(更新遅れて申し訳ない)
28.5 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
(これ、僕がいる意味無くね?)
伯爵家次男、ココイガ・イデバン・ナイヨーは所詮嫡男のスペアであることを理解している。
嫡子筆頭である兄は生まれた頃こそ体が弱いとされ、一応の尊敬をする両親の不安もあり続々と子宝の生産に励み、上に二人の姉と自分が産まれ、後の三男として生まれる子を身ごもる頃には、十となる兄は体の弱さという境遇をバネに鍛えた体と才能に裏打ちされた頭脳と生まれの幸運がもたらす知識が重なり、立派な嫡子の頭角を現していた。
(もっとも、それが嫉妬や羨望である、なんてハナから分かっているさ)
そうなれば、
多少の鍛錬で
人並みに育ち、人並みに見聞きし、人並みに身に付けた、面白みのない人生に見合った信頼を勝ち得たココイガ。
唯一兄の持たない魔法の才能でなんとか箔をつけた彼は魔法学園の勉強を必死に予習している合間にある家族の食事時、言い渡された皇帝陛下の開くパーティへ招待の話。
「ハイハイ、いつも通り兄上が行きますから」と次の課題の予習に頭を割こうとした彼へ「馬鹿野郎、お前も行くんだよ!」とあれよあれよの準備に振り回された数日。
(元)嫡子候補であった頃の記憶を呼び起こし、爵位が圧倒的上の方々とのパーティでのルール・マナーの復習に割かれる勉強時間。
使用人兼針子の子爵令嬢な幼馴染に特急で合わせ直してもらった礼服に身を包み、家族での挨拶回りから逃げてなんとか
「シーカー商会、シーカー様御一行!」
登場する貴族たちも徐々に位を増しあとは公爵だけとなった会場でざわつきが起こる。
(え、侯爵より後に紹介される商人?)
ココイガとて飲み物片手に列席する貴族の多さで辟易してたが、なんとか来る前に叩き込んだ貴族達の家名を諳んじて、皇帝様の
(うわ、侯爵様たちがみんな驚いてる)
隣で目を見開いてる侯爵四男の同級生も“え、え?え!?”って顔に書かれてそうなほどの驚愕で染まるのは仕方ない。
(━━━━)
「━━あっ……」
空気が変わった。
ココイガも降りてきたパーティを一望できる階段の上が一気に華やいだ。
黒いのに金属のような光沢で輝く服に映える、雪のような白さの腰まで届く長い髪。スラリとした立ち姿は巨木のようにがっしりしながらも雰囲気と合わせればひどく
彼……シーカーへ
(なんだ、あの、色鮮やかなドレスは……)
肌着のように薄く、体のラインがはっきり出ている……ともすれば、上流階級である貴族には“娼婦のようだ”と謗りを受けても擁護できないドレスだろうソレの出来を見れば誰もが閉口せざるを得ない。
宝石でできた糸を編んだとしか言えない上質な布地は光を受けて複雑な輝きを放つ。
しかも、それを着て全く見劣りしない美女が着ているのだ。
男たちはもちろんだらしなく惚けて中には既に頭の中で如何わしいことを浮かべているのがバレバレなほど鼻の下を伸ばしている。
女たちだっていつもしている品評とは名ばかりな見栄の張り合い、陰での貶し合いが絶えないのに、この時ばかりはただただ唖然としていた。
そんな空気の凍る中も一段一段階段を下る彼ら。最初に降りたシーカーは切れ長の流し目を携えて振り返り美人たちへ最後の一段をエスコートする。
赤いドレスとリボンの少女は貴族には少ない素朴さを滲ませながらも花のような笑顔を咲かせた。
青いドレスの少女はストンと落ちる長髪を揺らして、雪解け時期に見える芽吹きのような笑顔を綻ばせる。
黒いドレスに身を包んだ中性的な少女は少しだけ緊張気味にしかし夢見がちな乙女の憧れに酔い、蕩けたような甘い笑顔を見せる。
白いドレスの少女は庇護欲を誘う小動物のような震えを乗り越え、彼へ安らぐような笑顔を浮かべた。
紫のドレスの女性は
黄色いドレスの双子は同時にシーカーへ飛び掛るも分かっていたかのように難なく受け止めて、下ろされたあとは輝かんばかりの笑顔で答える。
緑のドレスを着こなす眼鏡の女性は前の双子に声をかけたあと、異様に似合うシーカーのキザなエスコートを首まで朱に染めながらも長年連れ添った夫婦のような気安い笑顔でお返しした。
一同が揃いシーカーが周りを見渡し一礼すれば、美女たちも
そこからはなんと早いことか、本来ならこのような場でもしっかり顔を繋ぐため公爵家の方々も把握しなければならない多くの貴族たちの印象には残らなかった。
最後のジルクニフ皇帝が
(そして、皇帝様はいの一番にシーカー商会代表の元へ……と。うへぇ、ほんと今日は何がなんでも来なければよかった)
できないことと分かりながらもそう思わざるを得ないのは、周りの張りつめた空気を受ければ誰だって理解できるだろう。
目が、雰囲気が、何より物語っている。
(うわぁ、度胸あるなぁ。こんだけ“お前誰だ”の視線の中で皇帝サマと歓談するとか)
もし視線が矢にでも変わっていたら全身くまなく刺さりまくっているだろうシーカーはまるで見えていないかのようだった。
内容は距離のため聞こえていないがココイガは少しだけ良い視力から皇帝と商人がにこやかに話し、美人軍団はひたすら笑顔を作って、ロクシーはその集団の前に見劣りする顔を無理に作ることも無く会話に少しだけ加わっている。
一通りの歓談が済んだのか、シーカーは周囲を一瞥し皇帝に惜しまれ離れていった。
(なんだあの商人、顔を繋ぐ気がないのか?)
シーカーはにこやかな周りへの対応とは裏腹に誰とも長い時間話さず、程々で会話を打ち切っている。
逆にシーカーに付き従っていた女性達は二人か三人になり、会場へと散っていった。
この段階で貴族たちはわかりやすく行動を始める。
皇帝へ挨拶をする者、シーカーへと接触する者、そして女性たちへと群がる者。
皇帝へ挨拶する者にココイガは興味を抱かない。大抵、そういう部類は皇帝へ強い忠誠を持つか、
シーカーへ接触する者も同様である。
女性へ群がる者はそも気にする必要は無かった。本人たちはどうだか知らないが傍から見ていれば、目に色情を抱いているが丸わかりである。中には露骨に肩や手へ触れようとして物の見事に撃退される助平しかいない。
彼女たちを狙う者が━━全体からすれば━━少ないことに安堵すればいいのか、普段貴族がどうのと言っている輩たちも雄の本能に負かされる事へ同情すれば良いのか、なんの役にも立たないことをぼんやりと目で追うココイガであった。
「随分とつまらなそうに眺めるね」
「来たくてきた訳じゃ無いから」
「全体見てるとそんな感じだ
「ほとんどが数合わせだろうし、3男4男まで連れてくるから相当」
「嫡男じゃないと中々家族と一緒ってのも難しい
「無理無理、親は優秀な嫡子様の面倒や顔繋ぎでいっぱいよ」
「
「まるで別の国……えっ?」
何気なく会話をしていたつもりのココイガの視界にものすごい顔をした同級生が写り、ちらりと横を見ればそこには先程まで貴族に囲まれていた白髪の美丈夫が飲み物片手に壁の花へと混ざろうとしてた。
「いや、なんでだよ!?」
何とか大声だけは我慢できたが、距離だけは取るココイガ。
「いや疲れたシ、なんか同じようなこと思ってる子達が固まってたから……」
「無理でしょ!?どう考えても壁の花にはなれないよ!」
「ほら、君の後ろの爺様も熱心に周りの学生と話してるし……」
「フールーダ様!?あとどう考えても周りの学生恐縮してんじゃん!?」
「ハッハッハ、キミ面白い
シーカーの言葉に後ろを振り向けば、学園……どころか帝国に居れば自然と名前を覚えるだろう生ける偉人が青い顔をしている生徒の中に混ざって魔法理論の話で没頭していた。
「なぁなぁ、それより魔法学園だっけ?それの話聞かせてくれヨ。お貴族さまの話より百倍気になるわ」
「え、えぇ……」
なんで俺が……、と周りに助けを求める視線を向けるが露骨に目をそらされるか、むしろ助けてくれと土気色の顔でフールーダと話している同胞か、どちらからも逃れられてコソコソと離れていく薄情者しかいない。むしろ、混ざれるなら最後の幸運持ちにあやかりたいココイガである。
「どんなこと学んでるんだ?」
「えっ、えっと━━」
答えなければならない状態になって
「なるほど、随分と色々学べるんだな。それに楽しそうだ」
「そう、ですかね?あまり自覚はありませんが」
「学生時代なんてそんなもんだよ」
「シーカー
「魔法とか剣とかを学んでた感じじゃないがナ」
話すうちにシーカーと
「
(なんて言うか、行動の大胆さに比べて、感覚は意外と庶民的だな……)
身に付けているもの、身に纏う雰囲気こそ、威圧感すら感じたココイガであったが話すほど存外に自分のような者とも気さくに話のできる相手で思ったより窮屈に感じない。……気付けば聞き耳を立てている周りの貴族たちの視線を無視するものもする。
「おや、随分と楽しそうだな。シーカー?」
ふぇえええ。ココイガは全力の絶望を内心のみでぶちまけた。
連れてきてもいいからって、美少女集団連れてくるシーカーは確実にヤバいやつ
ダークココイガは逃げたい欲求を抑えられない。(逃げれるとは言っていない)
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