【完結】炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記   作:目此

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06 炎ぺらーと行くナザリックの侵略日記

 

 パンドラを交えてリアルについてお茶を片手に話し合った炎ぺらーとモモンガは一時の休暇を思う存分楽しんだ。

 何度か煎れなおさせたお茶も冷えるほどの時間だったが、クッキーが美味しかったことを心に刻み順調に進んだ情報の整理に人知れずほくそ笑む炎ぺらー。

 なお、クッキーも紅茶も味はわかるが口に入れた端から()()してしまい、のどごしを楽しめなかったのを残念そうにしていた。

 金属の塊である蝋燭台をペン回しのように手遊びしながら立ち上がる。

 皆の説得頑張ってくださいーっス、と部屋を出ようとした炎ぺらーとメイドたちの間で扉の開け閉めの悶着があったため、実に締まらない退出である。

 

━━━━━━

 

 ナザリック地下大墳墓第七階層守護者デミウルゴスは第九階層の通路を突き進む。

 その足取りは景観を壊さない程度に早足でありながら、一歩一歩を踏み締めているのが見て取れる堂々とした歩みである。

 彼の内心を覗くことができれば突然小躍りしだしても違和感のないほどの快悦に満たされているが、今ではたった二人となってしまった至高の御方が住まう聖域で無様を晒さぬよう、鋼の忠誠心で取り繕っているに過ぎない。

 それでも多少足取りが軽く見えるとしてもシモベであれば共感できることであり、むしろその程度で済んでいる事に驚嘆するほどの忠誠心の高さである。

(炎ぺらー様がお戻りになられて早々の謁見は驚くほど簡素でしたね。いえ、あれは既にアインズ様と炎ぺらー様の間で此度のことが共有されていたからでしょう。私程度では足元すら及ばないほどの叡智と強大な力を持つ御二方であれば、あの場でおっしゃられたように我らの栄光は盤石であるなどと“当たり前のこと”を皆の前で喧伝することで我々シモベの不安を取り除いていただけた。しかも、今後も仕えること許してくださるとは……また目尻が熱くなってしまいます)

 優雅な所作でハンカチを取り出し目尻に当てるデミウルゴスは思い足りない敬愛する方々への賛辞を心の中で謳い上げるのとは別に、今回炎ぺらー直々に呼ばれた理由を思考する。

(此度の招集は緊急ではなく、私とアルベドの二人が揃う時で良いとは……一体どのようなお話をしていただけるのでしょう?)

 謁見の間での招集から時間にして二十四時間、警戒令も炎ぺらー帰還の儀から四時間の後に緩まった。

 それでも外へ出る予定だったシモべは未だナザリックに留まることを指示され、準備を行いつつも各自の守護領域で警戒に当たっている。

 忠誠心はシモベの中でも高いと自負するデミウルゴスとて、守護階層の見回りをしつつ〈巻物(スクロール)〉の生産場の吟味をしていたところに連絡を受けて、緊急のもののみ急いで処理してアルベドに合流を伝える《伝言(メッセージ)》を飛ばしたのが少し前。

 思考の大半が熟考しかけたデミウルゴスは炎ぺらーの部屋へ近づくと部屋の中に偉大なる気配を鋭く感知する。

 未だアルベドの姿はない。

 

━━━━━━

 

(憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い、憎いっ!)

 熱く粘着質で不快な感情がアルベドの体内を血流の如く駆け巡る。

 マグマのように煮えたぎる憎悪が楚々とした歩く姿から時折溢れて腰の翼を細かく震えさせた。

 何故戻ってきた、何をしに来た、何故ここにまだ居る。

 アルベドは今だけは自らに任せられた仕事も忘れて、全力で排除を目的にいくつもの策を試算する。一番効率的なのは失脚させることだろう、と分かっているがそれが一番難しいことだと悟っていた。

()()()()様ほどではないとしても至高の御方と呼ばれるだけあって鬱陶しいほどに聡い奴ね)

 策を思案する度、脳裏に焼き付いた記憶が何度も反芻される。

 それは炎ぺらーの帰還を報告した緊急の集まり、周りが持て囃す中で堪えられず漏れた殺気に反応されたことだった。

(なんなんだあいつは心でも読めるというの!?)

 アルベドが如何にNPC統括ではあっても、優れた頭脳を持っていても、無い知識は無い。

 モモンガや炎ぺらーが……至高の御方と呼ばれる存在がどれほどの力を持つのかという点において、NPCは圧倒的に無知なのだ。

 偉大なる造物主、仕えるべき方々、シモベよりも圧倒的強者。そう謳うシモベたちのほとんどは彼らがどの程度の強者なのかということを知らない。

 倍なのか十倍なのか、それとも頭が出る程度の実力なのか想像すらできない。

 もちろん、多くのシモベにとっては大した誤差ではない。百倍強かろうが万倍強かろうが、ただそれだけのチカラを有しているというだけ。

 せいぜい、わたし達よりも云倍も強いという事実に驚き平伏し、さらなる忠義を捧げたいと考えるか、それほどの方に忠誠を捧げ仕えさせて頂いているということに身悶えるほどの快楽を感じる程度。

 だが至高の御方の優秀さの片鱗を感じ取ったが故に、どの程度を想定した策を巡らせるべきかアルベドは片手間で思考できるほど慢心を持てなかった。

 策をめぐらせても読まれるかもしれない、罠にハメたつもりで自分がハメられているかもしれない。

 アルベドが知っている炎ぺらーは至高の御方と他が呼び敬う下郎の一人で、守護者と同等の強さを持つ七体の異形を侍らせ、自分の殺気を感知する、その程度だ。

 足りない、足りない、圧倒的に足りない。

 これでは謀殺することはおろか、嬲り殺すことも、腹で煮えたぎる憎悪をぶちまけてぶつけることも、何もできずにただただ時間を浪費する。

 そう時間だ、無為に時間を消費すればどうなるかと脳裏に過ぎる度、アルベドの頭は最悪がチラつき余計に不安が膨らむ。

 

 “いと尊き愛するモモンガ様を連れてお隠れになる”

 

 その可能性を想像するだけで足が震え、心が凍り、目眩がする。

 既に他の同僚(愚か者ども)は不敬にもモモンガ様がお隠れになっても炎ぺらーが居る。そう口に出さなくても心の端を掠めるものもいるはずだとアルベドは確信していた。

 

━━なんと醜悪で愚鈍で蒙昧なんだろう

 

 一度見放した阿呆が二度目を犯さないというのか、とアルベドは一人一人に問うてみたい。

 

━━今度こそモモンガ様を我々では届かぬ彼方へと連れて行ってしまう。

 

 その可能性に目を背け、永遠に君臨する、と思考を停止しているのが手に取るようにわかるアルベドの怒りを増長させた。

 

━━何より腹の一物をあの招集の時に炎ぺらーに知られてしまったことが何よりも痛手。

 

 今の段階ではモモンガの炎ぺらーへの信頼の厚さはあの招集で証明されてしまったと考えるアルベド。

 

━━それ故にアレを理由にお隠れになられたら?

━━お隠れにならなくとも、それを聞いたいと慈悲深き御方はどう考え、どう答えるだろう?

━━嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 私にはあの方しか居ない、私が仕えるのは私が愛することを許してくださったあの御方だけ、とアルベドは手先足先がコキュートスの冷気を浴びたのかと思うほど冷たくなるのを感じる。

 他の至高の御方(有象無象)に侍らされるなど、と考えたあたりで小さく頭を振り守護者統括としての(思考)へと切り替える。

 なぜなら、遠目にデミウルゴスを確認できたからだ。

 

━━━━━━

 

 ノックに応対するメイドから二人が揃ってきたことを告げられて炎ぺらーは誰にも気づかれないよう身構えた。

 これからやろうとしていることへの葛藤が走馬灯のように駆け巡り不安を膨らませる。

 

 必要ないのでは?━━否、今やらなければならない。

 

 なぜやるのか?━━組織の膿を取らなければいずれ自分を、そして“モモンガさん”を苦しめるがん細胞となるからだ。

 

 手札は足りるか?━━そもそも、場違いだ。手札を手に場に立つことすら烏滸がましい実力差を前に怖気ついていられない。

 

 それでもやるのか?━━やらなければ全てが泡と消えてしまう。

 

 瞬きに等しい時間を数十倍に伸ばしたような感覚の数秒を経て、油の利いた黒檀の扉がゆっくりと開かれ二人の部下が立っている。

 炎ぺらーが呼んだデミウルゴス、アルベドは二人揃って入室し、敬愛する方への最高の礼儀を以て頭を垂れた。一人は形だけを繕ったものだが。

「おー、悪い()忙しいところ」

 自身は座ったまま向かいのソファーへと二人を促す。声からは想像できないほど苦い思いを抱いているが、努めて声だけでも平静を保っていた。

(やっぱりアルベドの色は“赤”か……)

 炎ぺらーの取得する職業〈皇帝〉は内政系のもので、イベントや商談を可能とするNPCとの交渉を有利に運び、加えて自身がオーナーでなくても拠点の発展や拡張に必要なコストや素材を軽減する効果を発揮する。その中に対象の友好度を測定する効果があるスキルを保有していた。

 もっともユグドラシルでのPvPやレイドボス相手にまともな戦闘のできるキャラクターが取得可能な職業レベルでの効果など雀の涙ほどしかない。

 それでも自分のスキルをひとつひとつ丁寧に思い出しながら、なぜアルベドだけなのかという疑問に答えはなかった。

 否、唯一考えられるのがモモンガの言った“ゲーム直前に設定を書き換えた”ということだけ。

 『モモンガを愛している』と変えられたことで『それ以外を愛さない』ことを『嫌う』と反映された、と炎ぺらーは仮定した。

 故に炎ぺらーは自身の感じる感覚に基づいたアルベドの状態を“敵対”または“離反の危険性・大”と認識を固める。

 逆に悪魔であり如何にも腹に一物を抱え笑顔の仮面でも被っているのかという表情のデミウルゴスは“緑”として認識でき、これまで会ったメイドたちや階層守護者等のNPCはおろかポップエネミーまで若干の違いはあれど同色にまとまっていた。付け加えるなら設定的に唯一反旗を翻しそうなNPCもいたには居たが、彼も“緑”であったのも判断材料のひとつであり、混乱をさせる新たな一因でもあった。

 それはともかく再度反芻する必要は無いが〈魔燒〉も緑であるため、これで勘違いや思い違いであればもう信用する必要のない能力だと炎ぺらーが開き直ったのはデミウルゴスたちに連絡を入れる少し前のこと。

 これらの事情をどこにあるのか分からない頭で考えつつも表面上は気さくな上司を演じるように、炎ぺらーは二人に飲み物を勧めつつ自分も今日の部屋付きメイドへ声をかける。

 デミウルゴスもアルベドも内心に差はあれど固辞しようとするのを「部下の前で自分だけ贅を貪る横暴な上位者にするのか?」という言葉を軽い口調で砕きに砕いて説得して飲み物の希望を聞き出す。

 デミウルゴスは心からの感謝を深い笑顔で返し、アルベドも言葉少なく謝辞を述べた。

 内面の違いを認識できなければごく自然な動作に感じた炎ぺらーはかかなくなった冷や汗の流れる感覚を思い出す。

 飲み物が来るまでもそして来てからもお茶請けや優雅なティータイムをホストとして順調に務めていく炎ぺらーの言葉に見ようによっては大仰な反応で返すデミウルゴスとアルベド。

 それとなく彼らの造物主であるギルメンの話を混ぜているのは、モモンガがギルド運営の調整役であったように、ギルメン同士の調和役を自然と担っていた炎ぺらーの経験からの話題選びだった。

 だが、炎ぺらーもここで予期しない反応が返ってくる。

 

「至高の御方がお隠れになったのは我らのためだというのですか!?」

 

 アルベドはその優れた頭脳をフル回転させ炎ぺらーとデミウルゴスの何気ない会話から弱点、又はこき下ろす材料を探していた。

 しかし、話題選びも振る舞いも至高の御方と謳われるだけあって非の打ち所のないことを再認識させられただけで苦い思いを重ねていたのだが、その気持ちを吹き飛ばされる言葉にらしくもなく声を荒らげる。

「そんなに慌てて“らしく”ない()、アルベド」

 炎の表情を読めず、声音も平坦なもの発したが故に、炎ぺらーの動揺に気づく者はいない。

 だが聞く者によってはその平坦な声はどこか底冷えする響きが篭もっているように聴こえて、声をかけられていないにも関わらずデミウルゴスは肌の粟立つ感覚を覚えた。

 であるなら、直接声をかけられたアルベドの反応はより顕著に現れるのも当たり前のこと。

「っ!!し、失礼しました!」

 憎悪も殺意も吹き飛んで現れたのは紛れもなくシモベの平伏である。

「ん、まぁ問題無い()。それよりもほらほら座って、もちっと詳しく話そう」

 体に触れることなく宥めてアルベドを席に座らせると浮き足立って微かに腰を浮かせていたデミウルゴスにも声をかけて座り直させる炎ぺらー。

「…………さて、どこまで話したか()?」

「至高の御方々がリアルという世界で不甲斐ない我らのために力を注いでいるという所までです……」

 髭でもなでるよう顎らしき炎のふちに手を当てて首を傾げる炎ぺらーに悲しさと苦しさと色々な感情がないまぜの言葉でデミウルゴスは説明する。

「そうだった、そうだった。おまえ達もオレらがリアルって所に行っていたのは知ってるよナ?」

 あれ、オレそんな説明したっけ?と疑問に感じつつも、都合の良い方向に解釈が進んでいるので努めて平静を振る舞う炎ぺらーの言葉に頷くふたり。

 そこから話したのは彼がアインズと共にパンドラに語った内容をかなり歪めて口にした。

 一言口にする度に傾聴している二人の表情がみるみるうちに青ざめていくのが炎ぺらーもわかる。だからこそ、説明を途中で止めることはしない。

「そこでオレらはユグドラシルを維持しつつ、自分の生活を守っていたのさ。もちろんウルベルトさんもタブラさんもな」

 一方的でありながらもデミウルゴスの、そしてアルベドの知りたいことが込められた話は終わり静寂が満ちた。

 炎ぺらーとしては偏った言い分で、それこそプレイヤーの都合を彼らにとって耳心地の悪い言葉でただ淡々と語ったことと認識しているからなんとも居心地が悪い。

 ユグドラシルの維持?━━そんなもの考えて課金をしたことなんてほとんどない。

 自分たちの生活?━━趣味に時間を、熱意を割けなくなっただけではないか。

 唯一炎ぺらーが胸を張って言えるのは最盛期の彼らとしたゲームのためにどれだけ課金したのか、どれだけガチャや冒険をしたのか、そんなネトゲ廃人のやらかし生活だけ。

 であるからこそ、敵対と判断したアルベドには通じないだろうと思いつつ、繋ぎの話題程度にとどめようと考えていた。

 それが今では赤み(敵意)が薄まり、(注意)を解き、(中立)へと変化しそうになっている。

 故に炎ぺらーは一歩踏み込むことを決心した。

「なぁ、アルベド。オレはお前の感情を否定できない」

 爆裂とも言うべき衝撃を受けたアルベドは一瞬にして青白い顔面を土気色とも取れるほど変色させる。

「お前たちから見れば、“モモンガ”さんを除けば理由もろくに告げず離れた裏切り者なんダろう」

 デミウルゴスは不敬と思う思考すら置き去りにして感情が否定を口にしようとするが、炎ぺらーの一瞥だけで自身が〈支配の呪言〉にかかった玩具(ニンゲン)のように硬直させられる。

 アルベドの薄く開かれた唇からカタカタと言う音だけがかすかに聞こえる間を破ったのは続く炎ぺらーの言葉。

「オレらに対しての悲しみも、怒りも、そして殺意すらモモンガさん以外向けるだけの理由がオマエらにはあル。だから、それを否定も、ましてや何かを強要はできないんダ」

 そこまで言って改めてアルベドの様子を見た炎ぺらーは……ただ、頭を下げた。

「すまないなんて言葉で済ませる気は無い、あの時言ったようにオレはこれからの行動でお前たちの主人たる証明をしていきたい。お前らを置いてどこかになんか行かない()

 こんな言葉じゃ納得できないだろうけどナ。と締めて頭を上げる。

 少し考えてから炎ぺらーは思い描いたことを口に出す。

 

「とりあえず、モモンガさんとの仲人辺りでもしてやろうカ?」

「お願い致します!!」

 

 いつ自分で首を切り裂くか思考していたアンデッド顔負けの顔色だったアルベドの顔は血色が戻り、むしろ赤ら顔とも判別つかないほど回復させていた。炎ぺらーはここまで見事に置いてけぼりのデミウルゴスのことも見てあげなさい。

「とはいえ、今はまだ情勢が安定してないからナ。()やら()()()()()()()()()は少し時間を置かせてもらうゾ?」

「至高の御方の後ろ盾をいただけるなら如何程の時間も待ちましょう!」

「オレから今言えるのは下手に攻めた姿勢を見せるのは逆効果。せっかくモモンガさん好みの外見なんだから、攻めずにモモンガさんを立てたアプローチに変えた方が無難だナ」

 ごにょごにょ言っていたモモンガの反応から悪い気はしていないと判断した炎ぺらーは友の青春を喜ぶつもりで相手をけしかける。問題ない。ただ、けしかける相手が千尋の谷の手前で踏ん張ってるだけなんだから。

「し、しかし、それではシャルティアに……」

 モモンガ好みと言われたことでR18な想像にだらしなくヨダレを垂らしかけたアルベドはかろうじて残る思考回路に走った不安という信号を、自身が誰に言葉を発しているのかも忘れて懸念を口にする。おい、それでいいのか。

「シャルティア?問題ないだろ、アイツは戦闘力は別としてそれ以外はペペロンチーノさんの性癖詰め込んだ専用嫁だゾ。張り合うだけ意味ねえ、何ならオレが話しつけとくヨ」

 むしろ、ペペロンチーノ以外にあの性癖を全面的に受け入れるギルメンいない。姉のぶくぶく茶釜の作ったNPC(ボーイッシュガールと男の娘)を考えれば姊弟の血が伺える。と、炎ぺらーの漏らさなかった言葉は別として、アルベドは自分が誰に刃向かおうとしていたのかを改めて後悔した。

「モモンガさんは基本的に恋愛ごとは受け身だが、それ以上に女性からの攻めっ()の強いアプローチは萎縮させるだけだゾ?たぶん、モモンガさんは伴侶に刺激よりも安心感を求めるタイプだから、下手に夜這いかけたりするよりもしたい事をさせてやれる様支えてやるのが手っ取り早いナ。今が既に秘書的立ち位置なんだから、なるべく欲張らず、一度に多くを求めないで小さなスキンシップにとどめるんダ。手を握るとか軽い所から少しずつ警戒を解いていく。モモンガさんは責任感も強いし、一度執着さえしちゃえば自然と相手の求めることにも応じるだろうから、そこまで行けば後はほぼほぼ確定ルート。だけど、寝所に呼ばれたからってはしゃぐなヨ?繰り返すがモモンガさんは攻めすぎると萎縮して、距離が一気に遠のく━━」

 今まで暗中模索していたものに光が見える。あながち輝望の灯りというのも間違いではない、これからはこの方にも少しは忠誠を誓っていい、と思い始めるアルベド。

「オレからはそんなもんかネ……あ、そうだ、先言っておかないといけないのはアレだナ。モモンガさんもオレも外に出ようかと思ってるんだ」

 

 さらに後悔したのは言うまでもない。

 

━━━━━━━━

 

「コイツがただの置物になってくれてよかったよ」

 自室へ誰も入ってくることの無い時間を設けた炎ぺらーは手の中の蝋燭台を弄ぶ。

 手を止めて炎ぺらーが念じれば、蝋燭台に刺さったロウソクがひとりでに火を灯す。

 全部灯し、右だけ灯し、左のみ消す、中央のみ消す、とまるでそういった回路を組み込んだ電灯ランプのように炎ぺらーの意のままに明滅する。

「……《無垢なる魔王・召喚(サモン・ホワイトテイル)》」

 唱えると同時に全て灯した火が激しく燃え猛り、中空に水泡ができて爆ぜる。

「ふぁ……まだねむいー……」

 爆ぜた水泡の中から出てきたのは薄衣を纏う少女だった。

「よっコズエ」

「ふわぁ……炎ぺらーだー……」

 少女は眠たげに目で炎ぺらーを捉える間延びした声のまま炎ぺらーへと近寄り抱きつく。

 炎ぺらーも多少予想していたのか、優しく受け止めて背中を撫でてやる。

「それでぇー……こんどはだれを“おわり”にするのー……?」

 抱きつかれお互いの顔を見合うことで細められていてもよく見えるようになった瞳孔の奥に広がる“星辰を遠望する”双眸が炎ぺらーを確認する。

「今のところ、予定がなくなったナ。今日呼び出したのはちょいと挨拶だヨ」

 最悪、自分がナザリックのほぼ全戦力と敵対する可能性すら有った事を思い出し、異形の体になってから感じなくなった背筋が凍る思いが今更ながらに襲われている。

 自身と同等の力を持ち、能力の相性も良いとは言えず、かつ頭のできは比べることもおこがましい差があるのだ。

 時間をかけたところで情報を手にできるのはお互い同じなため、備わった能力からジリ貧なのは目に見えている。

 唯一現状、凡そとはいえ設定を把握してる分、思考の読み合いに一日の長があると踏んでこちらから斬りかかったが、結果を見れば少し頭の回る親戚の子供を大人のこざかしさで虐めたようなものだ。しかも、露骨な思考の偏りや感情誘導なども搦めた詐欺師まがいの論法でごまかしたに過ぎない。

 それ故に自身の浅慮さへペナルティを課してまで、反省すると共に彼女らとの関わり方を改める切っ掛けを作ったのだ。

「ふーん……これから“ふたり”も呼ぶのー……?」

「……ふたりは日を改めてだナ」

 炎ぺらーが頭を撫でてやると顔をほころばせて眠りにつき、次の瞬間には水泡となって還る。

 

 無垢なる魔王(ホワイトテイル)。特別な職業のスキルを除き唯一、完全耐性を無視して即死のデバフを与える最上位エネミーで、召喚モンスターの中でも超級のバケモノ。

 とあるダンジョンをクリアして手に入れた神器級アイテム(ゴッズ・アーティファクト)によって初めて召喚可能になる。

 

 部屋の隅に置かれた蝋台の炎はその日再び灯ることは無かった。

 

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