けたもの。

 だが、今は自身の強さに慢心しない戒めとして、なにより若い可能性に託したい。

 

「長話してしまったな、悪いが相手を願おうクライムっ!」

「っ!喜んで!」

 

 強くなりたい者達の朝は……日の出のように静かに熱くなる。

 

 

 

 

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