転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について 作:和菓子甘味
「えーっと...?ここがB整備で再来月がC整備...あれ?タイヤの番号なんだっけ?」
「....」
「何処だ何処だ...これがタイヤの一覧表か?あ、違う。補給物品の一覧表だ」
「....」
「あっるぇ?どーこにしまったっけなぁ?確かここにあるはずなんだけど...これか?『武器ロット番号表』お前じゃねえ!」
「Just look at me!」
「首がァ!」
久々に自衛隊の事務作業してたらクリスエスに首の骨を折られかけた正樹さんです。
いやー何があったのかこの子ずっと事務室に入り浸ってそばにいるから放置してたんだけどまさか俺の暗殺を狙ってるとはこの正樹の目を持ってしても見抜けなかった。
「いってて...クリス頼むからウマ娘パワーで無理やり首を捻らないでくれ...リアルア○パンマンになっちまう」
「Sorry...だが無視した正樹が──圧倒的に悪い」
「なんでウマ娘ってワガママなの?」
こうしてみるとまだスイープとかオルフェの方が大人しい部類に見える。あっちは駄々っ子で済むし。
「先程から──Feeling of loveを向けているのに...」
「馬の時と違って言語があるんだから話しなさいよ」
「Conversation──私と正樹の間では不要だ」
「超能力者か何かと勘違いしておっしゃられる?」
俺はただの一般的なトレーナーであって読心術なんざ習得してないし、そもそもクリスはクリスで寡黙な上にポーカーフェイスだからこっちとしてもまるでわからんのだ。
「ともかく!しっかり相手とコミュニケーションをとることをしないと気持ちを伝えられんぞ!」
「Roger──任務を遂行する」
「は?」
⏰
「で?こうなったってか?」
「そうだ助けてくれシリウス」
「ブッフ!...なっさけねえ奴。見るだけでおもしれぇ」
「笑いこらえながら話すんじゃないよ」
偶然事務室に来たシリウスに現状を見られて助けを求めたら煽られたでござるの巻。
そりゃ面白いでしょうな。クリスは身長170cmにもかかわらず、俺にコアラの如く抱きついてる。そして俺は身長162cmと正に奇妙な状態である。正樹だけに。上手くねえか。
□
「アイデンティティを奪われた気がする!」
「バカ言ってないで書類作業してください会長」
「すまないエアグルーヴ!ちょっと席を外す!」
「あっ!ちょ!待って下さい会長!待て!」
□
「しかしまあ、よくよく考えたら正樹って結構チビなんだな」
「言うんじゃありません」
「あれか?男の威厳がとかのプライドか?」
「うん元男だからって傷をえぐって良い訳じゃないよ?泣くぞ?終いには年甲斐無く泣いてやろうか?28歳の泣く姿なんて見るに堪えないぞ?」
「そんなにムキになるなよ...ブフォ!」
こんの不良ウマ娘....さっきから吹き出しながら一向に助けない所を見るに楽しんでやがる...今度メイド服とか着せてやろうか。
「で?どうするんだよ。こうなったクリスはてこでも動かないと思うぞ?『叔父貴』と『俺』でなら剥せるには剥せるかもしれんが」
「何この子フェイスハガーの系統種族なの?...ルドルフは面倒だからいいや」
「愛しの正樹が呼んでいるッ!」
「呼んでねえし帰れ不純物」
どっから聞きつけたのか不純物100%の暴君が現れた。
逃げるコマンドかル○ラを選択させて欲しい。
「...『オレ』が言うのもなんだが最近『叔父貴』に対して辛辣すぎないか?」
「どうせあのライオンの手綱握れる奴いねえんだしせめてもの悪あがきだよ」
流石にシリウスが憐れむレベルの様だが知ったこっちゃない。
こいつのせいでどれだけ面倒事が増えたか...。
俺のPCに保存してた鹿毛のナイスバディウマ娘ファイルをPCごと破壊した上、シャカールとPC買いに行っただけで制裁とか理不尽すぎんだろ。
「トレーナー君...何故クリスエスが君に抱き付いているのかね?」
「寧ろ俺が知りたい」
ほーら始まった。耳絞って目付きが肉食獣のそれになったよ。
もう慣れたからいいけどそろそろいい加減にしてくれないかなぁ...。
「クリス!そこは『オレ』の玉座だ!退け!」
「拒否──正樹は椅子では無い。『私』の番いだ」
「考えうる限り最悪の日本語かましおったで」
クリスの番いという言葉に反応したのかそれはもうルドルフが猛獣が戦う寸前の顔になっておられる。
それに気づいたクリスは俺から降りてルドルフに詰め寄った。
「ほう?随分とふざけた事を言うようになったなクリス...久しぶりに喧嘩でもするか」
「No──喧嘩では無い蹂躙だ」
「クリスって気性荒かったっけ?とりま助けてシリウス」
「...」
「シリウス?」
「わりい...流石に今の『叔父貴』相手はパス」
「わぁ孤立無援だぁ!」
どうやら流石のシリウスも今のルドルフと対峙するのは無理な様だ。
そりゃそうか、俺だって出来ることなら今すぐ漏らすレベルでバチバチしてる。
これが馬の時なら多分俺はミンチよりひでぇ事になること間違いナシだ。
とりあえず今ここで暴れられると俺の仕事がダメになるので止めなきゃならん。
「はいはい2人ともそこまで...いってえ!」
「ヴヴゥゥゥ!!!」
「落ちつけルドルフ!痛い痛い噛むな噛むな!」
こんのライオン俺の左手に噛み付いてきた!
いやまじで引きちぎる勢いでコイツ噛んでるんだが!?
あかんあかん指ないなる!
「何やってんだバカ『叔父貴』!」
「ぐぁ!?」
さすがにまずいと思ったのか、シリウスの見事なまでの左手フックがルドルフの後頭部に炸裂して俺の指は離された。
歯型どころか血まで出ていた。マジで食いちぎられるレベルじゃん怖ァ...。
「いってぇ....マジでちぎれると思った」
「正樹!大丈夫か?」
「大丈夫だクリス...とりあえずルドルフ」
「うっ...ま、正樹...」
流石に頭に血が上り過ぎたとはいえ、やらかした事の重大性を認識したルドルフはさっきまでの威勢はどこへやら。怒られるペットのごとく耳も垂れ、しっぽも垂れていた。
「ルドルフ、発情期の薬飲んだか?」
「....業務が」
「言い訳しないの。飲んでないんだな?」
「はい...」
「まさかとは思ったけどさ...」
案の定やけにイラついてると思えば発情期の薬を飲み忘れていたらしい。そりゃあんだけ気が立つわな...。
机から非常用に常備しておいた抑制剤を取り出してルドルフに渡す。
「ほら水もやるから飲め」
「わかった....」
ルドルフは大人しく薬を飲む。
俺も引き出しから救急品セットを取りだして手の処置を行う。
処置が終わって向き直れば未だにルドルフは下を向いて固まっていた。
「はぁ...シリウス、クリス。悪いが今日は帰ってくれ。ルドルフは俺が何とかする」
「だが──」
「クリス。『オレ』達より正樹の方が『叔父貴』の対応が出来る。信じてやれ」
「──わかった」
「ありがとう2人とも」
クリスは少々不満げではあったが、シリウスに説得されて退出してくれた。
これでやっとルドルフと話せる。
「ルドルフ」
俺が声をかければルドルフがビクッと跳ね上がった。
正しく刑を執行される犯罪者の如く。
「ほらおいで」
「正樹...?」
だが別に俺は叱りつけるために2人になった訳では無いので椅子に座ってルドルフを膝の上に招く。
ルドルフは恐る恐るではあるが俺に近づいた。
だが座ろうとはしないので仕方なくルドルフの腕を掴んで膝の上に対面する形で座らせた。
「ま、正樹!!?」
「まー今回は俺が悪い部分もあったな。いくら別チームとはいえ、お前を放置していたのは間違いない訳だ」
事実、俺はルドルフやエアグルーヴといった忙しい面々以外であれば頻繁に引っ張りだこにされた。
オペラ4時間コースやゲーセン巡りだったり、妹の野菜嫌い克服会、バーベキュー等様々である。
そういった点ではルドルフを放っておいた俺にも非がある。
元来ウマ娘とは独占欲が強い。
父さんが少しキャバクラ行っただけで母さんに組み伏せられてうまぴょいなんて何度見た事か。その結果今小学生5年の妹がいる訳だが...。
ともかく、ルドルフも生徒会長という役職がある以上そこまでガス抜きも出来てなかったはずだ。そこで発情期とさっきのクリスの煽り文句。理性がなくなっても仕方ないだろう。
「すまなかったなルドルフ」
「...ルナ」
「ん?」
「ルナって呼んで」
「はいはい分かったよ...ルナ」
「....ごめんなさい」
「わかったよ。気にしてないし怪我なんて日常茶飯事だ」
自衛隊という仕事柄挟んだり切ったりは日常茶飯事なのでそこまでである。ウマ娘に噛み付かれたのは初めてだけどね。
結局俺はすすり泣き出したルドルフが落ち着くまで彼女の背中を摩ってあげた。
勿論、後でエアグルーヴが来て後々面倒なことになったのは言うまでもないだろう。
後は...。
「トレーナー君...すまないが...」
「はいはい、放課後においで」
「....♡」
少々ルドルフのやばい扉を開いちまったかもしれない。