転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について 作:和菓子甘味
「射撃指導?」
「はい、ファインモーションさんの護衛の方々から直々に」
「そういうのは普通科か自国の軍隊に頼むべきでは...?」
「それがどうしてもということでして...文科省や防衛省も国際問題は避けたいと言ってます」
「まあそうなるわなぁ」
俺は朝から頭を抱えた。職員室でたづなさんに声をかけられた時から嫌な予感はしていたが、まさかこんなことになるなんて誰が予想出来ただろうか。
「とりあえず、こちらとしても命令が無い以上は動けないので、命令が発簡されてから準備等を...」
「防衛省から今日発簡するから明日には実施すると...」
「そろそろ俺の年次休暇簿を焼却処分すべきかな」
休みはどこに消えたんだ...。今では前世で競走馬に関わった事を呪うレベルである。
とはいえ、それ自体が嫌だった訳では無い。あの子達に触れ合った時間は確かに貴重な宝ではある。だから俺もなんだかんだ言って付き合ってるわけなんだが...。
「そろそろこの性格変えるべきかなぁ?」
齢トータル50にして悩む事なのかと思うが、そう思うのも仕方ない気がする。
⏰
結局1時間程しか寝れなかった昨日ではあるものの、俺は3トン半で朝霞訓練場へとやってきた。
荷台にはファインモーションのSP20名が射撃資材と共に乗車している。
「よし到着っと」
3トン半のエンジンを止めて輪止めをかけた後、俺は後板を下ろしてステップを展開し、下車準備を整える。
「下車用意、下車!」
俺の号令と共にSPの人がぞろぞろと3点支持で降りてくる。ウマ娘が多いが、ちらほら人間の男女も混ざっている。
全員が下車すると、SP隊の隊長が整頓させて俺に対して敬礼をしてきた。
「本日は貴重な時間を頂き、感謝します!」
「こちらこそかのアイルランド王族護衛官の方々にご指名頂き光栄です。流石に普通科程とは行きませんが、できる限りのご指導はさせて頂きます。ではまず場の構成から始めますので、皆様はお持ち頂いた拳銃を準備しておいて下さい」
とりあえず俺は3トン半の荷台からF的を下ろし、射座から25m先へと設置する。今回は射撃予習のみとはいえ20名が錬成する為、F的5枚を設置、4個射群を編成して実施予定だ。
「こんなもんかな」
俺が準備を終えると、何故かパジェロがヘッドライトをつけてやってく...る...?
あれ師団長車じゃね?星がダッシュボードの上に掲げられてるんだけど...。
「うっそだぁ...」
目の前でパジェロが止まると、中から陸将の階級章をつけた壮年の自衛官と1人のウマ娘が下車してきた。
おいおい聞いてないぞ...。
ともかく俺は即座に綺麗な挙手の敬礼をする。
「お疲れ様です!」
「おつかれさん。急遽来て悪いね。どうしてもファインモーション殿下が視察されたいとの事で来てしまったよ」
「やっほー!樋野トレーナー!」
ああ神よ...どうしてこんなに面倒事を俺に課せるのですか...。
師団長は「こっちは気にせずにやってくれて構わない」と言ってくれたものの、陸将相手に気軽にやれるかい!
まあ口では言わないが...気を取り直して指導を実施する。
⏰
正直なところ、護衛官の殆どが警察や軍の特殊部隊か精強な部隊から選抜された者たちなので、俺が指導できるところはあまり無かった。指導した事と言えば、俺が敵役となって何度か接近戦の練習をしたぐらいなのだが...。これ俺である必要あった?
「では、これで本日の訓練を終わります。申し訳ありませんが、私も格闘指導官やレンジャー隊員というその道のプロではなく、唯の一般隊員ですので教範事項に則って訓練させて頂きました。少しでも皆様のお力になれたのであれば幸いです。以上で結言を終わります」
「樋野教官に対して敬礼!」
こうして俺の射撃訓練は終了した。
これで終われれば良かったんだんだけどなぁ...。
「ねーねー!せっかくだからラーメン食べて帰ろ!」
「やめやがり下さいお姫様」
「ええ〜貴様〜余の願いが聞けぬと申すか〜」
「ダァー!止めろ!こちとら3トン半運転中なんじゃい!」
後ろに満載の人を輸送中だと言うのに...この姫君は構って欲しさに俺にひっつこうとしてきおった。
頼むから事故だけは起こさせないでくれ。俺が生命的にも社会的にも国際的にも死んでしまう。
アイルランドの王族に引っ付かれて事故起こして死傷者出ましたなんて...スタイリッシュ国際問題なんてレベルじゃないぞ...。
「ふーん...そんな態度取っちゃうんだ〜」
「頼むから状況みて?俺運転中なのよ?」
人生初の戦車輸送でもここまで緊張したことはない。1歩間違えば日本とアイルランドの国家レベルの問題とかマジで笑えねぇ...なんで俺安月給でこんな重荷負わされてるの?我たかが3等陸曹ぞ?
「いいもーん。理事長に(塩対応で)酷いことされたって言うもーん」
「おい、俺に死ねと申すか」
語弊なんてレベルじゃねえ...マジで墓標が立っちゃう...。
「頼むから運転に集中させて!事故ってからじゃ遅いんだから!」
「正樹なら大丈夫だよ〜」
「信頼されてる事をこんなにも素直に喜べない事が、今まで1度でもあっただろうか」
こうして俺は精神をすり減らしながらトレセン学園へと帰隊したのだった。
⏰
「やっと落ち着いたぁー」
撤収を終えた俺は、俺を思い出したシャカールにファインを押し付けて逃亡。トレセン内でも一番端に位置する喫煙所にやってきていた。トレセン学園内で唯一の憩いの場であるが、殆ど使われていない場所である。近々撤去の話も出ているそうだ。
「ったく。世知辛い世の中だぜ...」
「なら、辞めるのが1番だと思いますよ?樋野班長」
せっかくの憩いの時を邪魔しに来るほど、空気が読めない奴だったはずはないんだがなぁ...。
「懐かしい呼び方だな、南坂。陸教同期なんだからもっとフランクでいいって言ったのによ」
「生憎と、これが僕の性格でして」
俺の後ろに立っていたのはチーム「カノープス」のトレーナーを務める南坂だった。彼は俺の2個年下だが...元自衛官で俺の陸教同期だったりする。因みに入隊も2年下である。
「しかしまあ、陸教以降音沙汰がないと思えばこんな所でトレーナーをしてたとはな」
「それはこちらのセリフですよ。まさか出向で中央に来てるなんて...」
「お互い様ってこったな。そういやお前さん、風の噂で聞いたんだが...一時期所属してたらしいな『S』によ」
俺が『S』の隠語を出すと南坂はしかめっ面になった。どうやら噂は本当だったらしいな。
「やっぱり自衛隊は噂がすぐ広まる」
「そりゃ娯楽に飢えてっかんな。通信科のお前が抜擢となりゃそりゃ流れるわな」
俺がタバコを吸い、紫煙を吐き終わると南坂が口を開いた。
「...僕に自衛隊は合わなかったんです」
「んなこたぁ分かってら。辞めるやつは余程の奴以外そんなもんさ」
「樋野班長は怒らないんですね。『S』から逃げた僕を」
「バッカお前、俺はただのモブだぞ。『S』なんて場所知らねえ癖してお前に何言えるんだ。ただ1つ言いたいことはあるな」
「言いたいこと?」
吸いきったタバコを灰皿に押し付け、火が消えたのを確認してから2本目に突入する。
次の言葉を待つ南坂を尻目に2本目の1吸い目を堪能して吐き出す。そして今まで投げたかった言葉をぶつけてやった。
「お前のその経験は必ず誰かの為になる。それを使える時が来たら迷わず使うようにしろよ」
「...なんか樋野班長が言うとカッコよくないですね」
「昔っからこういうとこで毒吐くよなお前....」
なんとも締まらない決めゼリフになっちまった...。
泣けるぜ。
まだ先ですが、1月上旬からは更新が出来なくなります。
理由としては樋野と同じ位になる為に入校するからなのでご了承くださいませ。