04 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
ナザリック地下大墳墓、〈王座の間〉とはまた別の意味で最奥に位置する〈宝物殿〉へと転移の指輪で訪れた炎ぺらー。
「これは、至高の御方である炎ぺらー様!御帰還の事、お喜び申し上げます!」
コートを肩にかけた軍服を着たハニワ顔が舞台で歌い上げるような動作で出迎えられた。
「おぉ、これは……また……」
目━━のように見える揺らめく灯り━━をぱちくりさせる炎ぺらーを芝居がかった身振り手振りで迎える彼は、なにを隠そう
アインズ……否、モモンガにとって今では香ばしく感じる頃の“ぼくのかんがえたさいこうのえぬぴーしー”。
「さっきは顔も見せないで悪かったナ」
(装備を取りに行くときに宝物殿の入口で待たされたのはこのためカ)
炎ぺらーは内心、何も恥ずかしがらなくてもいいのに、とつぶやく。
それもそのはず、そのような羞恥なんて超越者よりも先に超越済みなのである。超越羞恥の蒼、炎ぺらー。
ちなみにギルメンにはそもそもその手の羞恥心を持たない無我の境地に至っている人物、初めから厨二病の男ウルベルト・アレイン・オードルもいた。
もっともウルベルトと違い最初からその境地に至っていたわけではなかった炎ぺらーがそんな精神に至る過程で、魔燒たちのことを散々周りから「ハーレム」だの「専用嫁集団」だの「ドリームクラブ」だの「そのうち炎ぺらーさんの頭がPになってる」だのと揶揄われてきたからである。
彼女らは異形種であるが浪漫として人間体があると設定・外見の作成や種族・職業の取得構成したのは事実であるため否定できなかった。
むしろその経験が芳ばしく香るところに
美少女云々を言い出せばペロロンチーノや弐色炎雷とて言い返せないはずと過去に過った炎ぺらーはただ誇る。
もっとも、そのことを指摘すれば「いや、俺ら作ったの一人ですし。ハーレム希望じゃないですよ」と弐色炎雷に論破されつつペロロンチーノが「ハーレム……したかった」と言っただろうことは今は関係ない。
閑話休題。
「至高の御方が謝ることなど必要ありません!我々をご随意に扱っていただければ、配下としてこれ以上の喜びはありません!」
「んー、んっ、了解。正式にはモモンガさんからお達しあるまで待機だけど、君に
舞台演技のような飾った挙動に言葉の理解が遅れたが、炎ぺらーは自分の意思を正確に伝える。
「御意!ところで、ご相談なのですが」
「なにさ畏まって?」
「御身の武器である〈ナインズ・インペリアルグローリー〉を拝見させていただけないでしょうか?」
「良いよ、ほい」
腕に巻かれた銀のチェーンを銀の長杖へと変え、鑑定したいならしていいよと手渡す。
それを落とさぬよう慎重に受け取ったはずのパンドラは思わぬ荷重で危うく落としかけるが、忠誠心と筋力の全力で以てなんとか保つ。
「お、おぉお、これが魔燒を統べる炎帝の神器!九つの姿を持ち、御身の御技である“七獄の炎”を十全に発揮する増幅器!希少金属
幾万の美辞麗句でも語りきれないと杖を褒めるパンドラだが、その外見は必死に潰れないように耐えているバーベル上げ選手である。
(しっかし、本当に設定した通りなんだナ)
石突き側を掴み重さを感じさせない動作で旗揚げのように持ち上げ、パンドラが潰れる前に返してもらう炎ぺらー。
適度に離れて腰を落として構え、瞬きの間に虚空を突くと空気が爆ぜる。
払い・突き・薙ぎを巧みに繋ぎ棒術の演舞モドキを披露してから肩へ担ぐ。
(パンドラはモモンガさん同様アイテムコレクターだったはずだシ。こいつも設定上4
神珍鉄とは西遊記に登場する孫悟空の武器、如意棒(如意金箍棒ともいう)の素材。
ユグドラシルにおいては希少であるが重宝されない金属の一種で、強度と内包できるデータクリスタルの量はトップクラスで複合武器のデメリット〈強度低下〉を打ち消す効果を持つが、代わりに重量と装備するための最低筋力値を増加してしまうデメリットがある癖物。
内包量も強度も最上位だが、最高効率ではない。
複数の形態を作るより、一つに絞った方が容量の無駄がない。
複数の武器を使うような職業取得をすると器用貧乏にしかならない。
ネタ武器を作るにも素材として高価すぎる。
そもそも、複数の武器を扱えるプレイヤーが極わずかしかいない。
などの要因が重なり、需要が極端に少なかった。
(素材集めしてたらワールドアイテムができた時は驚いたナァ)
過去にアインズ・ウール・ゴウンが鉱山を占領し、集めた金属の一つに神珍鉄があった。
既に性質を理解していたため、需要の低さを予想し備蓄量が最も少なかったが試作したりするのには困らないほど回収していた。
ある時、素材管理していたギルメンから招集がかかると目の前には山のような鉱石は消え去り塊がひとつ。
その名は〈
ほとんどのギルメンが諸手を挙げて喝采する中、崩れ去る完全お通夜状態の炎ぺらー。
そんな炎ぺらーを他所に、ワールドアイテム作成できるという情報はギルド内で厳しく管理されながら乱獲が行われ、当初の3倍と少しを回収したあたりで鉱山を奪い返された。
だが、十分に確保できたことと情報の漏洩は無かったことで使用制限が緩まり、予定よりも多くもらえて漸く作ることができたのが〈ナインズ・インペリアルグローリー〉である。
閑話休題。
専用に作った故に自分は手足の延長として使えるが、ドッペルゲンガーとしての姿では取得職業の関係で筋力を含むあらゆるパラメータが低いパンドラには御しきれなかったと分析する炎ぺらー。
「なあなあパンドラ、外のことは聞いてるんだよナ?」
「はい、ナザリックは周辺が本来あるはずの沼地ではなく草原……しかも、独自の文化が根付いた国の一角だと」
「ぶっちゃけ、どう思う?」
「……どう、と申しますと?」
「外の情勢とか、その辺。回ってきてる情報から読み取れる限りでいいからサ」
パンドラは腕を組み、5秒ほど考える。
「現状把握している限りでは……特に王国に関しては脅威足り得ないと考えられます。ですが、現状は情報不足のためどの国もどの地域も不明点が多く警戒を怠るのは愚者の浅慮と思われます」
芝居がかった言動もなく淡々と告げるその姿にモモンガを幻視する炎ぺらー。
「だろうナ、オレでもそう思う」
情報こそ最大の武器。現役時代の頭脳担当たちが口を酸っぱくして言っていた。
モモンガさんがギルメンの言葉を無碍にすることはない、とこれまでのことから把握している炎ぺらーは彼の行動を反復する。
石橋を叩いて渡る━━否、石橋を設計図から確認して、強度実験までしてから渡るほど慎重に物事を進めるモモンガ。
現状、確認できていることはタカが知れてると判断するだろう。
それでも尚、冒険者をやりたいと言った彼。
常に周りにはモモンガ━━と炎ぺらー━━を神か何かと崇拝、もとい忠誠を誓う配下。
叛旗の可能性を警戒して身内にすらも気の抜けない立場。
異形種化により人間種への共感の欠如。
未知への探究心を刺激される異世界。
羽を伸ばしつつ、金策もできる外での冒険者活動はアルベドの内政とデミウルゴスの外政が揃うからこそ言葉に出せる欲求。
2人のうち、どちらが欠けても提案することを躊躇い、胸の内に秘めてしまう
(叶えてやりたい。多少のリスクはオレとモモンガさんなら対処できる)
そうと腹が決まれば早い。必要になるだろうとパンドラにいくつかアイテムを探すよう頼んでおく。
「良し、そろそろお暇すルわ」
「はい!次お会いする時はモモンガ様と共に!」
見事な敬礼で見送るパンドラに心を良くし、指輪の━━
「ところで、炎ぺらー様の従属である
「あっ」
━━起動をためらわせる爆弾を放り込まれた締まらぬ別れとなった炎ぺらーである。