29 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
「おや、随分と楽しそうだな。シーカー?」
名目上、これから行われるだろう戦争へ向けての懇親会……となっているが、どこをどう繕っても新たに
とはいえ
主催としてゲストを放置するわけはなく、
「はて、彼ら
何気ない一言に、
「
そこで声を上げたのは宮廷魔法詠唱者でもトップのフールーダだった。救いになっていないのはご愛嬌。
「爺、どこに行っていたのかと思えば……学園の生徒と何を話していたんだ?」
「ほっほっほ、気配を消す魔法について少々。社交の場でも魔の道の探究を忘れない、将来有望ですな」
「いったい爺と何を話したんだシーカー?」
「んー、特別何かって感じでもなかったな。ただ、あの宮廷魔法詠唱者殿が魔法の本が欲しいって言ってたから卸すことになったくらいか?」
「そういうことは早めに言ってほしかったんだが?」
「あっはっはっは、悪かったよジル。あんまりに熱心な爺様でな。押されに押され言い出す機会がなかったのさ」
「……意外にそそっかしいと覚えておこう、シーカー」
まるで市井にいるだろうやんちゃな悪童のような笑顔にジルクニフは少しだけ相手の知性とは別の人間味を感じてそれ以上言えなくなった。
とはいえ、目的の人物を捕まえたジルクニフはようやく元の目的を思い出す。
「さて、分かってくれるな、シーカー?」
「察してくれるとありがたいんだがな
「察してるからこそ確認しているのさ」
何せ会場の端であるのにこれだけの目が集中しているのだからシーカーのすっとぼけたフリを続ける感性でも認めざるを得ない。
お披露目だけじゃねぇの
「ふぉっふぉっ、
「……それは爺も同じだろう?」
「然り、長生きはしてみるものですな」
目を細め好々爺然とするフールーダだが、その目の奥にドロリとした熱を帯びていることをジルクニフは誰よりも察した。
(爺をここまで“囲われる”とはやるなっシーカー!)
目の前で
(爺がいくら魔導に身を窶したとはいえそこらの魔法詠唱者や魔導書程度では……いや、うん、暴走しそうな
恩師とはいえ、否、恩師でありその癖の拗れ具合を知っているが為に皇帝として冷徹な計算が“離反の可能性”をはじき出した。
このまま内々の処理をされるよりも当初の目的を誇張して、シーカーたちを囲いこんでしまおうと舵を切る。
シーカーの観念したとも取れる微かな態度を捉えたジルクニフは彼らを引き連れて、今か今かと待ちわびている“おべっか使い”たちの元へと向かうのであった。
━━━━━━
「だぁ……疲れタ……」
あの後散々連れ回されたシーカーはジルクニフによって用意された客室で全力の脱力する。
「お、お疲れ様ですシーカー様」
ソファーと一体化を試みていたシーカーに寄り添う〈陰府怪火のレビア〉。
ようやく抵抗が生まれなくなった自然な動作で抱き寄せた
ゲームの頃はスペックや仕様の関係で妄想するしか無かった柔くしっとりとしながらも適度な弾力は永遠に触れていても飽きることがないだろう。
(はぁ、たまんネ。癒されるワァ)
美女軍団こと魔焼たちと炎ぺらーの創造したナザリックNPC〈バニティア〉が持つ一級品の肢体を、ナザリックでしか作れないだろう局部以外着ているのか疑うほどの
防諜対策をあえてしてないことすら忘れて続々と寄せてくる彼女たちの体を堪能する炎ぺらー。
一度、奥の部屋へ引っ込ませ侍従が居ない
『助けて、シーカー!!』
直接頭に繋がるような感覚で《
「何があったんだイ、
◆◆◆◆◆◆
アルシェは感情がぐちゃぐちゃになってしまった。
「なんで……」
ただただ信じられないアルシェはそう呟くことしか出来ない。
ことの始まりは数少ない親交のあった相手への挨拶回りの終わった頃に遡る。
チーム単位の勧誘を受けたが、それとは別にアルシェがワーカーを続けるのは難しい。
加入を望むワーカーチームはあるかもしれないが、借金返済のためだと知られればどこも渋るだろう。
それこそ無くなった“天武”のような悪名憚るチームくらいしか候補に挙がらないし、そんなところでは稼ぐどころか命や貞操の方が危ないまである。
その事まで踏まえれば選択肢はヘッケランたちが断ったとしても、妹たちだけでも連れてシーカーのところへ身を寄せるしかない。
そうなるのが確定しているのならと幼い妹たちをいつも通り置いて、挨拶回りのついでに喫緊の必要物を少ない手持ちからやりくりして買い物。
幸運なことに、多くの“おまけ”をしてくれた馴染みの店主たちへの感謝を胸にあと何度門をくぐるか分からない自宅へ帰宅した。
その先で両親が幼い妹たちをどこかへ売った事実に触れることとなるのだが。
庭師を雇う余裕などとっくに無いため荒れ放題の庭を抜けて物音の少ない屋内を歩くアルシェ。
数少なかった使用人も辞めた廊下は寂れて、唯一と言っていい残っていた執事のジャイムスが彼女を見るなりいつもよりも深く頭を下げた礼をしているのに違和感を覚えたのだろう。
部屋どころか、屋敷中駆け回っても居ない妹達の姿を探し最後にたどり着いたのは、ただでさえほぼ利息だけでワーカーの収入を打ち消す借金があるのにもかかわらず、さらなる借入をしたのか今日にでも購入しただろう物を見せびらかす父親に吐き気を堪えて妹たちのことを聞けば全てが終わった後。
「ああ、ウレイリカとクーデリカなら“奉公”に出したぞ」
「なんで!?あの子たちはまだ幼い!」
「幼くともフルトの子だ、なんの問題もあるまい。お前とてそろそろ嫁入りの時期だろう。今のうちに貴族の嗜みを覚えさせるにはちょうどいい」
「ウチはもう貴族じゃない!そんなことも分からないの!?」
「何バカなことを言っているんだ!!我が家は帝国の誇り高きフルト家!あの若造が我等を重用していないのは我らを試しているのだ、故に我らは証明する。どれほどの万難に晒そうとフルト家は誇りを忘れないとな!」
「役立たずで家を潰されただけでしょ!なんでそれが分からないの!?ただただ血税を浪費する穀潰しなんてあの皇帝が見向きするはずもないのに!」
「親に向かって何だその口の利き方は!」
はたかれた顔の痛みを無視して、ジャイムスに掴みかかる勢いで妹たちの所在を聞けばあっさり答え、奉公なんて言ってるのは父親だけでただ新しい借金の担保に連れてかれただけである。
没落したフルト家から奉公人を雇うところなんて居ないし、そうでなくともその仲介に父親が金を借りている業者が挟まることなんてありえない。
やりとりこそ奉公願いとも取れる内容だが、そもそも“身の安全どころか期間”すら保証されていない奉公なんて身売りと変わらないと分かりきっているはずだ。
それすら分からない、否、分かっていてやっているだろう父親へ既に肉親の情が事切れたアルシェはジャイムスから聞き出せるだけの情報を聞き出して家を飛び出す。
途中で慌てるアルシェを見かけたロバーデイクがヘッケランたちにも声をかけて探したが、見つからないのは仕方ないだろう。
「ねぇ、シーカーに話してみない?」
その中でぼそりと漏らしたイミーナの一言が全ての運命を変えた。
「
手付金のように押し付けられた、信用していいのか悪いのか分からない《伝言》の使えるマジックアイテムで切羽詰まった声を飛ばしてすぐに駆けつけてくれたことへの感謝もそこそこにアルシェは懇願する。
今まで見た服も見事だが明らかにパーティなんかで着る物でありながら、飾り気が少ないのに宝石から切り出したような、ワーカーでは想像できない矛盾している豪華な白い服でやってきた
「無茶を言ってるのはわかる。あなたが欲しいって言うなら私の全部をあげるから妹たちを探して!」
今すぐにでも脱げと言われれば脱ぎそうなほど、というか脱ぎ始めようとするアルシェをイミーナが必死で止めてる姿から目を逸らしてシーカーはヘッケランたち男衆と彼女らを視界に収めないよう目を合わせる。
「ンで、嬢ちゃんはこう言ってるけどオタクらは?もう関係ないんだロ?」
「わかってて言うなよ、シーカーの“旦那”」
「ええ、もし見つけていただけたならあなたの話お受けいたします」
「いや、オレお前らにその話を強要するために振ったんじゃネェんだがなぁ……」
首を触り数瞬の後、息を深く吐いたシーカーが睨みつけた。
「探す方法はある。見つけるのも吝かではない。だがこれが商人の絡んでるなら話は別ダ」
「っ!?」
「探し出してどうスル?見つけて攫ってオレに匿ってもらうか?見つけ出したのがオレだって知られたらどうスル?……別にその嬢ちゃんの親がどうのは知ったことじゃねえが、それが契約として成立してんならオメーらはオレにソイツらの横紙破りをさせようってんダヨ。分かるか?商人のやり取りを商人が掠め取るって事実をよ?」
人として好ましく、見目もナザリックを除けば十分に良い方、多少の愛着もあることは認めよう。
だが
繰り返しになるが心情的に手を貸してやりたい気持ちもある。それでも商人として振る舞う理性的な視点が勝つ程度の愛着なのだ。
「そんなっ」
「いくらだ?」
「え」
「お前らはこれにいくらの価値をつける?」
「アンタっ!」
「声を荒らげンな。嬢ちゃん
目線を一度アルシェへ向けるシーカーの目はまるで氷のように冷たい。
「その上、嬢ちゃんがセコセコ借金返すのは親のためじゃねえってのは向こうも承知。そうなると嬢ちゃんに妹ちゃんを渡した後、親が残りをきっちり返してくれるカ?返さねぇよナ?何せ今まで返してたのはずっと嬢ちゃんダ。返される宛てが無くなるのをわかってて部分の返済なんて引き受けるバカはいねぇヨ。なら借金全部返すつもりで金を積まなきゃならん。さてここからは金勘定ダ。三百五十に手間賃と筋を通すために身請けのひとり頭の上乗せしなきゃならんから五十は乗せる。ついでに詫びにいくらか乗せんとなると区切り良くして五百も渡せば良いダロ。さて、アンタらがウチの仕事を受けたとしてこれだけの額を出させるのか?」
無理だ。フォーサイトの脳裏に浮かんだのはその一言。
元々探し出してどうこうという話はなかった。否、それを考えたが最後。二の足を踏まざるを得ないのが分かっていた。
「五百……その価値を用意できれば匿ってくれるの?」
「それを聞くってことはアテがあるのカ?」
「ない」
「……へぇ?」
冷たい目の奥にドロリとした粘性の高い熱が見える。
「でも、あなたを信じてる。私を“五百金貨を払わせる”以上の価値にしてくれるって」
遅まきながらシーカーの隠す本性を理解する。だからこそ、この言葉で尽すしか道は無いんだと覚悟した。
「本気で“全て”払ってもらうぞ?」
「うん、魔法も知識も身体も、心も魂も全部。“あなた”に捧げる」
「豚みたいなクソ男に抱かせるゾ?」
「あなたが望むなら」
「全身バラして、家畜の餌になルぞ?」
「あなたが望むなら」
「死ぬなと言われれば、死ぬことすら許されねぇぞ?」
「あなたが望むなら、地獄の果てからだって戻ってくる」
さぁ、払うものは提示したよ、ご主人様?
「足りねぇナ」
「ッ!!」
「足りねぇ、足りねぇ、足りねぇナ。あの妹ちゃんたちにも“それなりの年まで健やかに育つ”って
「シーカー!」
「ったくよ、旦那も人がわりぃ」
「なるほど確かに足りそうにないですね」
「アァ?テメーらの身柄もオレの所有物になるんだヨ、なに他人事みたいに言ってんダ」
「ええ!?」
「これは……」
「俺らのもかよ」
「っ!シーカー、皆はっ」
「「「仕方ないな」」」
「えっ」
「あーあー、ついに飼い犬か」
「まあ、どっかのアホ貴族よりはマシでしょ。なにせ“健やかに育つ”って仕事をさせられるんだから」
「違いないな」
「ええ、金に代わるものには違いありません」
「おい、育ちきってるそこの金髪と髭と板」
「ひでぇ呼び名」
「はっ倒すわよ雇い主」
「ヒゲ……」
「えぇ……」
「はぁ、余計なもんもつけちまったカ」