転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について 作:和菓子甘味
「やんのかオラァー!」
「ザッケンナオラー!」
「スっぞゴラァー!」
おい、1人忍殺時空いなかったか?
それはさておき樋野です。唐突ですが【不良ウマ娘の 群れが 現れた!】という状況です。なんで朝っぱらからこんな状況になってるかと言うと、苦情が生徒会に来たはいいものの、ブライアンはサボり、エアグルーヴはゴルシとバクシンオー捕獲、ルドルフは書類の群れとの戦いに赴いているために手空きである俺が徴用されたという訳です。まあ苦情としては不良ウマ娘のグループが屋外の練習場を占拠しているとの通報で駆けつけて退去を求めた所こんな感じで囲まれた訳です。ニフラムかけたら終わんねえかなぁ...あかん、それ相手死んでまうやん。というかウマ娘の方が俺より腕っ節強いから効かんやん。
「とりあえず校則違反であることは間違いないんだから、君達も正規の手続き踏んだ上で練習場を使用しないとだね...」
「俺らみてえなトレーナーもついてねえウマ娘に練習場明け渡さねえオメー等の自業自得だろうがよ!」
「学生相手だからって下に見やがって!」
「どーせ政治家だけじゃなくて生徒会に尻尾振ってんだろ!この税金泥棒がよ!」
...落ち着け俺。相手は社会を知らないひよっこだ。ここでカッとなれば俺の負けだ。とはいえ俺だって人間だ。どうしてここまで言われなければならないのかと叫びたくなる気持ちを飲み込み、彼女達に再度告げる。
「君達の言いたいことは理解した。だが、トレセン学園という社会に属する以上、そのルールは守って貰わないと君達の為にならない」
「うるせえ!お前も会長と同じく偽善者ぶりやがって!」
そう叫んだ生徒は俺の顔面に石を投げつけてきた。当然それは命中し、俺の戦闘帽は飛ばされて額からは血が出る。流石ウマ娘の腕力だが、これは少々お灸を据える必要がある。
「君。自分が何をしたか分かっているのか?」
「な、なんだよ...」
「君達ウマ娘は力が人間より強い。今回は自衛官である俺だからまだ良いものの、これが一般人であれば死に直結する可能性だってある。それを理解しているのか?」
「そ、そんなこと関係...」
「知っているのかと聞いてんだ!!!」
俺の怒号を聞いた全員が腰を抜かした。ウマ娘とは一部の例外を除き、古来から繊細な種族と言われている。流石に教育隊班長時代のレベルで怒鳴ったのは俺のせいだが、これはしっかり指導せねばならない。一歩間違えれば傷害致死事件になる可能性があるからだ。とはいえ、これには共犯者も同罪であろう。
「シリウス。いつまで傍観しているつもりだ?お前の取り巻きだろ」
「ほーん。流石皇帝サマのとこのトレーナーだな」
「御託はいい。今回の騒動もお前が主犯だろう」
「分かってるなら話は早い。私達が明け渡す気は無いと伝えておこう」
「いい加減にしろ。理事長から命令があればお前達を強制退場することもできるんだぞ?」
「だがそれは出来ない。どうせ生徒会に苦情が入ったが、生徒会から人が出ないからアンタが来たんだろ?それに強制退場させるならそれ相応の装備をするはずだが、今のアンタは拳銃所かヘルメットすら持ってきてねえ。つまりは私達を強制退場させる権限は今の所付与されてないってことだ」
流石シリウス。頭がよく回る...いや、それも織り込み済みで言ってるんだろう。俺の立場はトレセン学園のトレーナーではあるが、同時に公益警派法で派遣された自衛官だ。シリウスが言った通り、施設長である理事長の要請や許可がなければ正当防衛や緊急避難に該当する場合以外は強制退場すらできない。純粋なトレーナーや教職員の場合なら強制退場できるんだろうが、明確に区別されていない俺の場合は非常に厄介なのだ。俺がいくら『トレーナーとしての強制退場』だと唱えても、彼女達が『自衛官に不当に退場された』と言えばそれがまかり通る可能性が高い。現に最近は自衛官の事案が多く報道されやすいのもあり、俺の立場では秩序維持に介入できるのは言動のみだ。と言ってもさっきの怒号もヤバいっちゃあ、ヤバいんだが。
とはいえ、こっちも怪我をしているからそこまで大事にはならんだろう。なったとしても向こうが不利になる。
「とはいえ、このまま続くのも面倒だ。ここはひとつ取引と行こうじゃないか」
「取引?」
「アンタがこいつらのトレーナーになれ。そうなれば話は終いだ」
「待て、それは俺が決めることじゃ...」
「だから行ってくるのさ。あそこにな」
そういってシリウスがサムズアップの形で背後を指す。その先にあるのは生徒会室だった。
まさかこいつルドルフに...!
「じゃあな」
「待て!ぐっ...!」
シリウスを止めようとするも、頭を怪我したせいか、立ちくらみで膝をついた。近くで見ていたらしい桐生院トレーナーが駆け寄ってきて手当てのために保健室に連れていかれることになったが...ルドルフの奴、最近調子が芳しくないのに...。
□
「フゥー」
書類作業をひと段落終えた私シンボリルドルフは眼鏡を外してため息をつきながら睛明を揉む。
ここ数日どうにも気分が優れないことが多い。睡眠はしっかりとっているはずだが、生徒会の書類作業でも小さいながらミスが増えてきたし、体が妙に重い気がする。トレーナー君の隠し撮り着替え写真を見てリフレッシュしてみようとしても、何故か気分爽快とはいかない。
「気にしすぎかな」
とはいえ、エアグルーヴやブライアンに迷惑をかけ続けるのも忍びないので少しだが仮眠を取る事にした。
だが、隣の仮眠所に行こうと席を立った瞬間、生徒会室の扉がノックなしに開け放たれた。こんな事をする人物はただ1人。
「よう、皇帝サマ」
シリウスシンボリだ。
シリウスとは前世からの付き合いではあるが、未だに頭を抱えさせられることが多い。いや、馬の時が簡単すぎたのだろう。あの時は威嚇すれば大概の奴は大人しくなった。とはいえ、ヒトと同じ思考力を持つウマ娘となってはそうはいかない。言葉という意思疎通手段を得た上、文化人としての誇りを持つ以上は不用意な威嚇や攻撃をせず、対話で進めようとすることが求められ───
「お前んとこのサブトレーナーを頂くぜ」
前言撤回コイツは始末せねばならないようだ。
「唐突千万。樋野サブトレーナーに関しては今月の研修終了後に正式にトレーナーとしての勤務が決まっている。第一、君にはもう担当トレーナーがいるはずだ」
「そうかい。どうやらアンタは相当アイツに入れ込んでるようだな」
「何を」
「チームリギルを抜けてアイツの担当になる気満々なのにか?」
「....」
「無言は肯定って訳だな?皇帝だけによ」
ギャグは好きだが、今のギャグは頂けないな。この
「しっかしまあお熱いこったな。たまたま自衛隊の広報活動で見つけた男に惚れてそのまま囲っちまうなんて」
「シリウス...いい加減にしろ」
「おお、怖い怖い。そうやって威圧すればなんでも上手くいくってわけじゃねえだろ?」
「叔父貴」
なん...だと...いや、そんなはずは!!しかし....。
「随分と慌ててんじゃねえか。耳が動きっぱなしだぜ」
「シリウス...お前は...」
「そうだ、前世の記憶がある。アイツのことも知ってる」
「貴様、全て知っていながら『オレ』から正樹を奪おうってのか!」
「そうだ。なんならお前みたいな気味悪いのに正樹を取られるなんざ願い下げだ」
「何を!」
「今の『堕落した皇帝』を見たらお前の息子はどう思うだろうな。あんなに真っ直ぐとした視線を向けてくるやつなんて、そうそういねえのによ」
シリウスに言われて急に頭だけでなく全身が冷えきっていく感覚に襲われた。
息...子?私の...。
「馬の時に何度か聞いただろ。【不屈の帝王トウカイテイオー】お前の息子だろ。そして今じゃ、お前を目標にひた走る若きウマ娘。そんなアイツが今のお前を見たらどう思うかって言ってるんだよ。只々醜い手で男を手に入れようとする卑劣な七冠バ...言われるんじゃねえか?『シンボリルドルフさんの様な卑劣で醜いウマ娘になんかなりたくないです』ってな」
「そ、そんな....テイオーは...」
違う...でまかせだ....あの子がそんな事を言う訳がない...だって私は皇帝だ...あの子の目標の皇帝なんだ...。
「正直、幼少期から見てる私でも気味が悪い。【全てのウマ娘が幸福になる世界】なんて理想掲げてながらこんなにも無惨な姿だとはな」
「ち、違う...私は...『オレ』は...!」
「一つだけ言ってやる。今のお前は、もう馬のシンボリルドルフでもウマ娘のシンボリルドルフでもない。ただの醜い怪物だよ」
そう言い残して生徒会室から出ていくシリウス。彼女が閉める扉の音は静かだったが、私にとっては二度と開かない牢獄の施錠音だった。
私は...皇帝シンボリルドルフ...私は...オレは...