転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について 作:和菓子甘味
絶対9:1の割合でルドフジと俺が悪いはずなのに、俺だけ説教を受けてから2週間が経った。
俺もサブトレーナー業と自衛官業の両立に慣れてきて、ある程度上手くいっている。ただ問題があるとすれば、俺がまだ見習いトレーナーであって、事務仕事メインでそこまでトレーナーとして活躍できていない点と、今まさに目の前にいる問題にある。
「グラス...ワンダー...」
目の前に広げられた資料の中にある学生の名簿。そこには俺が生前最期を見せてしまった馬...いや、今はウマ娘だな。その子の情報が記載されていた。今年度から入学してくるそうだが、生徒の母数が多い上、俺もほぼ事務仕事がメインなので生徒と顔を合わせる機会がないというのが現状だ。だから会う可能性は低い...が、アニメ通りにチームリギルに加入すれば話は違う。
...正直に言えばグラスに会うのが怖い。
あんな最後を見せてしまったグラスの心の傷は計り知れないだろう。そんな彼女の心を抉るような真似はしたくない。かといって、彼女と話したい。謝りたいという己を制することもし難い。とはいえ、こんな事は容易に想像できたことであり、それが出来なかった俺に非があるとしか言いようがない。
だが、仮に話すとしてもどうやって話そうか?いきなり見ず知らずの人間が来たところで、彼女に前世の記憶がなければ、俺に話すこともないだろう。下手をすれば不審者扱いされかねん。年頃の女の子とはそれほどまでに敏感なモノなのだ。たぶん。
ならばチーム加入試験と考えるが、それもまた話が違う気がしてくる。
そんなこんなでいい案が出ない俺を知らずに、ドアは軽快なノックオンを出す。俺は反射的に「どうぞ」と言ってしまい、入ってきた人物を見て後悔した。
「失礼するわよ、樋野サブトレーナー」
「東条トレーナー、お疲れ様です。お茶でも入れますか?」
「結構よ」
入ってきたのは東条ハナトレーナーだった。おそらくチーム加入試験関連だと思うが、これまたなんというタイミングか...。
「ご要件はなんですか?」
「チーム加入試験についてなのだけど、面接をあなたにお願いしたいのよ」
「はい?」
思わず変な声が出てしまった。
なんて言った?面接?俺が?
「あの...本来そう言うものって東条トレーナーがするべきなのでは...?」
「勿論、貴方は練習でよ。私が1人見繕って、その子に貴方の面接を受けてもらった後、私が面接をするわ。そこで貴方が聞いた事、感じたことを今後に繋げてもらいたいのよ」
「そういう事ですか...」
「面接の経験は?」
「トレーナー養成学校入学試験とトレーナー資格試験と中央トレセン採用試験、自衛隊入隊試験、陸曹候補生試験の計5つですかね?最新のものでも2年前ですけど」
そう、自衛隊に縛られている以上面接なんてほぼテンプレなので外の面接は18歳の時のトレーナー養成学校入学試験とトレーナー資格試験、20歳の時の中央トレセン採用試験位なものだ。とはいえこんなものは大昔なので、最近は色々変わっているのかもしれない。
「充分ね。一応最初ということもあるから資料は用意するから目を通しておいて」
「分かりました」
...この若さで面接官になるとはたまげたなぁ。
頑張るしかないんだろうけどさ...。
それから1週間後、トレセン学園の体育館では今年度入学する生徒およそ500人がこの場にいる...のですが。既に遠巻きに見えるのはセイウンスカイやハルウララ、キングヘイローと言った有名馬...のウマ娘である。そして最も俺が懸念しているウマ娘...。
グラスワンダー。
彼女もしっかり居た。とはいえ俺は面倒な事に自衛隊の第1種冬服を着用している為まあまあ目立つのだ...。だが流石に俺が前世の樋野正樹本人ということを知らないが故か、若しくは記憶が無いのか、彼女達がこちらに近づくことは無かった。
まあ、このまますんなりと事は運べばいいのですが...。
「生徒会長、シンボリルドルフ。以上で、私の挨拶を終わる。続いて、本年度から陸上自衛隊から出向してこられた樋野正樹3等陸曹から挨拶と注意事項があるので、各人しっかりと聞くように。樋野3曹どうぞ」
やってきましたよ。俺の出番が。
理事長に「急遽ッ!自己紹介と注意点を述べてもらいたいッ!」と今日の朝に言われて大急ぎでカンペを作る羽目になった。
とはいえ仕事なので、完璧な基本教練で壇上へと上がり、手元のカンペを取り出して読み始める。
「先程シンボリルドルフ会長からもご紹介頂きました通り、昨年度の陸上自衛隊の定期移動に伴い、陸上自衛隊から出向してきました。樋野正樹3等陸曹です。元々いた部隊では戦車に乗っていました。今現在は、チームリギルでサブトレーナーをさせて頂いています。私の紹介はこれまでにしておき、私からの注意点をお話しますので、しっかりと聞いて下さい。メモを取ってもらっても構いません。まず、近年はウマ娘が注目を受けることがあり、それに伴ってウマ娘を狙う犯罪も増加している上、諸外国では紛争の原因や、ウマ娘の特殊部隊が創設されるなど、我が国の安全保障にも変化があります。そして私は陸上自衛官です。当然ながら武器や装備品を持っており、これを携行すること。そしてその武器を使用することが、防衛省から命ぜられる場合があります。その際には皆さんは私の指示に従っていただく他、特に私から許可を受けた場合以外は、車両や装備品に触れない様にしてください。特に銃火器は銃刀法により罰せられるので、厳に慎むよう要望します。これらを守れない方は、即退学処置を取ると秋川理事長から許可を受けています。以上の2点に注意した上で、皆さんが素晴らしい学園生活を送れることを祈り、私の挨拶とさせて頂きます。陸上自衛隊3等陸曹、樋野正樹」
はい、初めての訓示的な挨拶をしてバリッバリに緊張しました。というか、防衛省もなんでこういう面倒な役割渡してくるかな...「有事の際の日本ウマ娘トレーニングセンター学園の防衛」なんて俺一人でどうこうできるわけないのによ...。その為だけに銃や装備もあるからとんでもない事になってる。良く上は了承したもんだ。
...まさか?いや、シンボリ家ならありえる。他にもメジロ家もその可能性か高い...。
両家が「政治家とパイプを持っている」なんて名家ならありうる...。
そろそろ逃げた方がいいかなぁ...陸上総隊の佐官やってる親戚に連絡とるか...クッソ嫌だけど。