【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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21 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

 炎ぺらーは困惑していた。

 求められたから助けはした、流れからは逆らわなかった、必要だったから応じた。

 それぞれが抱えた数々の事情、様々な苦悩、諸々の問題。

 常人に解決不可能なものも多くあったがヒトデナシ(炎ぺらー)は何とかしてきた。

 

━━その結果が“コレ”なのだろう。

 

「炎ぺらーさま!」

「炎ぺらー様ぁ……」

「ご主人様っ!」

「「お兄さま!」」

 

 モモンガ曰く、

 

“やっぱトラブル起こすのはこの人だよなぁ……”

 

 

━━━━━━

 

 アルシェ・イーブ・リイル・フルトにとって今日はかなり珍しい日だ。

 実家は元貴族、鮮血帝に家を取り潰され、なのに両親……特に父は当時の生活が忘れられず嘗てと同じ生活のために借金を重ねた散財の日々で家はもう修復不可能なところまで没落している。

 このままではダメだと帝国魔法学院を中退しワーカーへとなり、幸運にも仲間に恵まれてなんとか糊口をしのぐ日々を繰り返していた。

 そんな彼女の日常はワーカーとしての仕事をこなすか、仕事の裏取りに駆け回るか、仕事で消耗した品々の調達や体力回復に務めるかが基本だ。

 だが、今日は違う。

「お姉さま、人がいっぱいだね!」

「ダメだよ、ウレイリカ。はぐれちゃうわ」

「そうよ……ほら、私と手を繋ご?」

 小さくか弱い手の繋いだところから伝わる温かさに、荒っぽい稼業でささくれだった心が癒されるアルシェ。仕事柄吊り上がりがちの目尻が今日ばかりは下がり気味なのを実感した。

 幼さを理由に家へ閉じ込めてしまっているふたりの手を改めて優しく、しかし手放さないように握れば二人の顔は陽の光にも負けない輝かしいものへと変わる。

 仕事もなく、その関係で走ることも無い珍しい休日(オフ)

 お金は返済に充ててほとんどない、だからとはいえ家には居たくない、でも妹たちとは過ごしたい。

 お財布に余裕はないが偶の休日、しかも多少無理をしての大好きな妹たちとのお出かけだ。

 闘技場近くの露店で売っていた氷菓子『アイスクリン』なるものをふたりに買い与えるとただでさえ、外出で喜びを全身で表していたのに大はしゃぎする姿は眩しすぎるくらい。

(たまにはいいよね……?)

 そんなワガママも今日だけは許されるはず。もしダメならローバイク(仲間の神官)に少しばかりカミサマへの祈り方でも教わろうかな、そんな風には余計なことを考えながら双子の温かさを楽しんでいたからだろうか。

「わぷっ!」

「クーデリカっ、大丈夫!?」

 目を離した隙に少しだけ前へ出ていたクーデリカが誰かとぶつかった。

 粘性のある塊が落ちた音に気を取られ視線を動かせば、地面にはまだほとんど口をつけていない乳白色の塊が地面と━━。

()?」

━━ぶつかっであろう人物のズボンを汚していた。

「ご、ごめんなさい!服がっ」

 謝罪と共に視線を上げれば、自分を超し仲間の男衆よりも長身の男が訝しげに視線を下げている。

 仕立ての良い服の前を大きく開いていながらだらしなさよりも引き締まった筋肉が男の色香を放出する胸元、腰まで届く長い波打つ白髪、細く切れ長で鋭い目元が粗暴さと理性の強さを両立する美丈夫がそこに居た。唯一欠点とすれば口にくわえた串が男の思考速度と関係しているのかのようにゆっくりと動くことくらいだろう。

 お互いに目と目が逢いどれほど時間が経っただろう。

「お姉さまに買ってもらったお菓子……」

 視界の下で漏れた声に串が急速に反応し、頭ごと下を向く男。

 そこでは手元から無くなり地面へと落ちた氷菓子を俯いて見ていたクーデリカ。

「クーデ━━」

「悪ぃな、嬢ちゃん」

 可愛いとはいえ非礼はこちら、すぐさま叱り付けようとしたアルシェだが、それよりも早く男は長い足が強調されるような大股でしゃがみこみクーデリカと目を合わせる。

「俺の服がお嬢ちゃんのアイス食っちまったみてぇだ、こいつでもっかい(もう一回)買ってくるといい」

 切れ長の眉尻を下げて申し訳なさそうにした男がクーデリカのアイスクリンを無くした手にジャラリと鳴るほどの銀貨を乗せる。

「そ、そんなっ悪いですよ」

 落とした氷菓子に対して額の多い謝罪に流石のアルシェも遠慮を覚えた。

「心配ねぇ、むしろおねーさんも悪かったな。妹連れてこの人混みは歩くの大変だろ」

 立ち上がりながらやたらと様になる悪ガキじみた笑いを作る男。

「いえ、二人と歩けるならこれくらい」

 ()()()()()()()()()男の笑顔につい本音が漏れてしまうアルシェ。

「くくっ、そうかい。そうだ、おねーさんはこの町詳しい?」

「え、はい多少は……」

「おーい、師匠ー!」

 照れた自分へくしゃりと笑う男に見惚れると人混みの中から声がする。

「こっちだ!」

 人混みをわけて出てきたのは無精髭を生やした髪も野ざらしの男。

()()()()(これ)持ってろ」

 息を乱した様子もなく、品の良さそうなチェインシャツ(鎖帷子)を羽織った無精髭の男へ武器らしきものを投げ渡す男。

(あっちの手ってことはクーデリカにぶつからないよう注意してた?)

 武器を投げた手はクーデリカとぶつかった側。男が武器を持っていたことに今まで気付かなかったのは、おそらく男がぶつかる寸前に腕を体で隠すように避けたからだろうと察する。

(もしかして意外と強い?師匠とか呼ばれてたし、実は王国戦士長と互角とか……そんなわけないよねー)

 一度に処理できない情報を取り入れて空転気味だった思考が戻ったところで男かクーデリカを抱えて肩車し始めていた。

「わぁ!とっても高い!」

「ははは、どうだお嬢ちゃんももう少しすればこのくらいになれるさ!」

 普段とは全く違う視界にはしゃぐクーデリカと同じようにはしゃいでみせる男。

 没落したとはいえ貴族の娘が、とはしたなく思う反面、こうした子供らしい快活とした様子が見れたことに頬が緩んでしまうアルシェ。

「ほれ、そっちの嬢ちゃんもどうだ?」

 器用に肩車しているクーデリカから頭を抜き、肩に座らせながら片手で危なげなく支えた状態の男がウレイリカへと手を差し出す。

「いいの?」

「いい()

 わぁい、と躊躇いなく飛びつくウレイリカを軽々とクーデリカとは逆の肩に載せる男。

 高い!高い!あっちへ行こう!こっちへ行こう、とふたりしてはしゃいで暴れているのに全く体幹のブレない男の背中が離れる。

 活気づいている表通りだからか、そんな彼らを見物する人もいたが一応に笑顔に溢れていた。

「おーい、おねーさんも来いよー」

「「お姉さまー!」」

「どこ行くのよ……」

 長身の男の肩に乗っているため、人垣の中でも上半身が丸々飛び出ている妹たちを目印に人をかき分けてながらも、この人(そこ)まで大きくならないで欲しい、なんて呑気なことを考えるアルシェであった。

 

━━━━━━

 

(なんというか、存在が破天荒……)

 アルシェは目の前を歩く男……〈シーカー〉をそう評する。

 露店通りを冷やかす道すがら様々な話をした。

 シーカーは自ら商会を立ち上げ各地を転々としていたこと、色々なマジックアイテムを扱っていること、ブレインは自称弟子の小間使い(満更でもなさそう)などなど。

(ブレイン・アングラウス、最初は“騙り”だと思ったけど違う……あれは“本物”だっ!)

 その名は近隣最強と名高いガゼフ・ストロノーフと御前試合で戦い競った強者。

 最初は護衛の“箔つけ”とも疑っていたアルシェであるが、彼の傍に近付いた時の肌が粟立つような感覚は冒険で幾度となく感じてきた強敵が纏う気配に当てられた時と同じ。

 近くに寄らなければわからなかったことに疑問を感じるアルシェは妹たちを見守る片手間に観察すれば多くのマジックアイテムを身につけていてその効果だろうと予測する。

 おそらく護衛として潤沢な報酬で買ったのか、彼に与えられたものだと思う。それでもあれだけの数を調達できる彼らの資金力は思った以上に大きく、かなりの商会なのかもしれないと考えたアルシェ。

 なにより、そんなブレインがシーカーのことを確かな尊敬の目と態度で接していることから()()()()()()()()()()シーカーもまた何らかのマジックアイテムを身につけているだろうことは想像が容易い。

 もしかしたら本当にブレインの師匠として恥じない実力もあるかもと思いシーカーも観察するアルシェ。

「ほーれ、高い高ーい」

「「きゃー!」」

 現にこうして楽しそうな声を上げて露店屋根を二、三倍ほど超える高さまで片手で放り投げて、ウレイリカたちアルシェの妹たちを楽しませている。

「って、シーカー!危ないからやめて!」

 危うくシーカーの破天荒ぶりに麻痺しかけたアルシェも妹たちを使ったお手玉に我へと帰る。

「なんだアルシェちゃんも混ざりたかったのか?まだ〈翠の泡(シャボンボール・オブ・グリーン)〉はあるから三つにできるぜ」

 小石大の磨かれた宝石を投げ渡すシーカー。事実、ウレイリカとクーデリカは薄い翠色の膜で覆われた状態でぷかぷかとシーカーの周りを浮いている。

(ほんとに破天荒っ!なんなのこれ!?第二位階の魔法を受けても割れない防壁のマジックアイテムなんて聞いたことない!しかも並の武器も通じないって……)

 実演とばかしに少し前、ブレインが同様に包まれた状態で見物客に投げナイフを渡して的当て遊戯をやっていた時は“割った奴に金貨一枚”と銅貨六枚で投げさせ、荒稼ぎしつつも適度に場が温まった所で即退散。他にもいくつかのマジックアイテムでそういった見世物を繰り広げた。

 露店の前でやっていたため本来なら営業妨害で騎士に連れてかれるべきなのだが、串焼き屋の前ではそよ風を起こす魔石が香ばしい匂いを運んで人寄せになったり、音を増幅する箱で広場の端で細々と弦を鳴らした奏者の吟遊を逆の端まで伝えて人の目を集める即興の歌劇場(コンサートホール)に仕上げている。

 その際に生まれた利益のほとんどを露店の主に渡して一言二言交じ合わせては熱い握手の後に離れていった。

 そんなことを数度繰り返すだけで露店通りは祭りのような賑やかな様相へと変化させていくシーカーが確かな商才を持っているのが感じとれたアルシェは日々感じない種類の疲れを伴いつつも、妹たちが楽しそうだからと流してしまうほどに彼の持つ()()()()()()()()を強く認識する。

「お、だいぶ時間かかったが闘技場はここか……」

 シーカーの余計な動きで倍以上の時間と疲労をかけながら、謎の充足感を胸に再び妹たちと手を繋ぎ直したアルシェは彼ら本来の行き先へと辿り着く。

()━━っと、シーカー様ー、こっちー!」

 シーカーを呼ぶ声に周りをキョロキョロとしていた彼の視線を追えばそこには戦士風の女性が手を振っていた。

「おー、ごくろうさん。そっちは済ませられたか?」

 流れのままアルシェたちもついて行くことになった先には三人の女性が集まっている。

「なんとかねー」

「あの、ほんとにありがとうございます……」

「少しこの子の服のサイズが小さいのしか無かったけど、こっちは問題ないわ。あとは登録だけ」

 どこか血の匂いのぬぐえない猫科生物じみた女戦士がにへらとやや歪な笑顔で答え、アルシェより少し歳が上の女の子は言葉と腰の折れた礼で迎えればサイズの小さい服が何度も肌蹴て肉付きの良い肢体がチラ見えするのを直し、自信に満ち溢れている金糸のような髪を後ろで束ねた()()()()()()()()()()()()盗賊風の女性が女の子の様子の理由を簡潔に伝えてくれた。

(うわっ、あの二人には絶対に勝てない)

 女戦士と盗賊風女性のふたりが放つ()()()()()()()()()()強者の気配にこっそり身震いしながら、とんでもない集団に近づいたことへ少し後悔したアルシェ。

「そっちの子はー?」

 目の奥で笑っていない女戦士の獲物を前にしたような笑顔に、息を飲みそうになるが手を握るふたつの大切なものを思い出し、ワーカーとしての胆力で冷静な顔を作る。

「おいおい、ここまで案内してくれた恩人に()な顔してるな()?彼女はアルシェ、なかなか面白い子だ。こっちのちびっこふたりはその妹さん」

「「こんにちはー!」」

 アルシェを抱きすくめそうなほど近いところに寄り、元気に挨拶をした幼いふたりの頭を撫でたシーカー。

「っへー……」

 ほんの少し怯えた女戦士それだけ言って大人しくなる。

「シーカー、この子達も?」

「んー、そりゃこの子達が決める事だな」

 シーカーとよく分からない会話をする盗賊風女性は女戦士とは別種の視線をアルシェに向けるが、すぐに興味が失せたのかなんの色も映さなくなった。

「アー、こっちのメンバーも紹介しとくな。こっちの猫娘が〈クレマンティーヌ〉、ひとつ括りが〈ソーイ〉、んで最後に〈()()()〉だ」

 はぁいと女戦士(クレマンティーヌ)が手を振り、よろしくと盗賊風女性(ソーイ)が最低限の反応で、よろしくお願いしますと女の子(ツカサ)がペコリと頭を下げる。

「そういえばシーカー、登録とか言ってたけど誰か出るの?」

 闘技場、登録、とくれば誰かが演目に出るということなんだろうと予想するアルシェ。

「登録は()()()するんだけどねー」

「出るのは……」

 クレマンティーヌとツカサが目を合わせてから示す先は━━

「俺とブレインだな」

━━今まで見た事のない野獣じみた気配が前面に出た笑いを浮かべるシーカー。

 

 それはこれから遭う騒乱の始まりだったことをアルシェはまだ知らない。

 

 

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