【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

41 / 51
30

30 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

「ってな訳で、保護したぞ」

 そう言って両手に買い物袋でも抱えるように妹たちは戻ってきた。

「ウレイリカ!クーデリカ!」

「うわぁ」

「マジかよ……」

「これは、本当に凄いですね……」

 下ろされた傷一つない眠るふたりを抱きしめるアルシェと、自分たちが仕えることになる主人の底知れなさを改めて見せられた元フォーサイトであるヘッケランたちはただただ慄く。

「それとイターナ」

「イミーナよ!」

「どっちでもいい。お前、子供いるなら先に言えヨ……」

 不躾に下半身へと視線をやるシーカーだが、言われた方は不快に感じる以前の問題だった。

「え、うそ……?デキてるの?」

「おまっ、なんで言わないんだよ!?」

「私だって知らないわよ!?え、なんでわかるの!?私だって今知ったのよ!?」

「アー、ウチのもんに生命の気配がわかるタレント持ちが居んだ()

 もちろん嘘である。シーカーの持つスキルのひとつが勝手に読みとっただけだが、とりあえずタレントと言っておけば下手な説明せずに済むことを知ってるのでそれで通すつもりだ。知識とは武器であり、無知とは不利なのである。

「おめでとうございますイミーナ。ところでシーカー殿」

「わかってるヨ。こっちで負担の少ないようにはするが、その分の働きは後で求めるぞ」

「ええ、それで問題ないでしょう」

「え、え、え?」

 理解の限界を超えたのかヘッケランとイミーナが目を白黒させる中、にやにやしたシーカーと普段はそんな表情しないだろうロバーデイクがいやらしい笑みを浮かべて━━

「「頑張ってナ(ください)、父親殿?」」

━━ヘッケランを地獄(げんじつ)へ突き落とした。

 

 

━━━━━━

 

 

「予想通り五百か……まあ、安い買い物では無いナ」

 寄りかかるレビアを抱きしめながら誰に問う訳でも無く呟きを漏らす炎ぺらー(シーカー)

 夜明け前までにアルシェの話をまとめ、朝一で解決したシーカーは素知らぬ顔で転移によって部屋へと戻り、部屋に待機させていたレビアからの報告を受けている。

 一度、怖いもの知らずの若い貴族が部屋へ夜這いしに来たみたいだが問題らしい問題はなかった。

 というのも触れることもできず薄着のレビアを見た時点で果ててしまい、ズボンにシミを作るだけ作って衛兵に連れてかれたそうだ。

 そんなことがあったと露知らず炎ぺらーが部屋へ戻った時には、血相を変えたジルクニフの使いからの呼び出しがあったため、内心でようやく納得がいったという話である。

 もっともレビア的には虫に多少肌を見られた程度では苦にもならないし、上書きと称して全身をくまなく触れてもらった上に貴族の抱いたシーカーへの“嫉妬”も美味しくいただけたのでプラスが大きかったのは余談。

 貴族の今後が気にならない炎ぺらーはある種の平常運転で、非常に沈痛な表情のジルクニフの顔を立てて、もう一泊することとなりながらも頭で考えているのは外で使った金貨の勘定。

 ぶっちゃけ、もう少しふっかけられるかと思ったがそんなことは起きなかった。

 そもそも、元の三百の時点でワーカーとしての稼ぎが消えるほど、かなりの利息をふっかけている。

 そこに妹たちの五十も乗っていて、その話の時点で五十をさらに乗せているのでとっくに元金分は取り返しているのだろう。

 一応の手切れ金としてシーカー側から五十を乗せて四百五十の手打ちになる所へ足を見られ、()()()()()()()五百で完全な手打ちとなった。

 

 もっとも、その業者が寝起きに交渉した相手が皇帝の覚えめでたくなった〈シーカー商会〉であると知るのは今頃であろう。ようやく終わった話が自身を終わらせてしまっているのに気付くのはいつになるか。

 

 この出費が痛いことには痛いが、幸いなことにフールーダという貴重な情報源のおかげで痛手は小さいというのが炎ぺらーの感想だ。

『そいや、爺さん。アンタタレント持ちなんだって?』

『その通りでございます。シーカー殿、相手の使える魔法の位階が読めるのでございます』

『あーなるほど、それでコイツに反応してたのカ。しっかしそんなタレント他にいると面倒だナ。知ってルか?』

『ひとりだけ、かつて魔法学院に通っていたアルシェという娘が……』

『アルシェ?』

『知っておりましたか、流石でございます』

(タレント持ちを確保できた……ってので元取れてればいいナァ)

 一応、今回の話し合いで使った金額はこれまででもかなり大きな出費である。とはいえ、そもそも元がナザリックで使われない上、かつてのナザリックでもゴミ扱いされる程度の物を市場に流して産んだ稼ぎで賄えたので懐的には痛くない。

 流した品の量も全体から見れば微量でそもそも低位すぎたり、代用としても心許ない物ばかりで使うことは無い。

 魔法的効果のあるものはアイテムコレクターのパンドラズ・アクターの鑑定による厳しい審査を突破した市井に流れても問題ない物。

 一部の効果すらない装飾品は彫金師の職業を持つ傭兵NPCの魔法で作った金属に生産力重視で彫らせ作ったものだ。

 目利きできる知識もなく、細やかな違いは分からないのでそのまま卸しているが、売れ行きを見る限り上々のようである。

(しばらくは倹約かネェ……)

 と考えつつもシーカーとして見せてきたキャラでは守銭奴への露骨な転換はできないので、地道に稼ぐしかないだろう。

(さて、そういや昨夜の件とは別件で呼ばれるんだったナ)

 そんな風にぼんやりと今後を考えていると、昨夜のことがないように護衛として付けられた帝国四騎士のニンブルと呼びに来た兵を伴って皇帝の所へと向かうのだった。

 

━━━━━━

 

「やぁ、シーカー。重ねてになるが、我が国の貴族がとんだ迷惑をかけた」

「気にしてないさ。まぁ、それだけ魅力的だったって思っておくよ」

 通された豪華な部屋で机を挟む二人。ジルクニフの後ろには謁見の時にも一番に控えていた秘書官……〈ロウネ・ヴァミリネン〉と四騎士の一人〈バジウッド・ペシュメル〉が控えているが、その距離は明らかに遠く素人目にもすぐに駆けつけられないとわかるだろう。

 そのような状態で机があるとはいえ、手を伸ばせば触れてしまうような距離にシーカーを招き入れるのは信頼の表れ、と受け取ってほしい意図がプンプンと臭う。

 その事にはあえて触れず……というより、(あの髭の方ならかなり警戒してればギリギリ届くカ?)とぼんやり思いながら、シーカーも手振りのみで後ろに付いて来させていた燕尾服の〈ゼブル〉を一歩引かせて立たせる。

「それで、わざわざ呼んでどうしたんだ?」

 内心のビビリをおくびにも出さず気安い態度を作って水を向けた。

「ああ、少し聞きたいことがあってね。君からの贈り物の中に遊具があっただろ?確か“チェス”と品目にはあったかな?」

「ああ、あれがどうした?もしかしてなにか気に障ったか?なら、すぐに違うものを━━」

「そんなことは無い!むしろあれほど凝った小さく細やかな彫像(スタチュー)が美術品でないことに驚いたくらいさ」

 ピクリと眉を動かしたシーカーに被さるほどの勢いで訂正を重ねるジルクニフ。シーカーとしてはルビキューなる遊具が法国にあるのだから、何がしかの貴族の遊び道具もあるだろう感覚でリストに加えたに過ぎない。

 炎ぺらー知る限りで電気を必要とせず雰囲気的に良さげなのが選出理由だ。付け加えるなら飾ってあるだけでサマになる調度品(オブジェ)として(厨二な)美的感覚によるものである。

 ジルクニフの反応からして審美眼(厨二)は間違ってなかったと内心で鼻を伸ばしながら、首を傾げる炎ぺらー。

「遊具なのだろう?()()()()()()()()()()()

「え゛っ゛?゛」

 にこやかにチェス盤をチラつかせるジルクニフと露骨に頬を引き攣らせたシーカー。

「確か並べ方はこうだったかな?」

 固まってるシーカーを無視して、テキパキと駒を並べ始めるジルクニフ。

「いや、悪いんだが、()()知らない━━」

「まさか、遊び方も分からず、こんな面白い遊具を、渡したなんてない、だろう?」

(あ、オレ死んダ)

 炎ぺらーは(社会的に)殺されるだろうことを直感した。駒の動かし方くらいはわかるがまともに対局したことなんてない。

 噂で聞く聡明さと実際に会って見た実感から確実に“前世含めて”今まで出会った中でもトップクラスの知力を持つことはわかっている。

 負けて当然だとしても、素人丸出しで負ければ手抜きと思われ、相手の機嫌を損ねるのは目に見えてしまう。

 万が一にも勝ってしまえば、それはそれで機嫌を損ねられるのも見えた。

 だからとはいえ、接戦を演じた上で負けるなんて接待力もない。

 四面楚歌、八方塞がり、全方位どん詰まり。

 

「さて、始めようか?」

 

 せめてもの遅滞戦術でゆっくり並べるがもちろん大した成果にはならず並び終わる駒たち。

「お手柔らかに頼むよ」

「こちらから願いたいくらいさ。始めるか、“Dの4”」

 白(先手)のシーカーが唱えると盤上の駒が自動で動き出す。

「……!マジックアイテムでもあったのか!“Fの5”」

 一手一手宣言することで盤上を駆け回る精巧な駒たち。

「(ははは、これはなんだ?精巧な駒を容赦なく叩き割る(さま)は?まるで戦場に立っている気分だ!)」

 遊具と共に贈られたルールブックとスコア帳。パーティの後、部屋で改めて贈り物のリストを眺めていた時に見つけ、貴族の件で呼ばれるまでの数刻を時間を忘れて読み込んでしまうほどの衝撃を受けた。

 一手ずつ交互に様々な動きのする駒たちを動かし王の駒を取り合う。

 戦力も配置も互角のところから始まるなんて、実際の戦場では有り得ないがそれ故にお互いの知略が如実に現れる。

 公平で厳格かつ、単純で複雑な遊び方。

「(面白い!異国にはこのような遊びもあるのか!)」

 押しては引いて、守っては攻めて。

 一進一退。一手が形勢を反転させることもあれば、数手前の手が遅効性の毒のようになることもある。

 幸い読み込んだ先達の棋譜(スコア)表のおかげでイメージはできていたため、胸を借りるつもりで果敢に攻めの手を繰り返すジルクニフ。

(ファーwww(白目)ドコが初心者じゃア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?)

 容赦なく突き立てられる攻めを何とか避け続けるシーカーは必死だった。

 

 その時間も終わる。

 

「負けました、いやーお強い(ガチで)」

「ははは、やったぞ!見たか、バジウッド!ロウネ!」

「「おめでとうございます」」

 

 三十七手で決まったジルクニフの勝利。笑顔で盤面を指さす姿はとても王位に着いたものとも思えないほど子供のような喜色に染まっていた。

「四手前のナイトが妙手でありましたな」

 盤面を戻しつつ、ここの手が良かったなどと誉めそやすシーカー。

「いや、その前の━━」

 お互い打つ傍ら付けていたスコア表を手に話し合うふたりを優しく見守る護衛たち。

 

 長くとったはずの時間を大幅に超えてしまい執務担当の秘書に怒られるジルクニフという珍しい光景を見る二刻前であった。




・チェス(マジックアイテム)
モチーフはハリーボッターに登場するチェスまんま。
宣言することで駒を動かし、容赦なく壊していく様は派手で筆者の印象に残っている。映画くらいしか見た事ないけど、試合が終われば多分直るんだろう。少なくとも炎ぺらーが用意したものは試合が終わると自動的に直る仕様。
……指揮官系の職業を持っていると初期の駒数や駒の種類が変わる特別な仕様があるとかないとか。
ぶっちゃけ、書きたかったがチェスエアプなのでよく分からん。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。