【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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05 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

「ちゃうねん、モモンガはん。ワイかてなんぼ忘れとーなとは思うたのよ?せやけど、せやけどね?━━━━戻って早々ハングドマン(逆さ吊り)はアカンて」

 

 乾坤一擲と宝物殿よりモモンガの部屋の前へと戻った炎ぺらー。

 扉の近くにはモモンガを示すメンバーサインの刻まれたレリーフが飾られていて間違いなく転移できたことに安堵する。加えて、ロイヤルスイートの廊下には誰も通らないタイミングだったことも幸運だろう。

 部屋の中に現れたのならそのまま流れで場に任せただろうが、扉を開かねばならないという状況にもう一度覚悟を決めてノックをする。

 ほどなく、メイドのひとりが扉を開き炎ぺらーを確認すると有無を言わさず部屋へと促される。

 不思議に首をかしげながらも入室をすれば支配者然と寛ぐ(緊張した)様子のソファーに座ったモモンガ……と、不機嫌そうな魔燒が勢揃いで迎えられた。扉が開いた段階で気づけば逃げるという選択肢もあったがメイドと一言二言会話をしたせいで注意力が散漫だったのだろう、残念ながら当然の結果だ。

 オロオロとした他の一般メイド数名との温度差の激しさに空間が歪んで見えたと後に炎ぺらーは語る。

 初めて部屋の異常に気がついた炎ぺらーは逃げ出そうとするが、モモンガからアイコンタクトにより『魔燒宥めんの超疲れた、故にギルティ』とお達しを受け、『いや、パンドラに会ったことを怒ってることは確定的に明らかやん。ドイツ語イイよね!』と返したら倍率ドン、さらに倍と言った感じで「私は一時、魔燒の行動に目をつぶる。存分に不満をぶつけよ」の一言に魔燒に担がれ吊るし上げられて、ただ彼女達の言葉に耳を傾ける。

 

 曰く、私達は炎ぺらー様の従僕。側に侍らせて頂き御身を奉る事こそ存在意義、何時如何な時でも身も心も魂のひとかけらまで捧げたい。

 曰く、私は貴方の勝利を歌うカナリア。あなたの隣に居ることも歌うこともできないならいっそ手折ってくれ。

 曰く、炎ぺらーさまのためにキラキラしたいの!でも炎ぺらーさまにキラキラしてるのを見てもらえないと意味無いの!

 曰く、僕たちじゃ頼りないかもしれないけど!それでもそばに居たいんです!

 曰く、ひんそーでちんちくりんな私ですけど!お、お茶くみなら任せてくださいぃ!

 曰く、あらあらうふふ。炎ぺらー様、めっ、ですよ?(威圧)

 曰く、頑張るからさ、見捨てないでよ!

 曰く、ぜったい、役に立つかんね!

 

 あぁ、彼女達は本当に生きてるんスね。と納得する炎ぺらーは本心から謝った。

 

 なお、彼女達のハイライトさんが出張中だったことは関係ないだろう。

 

━━━━━━

 

「その……すいません炎ぺらーさん」

「あぁ、うん、あぁ……あへへ」

 軽い精神崩壊を起こす友人をどうするか決めあぐねるモモンガ。

「ここは私におまかせを、ンンンッモモンガ様!!」

「なっ!……なぜここにいるパンドラズ・アクター?」

 ありえない乱入者に思わず精神抑制が働くモモンガと相変わらず大仰な身振りで居ない観客を魅せる動きのパンドラ。

「炎ぺらー様より賜りました転移アイテムによってでございます!」

 この人何してくれるんだ!?と未だ涅槃に行ったきりの炎ぺらーを睨みつけるモモンガ。

 ちなみに本来なら先にメイドがモモンガに声掛けをするのでいきなり入って来られないのだが、炎ぺらーが先に言い含めていたためのアンブッシュとなった。

「モモンガ様の疑問ももっともでございます!しかーし、これには炎ぺらー様の深謀も関わるのです!」

「……炎ぺらーさんの?」

 パンドラの側には大量のアイテムが積み上げられていることに気づく。

「なんだ……これは?」

「外へ出るモモンガ様とシモベ達に必要であろうマジックアイテムでございます」

 見覚えはあるが効果を思い出せないモモンガはそれを聞いてハッとなる。

(外へ出る俺に?でも、炎ぺらーさんは反対してたはずじゃ……)

 改めて炎ぺらーの言っていた言葉を思い出す。

『いや、トップふたりが会社離れて“娯楽”とか嫌すぎるでショ』

 炎ぺらーは決してモモンガの活動を否定はしていない。肯定もしていないが、彼が問題視したのは“トップ二人”が離れることであった。

(炎ぺらーさん、もしかしてこのために1人で宝物殿に?)

 胸の奥に暖かいものが広がる。気付かぬうちに渇いたヒトのココロが潤う音が聞こえるほどに充ちていく。

「それでパンドラ、どんなものを持ってきたんだ?」

「はい、一つ目は第五位階以上の幻術魔法が込められたもの、二つ目にアンデッドの種族スキルを一時的に無効化するもの、三つ目に第七位階以上の一時的に人間種へ変化するもの、四つ目に精神や呼吸、睡眠や空腹などへの耐性を込められたもの、五つ目にそれらを下位のアイテムで再現できるように取り揃えたものでございます」

「ほぅ……」

(一つ目は幻術で潜り込む。メリットはステータスにマイナスがかからないこと、デメリットは食事や睡眠など人間らしい習慣をどう誤魔化すかという問題。

 二つ目は幻術で潜入する際の違和感を緩和するため

 三つ目はそもそも人間種として潜り込むためか、メリットは人間らしい振る舞いに違和感が全くなくなることだが、反面デメリットとしてステータスダウンはもちろん種族スキルが封印されることか。それを四つ目のアイテムで補うと)

 五つ目は恐らくこちらの世界で普及している━━と考えられる━━魔法の低レベルさに合わせた予備品だろうとモモンガは考える。

「どちらもメリット・デメリットがあるか……」

(幻術の場合は魔法職としての能力は持ったまま30レベルくらいの戦士として振る舞えるけど、人間種に変化した場合は戦士としては無理だな。そうすると俺自身は後衛になる。前者なら後衛職の、後者なら前衛職のシモベを連れていくことでパーティのバランスをとることになるか)

 両極端な方針であるため、メンバー選出そのものを変えなければならないと正確に捉えたモモンガ。

 炎ぺらーさんならどっちもできるんだけどなぁ、と心の中で落胆しながらも友の好意を無下にしないためにメンバーを誰にするか考える。

 しかし、炎ぺらーと共に行くことを諦めきれないモモンガは必死に模索しても、最終的な関門がアルベドやデミウルゴスに加え、炎ぺらー本人を説得しなければならないことにぶつかってしまう。

 また、仮に説得できてもトップふたりが出張るとなればシモベも相応に連れていかねばならず、大所帯になることを考慮しなければならない。

 一度は断られた上、説得には大変な労力がかかると予想がたやすい。だが、二人で外を出歩くことはかつて親友達と歩んだ冒険を思い起こし、さらにそれこそ思い出とは比較にならない新しく鮮烈な刺激となるだろう。

 シモベもいるため伴う増える苦労を熟慮してなお魅力に抗えないモモンガは悩まされる。

「炎ぺらー様、“例のもの”を見つけたので持って参りました!」

「彗星かな。イヤ、違う、違うな。彗星はもっとバーって……んぉ?」

 ついには幻覚すら見えていた炎ぺらーはハキハキとした声掛けで、何処かへ連れてかれそうになっていた魂を戻される。

「あれ、オレいつの間に宝物庫からもどったんでスか?」

 記憶を失っただと!?精神抑制により言葉には出なかったが、逆に言えばそれほどの衝撃を受けた骸骨。

「えっと……つい、さっきです」

「まじっスか……全然覚えてないでス」

 炎ぺらーのためにも先程のことは黙っておこうと決めたモモンガ。決してモモンガ自身が魔燒のことを伝えられるほど心が強くなかった訳では無い、たぶん、きっと。

「んで、宝物庫の外でパンドラがいるってことは……」

「ハイ!炎ぺらー様が望まれた例のものとモモンガ様の求めていたアイテムが見つかりましたので、既にモモンガ様には見て頂いております」

 パンドラの自然な手振りでテーブルに並べられたアイテムの山へと視線を移された炎ぺらーはしげしげと観察し、テキトーに手に取ったアイテムを鑑定する。

 なお、炎ぺらーが手に取ったのは山の中で最上位に位置するレアアイテムであり、今回の任務で最も適しているのではと考えていたパンドラは「さすがは至高の御方、審美眼においても優れている」と尊敬の念を高めた。

「そしてこれが炎ぺらー様のお求めになられたアイテムにございます」

 それは真鍮色の蝋燭台。上向きの髑髏が口を開けたような台座、開いた口からねじれ曲がった三又のロウソク受けが天に向けて伸びている。

「それ、なんですか?」

「ちょっと部屋のオブジェが欲しくて」

「えぇー……」

 自分の面倒な捜し物を押し付けたのかと炎ぺらーに思わず呆れてしまうモモンガ。

「っとモモンガさん、パンドラも来たことですし少し話しまショ?」

視線と言葉でパンドラを除くシモベたちを部屋から退出させる炎ぺらーに疑問符を浮かべるモモンガ。

「話ですか……何かありましたっけ?」

「そりゃあ、有りますよ。オレたちのリアルの事でスよ」

「はァ!?炎ぺらーさんその話は……」

 ナザリックの運営のことならデミウルゴスたちも呼んだ方がと考えていたモモンガは思わず声を荒らげるもすぐさま精神を平坦にされて言葉を切る。

「この話をするのに今のタイミング、メンバー以外ないっスよ」

 炎ぺらーは先にソファーへと座り直し、テーブルを着くよう軽く指でテーブルを叩いて示す。

 モモンガは炎ぺらーの言葉を付き合いの長さから強く真剣な意志を感じ取って素直に別の席へと座りながらパンドラにも座るよう促す。

 対面にモモンガとパンドラが座る形に落ち着くと炎ぺらーは口を開く。

「率直に聞くけどサ、パンドラ。居なくなったギルメンとかをどう感じル?」

 いきなりかなり踏み込んだ質問に再び大きな驚きを隠せないモモンガは事の成り行きを見守る。

「……そうですね、被造物としてはとても悲しくあります。我々は至高の御方々に仕えるよう生み出され、それぞれ役割を与えられました故に仕える方が居なくなることを非常に危機感を抱いております」

 大仰な振りも見せずに淡々と答えるパンドラに内心、お前そういう言葉遣いもできるなら俺の前でもしてくれよと思うモモンガ。

 だが、(造物主)がそうあれと定めた事を御方の前で見せるのは誉れあることと認識してるパンドラに、それを覆させるのは難しいことだと気づいているのは炎ぺらーのみだろう。

 心境を例えるなら、お遊戯会で演目の主役に選ばれた子供が親が見てくれるのを見て張り切っているのに近いのではないかと読んでいる。

「言い方はあれだが、お前達の造られ与えられた役割について不満とか不便は?」

「特に何も感じませんね、繰り返しになりますがそうあれと定められたことを全うするのは生み出された者として当然であり、生み出した方々によってそれを変えられるなら従うまで……。であるからして、我々は至高の御方々以外に在り方や役割を変えられる事、侮られる事にこそ、非常に嫌悪感と忌避感を抱きますね」

 ある意味、他人事とも取れるレベルで自己を含む元NPCたちの根幹を露わにするパンドラに驚きを隠せないモモンガはただただ聞き手に回り、得心がいったとばかりに頷く炎ぺらーに不安を抱く。一体どんなリアルの話をするつもりだ、と。

「まず、正すってわけじゃないけどお前らが言うほどオレらは万能でもなければ全知でもないってことを理解してもらいたい」

「っ!!……と、申しますと?」

 パンドラは驚き息を呑みながらも冷静さを失わずに本題であるだろうその先を求める。

「オレらというこの体はある世界から意志を飛ばして操ってた影法師みたいなもんなんだ」

 炎ぺらーは翳した手を動かし、机の上に浮きあがる影の姿を変える。

「人が、物が、自然が、人の手によって壊され、大きな歪を抱えながら終わりに向かう……それがオレたちが住んでいたリアル(現実)という世界だ。そしてリアルでのオレたちは……この身体に因んで言うならレベル1にすら満たない存在だ」

 魔法もなく、スキルも覚えられず、あるのは二脚二腕の肉袋。そんな存在が自分たちが好き勝手に弄れて、絶望から目を逸らす為に作ったのがユグドラシル・オンラインという九つの世界を内包するひとつの遊戯場。

 そこで遊んでただけの存在がお前たちを生み出したオレたちの正体だ。

 告解する炎ぺらーと否定を唱えず同じような重い雰囲気を纏う創造主の存在に語られた内容が、克明に真実だと訴えられるパンドラははにわ顔ながらに驚きを表面に出す。

「我々……いや、俺達にとってあの日、この世界に飛び込む寸前まではただの只人だった。いくつかの企業が天下を分配して治め、その関係者で固められた上流に歯車のような消耗品として使い潰されることを受け入れなければ明日すら危うい日常を生きてきたんだ」

 モモンガの繋げた言葉を相槌を打つこともできずにただ聞き逃さないように耳を向けるパンドラ。

「だから、オレもモモンガさんもたまらなく怖いんだ。こうして会話をすることも、考えることもできなかったはずのお前たちが動き出したことが、影法師であったはずの肉体が突然自分とひとつになったことが、その体に心を歪まされていることが、それらの苦悩を外に出せずに内側でぶつかり合って擦り切れていくことが、恐くて怖くてしかたがない」

「俺も……炎ぺらーさんが来るまではその事を誰にも……本当に誰にも打ち明けられなくて苦しんだ。いつ自分が自分でなくなるのか気にする暇すら与えられない現状が、見えない砂時計を気にするみたいで不安だった。俺たちが作った紙面(テキスト)上の遊びがそのまま目の前で動き出したのが、全員のそれを覚えてる人なんて居ないことがこれからどう影響するのか分からなかった」

 困惑、驚愕、悲痛……被造物として生み出されたことに歓喜を覚えていただけだったと思い知らされ、なにより炎ぺらーが来るまでは唯一創造主と被造物が揃った現状の優越感に浸るばかりだった自身の浅慮にパンドラは悔いた。

「なぁ、パンドラ。滅私の心構えで優秀な支配者を演じるオレたちと、無様で無知でわがままで自分勝手で……でもお前達と共にある先導者のオレたち、どっちがいい?」

 このタイミングで聞くのは選択肢を潰してるみたいで悪いがナ、と苦笑とも疲労とも取れない歯切れの悪い炎ぺらーの言葉にパンドラは堪えきれず立ち上がり二人の前に平伏する。

「宝物殿領域守護者、パンドラズ・アクター。至高の御方に意見する無礼をお許しください。我らシモベは貴方々にこそ忠誠を捧げる忠実な配下、御身が望むままにその力、その知恵、その思いを存分にお振るい下さい!私は……親愛するモモンガ様に重石を載せるために居るのではありません!その両肩の重責を少しでも軽くしていただけるよう支えたいのです!」

 普段の仰々しい身振りも手振りもなくそこに居るのは真に心を剥き出しにした子供(パンドラ)

「……お前の気持ち、確かに受け取った」

 パンドラは気づけばそっと自分に寄り添ったモモンガにより手を引き立ち上がった。

「パンドラ、改めてよろしくナ」

「ああ、俺も……お前を頼りにさせてもらうぞ、パンドラ」

炎ぺらーたちの言葉に滂沱の涙を流しながら最敬礼と共に「Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)!!」と返すパンドラ。なお、そのドイツ語やめような!とモモンガが交渉するのは別の話。

 

 一悶着の末、いくつかの話し合いを終えた炎ぺらーとモモンガは伸びをしたり各々過去の習慣が抜け切っていない動作でひと心地を付ける。ちなみにモモンガは軽く息を吐いて首筋を伸ばすようにして、炎ぺらーは立ち上がり腕や腰を振ってあるのか分からない腱を伸ばしている。

 最後に大きく息を吐く動作が二人揃い小さな笑いが込み上げると、気持ちを切り替えて追い出す形になったシモベたちを呼び戻してお茶や菓子の用意を頼む炎ぺらー。

 こんな休んでばかりでいいのかなぁ?と不安と疑問の混じったつぶやきをいやいや、今までの思いっきり仕事っスよ。むしろ今からようやく休憩っス、とメイドと香りの良いお茶やお菓子について話をしていた炎ぺらーは片手間に答える。

 余談だが、かつて務めた会社のブラック度合いではどっこいどっこいだったので、社畜精神以上に単純な性質なのだろう。かつて殺されることに至った周りの印象ほど社畜として働いていない、とは炎ぺらーの談。

 モモンガも思うところはあったのかすんなり受け入れてるあたり、気苦労による見えない精神の疲弊を炎ぺらーを通して客観視できているのも大きい。

 自分を近いところで気遣う仲間の心遣いに小さな温かみが心に染み渡る。

 

 その友人がこれから何をしでかそうと画策していることに気付かないまま、胸の温かいものを大切に扱うモモンガは運ばれてきた紅茶の香りを楽しむのであった。

 

 




書き溜めはありますが、一日1話更新を目指します。
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