転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について 作:和菓子甘味
人権ないって辛いなサム。
ココ最近何故か体が重い気がする。ついでに言えば、夢見も悪い。自分の脚が折れ続ける夢を見る。だけど、何故か安心できる人が出てきてくれる。その人がいるだけで...。
「あっ!」
ぼーっとしていたら目の前の人にぶつかったらしい。慌てて顔を見ようとすると、そこには普段見慣れない緑と茶色のまだら模様の服を着た男の人が立っていた。
「ん?君はもしかして...オープンキャンパスの参加者かな?」
「は、はい。そうです...」
「ぶつかったことは気にしなくていいよ。...それより、なにか悩んでるのかい?」
「あ...えっと...」
「ああごめん、名乗った方がいいよね。自分は樋野正樹3等陸曹。一応トレセン学園でトレーナーを兼務しているんだ」
そう言った男の人はポケットからカードケースを取り出して見せてきた。そこには漢字で陸上自衛官身分証明書と書かれていて、名前と一緒に階級と偉い人のものだと思う印鑑が押されていた。僕はその証明書の写真と目の前の男の人の顔を見た瞬間に思い出した。
かつて4本の脚で大地を蹴って進んでいた頃の輝かしくも暗い思い出を。会った記憶のない『皇帝』と呼ばれた父を追い求めたあの頃を。自らの脆い脚を恨んだ記憶を全て思い出した。そしてその中に確かに存在した幼い子の顔も鮮明に浮かんだ。間違いない、競走馬トウカイテイオーの記憶を取り戻した今だから分かる。
「思い出したよトレーナー...いや、正樹君」
「ッスー...そういえばお前トウカイテイオーだったなぁ...30年近く前の記憶引き出すのって案外難しいんだなぁ」
そういうと正樹はカードケースを仕舞って帰ろうとするが、この帝王がそうやすやすと逃がすわけが無いだろう。
「いだだだ!止めろテイオー!俺の腕がもげる!」
「じゃあ1度だけしか聞かない。『僕』をエスコートするか、手首が使えない状態で『僕』にお世話されるかどっちがいい?」
「御奉仕させて頂きます帝王様...」
「うむ、よろしい」
こうして僕は夢にまで出てきた臣下を手に入れることに成功した。
⏰
「美味しー!」
「なんではちみードリンクってこんなに高いんだよ」
どうも、学園内を案内させられた挙句、クソガキ帝王に1杯1000円するくっそ高い飲み物を買わされた樋野正樹さんです。
オープンキャンパスって事で学園内の警備をしていたんだが、ぶつかってきた子の対応していたらウマソウルが昂ったご様子で、とっ捕まって学園内をエスコートする羽目になったでありんす。
もう語尾が安定しないぐらいに滅茶苦茶な気分であるが、この帝王様のご機嫌を損ねた際には俺はすり潰される事になるだろう。
それを回避するには、俺はテイオーをコントロールして最悪のシナリオを選ばなければいいということだ。
「ねーねー正樹〜『父さん』の所に連れてってよ」
なん..だと...?
テイオーのウマ娘としての本能がウマソウルのパワーによって目覚めさせられ、コントロールの壁を乗り越え始めてしまったというのか...。
もしそうだとしたら、俺のこれまでの苦労が...。
っと、俺の中の野菜人アスパラが出てきてしまった。
とまあ、そんなアホな事をしていても仕方ないのでシラを切ってみる。
「お前の親父は知らんがな。オープンキャンパスに一緒に来てるんじゃないのか?」
「あ、そっちのパパのこと忘れてた」
「おい、親父さん泣いてるんじゃないのか?」
「確かに過保護だけどそこまでは無いでしょ。というか最近鬱陶しいもん」
「それ絶対親父さんの前で言うなよ。多分、立ち直れない位落ち込むぞ」
よし、いい感じに話を逸らせ...。
「パパの事は分かったけど、『父さん』の事逸らせると思ったら大間違いだよ」
シュワット!この帝王やりおる!
「も〜正樹っておバカなの?」
「トレーナーってバカだとなれないんだぞクソガキ」
「いい加減にしなよ?僕の方が力は上なんだよ?」
「いででで!分かった分かった!だから手を握り潰そうとするな!」
俺が理解を示せば、テイオーは握っていた手を離してはちみーを啜り始める。
もうヤダこの暴君帝王...父子揃って暴君ってこの家系どうなってんだ。名家の子って皆こうなのか?
「生憎だが、生徒会室は関係者以外立ち入り禁止だ」
「『僕』はシンボリルドルフの息子だけど?」
「それは
「正樹、リギルサブトレ」
「なんでそれを...」
「ボクがカイチョーに憧れてる事言ってなかったっけ?」
「...ホントマスコミって嫌いよ」
「さあ、僕をエスコートしてくれるよね?」
そう言って目の前に立ったテイオーは手を差し出してきた。まだ幼いがホント顔だけはいいな...フジと同じで宝塚目指せるんじゃねえか?
「他の女考えるのは失礼って学ばなかった?」
「いででで!」
ホント厄日だわ。
⏰
「ほらよ、ここが生徒会室だ。今日はオープンキャンパスだからいるかどうかはわからんぞ」
「いるんじゃないかな?カイチョーってそう言うこと生真面目そうだし」
「...否定できん」
俺は3回ノックをしてからルドルフを呼ぶ。すると中でバタバタと音がしてから「どうぞ」という返事が帰ってきた。
不審に思いながら開けてみると、そこにはルドルフがいつも通り座っていた。一見何もおかしい所はないが、一点だけおかしい点があった。
エアグルーヴがやけに不機嫌な顔をしているのだ。
それこそ正に不良がメンチ切ってる時のそれで、耳は後ろに絞られている。
大方、仕事やり過ぎでエアグルーヴをキレさせたんだろう。ポーカーフェイスで表情、忍耐力で耳を保って隠してるが、恐らく尻尾は力なく垂れている筈だ。
「やあトレーナー君。どうかしたのかい?」
「貴様...」
「エアグルーヴ、ルドルフは後で思う存分やってくれて構わないから許してくれ」
「...いいだろう」
「トレーナー君!?」
まあ、ワーカーホリックを治すには丁度いいお灸だろう。東条トレーナーも頭を抱えていたし、もってこいの荒療治だな。
「それはさておき、お前にお客さんだ」
「お客さん」
「やっほーカイチョー!」
「君は...トウカイテイオー?」
俺の後ろから現れたテイオーにルドルフは目を丸くする。そりゃそうだわな、部外者が本来入れない場所に入ってきてるんだから。
「おい正樹!貴様なんで部外者を!」
「ウマ娘パワーには勝てない」
「貴様それでも自衛官か!」
「戦車相手に素手で戦えって言ってます?」
生憎俺は伝説の傭兵の様な人間ではない。パワー差では産まれたての赤ん坊のウマ娘相手でギリどうにかなるレベルである。それでも空挺格闘レンジャー持ちの化け物同期は、生後1年半の自分の娘のウマ娘に文字通り振り回されていた訳だが。
「そんなに怒る程でもないだろうエアグルーヴ。正樹が連れてきても良いと判断したんだ」
「正確には脅されて屈したんだけどね」
「えぇ...」
このクソガキはルドルフのフォローを見事塵にしてくれた。何コイツまさか俺の事ボコして楽しんでる?
「そうだ、カイチョーに言いたい事があったんだ」
「そうか。それは一体なんだい?」
そしてテイオーは核の爆発ボタンを叩き押した。
「『今度』こそ『皇帝』を超える『帝王』を見せてあげるよ!後、正樹を【『僕』のトレーナー】にしてみせるから」
それを聞いたルドルフは目を見開いた後、耳を絞りながら口角を上げた。
「ほう、言う様になったじゃないかテイオー。生憎『俺』は彼を手放す気は毛頭ない。息子相手とはいえ手を抜く気もないぞ?」
「勿論そのつもりだよ『父さん』。『僕』はボク自身の力で正樹を手に入れる。『父さん』に手を抜かれる程帝王は弱くないって事を証明してみせる」
...流石皇帝と帝王。この圧は半端じゃねえなぁおい。
「貴様...まさかテイオーも...」
「そうだ。俺がうっかり出会ってな」
「なんて事を...」
「ピルサドスキーよりはマシだと思え」
「....嘘だろ?」
「親父はよくピルサドスキーの所に連れていってくれたよ。自衛隊入隊後もな」
エアグルーヴは絶望という言葉が具現化した表情をしていた。まあ、同情はする。ちょいちょい小耳には挟んでいるが、ファインモーションを通じてちょっかいをかけられているそうだ。前世であんな事されればそりゃ嫌だわな...。
というか今の生徒会室魔境じゃね?バチバチになってる皇帝と帝王に絶望してる女帝、それ傍観してる自衛官。こうしてみると俺って滅茶苦茶やべー奴じゃん。
改めて自分のヤバさを感じていると放送が流れ始める。
【御家族でお越しのトウカイテイオーさん。御家族でお越しのトウカイテイオーさん。ご両親がお待ちです。本館1階受付までお越しください】
『えぇ....?』
その場にいた全員がド〇フ並にズッコケて、声が重なった。
「なんというか...大変なんだな」
「うん...いくらなんでもパパもママも過保護過ぎるよ...。」
その後ルドルフと共にテイオーを送ったのだが、なんか俺がテイオーを連れていったと彼女の父親に掴み掛かられ、テイオーが事情を説明した上で。
「すぐ人を疑うパパなんか大っ嫌いだ!」
と言い放ち、見事テイオーの父親がK.O.され、母親が俺に謝り倒していた。
因みにルドルフも流れ弾を受けており、結構ショックを受けていたようだ。この皇帝喜怒哀楽の感情暴れすぎじゃないか?