27.5 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
あついものが、どこかに、いる。
にげなきゃ、にげなきゃ、にげなきゃ。
とおくへ、とおくへ、とおくへ。
まにあわない、まにあわない、まにあわない。
とばすんだ、たねをとばすんだ。
できるだけ、とおくのほうまで。
【闖入者】
泥と血に汚れてなお、止められぬ闘争へと石斧を振り下ろす。
「怯むなぁ!所詮アンデッド!祖霊に加護されし
部隊をまとめる戦士の鼓舞が泥に沈みゆく足と斧を振るう腕へと活力を甦らせる。
トカゲが二足歩行を始めたような姿であり、生まれついて固い鱗と鋭い爪の生えた腕、水掻きのついた足と長い尻尾に支えられた胴は平均的な体型でも人間の大人より遥かに太く分厚い。
木と泥と藁で家を作れる知能を持つ彼ら
アゼルリシア山脈より流れ出る肥沃な淡水は湖へと流れ、森とそこに住む生命を育み、湖中を泳ぐ魚は
そんな彼らが今、泥の平野で迫り来る骨と腐肉の集団……スケルトンとゾンビの
遡るは数日前突如として現れたアンデッドからの宣戦布告。集落ができるほど栄える彼らでも太刀打ちできない数の軍勢に絶滅の兆しすら見えていたが、勇気ある一人の
五部族連合約千四百名対アンデッド軍団三千。
依然兵力差はあるものの、
「ザリュース、どう見る?」
最前線からは後方、泥の塀に登り戦場を俯瞰していた一人の
「一応は優勢だ」
平均的な体格の雄でありながら、胸に
「となれば……」
「あぁ、そろそろだろう」
噂をすれば影がさす。
突如として戦場に爆炎が起こる。
アンデッドの軍勢の奥から飛来する火の玉が味方だろう骨と腐肉たち諸共を襲い、
煙立つ向こうには古いローブをまとった死体……アンデッドの魔法詠唱者であろう。
「あれが親玉か!?」
「仲間ごと焼き殺すなんてっ!?」
魔法詠唱者は《
「行くぞザリュース!」
「いや兄者はこのまま戦闘の指揮を采ってくれ!ロロロ!」
(あれは恐らく
戦場へ参上しようとするシャースーリューを引き止めたザリュース。
族長という肩書きに見合う指揮能力だけでなく、戦士としても優秀な兄。
見聞を広めるためとはいえ、自らの意思で集落の外へ出た
何より族長として優秀な兄が生き残れれば、これから待つ部族の未来に不安がないと決意を燃やす。
塀を飛び降りたザリュースが四つ首の
「へへっ、鱗がピリつく……最高に楽しい戦いができそうだ」
「私たちも行くわよ、ザリュース!」
「ゼンベル!それにクルシュも!?」
巨漢の雄〈
「置いてけぼりなんて言いっこなしだせ?ありゃやべー中のやべーだろ?」
「やっぱり……ザリュース」
ゼンベルの言葉に言葉を詰まらせたザリュースを見て得心の入ったクルシュが心配げに尻尾を震わせた。
「ああ、かなりの強敵だ。だから━━」
「もちろんついて行くわ!」
「へへっ、ここでお預けなんて言っこなしだぜ?」
「━━お前たち。ああ、みんなで未来を掴むぞ!」
アンデッドが攻めてこなければ、もしかしたら尻尾を並べることのなかった
なにより五部族を繋ぐ役を担えたからこそ、雪のように美しい愛する雌と出会えた。
今も同族たちが血を流しながら踏ん張っていることを考えるとアンデッドに感謝する気は起きない。
だから、せいぜい
━━━━━━
『ああ、至高の御方
「はぁっはぁっ……っ!」
「ザリュースっ……!」
「マジでやりやがったアイツっ……!」
鱗一枚のような勝利だった。
ザリュースの予想通り相手は
ロロロが
勝利の余韻を味わうこともできないほど疲労困憊なザリュースへ慌てて支えに近寄るクルシュとゼンベル。
しかし、この時誰も予想しえないことが起きた。
最初に気が付いたのはアンデッドの残党征伐に移りつつある
戦場の端からはぐれたアンデッド達が避難民の方へと迷い込まないよう執拗な追撃を加えていた。
「……おい、なんだかこの辺乾いていないか?」
湿地林で常に水気が多いはずの泥地を歩く水掻きが感触の変化を感じ取る一人の
「それだけじゃない、これは……木が枯れてる?」
小隊長である痩身の
〈
「た、隊長っ……あれっ!?」
「なにがあっ……た?」
仲間の声に反応し、指差す方へ視線を向けた隊長が見たのは大きな種子だった。
ここ最近続く曇天の空の下でなお泥よりも黒々とした緩い三日月状の固い殻は遠目で見ても、魚を主食としながらも雑食かつ強靭な牙と顎を持つ
彼らはその形の名前を知らないが、例えるなら中途半端に中身が飛び出した枝豆のような形をしていた。
━━ただし、中から飛び出してるのは無数に伸びた触手の塊なのだが。
触手の塊は遠目で見れば殻を被った木の根のようにも見える。
泥中へと伸ばした木の根を蠕動させて子供の
距離にして四十歩と少し。
気付くには近すぎたという想定外があったのは認めるが、
━━種子と言うにはあまりにも大きい。
そばにある枯れ果てながらも泥中に聳える樹木は
種子らしきものの全長が樹木の半分以上あるのだから、驚愕するのも当たり前だ。
殻の大きさは凡そ小柄な大人の
パシャリ。
あまりのおぞましさに思わず後ずさった隊員の足音が酷く泥に響いた。
━━ギョロッ。
もし種子に目が付いていたならそんな擬音が聞こえそうなほど緩慢な歩みに比べ素早く殻の向きが変わる。
「てっ、撤収!族長に報こ━━」
全てを言い終わる前に隊長の胸を黒い槍が貫く。
「キュ、ク、ゥウゥウウウ……」
足が泥より浮かび上がりながら空気が漏れるような最後のいち音を響かせながら根の槍が脈動を打つ。
脈打つ度手足から細くなり最後には目玉すら萎み、即席の干物へと成り果てた。。
「「「「う、うわぁぁあああああああ!!!!」」」」
音に反応する。そんな単純なことすら思考することもできず泥を跳ねさせて逃げ惑う部隊員たち。
「あ゛っ」
「ぎゃっ」
「おぶぅっ」
音を立てればどうなるか、
━━━━━━
トブの大森林に建設された━━建設途中ではあるが━━館……フェイク・エヌの室内は未だ簡素だが用意された机に地図を広げ、椅子に深く座っていた者が吹雪のような息を漏らす。
アイスブルーの体色、アリとカマキリを合わせたような二足歩行の四腕持つ巨大な蟲の異形。
━━ナザリック地下大墳墓、第5階層「氷河」の階層守護者〈コキュートス〉。
本来、ナザリックにて防衛の任がある階層守護者たち。その中でも特に異形の見た目をしている故、アウラやマーレ、プレアデスや炎ぺらーが率いる魔燒のように人間のフリが難しいNPC筆頭の彼がナザリックの外へ出ているのはもちろんモモンガの命令あっての事だ。
アウラたちが受けていたトブの大森林での調査が進み、フェイク・エヌの建設も幾分か軌道に乗ったと判断したモモンガはコキュートスへと指令を与えた。
“アンデッドの兵三千を以て、リザードマンを平定せよ”
ただし、コキュートス自身が戦場へ出ることを禁ずるなど、細かい決め事はあるが一言で言えばこの程度のこと。
……それが
とはいえ、至高の御方々に創造された彼らには関係ないし、重要なのは任を任されたこと。
どのような事情があれど、こうして直々に拝命したコキュートスのやることはシンプル。
━━モモ……アインズ様が仰ラレタヨウニ、アンデッドノ軍勢でリザードマンタチヲ平伏サセルダケ
そう考えていたコキュートスの予想は大きく裏切られた。
決め事の通り、アンデッドを攻め込むまでに猶予を与えてからの進軍。
加えて、彼らのホームグラウンドであり、戦場となるだろう湿地に仕掛けられる数々の罠。
何よりひとつの生命のように群体が形や攻め方を変えて、アンデッドの軍勢は徐々に徐々に兵を撃破されていった。
決してアンデッドが嬲られていた訳では無い。
だが、
二人倒す間に四体、三体倒す頃に七体。
総数で言えば倍以上を誇っていたアンデッドたちは加速度的に目減りしていく。
さすがにマズいと考えたコキュートスは慌てて、虎の子の
残っているのはただひたすらに周りを顧みず、突き進み目につく
既に戦の形は留まってなくて、処理作業に近い様相すら感じる。
コキュートスも薄々まずいとは思っていたが、自身の頭では打開策は浮かばず慌てて友人のデミウルゴスへ助力を願おうと《
彼女の様子からようやく、自身の犯したミスに理解が及んだのだった。
「ナンナノダ、アノ植物ハ」
戦線は崩壊してここから挽回するのは不可能と言う時に突如として現れたのは不可解な植物らしきモンスターである。
振り返り
改めて《
三日月状の硬い
見る限りコキュートス自身は驚異たり得ない感じに見えるが、アンデッドをひと薙ぎで複数吹き飛ばし、
今もまた骨のような鎧を纏った
「ナーベラル、アノ植物ハリザードマンガ用意シタ者デハナイト見エルガナザリックノ者デモ無イダロウ」
「ええ、そうねコキュートス」
「デアレバ、コレハ緊急事態ダト思ウタメアインズ様ヘ報告スル」
「わかったわ」
《
『ん、あー、私だ』
「アインズ様、ゴ報告シタイコトガ」
『……で、報告とは?』
「ハイ、アンデッドトリザードマンノ戦イノ場二植物系モンスターラシキ者ガ現レ双方ヘト攻撃ヲ始メマシタ」
『そうか負け……何っ?』
何かを言いかけたアインズが明らかに不振そうな声を上げた。
『それは本当か?』
「ハイ、リザードマンタチトノ戦イ二負ケ、ソノゴ連絡ヲシヨウトシタ瞬間現レマシタ」
『わかった。すぐ向か━━
「新タニ人間種ト思ワレル戦鎌使イモ現レマシタ!」
━━なんだと!?』
こちらもいいところですが次はまた皇城に戻ります。
━━━━━━
蛇足
〇〇〇〇〇〇〇の種子
Lv.24-28程度
移動速度が遅い代わりに射程の長い攻撃を行う。対象へ攻撃が成功すると〈
単体への攻撃しかできないことと火属性が弱点。