転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について 作:和菓子甘味
「見てみろ。あの坊っちゃん休みなのに来てやがるぜ」
「サブトレが出来ることなんて分かりきってるのになんで来るかな?邪魔なのわかってないんじゃね?」
「それでいてもう30手前なのに、下から数えた方が早い階級で給料手取り20万だとさ」
「うっわ、くっそ底辺じゃん。あーヤダヤダ、あんなお荷物なんで派遣してくるのかなぁ?やっぱ政治家ってアホだな!」
最近俺がスピカに異動するという噂が急速に広まった。そのお陰か、順調に出世街道を歩んでいる若い富裕層出のトレーナー達からこう言った陰口が増えてきた。正直、彼らの言う通り俺は6年目で陸曹になった遅昇任者であり、成績も良くない為に2曹昇任ももう7、8年位かかるだろう。
...こういう輩に限って、有事の時は真っ先に助けを求めてくるので、なんともしがたいのだが...それはその時に考えよう。
「おいテメーら。言いてえ事があるならハッキリ本人に言えよ。あ゛?」
「なんや?それとも自分らそんなのも出来へんクソガキなんか?そうならさっさとママにおしめ変えてもらうんやな」
そんな事考えてたら、シップとタマの芦毛コンビがやって来た。そして開口一番、ボンボンチャラトレーナーにゴルシはキレ気味に食い掛かり、タマは煽り倒した。
流石に黄金船と浪速の稲妻の相手は嫌なんだろう。2人組はたじろぎながらその場を後にし始めた。
「チッ...行こうぜ、変人共が来やがった」
「やっぱスピカのトレーナー始め、変人は変人を呼ぶんだな。俺たちの経歴に傷がついちまうぜ」
「テメーら!」
「落ち着けシップ。これ以上はお前もタダではすまんぞ」
西崎トレーナーまでコケにされて頭に来たシップを肩を掴んで静止させる。シップならこの程度何ともなく振り解けるだろうが...彼女はそうする事無く、その怒りを飲み込むことにしてくれた。
「しっかしココ最近でアッホなトレーナーが増えたもんやで。アイツらの担当バ、最近G2勝ったからって調子乗っとんな」
「ヘッ!今に見てろ!宝塚でその鼻をすりおろしてモンブランにしてやるぜ!」
「その前にお前はデビュー戦を真面目に走れ。頼むから...」
なんだか今からボコボコにする事を考えてるようだが、この金船未だデビュー戦をしていないのだ。それを指摘するとシップはブーたれ始めた。
「えぇ〜...マックじいちゃんが来たら考える〜」
「お前なぁ...俺も調べたけどマックイーンは来年入学だ。お前もう中3ぐらいだろ?そろそろやばいんじゃないのか?」
「ゴルシちゃんの年齢は宇宙国際条約で何人たりとも知っちゃダメなんだぞ♡」
「ヤバいのは脳の方だったな」
「何1人で漫才やっとんねん!」
もうね、本場の大阪人に突っ込まれたらそれは漫才やと思うんよ。俺も前世大阪人だけどさ。
「そういえば、正やんは今日休みやなかったんか?ルドルフ辺りに知られたらキレ散らかされるんとちゃうか?」
「ああ、今日はトレーナー業は休みだけど自衛官としては仕事なんだよ。今日上がってきたのもその仕事の一環で、今度留学してくるウマ娘送迎の為に準備をね...」
「なんやエライ気疲れしとんな...そんなに面倒なことなんけ」
「ああ...空港から護衛送迎をしなきゃならんのだけど...相手はシンボリ家の者でね...」
「もしかしてシンボリクリスエスか?」
「知ってんのかい」
「キミ忘れてへん?トレセンは女子校や。年頃の女子なんて噂流しまくるに決まっとるやろ」
「ですよねぇ...はぁ」
もう最悪の結末が見えているのでため息しか出ない。自衛官が送迎するのは100歩譲って分かるが...拳銃だけとはいえ、なんで武装警護しなきゃならんのだ...。しかもクリスエスの奴絶対俺の事思い出すやろ...。
「確かクリスエスって【前】は天皇賞連覇してへんかったか?」
「ああ...確かしていたと思うが?」
「そんだけ強いんならうちも1回やり合ってみたいもんやな!」
「どうかわからんがな...景子にでも頼めば行けるんじゃないか?」
「まーなぁ...てかゴルシのやつどこ行ったねん!?」
タマと話してるうちに、いつの間にかゴルシは行方不明になっていたのだが、それはいつもどうりなのでスルーする。
「スルーするなや!アイツがどっか行ったらまた訳分からんことになってエアグルーヴが死んでまうで!」
「俺はエア含め、ウマ娘達からの襲撃やらなんやらで、もう色々ストレスで胃薬とお友達なのでざまあみやがれですぅ」
「大の大人が、んな自暴自棄になるなや...」
えーい知るもんか!なんでこんなに扱いがぞんざいなんだ!一揆だ!一揆を起こしてやるぞ!
「国家転覆罪は問答無用で極刑やで」
「頭の中を読むんじゃない」
そんなことをする気はさらさらないがな。
⏰
「来ちまったよこの日が...」
いつもと違って鉄帽を被り、弾帯にカスタムした9mm拳銃と私物ホルスター、私物弾納、ダンプポーチを着けて当該者をターミナル前で待っていた。
まあ当然こんな格好をしていれば周囲の人々は写真を撮るわ撮るわ。
「ねえ、あれってコスプレかな...?」
「でも鉄砲持ってるよ...?」
「やっば!マジで自衛官がいるんだけど!」
「草。なんかお偉いさんでも来るのかな」
本当に上はこうなる事想像できなかったのか?まあ、命令である以上は仕方ないんだけどさ...。
とりあえずは時間になるまで待機する事になっているので、この晒しプレイを耐え忍ぶ。俺のメンタルはもうボロボロだ。
「はぁ...っと、着いたか」
目の前の入口から複数人の警護に囲まれたウマ娘が1人。
どうやら彼女が今回俺が警護輸送を担当する「シンボリクリスエス」のようだ。
彼女は自分の前で止まってこちらを見てくる。俺も棒立ちする程アホでは無いので敬礼をして挨拶する。
「初めまして。今回警護輸送を担当させて頂きます、陸上自衛隊公益施設警護派遣隊日本ウマ娘トレーニングセンター学園派遣員の樋野正樹3等陸曹です」
「シンボリクリスエスだ。よろしくお願いする」
「ではこちらへ」
クリスエスを後部座席へと案内し、彼女の荷物を後部ハッチから積み込む。出発の準備をしようとしたら、シンボリの警護員から呼び止められた。
「今回本家が依頼している以上、お嬢様に何かあれば大問題になります。我々は別ルートとヘリから警護しますが、くれぐれも問題にならないようにお願いします」
「分かりました」
既に大事になってる気がするし、こんな事ファインモーションと関わらない限りないと思ってたからなぁ...。本当に名家の考えることはよくわからん。
ともあれ、俺は軽装甲機動車の輪止めを取って運転席に乗り込み、トレセンへと向かう事にした。
⏰
成田空港からトレセンは下道で2時間半程かかるので車内の雰囲気というのは実に重要である。行きはテンションを上げるために音楽をかけていたが、帰りはそうもいかない。やかましい軽装甲機動車のエンジン音が響く車内で俺とシンボリクリスエスは会話をあまり交わせていない。
「...もし御手洗などがあれば遠慮なく言って下さい」
「.....」
(や、やりづれぇ....)
勇気を出して一言言ったが、こんな声掛けしかできないほど車内は通夜状態である。
全く...。一体どうすりゃいいんだか...。
そんな事を考えながら車を走らせ、少し大きめな交差点に差し掛かった。
(そういえばこの辺は信号無視の事故が多いって聞いたな。直前だけど少しブレーキで速度を落として...ッ!?)
侵入前に安全確認の為スピードを落としたと同時に、俺は左の視界端に信号無視で突っ込んでくる大型トレーラーを見つけてブレーキを踏み抜いて、右側に車がいない事を確認してハンドルを右に切る。すんでのところでトレーラーを避けることに成功し、トレーラーは走り去っていった。全くなんて奴だ!
「クリスエスさん!大丈夫ですか!?」
「問題ない。貴方がこれを貸してくれたお陰でぶつけはしたが何もない」
そう言ってクリスエスは、俺が乗車後に渡した中帽のウマ娘一般用を指さす。規則通り被らせて置いて正解だったと思いながら俺は胸を撫で下ろし、車を交差点の先に止めて暴走トレーラーの件を警察へ連絡した。
その後は特に何も起こることはなく、トレセンへと到着するのだが、何故かシンボリの警護員がバタバタしていた。俺に被害がなければ別にいいんだが...。