24 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
「ブレイン・アングラウスだと?」
「ええ、闘技場に出たみたいで、昨日からその話で持ち切りですわ」
帝都アーウィンタール、皇城内にて開かれた会議の途中、皇帝直属の四騎士のひとり〈バジウッド・ペシュメル〉によってもたらされた情報は皇帝〈ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス〉の興味を引くのに十分なものだった。
ブレイン・アングラウス。かつて王国の御前試合で今や近隣最強の名を轟かせるガゼフ・ストロノーフと戦い、そして負けた者の名。
勝ち進み王国戦士長となったガゼフが有名になるのは当たり前だが、敗者の名まで残るのはそれだけガゼフの名を知らしめる力量の強者であったことの証左である。
「ブレインは御前試合以降話題にならなかっただろう。野盗に落ちた、なんて噂があったはずだが?」
無類の強さを誇るガゼフを過去、帝国へと引き抜けないか考え行動したジルクニフはガゼフを調べる過程で御前試合について調べたし、確かにブレインの名が今もなお残るだけの名勝負だったことは知っている。
だからこそ、ブレインについても多少の手間をかけ調べたこともあったが、御前試合後の行動について言葉では噂として語るも、それがほぼ事実だろうことは彼の優れた頭脳が弾き出していた。
「そうかもしれないですがね、どうもとある商会に雇われたみたいなんすよ」
「商会?」
「ええ、〈シーカー商会〉ってとこなんですけど、最近王都から来た商人でも名前が知れてるやり手みたいなんですわ」
バジウッドは自身が酒場で聞いた話をそのまま伝える。
仕事終わりに一杯ひっかけて帰ろうと酒場に入れば、いつもよりもやや熱気に満ちた喧騒に今日は盛況だな、と呑気にカウンターへと座り酒と軽いツマミを頼んだ。
喧騒に軽く耳を傾ければ口々にブレインの名が出ているのに気付き、近くの酔っぱらいに話を聞けば闘技場にブレインが登場しワーカーでも有名な実力者を圧倒し切り伏せ、勝ちだけでなくエルフの奴隷も持っていったらしい。
話の確度を上げるのに届いた酒とつまみ片手に聞き回れば、同様の話が手に入る。
せいぜい、対戦相手はワーカーの中でも性格の悪さで有名なこと。ブレインには弟子がいること。圧倒的実力で倒すも自分では下さなかったこと。高位のマジックアイテムらしきもので、エルフの奴隷たちの削がれた耳すら治療したこと。
「……マジックアイテムらしきものは商会が用意したものとして、使わせたのは宣伝か?」
だとすれば随分と派手に見せびらかすものだ、とジルクニフは露骨に眉をひそめた。
商売としてあまりにやり方が稚拙すぎる、だとすれば……さらにジルクニフは思考を深くする。
間を置かずにひとつの答えが見えてきた。
「……なるほど、とんだ食わせ者だなシーカー商会のトップは」
言葉とは裏腹に楽しげな雰囲気を滲ませ、まるで好敵手を見つけた戦士のように勇ましさすら感じさせるジルクニフ一同は困惑する。
「シーカー商会、彼らは我々を試すつもりらしい」
「試す……ですか?」
秘書官の一人が思わずオウム返ししてしまう。
「シーカー商会は不遜にも帝国の器を試しているんだよ」
ジルクニフは気を悪くした様子もなく答えながら他の者の顔を見れば、ほとんどの者が首を傾げるばかり。
「パフォーマンス自体が挑発と自分たちの持つ力の誇示ですか……それにしては些か
いち早くジルクニフが至った答えに辿り着いた秘書官のロウネ・ヴァミリネンは少し眉をひそめる。
「拙いからこそ、だ。奴らは敢えて見せびらかしてるのだよ。あからさまに、いかにも、食いつかせたいように。それこそ馬の前に吊るした餌のようにな」
摘めるよう用意された瑞々しい小粒の果実を指で挟み大きく手を振ったジルクニフ。
「誰しもが食いつかずにはいられないだろうさ。肉体の欠損すら治癒する高位のマジックアイテムを用心棒に渡せる財力とそこに至るまでのコネクションの大きさが齎す絶大な
強力なモンスターの守る財宝。古今東西伝承で伝わる有名な話だ。
愚か者には死を、しかして賢き者や勇ましき者には相応の宝が手に入る。
強いモンスターにカテゴライズされた自身の苦手な女性ランキング上位入賞者が浮かび、内心で微妙に萎えた考えを追い出し━━、
「なら見せてやるのさ、これから相対する相手が自分の宝を全部掻き攫い、食いモノにする虎だと言うのを、な」
━━果実を口へと放り込むジルクニフだった。
━━━━━━
「はっはっは!予想以上の相手だよ、シーカー商会!」
数日後の議事会にて、報告を聞いたジルクニフは思わぬ話で久方ぶりに腹筋へ痛みを伴うほど大笑いをする。
「これは……予想以上ですね」
ロウネもまたまとめられた速報だけで苦い顔をするほどの事柄へ自身の中の警戒度を数段引き上げた。
「しかし、これは本当なんですかね?」
同じように複写した報告書の内容を見ながらもジルクニフの前だからか、無表情を取り繕うもその奥にある胡散臭げな色はジルクニフにしっかりと読み取られている。
冷徹に部署替えを試算しながらそのことを誰にも悟られることなくジルクニフは報告を改めて反芻した。
悪魔の軍勢による王都襲撃事件。その首魁と目される魔王〈ヤルダバオト〉を撃退した英雄のひとりがシーカー商会に所属する従者〈オーガミ〉。
貴族の出を思わせる風格がありながら誰にでも気遣いを忘れず、商魂たくましくあるがそれでいて義を重んじる。
強さもヤルダバオトを撤退に追い込んだひとりだけあって、王国に三チームしかいないアダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”の面々や“漆黒”が認めるだけの強者であり、噂では英雄の領域に近いとのこと。
(なるほど、そういう手を打とうとしていたのかっ!面白いぞシーカー商会、いや、
日々の執務に追われ、無駄な体力の消費を抑えるという言い訳に忘れていた熱意の炉に火が灯る。
父に憧れ、己を磨いた幼き頃、自他ともに認める聡明さから律してきたが、決して無くなることのなかった自身と対等に競える相手への渇望。
(これは思わぬ楽しみが増えた……)
心胆に沸き上がる熱量を手遊びしながら、冷静に頭を働かせるジルクニフ。
「……バジウッド、ニンブルを連れてシーカー商会へ招待状を持って行ってくれ」
ジルクニフの言葉に会議へ参加しているほとんどの者が驚愕に染めた。
「へぇ、そりゃあ手厚いことですね」
ジルクニフと同じく手元の羊皮紙を読み込んでいたバジウッドは少数派の反応だったがそれでも皇帝の差配に素直な反応を示す。
帝国四騎士。そう呼称されるジルクニフ直属の最強戦力。
“雷光”“激風”“重爆”“不動”、それぞれそう渾名されるほど力と名誉を持つ帝国騎士の憧れ。
そのうちの二人に招待状を届けさせる、なんて使いっ走りにすることはそれだけジルクニフの本気度を表していた。
「向こうが試すのだ、ならばこちらも試し返してみせなければ失礼だろう?」
「陛下、私も同行させてもらえないですか?」
なんでもないようなことのように応えるジルクニフにひとりの女性、“重爆”の異名を持つ〈レイナース・ロックブルズ〉が手を挙げる。
この場にいる彼女が帝国最強と謳われた戦士のひとりであるのを誰もが重々承知しているが、ジルクニフの中では帝国騎士としてその名声に相応しい忠誠心を持つかと言うと疑問が無くならない。……というか四騎士の中で一際低いと正確に把握していた。
断るのは簡単だが、それゆえにこちらの与り知らぬところで接触されては、
ならばここは逆にこのタイミングで彼女を相手の出方を測る一手として使う。ジルクニフは最終的にそう判断し許可を出す。
それが思わぬことに繋がるとは流石のジルクニフにも想定できなかった。
書きだめが……書きだめがないっ
失踪しても許し亭許して
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