20.5_2 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
【ポーションしょくにんンフィーレアのいちにち】
ポーション職人“ンフィーレア・バレアレ”の朝は早い……のでは無く夜がとてつもなく遅い。
エ・ランテルで祖母と共に街でも有数のポーション職人として店を構えていた頃であれば別だが、今はカルネ村へと移住し専ら研究のみを仕事とするようになってから生活リズムなどという言葉は既に頭から消えかけている。
少し前にあわや魔法を垂れ流すだけの生きた道具へなる所を助けられた事が懐かしさすら感じるほどのンフィーレアだった。
街の英雄、今ではアダマンタイト級冒険者チーム〈漆黒〉と持て囃される恩人たちにより、エ・ランテルのアンデッド騒動から五体満足で救われ、祖母共々半ば匿われているのではある。
もっとも祖母は元々ポーション研究の傍ら職人としてポーションを売っていたに過ぎず。むしろ研究のみに集中できる上、極上の研究環境を提供され生来のポーション狂いが表面化、これまでの名声は一切無くなったことへ悲愴も未練もない。
かくいうンフィーレアも血は争えぬポーション研究の虜であり、若さゆえの望んだ徹夜が続き━━
「ンフィーおはよー!また徹夜したの?」
━━ながらも、想い人と同じ村で暮らせるようになったことで一歩間違えれば廃人確定な辛い経験をあっさり乗り越え、辛うじて人の生活の影が残る程度の社会性は保たれている。
「お、おはようエンリ!?ははは、実はそうなんだ!エンリも早いね」
日の出に気付いて、下心満載で日を浴びに外へ出たンフィーレアは普段祈らない四大神に感謝した。
「えっ!そ、そう?い、いつも通りじゃないかなー?」
あまりにもエンリの露骨な慌てぶりにンフィーレアは初めて疑問が浮かぶ。
「今日何かあるの?収穫は……まだだよね」
どことなく小綺麗に見えるエンリだが、何かあるのだろうかと考えるが思い浮かばない。昨日見た畑の様子を思い出す限り、穂は垂れて来ていたが素人目にも少し収穫には早いはずだとわかることくらいか。
え、あ、えー、あー、あー、などと慣れぬごまかしを考える最近妙に勉強へも熱心な想い人。
「エンリー、来たよ!」
大きな声にンフィーレアが視線を移せば、村の門へと向かう快活なふたつくくりの少女がかなり離れた所から手を振っている。
「っ!マルちゃん、今行くー!じゃあ!ごめんねンフィー!」
「あ、エンリ……」
離れててもものすごく大きい声だな。と確か木こりの子だったと思い出している間にエンリは助かったような顔を一瞬見せて駆けていくのを見送るンフィーレアだった。
━━━━━━
想い人と話せた気持ちの良い朝を味わい、さすがに眠気が勝ったンフィーレアが仮眠から再び日を浴びたのは太陽が中天に座す頃だった。
未だ寝足りない部分があるンフィーレアだが、昼間寝続けるのは町よりも小さい世間では醜聞すぎる。
何よりポーション研究に与えられた環境がそもそも高度な知識を求められすぎて、研究の傍らで読み解くには楽しくも息が詰まり気分転換したくなってしまう。
祖母のリイジーも今では幾分かマシな生活リズムに戻ったが、揃いに揃ったポーション研究の環境へ興奮と執念だけで移ってからの数日は狂ったように研究場所として提供された建物に籠りきっていた。
なお、研究資料のひとつとして恩人たちより渡された物に
閑話休題。
とはいえ、村での役割としては非常時の戦力なので、畑を持たないンフィーレアが昼間からできるのは森浅い所の薬草を集めるか想い人に逢いに行くことくらいである。
離れたい事柄を自然と排すれば残っていることは少ない。
そうしてエンリを探しながら子供の楽しそうな声へ誘われるまま向かえば、身なりの良い見覚えのない青年が子供たちの中心で何やらやっていた。
人の頭ほどある皮袋を器用に足で弄ぶたび、皮袋が意思でもあるかのように空を跳ね遊ぶ。
今度はドシュン!と蹴飛ばせば目の前の積み上がった薪を避けて、弧を描き籠に飛び込むように収まる。
それを見て無邪気にはしゃぐ子供たちへ拾った皮袋を手渡せば、子供たちは蹴遊びながら走っていく。
子供たちを慈愛の目で見守る青年へ手拭いや水袋を持って駆け寄る女性たち。
小さな女の子もいたが、駆け寄っていたのは今朝見かけたふたつくくりの少女とエンリだった。
「えっ……?」
女の子を撫でたり、少女から受け取った手拭いで汗を拭ったり、穏やかな表情から青年の物腰の柔らかさが伝わってくるが……。
何より水を手渡されて笑顔を向ける青年に頬を染めるエンリが衝撃的だった。
呆然が頭を占め、慌てて足を動かすンフィーレア。頭の冷静な部分が辛うじて、目的の相手を探す。
「やぁ、サポ。何してるんだい?」
「あ、ンフィーレアじゃん!」
先程、皮袋を追って走り出した子供たち、その中でも皮袋を蹴ろうとするのではなく、少し離れたところでそんな友達について行く子供を見つけ話しかけた。
「今ね、“サッカー”って遊びやってるんだ!」
「へぇ、どういう遊びなの?」
本当に聞きたいことは別にあるが、まずは何事も情報を集めることが重要。
何よりいきなり聞き出すのは心の準備が足りない彼だが、話を上手いこと重ねて聞き出しやすい状況を作るのが大切と冷静に判断する。
「手を使わないで、蹴ってあの
関心深く相槌を打つンフィーレアにサポは調子よく喋っていく。
「リフはレイ兄ちゃんのやってたみたいに地面に落とさず何度も蹴れるんだよ!」
「へぇ、レイって言うのはさっきの人かな?」
楽しそうに語るサポの言葉に聞き覚えのない名前を見つけ、なるべく何気ない事の様子を装って質問する。
「そうだよ!レイ兄ちゃんお菓子くれるし、優しいし、頭もいいし、つえーんだ!」
レイ、レイというのかあの男は……。
「そっか、ありがとう。ちょっと用事あるからバイバイ」
「ンフィーレアもエンリ取られないようにがんばれー!」
「んなっ!そそそそそんなわけないだろ!」
いつの間にかサッカーをやめて注目していた子供たちに『がんばれー』と見送られるンフィーレアだった。
余談だが、ンフィーの恋心はエンリを除くほとんどの村人にバレている。
━━━━━━
それから少し他の人にも聞いて回ったンフィーレアだったが、情報を集める度にその顔からは不安が溢れていく。
“村を救ったアインズ・ウール・ゴウンさんの友達”
“村の細かいところまで気にかけてくれる人”
“強くてイケメンなのねぇ、嫌いじゃないわァ!”
と浮き彫りになるのは
しかも、話を聞く事に「このままだとエンリちゃん取られちゃうよ!?」とか「あんないい男捕まえられたエンリは凄いねー。どうだい、うちの子にしとこ?」など気ぶる村人たちに色々言われたのも辛くてたまらない。
「そういえば……」
ふと思い出してみれば、今朝の時点で違和感があった。
違和感の正体が普段より小綺麗だと気づいたのは優れた観察力の証左だが、それが普段よりも時間をかけ丁寧に梳いてまとめられた髪や、祭りなどで着飾る服ほどではないがいつもの服よりも程度の良いものであると気付けというのは奥手のンフィーレアには酷だろう。……まぁ、それに気が付いてそれとなく褒める着火マンがいるのは彼の知れなかった事実がある。
全く侮れない━━ンフィーレアにとっては恩人に次ぐ第三の━━恋敵として登場に不安感を煽られまくる始末。
「おや、こちらに居たのですね」
「ッッ!!!?」
突然聞き覚えの無い声に慌てて俯いた顔を上げれば、そこには
「“子供たちと遊んでいる時に”見かけたのですが、挨拶が遅れましたね。私は“レイ・オーガミ”、よろしくお願いします」
「……ンフィーレア・バレアレです」
レイとは一度も目を合わせたり、見られた記憶が無いンフィーレア。
「あの……」
「レイさーん!」
「おや、どうしましたエンリ?」
「実は相談が……あれ、ンフィー!どうしたの?」
「な、なんでもないよ」
話しかけたタイミングでエンリが現れ何も言えなくなってしまう。
「相談ですね、分かりました。それではンフィーレアさん失礼します」
レイはあっさりとンフィーレアから視線を外しエンリの後をついて行く。
「エンリ……何かあったなら僕を頼ってくれてもいいのに……」
あまりに急な流れでおいてけぼりを食らったンフィーレアの呟きは誰にも届かなかった。
━━━━━━
「おや、ンフィーレア。どうしたんだい?」
「おばあちゃん」
項垂れて帰ってきたンフィーレイは祖母のリイジー・バレアレの声に顔を上げる。
「なんでもないよ、それよりおばあちゃんも少しは休憩したら?」
ポーション研究に心血を注いできている事も、どれほど“神の血”に熱意を燃やしているのかも、師として背中を追いかけているから知っているンフィーレア。
だからこそ、親代わりに自分を育ててくれた家族として心配になってしまう。
「少しは休んどるよ。何より……あたしは嬉しくて嬉しくて、そんで楽しくて仕方ないのさ。やっと“神の血”を本当の意味で研究できる。ンフィーレアだって驚いただろ?神の血は薬草を煮つめたあの青臭いものじゃない、魔法の溶液と鉱石から作られてた……全く別物。モモンさんには感謝しかない、孫を無事救ってくれただけじゃない。この歳になってようやくポーションってモノの深淵を覗けるチャンスをくれたんだ」
リイジーの顔には多少の疲れが見える……それ以上に街で暮らしていた時よりもずっと生き生きしている。
ンフィーレアとてそうだ、幼い頃からポーションの魅力に取り憑かれた。
「寝る間すら惜しい。自分の体が持つ限り自分で調べて少しでも深淵を覗くんじゃなくて、近付きたい」
(だけど、そうさね。あたしはこの幸運に出会うには少し遅すぎた。だから、ンフィーレア……あんたが継いでくれるなら、あたしは満足だよ)
リイジーは名声や報酬のためにポーションを研究していたのでは無い。ポーションの研究に魔法を覚えた結果、第三位階魔法を会得したし、研究途中のポーションは冒険者たちが使うのに堪えうるものができて、研究費稼ぎに売れば気が付いたときには街一の職人として認められていた。
(そんな自分でも少しでも残せるもんがあるなら……)
「だからもう少しだけ、ポーションと向き合わせておくれンフィーレア」
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祖母の言葉に思わず、また外へと出てしまうンフィーレア。
既に日は傾きかけていて仕事の切りが良かった者は片付けを始めている。
なんとなしに足が動き、モモンに村を……大好きなエンリを助けてくれたお礼を言った村を一望できる場所に立っていた。
「ンフィーレアくんもここで一休みですか?」
「……レイさん」
一人だと思っていたンフィーレアは既に居た人物に初めて気づく。
街でも見たことの無い仕立ての良い服のまま草を尻で潰している。
(モモンさんも同じようにしてたな……)
あれほどの衣服を普段使いしているのがよく分かり、村を救った大恩人でもあるモモンと友人というのも頷けた。
サッカーで玉を蹴った時だって、冒険者をそれなりに見てきたンフィーレアでも、雰囲気が近かったのは恩人の相棒である“マイコ”さんのようだった。
一流の戦士と同等の動きを遊びで魅せる、仕立ての良い服を普段使いする。
何よりも
挨拶した程度だがそれでも、街の上位者に近しい……否、それ以上に高貴さや気品を放っていた。
「なにやら私に用がある感じですね……例えばエンリさんのことでしょうか?」
「っ!!?」
突然の言葉に驚くも不思議とやっぱりという気持ちが芽ばえる。
「はい……」
想い人への恋心だけは負けない、せめてもの気概で目線だけは逸らさないンフィーレア。
「なるほど、
「え……?」
レイが立ち上がる間も言葉の意味へ理解が追いつかない。
「コホン……、別に彼女に魅力がないとか言ってるわけじゃないさ。ただオレでは彼女の深いところまで分かってやれないかな?良くも悪くも懐いてくれる子からは外れてないね。でも……」
そこで言葉を区切り、ンフィーレアと目を合わせるレイ。
「君がゆっくりしてるなら、貰っていくよ?」
「な、なんですかそれ。今狙ってないって……」
言葉の矛盾に頭よりも心が燃え上がる。
「狙ってないはないさ。ただそうだね……狙ってなくても
「っ!!!あなたはっ!エンリをなんだと思ってるんですか!」
レイの言葉を理解した。彼は噂に聞く貴族のように彼女を捕ろうとしているのだ。
「
養うのは簡単だし、彼女が望むならこれまでの生活だって変えるつもりは無いさ。とこともなげに言うレイなら可能だろうことはンフィーレアでも理解できる。
「え、エンリは誰にも渡さない!そんな物みたいに言うあなたには特に!」
「物として見ているのは君の方だろ?渡すも何も彼女は君の恋人でもないんだから。そうだね……日が完全に暮れた時、
「っ!!?」
「それが嫌ならガッツを見せろ少年」
追い払うように手を振るレイへ一度睨んでから走り出すンフィーレア。
「んへぇ、恋の鞘当てとか面倒すぎる
草臥れたおっさんのようなつぶやきを聞くものはいなかった。
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━━
その先だって?後は普通だよ。
普通に告白して、普通に恋仲になって。
普通の日々に追われて。
ああ、彼女が“将軍”なんて呼ばれるようになっても。
彼がそんな彼女に振り回されてもね。
一つだけ言えるのは。
カルネ村への支援とは別に、個人で精力剤の差し入れをすることになったくらいかな。
なお、R18版だと前の木こり少女の話の時に3
そして、書き溜めが……尽きました。
閑話をもう一話挟みたいんですが、いつ仕上がるやら。(絶望)
次話更新まで気長に待っていただけたら……。
最後に、お気に入り登録150人を超えました!
公開を始めてから三週間ほど投稿させて貰い、日々お気に入りやらUAが増えてくのを見ながら小躍りしています。
見てくださる全ての方に感謝を!