転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について   作:和菓子甘味

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投稿遅くてごめんなさい....


第9R「理想」

「っくう!」

「もう少しで終わるので我慢してくださいね...」

 

不良ウマ娘との一波乱があった後、俺は桐生院トレーナーに連れられて保健室で絶賛治療中である。流石トレーナー養成学校首席卒業のトレーナーなだけあり、彼女はテキパキと応急処置を終えていく。

 

「これでよし...治療の件は私から保健室の先生に伝えておきますので」

「あ、理由は俺が転けた事にしておいてくれ」

「ええ!?でも、あの場には多くのトレーナーや生徒が...」

「それはたづなさんに調整済みだから大丈夫」

 

動揺する桐生院トレーナーに俺は業務用スマホのLANEを見せる。そこには文字越しで説教される俺とたづなさんのやり取りが赤裸々に綴られていた。

それを確認した桐生院トレーナーは大きなため息を吐きながらも、俺の要求を受け入れてくれた。

 

「全く...いくらなんでもお人好し過ぎませんか?」

「お人好しねぇ...」

 

確かに事情を知らない人間からすればお人好しに見えるかもしれない。だが、これは俺の背負わなければならないものでもある。

 

「ともかく、この件に関しては方が付いている以上掘り返す必要もあるまいて」

「それはそうかもしれないですが...」

 

どうも桐生院トレーナーとしては煮え切らないようだが、それもそうか。俺だったとしても同期がこんな有様なのにこの終わり方は納得がいくわけないだろうな。

 

「とりあえず、俺も自衛官としてやらなきゃならないことがあるし、今日はもう帰った方がいいんじゃないか?ミークの奴置きっぱなしだろ?」

「あっ!」

 

やっぱりこの子自分の担当のこと忘れてやがったな...いつかミークにキレられるぞ。

 

「と、とにかく!もう無茶はしないでくださいね樋野トレーナー!貴方はもっと自分を大切にして下さい!」

「ハイハイ」

 

「ハイは1回です!」なんて安いコントをしながらも、桐生院トレーナーは駆け足で保健室を去った。あわてんぼうの彼女は治療道具の格納も忘れていったので仕方なく後片付けをする。

 

「これはまたエアグルーヴかルドルフに怒られるかもしれんなぁ」

「トレーナー」

 

独り言をボヤいていると扉の方から声をかけられて驚いて振り返る。そこにはさっきまで俺の事なんて気にかけてないはずのシリウスシンボリが立っていた。

 

「シリウスシンボリ...?一体なんの用だ?」

「まずは済まない。私の見積もりが甘いせいでお前に怪我をさせちまった」

「何?」

 

どういうことだ?シリウスの奴が自分から謝るなんて...いや、こいつは今なんて言った?『私の見積もりが甘いせい』?つまりコイツは計画的に動いてたって訳か?

 

「シリウスお前...まさか」

「計画的って考えてるんだろ?半分当たりってとこだな」

「半分?」

「そうだ。まあ聞いてくれ」

 

そう言われ、俺はシリウスから事の顛末の説明を受けた。

数日前にシリウスが授業をサボってると、最近入学してきた不良ウマ娘──俺に怪我をさせたヤツらなんだが、そいつらがコースの乗っ取りを計画していることを聞いたらしい。どうやらコイツら、シリウスも目の敵にしているらしく、今回の件でシリウスが出てきた際には罪を擦り付けようと考えていたらしい。よく悪知恵が働くもんだ。そこでシリウスは予てより計画していた事を実行に移した。

それは『シンボリルドルフの矯正』という計画だ。

 

「なんでそんな事を...」

「それはお前が一番わかってるだろ?9年前の名家限定駐屯地見学だ」

「9年前...まさかあの時の!」

 

思い出した。9年前に俺は名家限定の駐屯地見学の警戒員に選抜され、勤務していた。確かにその時名門の子達が来ていた記憶があるが...その時は演習明けで半ば脳死状態で勤務していたから覚えてない。

 

「思い出したか。あの時のアンタは心ここに在らずって感じだったからな」

「何分演習明けだったもんでね...」

「まあいいさ。ともかく、あそこでルドルフの奴は前世の記憶を取り戻した。そして変わっちまった、理想を掲げる皇帝から己の欲望に突き動かされる暴君にな」

 

そんな事があったのか...それならシンボリが公益警派法に関わってるのも理解出来る。

 

「──ちょい待て。シリウスはなんで前世の事を」

「それは私もそうだからに決まってるだろ」

 

『何言ってんだお前』って顔してるシリウスが凄い腹立つがここは飲み込んでやるとしよう。

 

「とりあえず、お前がどうしてこういう行動に出たかは理解した。でも不良生徒であるお前が謝りに来るとはな」

「...これは私なりのケジメだ。奴は変わっちまった、それを私は認めない。『オレ』はあの暴君じゃなく、本当の皇帝サマを引きずり下ろしてぇんだよ。その為には何でもする。だが、不本意な被害は『オレ』の道理じゃねえ。だからケジメをつけてぇんだ」

 

全く、俺の関わる奴はどうしてこうも一癖も二癖もある奴しかいないんだか...いや、これも俺がそういう星の下に生まれたという事なんだろうな。

 

「はぁ...わーったよ。俺も面倒な人生を選んじまったもんだ」

「助かる。それで、もう1つ頼まれてくれないか?」

「なんだ?」

「実はな───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シリウスとの対談を終え、俺は生徒会室にやって来ていた。今日はエアグルーヴは終日トレーニングの後に直帰、ブライアンも同様だったはずだ。

だから必然的に中にはルドルフしかいない訳だが...。

 

(入りたくねぇ...)

 

シリウス曰く、『やり過ぎたかもしれない』との事で、俺がその尻拭いをする事になった。代わりにシリウスを1回だけ好きにする権利を手に入れた訳だが、それはどうでもいい。問題は目の前の地雷原だ。

 

(気は進まないが、サブトレーナーとしても引く訳には行かんな)

 

覚悟を決めた俺はノックして中にいるであろうルドルフに声をかける。

 

「ルドルフ、俺だ。入っていいか?」

『ドレ゛ーナ゛ーぐん゛...い゛ま゛ば...』

 

中から聞こえたしわがれたルドルフの声を聞くや否や、俺は即座にドアを開け放った。中は酸っぱい胃液の匂いが立ち籠り、目の前では目の焦点が合わずにゴミ箱に吐いているルドルフがいた。

 

「ルドルフ!大丈夫か!?」

「ドレ゛ーナ゛ーぐん゛...ドレ゛ーナ゛ーぐん゛」

「落ち着け。とりあえずソファーに横になってろ。水とかタオル持ってくるから」

 

俺はルドルフを抱き上げてソファーに寝かせ、後始末の為に生徒会仮眠室に常備されているタオル2枚を水で濡らし、水を入れたコップを2つ持ってくる。自衛隊という仕事柄、宴会で吐く先輩の介抱とかしてるけど、まさかここで役立つとは思わなかった。

手早く水を含ませたタオルでルドルフの口周りを拭く。終わり次第ルドルフには水でうがいをさせて、嘔吐物が入ったゴミ箱とは別のゴミ箱に吐き出させてから別のコップを渡して水を飲ませる。全てが終わったら、念の為にもう1枚の濡らしたタオルをルドルフの額に置く。そして次に吐瀉物入りのゴミ袋と吐いた水入りのゴミ袋を縛り上げ、窓を開けて部屋を換気する。後はタオルとコップを洗い、ルドルフが安定するまで待つ事にした。

 

「トレーナー君...」

「大丈夫かルドルフ?」

「私は...一体なんなんだろうか」

 

30分ほどで回復したルドルフはそう言葉を漏らした。彼女自身がタオルで目元を隠したが、隙間からは涙が流れていた。

 

「シリウスに言われた...今の私は『只々醜い手で男を手に入れようとする卑劣な七冠バ』、『【全てのウマ娘が幸福になる世界】なんて理想掲げてながらこんなにも無惨な姿』だと...」

「...」

「更にはこう言われた。今の私を見れば『シンボリルドルフさんの様な卑劣で醜いウマ娘になんかなりたくないです』ってテイオーに言われると...」

 

シリウスの奴中々えげつない事言ってるな...。

だが、傍から見ればそうかもしれない。生憎俺はウマ娘のトウカイテイオーに会ってないが、自分の理想が醜ければ、幻滅もするだろう。理想とはそういうものだ。理想を夢見る事は出来ても、現実との剥離で心が折れる者も少なくない。そういう意味でもシリウスは言い放ったのだろう。

 

「私は....『オレ』は...」

「...まあ俺も高卒入隊で外を知らねえから、偉そうなことは言えねぇけどよ。お前は【無敗の三冠バ シンボリルドルフ】で、【全てのウマ娘が幸福になる世界】を目指してるんだろ?だったらそれに勇往邁進するのがお前だと俺は思うがね。今までだってそうだったんだろ?ルドルフ」

 

ルドルフは何も答えなかった。ただ代わりに、流れる涙が増えたように見えた。俺は、これがこの皇帝の道標になったのだろうと思うことにした。

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