【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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25 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

「なるほどなぁ……」

 フォーサイトの拠点である宿屋〈謳う林檎亭〉にて一卓を囲う彼らはアルシェより事の顛末を含む事情を聞き終え漏れた一言はそれだった。

 実家が元貴族、没落後も散財を続ける両親の借金を返済するためのワーカー業。

 たまたま出会った人に付いて向かった先が闘技場でヘッケランたちに会ったこと。

 ヘッケランと共に行動していたイミーナも含め、緊急の集まりと呼ばれたフォーサイト最後の仲間〈ロバーデイク・ゴルトロン〉も初めて聞く内容。

 それでも聞かされたフォーサイトはアルシェの大凡の事情について、寝耳に水という訳ではなかった。

 ある日仲間にしてくれと、どこからともなく現れた少女(アルシェ)

 深い魔法に対する理解と知識はあれど、世間知らずとまでは言わないが世俗に揉まれたことのない様子、幼い頃から厳しく躾られたのだろう染み付いた上品な所作。

 訳ありは最初からわかっていたが、それでも今では仲間として信頼している。

 

 それも今日で終わりの仲だろう。

 

 親の借金。それも現在進行形で膨れ続けるものであれば、依頼の報酬や褒賞に目がくらんだ行動を常に疑ってしまう。

 そんな見えるトラブルがある相手とチームを組み続けるのはいくら信頼する妹分とはいえ難しい。

 アルシェも事情を話す覚悟を固めた時には悟っていたのだろう。

 組み続けることはできないと言われても納得していたし、むしろ詰められ無かったことに驚きを感じている様子だった。

 帝国のワーカーとして名を知られたフォーサイトの最後がこれとは、ある意味でワーカーらしくもあるのだろう。

 

「んじゃあ、その子(アルシェ)ウチで引き取ってもいいか?」

 

 そんなのお構い無しの強引な割り込みは強者の特権である。

 

「あん?」

「ブレイン・アングラウス!?」

 怪訝そうなヘッケランと叫ぶイミーナの視線の先には白く長い波打つ髪の男、巷で噂の中心となっている“ブレイン・アングラウス”として顔を知られたシーカー商会の代表。

「お知り合いですか?」

「さっき話した闘技場の時に知り合った」

 面識のないロバーデイクの疑問へアルシェが答える間に近くの卓から椅子を奪い取り、遠慮なく卓へ混ざる白髪の偉丈夫に不快感をあらわにしたのはイミーナだ。

「ちょっと、今大事な話してるんだから他所行ってよ」

「んー?そうしたいんだがね、話し終わるの待ってると二度手間になりそうだったからな」

「二度手間ァ?」

 

「おう、お前ら全員うちで働かないか?」

 

「「「「は???」」」」

突然の勧誘にフォーサイトの面々はただ疑問符を浮かべる。

「うちの商会のご贔屓さんがな、とある村を支援してるんだわ。ちっちゃな村なんだが、今人手が減ってる上、腕っ節やら知識のある奴が居なくてな」

「おいおいおい、イキナリなんだよ」

 疑問符の浮かぶ面々を無視して続けるシーカーをヘッケランが何とか止めにかかる。

「ん?今言ったじゃねぇか、アルシェをこっちで引き取りたいって。後はあんたらも有望そうだしスカウトよ」

「話が急すぎて見えないわ。それ以上前口上なしにくっちゃべるなら他所を当って」

「とは言っても今言った以上のことはそんなにないんだがなぁ」

 首を触りながら苦笑いしたシーカー。

 その様子に闘技場や先程まで纏った超然とした印象は薄れ、野性味の強い理知的な気配に滲んだ少年のような無邪気さはほんの少しだけ場を和ませる。

 結果的に場の空気へと馴染んだところで店のドアの軋む音に視線が全員引き寄せられた。

 あれ、四騎士じゃね?閑散とする店内でかすかに聞こえたつぶやきは誰のものだろう。

 とはいえそれは食器の音にすらかき消される程度で気を向けることは無い。

 当然、気にもとめないシーカーは口を開く。

()じゃあ、口上いるみたいだし自己紹介からか。俺は━━━━」

「おう、ちょっと良いか?」

 しかし、言葉の続きは真っ直ぐシーカーへ歩いてきた三人の騎士によって阻まれた。

「━━オォン?」

 白いく波打つ髪、野性的な雰囲気、何より()()()()()()()()()()()()()()()()()を目印にバジウッドは声をかける。

「バジウッド、我々は……」

「わかってるわかってる」

 金髪碧眼の青年に厳しい目を向けられるバジウッドと呼ばれた厳つい男は余所行きの顔なのだろう、それなりに硬い表情を作った。

「バハルス━━」

「ちょっとよろしくないから待って()

 

“ピシリッ”

 

 場の空気が一瞬で凍りつく。

 鎧姿でこそないが身につける服装は着飾るための派手さはないが、それなりに金のある物の纏う者。彼らの近くまで寄る時に見せた何気ない歩みは修羅場を相当数潜った事のある威風が滲んでいた。

 なにより、それらを兼ね備えた『バジウッド』など、帝国四騎士“雷光”〈バジウッド・ペシュメル〉を除き想像することはこの場の全員ができない。

 であれば年や階級を気にせず彼を諌めるように睨める金髪碧眼の若者が同じく四騎士の“激風”〈ニンブル・アーク・デイル・アノック〉だと、そして最後のひとりが女性であることから“重爆”〈レイナース・ロックブルス〉であると予想できるだろう。

 だとするなら、彼らが改まって話しかけるのはそれなりの要件。つまるところ、皇帝の勅命であることは想像に容易く、それも四騎士のほとんどが揃っているのだから余程のことなのだと確信を強める。

 

 であるのに、この“ブレイン”は『忙しいから待ってろ』と(のたま)ったのだ。

 

 言われた当人たちの反応を見れば顕著である。

 バジウッドとニンブルは言われたことに理解が及ばず口を開け、ただ付いてきている風のレイナースとて長い金髪の隙間から見える片目が大きく開かれた。

 年若く、ある種経験の少ないからこそ言葉の意味へ理解が早かったニンブルがバジウッドを押しのけ睨みつける。

「んで、俺は━━」

「貴様、我々を愚弄するのかっ!?」

「━━こっちは商談の途中()!外野は引っ込んで()!」

 

 ズシンッ、そんな音すら聞こえてきそうな気配の圧を突然当てられ跪くニンブル。

 陸へ上げられた魚のように息苦しさを滲ませながらも、自身がなぜ怒声ひとつで腰を抜かしているのかが理解できない顔をしている。

 ただひとつだけわかった事があった。

 強者の威圧に当てられた彼らは確かに感じた上位者の気配。

 自身たちの尊敬する皇帝、それに匹敵する王者の風格を持っていた。

 そこで彼らは初めて思い違いに気がつく。

“目の前にいるのは本当に〈ブレイン・アングラウス〉なのか?”

 彼らが自分を保つので必死になっているとシーカーとフォーサイトの商談は終わり、とりあえずは保留ということとなった。

 リ・エスティーゼ王国のカルネ村で生活しながら、いざと言う時の戦力となって欲しい。

 まとめてしまえばこれだけだが、シーカーの話したものの裏は取れていないこととあまりにも美味しすぎることからワーカーとしてそんなものを二つ返事で受けることはできない。

 なんだかんだでアルシェを庇うように立ち回ったヘッケランたちの行動に内心で評価を上げたシーカーはようやく腰を抜かしている四騎士たちへ視線を向ける。

「待たせたな。ンで、なんだっけ?」

 話が終わったのもあって椅子を翻して別のテーブルに向けて肘をつく。

 四騎士たちが資料で見た情報では誰に対しても気さくに話しかけていたとあったが、どうやら精査が甘かったのだろうなんて益体の無い考えをめぐらせながら何とか息を整えて姿勢を質す。

「我々はバハルス帝国の騎士。━━」

 自己紹介をする内に復活してきたバジウッドだが、目の前の人物は未だに冷ややかな目を向けるばかり。

「━━との事で、その、シーカー商会の()()である貴方を是非とも招待したいとこちらをお届けに参りました……」

「ふーん……」

 招待状を受け取り、皇帝のみが使える()()を訝しみながら眺めたり、貴重な紙の手紙を吊るされた明かりに透かしたりと皇帝直属の部下から受け取った物の扱いとしてはあまりにぞんざいなものを見させられ、成り行きで見守ることとなったフォーサイトと店主の胃がキリキリと痛み始める。周りの客も下手に動けなくなってしまい、身を縮こませながらちびちびと注文したものを処理していた。

 胃を痛めているのは(この場に三人しかいないが)四騎士も同じである。

 事前に揃えた情報では目の前の人物はブレインのはず。しかし、目の前にしてみれば理解(わから)させられた。確実にこの方(こいつ)がシーカー商会の代表だ。

 危うくフランク(軽率)に「はぁい、ブレイン(ジョージィ)」しかけたバジウッドは普段祈らない四大神へ感謝する。機会があれば一晩の晩酌代くらいは寄付しても良いとすら感じている。

 逆に貧乏くじを引いたのは年若いニンブル。腕は立つが最近まで野盗をしていただろうブレインだと思った人物は自身の主が知恵比べをするほどの傑物だったのだ。

 丁重な扱いをするよう厳命されていたのにこの体たらく。よく思い出せば、シーカー商会は闘技場周りの露店街でも暴れていた。その事を小さく見すぎていたことに気づくには遅く、目の前の人物が強さに優るとも劣らない寛容さを持っていることを四大神へ祈る。

 後悔の大きさではレイナースとてニンブルに劣らない。

 できるだけ誠実に目を伏せるが元々顔の半分を隠すほど伸ばした髪で表情が見づらいから効果に不安がある。かつて受けた呪いで膿む顔を隠していたが、そもそもここに来たのは呪いを解きたくて━━その可能性が高いから━━無理して着いてきたのにこれではまともに話を聞いてくれるかすら分からない。

 

「……了解した。そう伝えてくれ」

 

 その一言に、場の空気は弛緩した。

「お時間を頂き感謝します」

()してくれ、ココはアンタらの庭だろ。なのにアンタらがそんな畏まっちゃ、皇帝様と会う前に追い出されちまう」

 一商人と勅命の騎士。明らかに立場からくる言葉遣いではないが、一部始終を見ていた者たちからすれば自然なものに感じる。

 空気感を感じることに長けた炎ぺらー(シーカー)はもちろん察していた。

 

「悪ぃ()、みんな奢る()。店長、この場の払いは俺が持つぜ!」

 懐より取りだした袋が放物線を描き店長の居るカウンターへと舞い落ちる。

 自然と目で追った全員が目撃したのはカウンターへ降り立った時の衝撃で口紐が緩み、袋からこぼれる大量の金貨に混ざる白金貨。

 

『……う、うぉおおおお!』

 フォーサイトの面々が大事な話をできるくらいには人の少なかった店内に喧騒が広がり、宴は本物のブレインが来るまで続いた。

 

 

 

「アンタら仕事あるのか?」

「え、えぇ……お返事を頂けたのでその事を皇帝へ伝えなければ」

「ンなもん、後でいい、後でいい。それよりせっかく顔合わせたんだ。飲んでこーぜ?」

「しかし……」

「ふーん、……俺をブレインと勘違いしてそうだったんだけど(ボソッ)」

「ヨシっ、奢りなら好きに食わせてもらうぜ」

「ソウデスネ」

「私も……」

 

 

 

 




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