30.5_2 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記
“その答えは私が説明しよう”
瞬間、ザリュースは心臓を直接鷲掴みにされたような圧迫感で意識が遠のきそうになる。
突如として浮かび出る夜闇のような“孔”を潜り抜けてアイスブルーの虫の巨人が凍てつかせた泥地へ降り立つのは豪華なローブを纏う《
だが、気配の質が全く違う。
(俺が倒した奴なんてアレに比べれば子供同然だ!何故こんな強者が三
死そのものを塊にしたような見ているだけで、そばに居るだけで発狂しそうなほど濃厚な負の気配。
「あ、あなた……さま、は……」
「ふむ、名乗っておくか……私は“アインズ・ウール・ゴウン”。君たちに
生まれながらか、君臨し続けてきたからか、もしくはその両方なのだろう。
ただ手を広げる動作にも威厳が満ち、堂々たる態度はまさに支配者然としていた。
「な、なぜ…………」
「……答えが必要か?それとも納得できれば滅ぼされてくれると?」
「ふざっ、けんなっ!」
「ゼンベル……!」
ザリュースの隣にはアンデッドとの騒乱を経て戦友となった〈ゼンベル・ググー〉が吠える。
「俺らは戦士だ!だから戦いの中で死ぬのだって笑って死ぬ!だがアンタからは感じねぇ!俺らを羽虫程度に思ってる奴が!簡単に滅ぼすとか言うんじゃねぇ!」
圧倒的な実力差は戦士として高い能力を持つゼンベルならザリュース同様わかるだろう。今だって這いつくばってでも逃げたい気持ちを、尾に力を入れて気丈に振舞っている。
そうだ、我らは戦士。
(死の塊がなんだと言うのだ。絶望に暮れるのは早いぞザリュース・シャシャ!)
たとえこの場で死ぬとしても、万に一つでも
「このっ!」
「ナーベラル、下がっていろ」
「っ!……はっ」
「さて、話し合いは終わったか?ならば、明日の同じ時間にまた来る。その時にまた相見えよう」
そう言ってアインズが手を翳せば闇の孔が生まれ、彼らは去っていった。
“ああ、滅ぼされるくらいなら村を捨てて逃げようとか思うなよ?その場合は……わかるね?”
底冷えする言葉を残して。
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「クソっ!どうすりゃいいんだ!」
「落ち着けゼンベル」
「そうよ」
「だけどよぉ!?」
「…………」
車座に座る四
発達した右拳を床へ叩きつける〈
「今一度、状況を改めよう」
シャースーリューの重々しく開かれる。
「〈
「参加した者のおよそ半分か」
「アンデッド軍によって減らされた数はそう多くなかった……しかし、あの木の化け物と、人族によって触れる端から散っていった」
「くっ……」
アンデッド軍との戦争は確かに辛く厳しい戦いだった。
それでも全体で言えば一割と少しの戦死者で済んでいたのは、相手の驕りを突けた事と
だが、運の悪いことに追撃へ出ていた部隊は木の根の異形によりほぼ全滅、数少ない生き残りも次いで現れた戦鎌使いの人族によって泥に沈み、多くの戦士と族長ふたりが決死の殿を務めてなんとか情報だけを持ち帰れたのだ。
自分たちが居ればなにか違ったのではと心に過ぎるのも仕方ない。
とはいえ、ザリュース、ゼンベル、クルシュの三人は《
それまでの三人はアンデッド軍との戦いにおいて最も激戦区を駆け抜けていたし、族長にして全体の統括指揮を行っていたシャースーリューが居たからこそ、その後の他
「ザリュース。お前ならあの戦鎌使い、抑えられたか?」
「あの虫の巨人……コキュートスと呼ばれてた者の気配だけでわかる……確実に無理だ。そして、その勝者であるコキュートスにも……万が一にも勝てるとは言えない。そしてその指示を出してたアインズ……は……」
「あの戦鎌使いとの戦いで消耗してる可能性は?」
「……我らに時間を与えたのが彼の回復を狙う可能性だけなら、ある。……それでもどの程度かは……」
「やはりそうか……」
なんとかザリュースは自分の得た経験と知識から何とか戦力分析をしようとするが、どれほど探っても“底を知るどころか、彼我の実力差すら測れない”の結論以外でない。
あの戦鎌使いが同胞へ一瞥もせず切り捨てたように散るだけだと本能が訴えている。
「村の外を探らせたが、周囲は見た事の無い凶暴な獣や
「妥当だろう」
「鎧着てるとはいえよぉ、なんでダメなんだよザリュース?」
二人の話を端で聞いていたゼンベルの質問に、ザリュースの中で最も当たって欲しくなかった、いっそ、誰か大笑いして欲しかったような内容の呟きに誰もが尾を顰めた。
アンデッド軍と戦っていた時の違和感の正体。それは三千という大
「おいおいマジかよ」
「我々を滅ぼすだけなら、あのコキュートスというのをぶつければいいだろう?」
「そうだがよ」
戦士であるゼンベルの矜恃としては強者相手に尻尾を巻くタイプでは無いが、相手の力量差が分からないような愚かでもない。
「アイツらにとって私たちが一つとなろうとバラバラでも些末な問題にしかならないってことなのね……」
優れた魔法詠唱者であり、聡明なクルシュが事実を簡潔に吐き捨てる。
様々な理由で部族単位に別れるしか無かった
「……降伏は認められないのか?」
「ザリュース!?」
「相手はわからんが、むしろ
これがアンデッド軍だけによって
しかし、
コキュートスと戦鎌使いの戦いを全ての
シャースーリューを除く三人ですら、同胞が屠られている時は精神力を使い果たし倒れていて、コキュートスの実力を鱗で感じていなければ信じられるようなことでは無い。
それこそ下手に族長の強権を振るったら、せっかく全ての部族がひとつとなったのにかつての同族同士の潰し合い以上の悲惨な内部分裂を引き起こしてしまう。
同士討ちか侵略者によって滅びる最悪中の最悪の二択を誰もが避けられぬと尾を項垂れたのだった。