転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について   作:和菓子甘味

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大分間が空いてすみません...樋野と同じ階級になる指定を受けてバタバタしたり、してましたので許してください...。


EXTRA 3R「運命というレール」

「フゥー...久しぶりの酒は染みるなぁ...」

「ふふっ、あんまり飲みすぎちゃダメですよ?」

「わかってますよ」

 

たづなさんからのお叱り言葉を受けながらも、俺は煙草に火をつけてそれをつまみに酒を流し込む。やっぱりカクテルは最高である。

 

「でも、夢みたいです。樋野さんと一緒にお酒が飲めるなんて」

「急にどうし──」

 

俺が言葉を発そうとしたらたづなさんに人差し指で口を抑えられた。

 

「今くらいは...」

「ハァ...わかったよミノル」

「よろしいです」

 

上機嫌になったたづなさんこと、トキノミノルは一気に生の大ジョッキを飲み干す。俺が最後に見たときでは想像もできない光景だった。

 

 

 

 

俺とミノルが出会ったのは、俺が自衛隊に入隊するより前、中央のトレーナーライセンス試験に合格した後の研修期間の事だった。当時彼女はまだデビュー前で、俺はたまたま研修先のトレーナーから1人担当を選べと言われた。その時に目に止まったのがミノルだった。選抜レースでも圧勝。そんな彼女に俺は釘付けだった。真っ先に彼女をスカウトしようと思ったが、周りのトレーナーも同じ考えだったようで、研修生の俺はあっという間にはじき出された。そのまま何の成果も得られないまま、その選抜レースは終わったのだが、その後にトレーナーから課題を課された俺は、夜遅くまで課題を処理していた。気づけば21時を回っており、大急ぎで部屋に戻るべく後片付けと施錠をして俺は帰路に着いた。その時喉が乾いたので、ついでにブラックコーヒーでも買おうかと自販機に向かった時...。

 

「誰かいる...?」

 

自販機横のベンチに、不安そうに項垂れるウマ娘がいた。それがミノルである事が分かる距離まで近づくと、向こうも俺に気づいていた。

 

「君は...トキノミノルだね?」

「はい、そうですが...貴方は?」

「トレーナー研修生の樋野正樹です」

「どうも...」

 

短い挨拶だけでミノルは興味なさげに視線を落とした。俺は当初の目的通り、自販機でブラックコーヒーを買い、ついでにミルクココアを買う。そしてそれをミノルへ差し出した。

 

「えっ?」

「不安な時は甘い物を摂取するに限る。これ人生を上手く生きるコツのひとつだぞ?」

「ありがとうございます...」

 

俺のミルクココアを受け取ったミノルはそれを少しずつ飲み出す。俺も一息ついて行こうとミノルの横に座ってブラックコーヒーを流し込む。程よい苦みが口内を刺激して心地よい。煙草もあれば最高だったが、当時は未成年である為、吸う訳には行かなかった。

飲み始めて1分位だろうか、ミノルはぽつりと呟いた。

 

「私...怖いんです」

「怖い?」

「今まで...自分の走りには自信がありました。でも、今日走って...色んな人からスカウトを受けて...私考えちゃったんです。これから先もちゃんと走れるだろうかって...その時見えたんです。私の事を恨めしそうに見る子の顔が...」

 

ミノルの言ったことは、選抜レースによくある事だと俺の指導担当トレーナーに聞いた事がある。過度な周囲からの期待によってプレッシャーを受けたり、他の子からの恨めしい視線がトラウマとなり、思う様に結果を出せない様になるウマ娘が居ると。そうならないようにするのがトレーナーだが、それを忘れるぐらいミノルは逸材だったのだろう。これがルドルフやテイオーみたいな大人びた子や自信家な子なら話は別かもしれないが。それはさておき、そもそもウマ娘という種族自体が闘争本能が高い子が多い為、潰れる子は少ないのだ。そういう意味ではミノルは運が悪かったとしか言いようがない。

 

「私...どうすればいいか...」

「んー...まあ、俺も君本人じゃないからどうとも言えないけどね。無責任だけど走るだけが人生じゃないし、トレセン以外でもやって行けるんじゃない?」

 

俺の回答に対してミノルは面白いぐらいに唖然とした顔をしていた。俺そんなおかしいこと言ったかね?

 

「意外です...てっきり引き止めてスカウトしてくる物かと」

「まあ普通のトレーナーならそうするかもしれないけど、こう見えて人生相談は何回かされた経験があるのでな。結局のところは...君がどうしたいかだ」

「私が...どうしたいか...」

「そう。これは君の人生。君の物語。君は作者であると同時に主人公だ。どう描くは君次第って事だな。俺から言えるのはそれだけ」

「私の...物語」

「まあ、しっかり考えた方がいいぞ。今後の人生決めるわけだし、俺みたいに流されていって後悔しないようにな」

「あ、あの!」

 

言いたいことを言ってベンチから立ち上がり、コーヒーの空き缶をゴミ箱に捨てて帰ろうとするとミノルに呼び止められた。振り返ってみると、そこには憑き物が取れたように晴れやかな顔をしているミノルがいた。

 

「ありがとうございます」

「悩める後輩を導くのも先輩の務めたからな。それはそうと、門限大丈夫か?」

「え?ああ!大変だぁ!」

 

腕時計を確認したミノルはミルクココアを一気に飲み干して空き缶をゴミ箱に投げ入れると一目散に駆け出した。

 

「...ハハッ!忙しない子だな」

 

これが俺とミノルのファーストコンタクトだった。

その後は俺の元に契約関係の書類を用意して俺の担当となるのだが、彼女が菊花賞に出る前の夏合宿の終わりで俺は研修期間を終えてしまい、後は指導担当トレーナーに託すこととなった。彼女が菊花賞前に怪我をして入院したと聞いた時には急いで駆けつけたが、彼女は「直ぐに復帰して三冠バになります!」と豪語していたが、それが叶うことは無かった。結局、彼女は後にトレセンを去り、俺は陸上自衛隊に入隊して多忙の時期を送り、連絡を取ることはなかった。そしてつい最近に俺が『トキノミノル=駿川たづな』であると気づき、現在に至るわけである。

 

まあ、たまたま帽子とってるところに出くわして、ウマ耳が見えて思い出したんですけどね。

 

 

 

 

「それにしても樋野さんも色々と大変ですね」

「お上の言う事は絶対だからな...世知辛い世の中だぜ全く」

「いっその事トレーナーを本業にされては?」

「最近本当に悩んでる」

 

事実、多くの同期は陸士で辞めたり、履修前や陸教の前に辞めたり、陸曹になってから辞めてるが、皆楽しそうだ。そんな世界が今では輝いて見えて仕方ない。

 

「でも、トレーナーを本業にするとアイツらを相手にしないといけないのはなぁ...」

 

残業代が出るとはいえ、それはかなりキツイ。

 

「未婚者はよく担当ウマ娘と結婚されますからね...」

「スピカトレーナーの西崎トレーナーみたいに独身貴族を貫く人もいるにはいるけどな」

「あの人は...まあ特殊ですから」

「それもそうか」

 

なんせシップのトレーナーやってるんだし、そう言われればそうじゃな。

というかあの人これからスペ、ウオッカ、ダスカ、マック、テイオースズカも担当する運命だからかなり悲惨だな...あ、俺もそうか。

 

「運命か...」

 

これから先多くの運命が待ち受けてるだろう。

沈黙の日曜日、4度の骨折、不治の病『屈腱炎』。ウマ娘達は前世と同じ悲劇を辿るものも多い。目の前にいるミノルがいい例だろう。

 

「樋野さん?」

「なんでもない。どうでもいい考え事さ」

 

運命というレールは分岐点が多い。自分という列車が選ぶ道は自らが切り替えなければならない。歴史を知る人間が、異なる世界とはいえ歴史を好き勝手に書き換える訳にはいかない。

 

「どう転ぶかな...」

 

せめて最悪の方に転ばないことを祈りながら、俺はウイスキーを口に流し込んだ。

 

 

 

 

 

余談だが、ミノルの奴は酔ったとか言いながら寄りかかってきたが、坂成のやつが言うにはミノルは枠って聞いていたんだが...疲れが溜まってたのか?

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