26 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
「…………やってしまっタ……」
部屋の片隅で三角座りのまま頭を抱える炎ぺらーはただただ自分の
(くそっ、
部屋へ戻ってきた時、テーブルの上に投げ置いた手紙の封蝋が床へ座り込む炎ぺらーにも見えて、自身の浅はかさを強調しているような気にさえしている。
(王国の時みたいに一従者として振る舞うよりは自由にできると思っていたが、この国の王様べらぼうに優秀すぎるゾ。闘技場じゃ
〈怨霊〉となったことで、少しでも過去の恨み━━悪感情を抱いた相手━━を想起させる対象がいると感情のしきい値が途端に低くなり、小さな不快感でも苛立ちを抑えられなくなってしまっていた。そして、その相手の特徴を炎ぺらーは未だ把握しきれていない。
(複合とはいえオレもアンデッド系の種族で
一瞬過った
とはいえ行動を悔いるには既に遅く、手紙の内容もアイテムを使い解読したため内容は把握している。現地の言葉に慣れない炎ぺらーとしては細かい言い回しや翻訳の際の誤差を後でツカサに確認しようと、ドツボにハマった考えで満たされる頭を振って追い出し、やるべきことを整理し始めた。
「思ったより早い……が王国での経験が生きた。
一度、整理しはじめれば各所に見え隠れする意図の欠片の存在に気付き、慌てて立ち上がりテーブルへ腰かけ手紙を改めて見分する。
(封蝋か……古い時代設定のゲームでしか知らないけど、確か昔のセキュリティなんだっけ?)
垂らした蝋に浮かぶ模様は王国でも見た事のない細やかなデザインがかたどられ、王国との技術力の差がこんな所でも感じた炎ぺらー。
紙の質も八本指から送られたものより高いのを手触りから読み取る。
(解読した限りだとオレやブレイン以外にも連れて行っていいみたいだし、誰連れて行こうか?
『炎ぺらー様』
「んあ?」
思考の海に潜った意識へ内から響くような声に《
「お前達がわざわざオレに許可取って出てくるのは随分と久しいナ」
手紙が燃えないようテーブルへ投げ捨て、七つの炎が人型を形づくり彼女たちの姿が現れる。
「此度は必要だと判断しました」
七人の代表として一歩前へ出て隠している必死さの滲む表情でコウモリの羽型リボンを髪につける少女〈ルシ〉が答えた。
「別に必要ないだロ?」
「確かに“ナザリックのシモべ”を使えば済む話です」
長い髪を真っ直ぐ下ろした
「……炎ぺらー様最近すごく構ってくれないの!」
発育良い肢体で熊のレザーコートを苛める長い金髪の少女“辺獄烈火の”〈ベル〉は感情の部分を揺さぶる。
「僕たち、ずっと炎ぺらー様のそばに居たのに……」
溌剌としたボーイッシュな“地獄浄火の”〈ゼブル〉は二の腕のハエを象った飾りの銀腕輪を撫でて不安を滲ませた。
「あ、あの、私たちじゃお役に立てませんか?」
魚のヒレのような袖に隠れた腕を胸に当て、自身たちの至らなさが理由かと問う少女“陰府怪火の”〈レビア〉。
「結構、お役目を理由に傍から離れなければならなかったわね〜」
デコルテの美しさを魅せながらも山羊角の肩当が悪魔的魅力を際立たせた魔燒随一のプロポーションを誇る女性“爆炎地獄の”〈アスモ〉は自身の覚えた転移系の魔法故に現場への前入りや中継に便利に使った点を言葉優しく指摘する。
「ねーねー、〈マモ〉たちだって役立ちたいんだー。炎ぺらー様ーおねげーだよー!」
「〈モナ〉たちも使っちくりー!」
狐の尻尾モチーフのスカーフを首に巻く魔燒で最も幼い外見を持つ双子“冥府双灯火の”〈
炎ぺらーにのみ侍る、彼だけの
「あー、さすがに多すぎないカ?」
魔燒と直接顔を合わせてようやく彼女たちの我慢の限界を理解した炎ぺらーは首を掻きながら言葉を選ぶ。
「炎ぺらー様の凄さをカトーセーブツが理解するにはこれぐらいしないとダメなの」
「今までだってそうやって見せてきたじゃないですか!」
気持ちはみんな同じだと十四の目が強く示していた。
魔燒の中でも色濃い記憶。尽くを燃やし、始原の氷の竜を散らし、強大な炎の巨人すら焦がし、刈り取ってきた。
全ての火を総べる炎貌の豪傑。
死の支配者や厄災招く悪魔、正義を謳う純銀の聖騎士
そして自分たちはその御方に全身全霊で尽くす侍従。
最近は姿を変えて市井に紛れているが、それでも炎ぺらーはいと尊き支配者だ。
それもこの国の
ならばこそ、真の皇帝を見せるべきだ。
……なにより、
そんな気持ちが溢れ出て止まらないのだ。
シモべという
「しゃーねーナ、そこまで言うならオレは構わんが、一応モモンガさんにも断り入れておく」
首に触れる手を止めて腹を決めた目で見つめ返した後、《伝言》を唱えるのだった。
━━━━━━
「ってな訳で皇帝サマと会ってきます。ブレインやクレマンティーヌたちが連れてけない以上、魔燒……と〈バニティア〉を連れてく感じッス。まあ、
「きゅ、急展開すぎる……」
ちょうど依頼終わりだったモモンガと連絡の取れた炎ぺらーは宿屋の店主にブレインたちへの言伝を残し、外出するように見せかけナザリックへと戻った。
戻ってから言って聞かなそうな魔燒たちを当日の衣装決めとしてメイドたちに押し付けて任せて、自身はモモンガに会いに来ている。
「余程優秀みたいだからネ、それに過激でもあるそうだ」
「〈鮮血帝〉でしたっけ?無能な貴族たちから貴族位を剥奪したり、皆殺しにしたとか」
「王国みたいに腐ったところを放置することなく手っ取り早く切り取ったり、軍を押さえたのはデカイッスね。一代でやってのけた上、まだ若いらしいですから優秀さはそうとうかと」
事前に連絡して、食事を用意させた炎ぺらーはモモンガと卓を囲みながら激動を語り、その話題の中心であるジルクニフ皇帝を言及した。
元奴隷のエルフを保護したくだりまでは事前に定期連絡で受けていたが、そこからの流れが早い。しかも、外部の流れだけでなっていることはモモンガとしても予想を遥かに超えている。
「大丈夫なんですか。八本指なんかみたいな裏社会のいざこざと違って、かなり表立った影響力がありますよね?」
「大丈夫か、なんて問題とうに過ぎてるッスよ。場末とまでいかなくても、大人数の前で直属の有名な騎士様たちが絡んできてるんスから、下手な真似すれば二度と帝国の土を踏めないッスね」
(ほんと、こういう時のポジティブさはありがたいな)
まぁ、踏めなかろうと問題ないっスけどと人の姿で目の前の料理に舌鼓を打つ炎ぺらーへ、慎重すぎる自身の臆病さにはない輝かしい部分が眩しく映るモモンガも料理長たちが用意した料理の味を楽しむ。
「それにしてもこれ美味しいですけど、量が多いですね」
「平均男性の食事量だから、モモンガさんが食わな過ぎッスよ」
肉(ユグドラシル産)をメインに据えた一通りのコース。既にメイン二品目まで終えているがモモンガとしては時間をゆったりとすごしている分満腹度も高まっている。
炎ぺらーはリアルで裕福層寄りの環境ゆえコース料理にも耐性があったが、モモンガは典型的な低所得層の民であり食べることもままならなかった。
汚染しつくされた外気を遮断することを除けばアーコロジー内の建屋よりもあらゆる面で劣っていてもアーコロジー内の賃貸に比べれば安いとはいえ、少ない手取りで
最低限度の栄養が摂れるだけのタブレットや添加物マシマシのゼリーもどき、ブロック状のビスケットくらいしか摂らなくなっていたモモンガにとって食事など栄養補給以上の価値がなかった。
転移後しばらくは
だが、炎ぺらーが同じアンデッド系種族であるにも拘らず味を認識していたことで、ギルメン大好きマンが共通の話題を欲して再び食事への興味を抱く。
炎ぺらーの用意した人化のマジックアイテムを使用した際、自身にも食欲が復活して味も認識できた為、炎ぺらーの誘いがあればこうして食事を共にすることも増えた。
とはいえ、リアルでの生活感覚なども影響してかは不明だが、その食事量は成人の食事量に到底満たない量であったため、リハビリも兼ねて徐々に食事量を(炎ぺらーと料理長の裏工作で)増やされている。
なお、モモンガも徐々に増えていることへ勘づいていて効果がなければナザリックの食材の消費を懸念し指摘する方向で考えていたが、不思議とモチベーションや充足感、更には人化時には感じる疲労を軽減したり、ステータスになかったスタミナが付いた感覚もあるので放置を決めているのは余談だ。
「
「心配だなぁ、魔燒を表舞台に披露するんでしょう?」
「その辺は割と心配してないッスけどね」
「え?」
「モモンガさんは忘れてるかもしれないッスけど、彼女ら芸能系のスキル持ちッスよ。元々オレのスキルの増幅役で単独戦闘なんて念頭に置いてないから守護者たちみたいにガチ戦闘は向かないッスけど、ぶっちゃけ〈皇帝〉
芸能系……〈
「そういえば……彼女らはそんな感じでしたっけ」
(よく考えれば、この人俺と同じロマンビルドでバリバリに戦う人だったな)
魔燒のコンセプトとレベル構成までは記憶していなかったモモンガだが、同時に目の前の人物がどれだけ変態的なレベル構成をしているのかを思い出した。
モモンガの
慎重さと経験とロマンスキル構成で
「まあ、おかげでコンセプトに合わせたレベリング巡業で
「うわぁ、わかります。オレも
当時熱中していたとはいえ、二人ともそれなり以上に廃人ゲーマーだったため、
食事と思い出話に花を咲かせ満足感に浸る彼らの意図に関係なく、世界は確実に歯車を回している。
書きだめドコ?ココ?