転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について 作:和菓子甘味
入学式から1週間が経ち、第1回選抜試験がやってきたのである。だがしかし、学園会議室で項垂れる俺の心は絶賛曇り模様である。それは今目の前にある東条トレーナーから渡された資料が理由だった。
見てくれはなんの変哲もないただの身上調書である。
だが重要なのはその書類に書かれた名前。よりにもよって「グラスワンダー」なのである。
...まあそうだよねとしか言い様がない。こうなる事は事前に分かっていたはずだ。腹案の保持をしていなかった俺に責任があるし、陸曹が聞いて呆れる。
しかしながら、こうなった以上はもう逃げも隠れもしない。俺はただの面接官として、彼女に接しなければならない任務がある。
「気は進まないが、仕事だしやるしかねえか...」
面接開始まで5分後なので、いつもより綺麗にした戦闘服にシワがないか、装甲靴も汚れがないかを確認して、グラスワンダーを待つ事にする。
そしてきっかり5分後、ついにその時はやってきた。
「グラスワンダー、入ります」
「どうぞ」
3回ノックの後に入ってきたのは栗毛の少女...グラスワンダーだった。
グラスワンダーは丁寧に扉を閉めると、椅子の横にまで来て止まった。なるほど、面接の手順はしっかりやっているという事か...。
「どうぞ、お掛けください」
「失礼します」
ふむ、動作も滑らかにやっている...。
「初めまして、チームリギルサブトレーナーを務めています。樋野正樹3等陸曹です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「ではこれから面接を開始します。まず...」
面接は順調にいった。自己紹介と自己PRもしっかり言えているし、マイナスな面を余り出さず、出したとしてもプラス面に持っていく辺り流石と言えよう。
ある程度の質問はできたが、最後に1つだけ変化球を。
「では最後に伝え忘れたことはありませんか?」
「....はい。一つだけあります」
「腹を切りなさい、正樹」
俺は絶句した。
なぜならグラスは...。
「どうして...どうじで...あなだまで『ボグ』をおいでいっだんでずが...!」
溢れんばかりの涙を流していた。
そうだった。グラスワンダー号は長寿な競走馬で有名だったが...その同期である黄金世代と言われた面々。スペシャルウィーク号、セイウンスカイ号、キングヘイロー号、エルコンドルパサー号はもう亡くなっていた。仲がいいとは言えないかもしれないが、それでもライバル達をなくし、自分はまだ生きている。それは人によれば、生き地獄なのかもしれない。
そして彼女の様子から、俺は『彼』に気に入られていたようだ。
「グラスワンダー...」
「イヤだ!もう...もう居なぐならないで!...『ボグ』といっじょにいでよぉ...!」
もう面接の事なんて頭にないのだろう。グラスは俺に抱きつき、泣き続けた。
俺はただ彼女を抱きしめてやることしか出来なかった。漫画の主人公ならかっこいいセリフを言えたんだろうけどな...。
ある程度グラスが落ち着いた所で、俺は声をかけた。
「グラス....すまなかった。約束を守れなくて。時間がかかったが、約束を果たさせてくれないか?といっても、俺と君の都合が合えばだが」
「うん...!」
短い言葉だったが、グラスは肯定を示してくれた。1歩前進できたかどうかは怪しいが、行動しないよりはマシだろう。
さて、これどうしたもんかなぁ...グラス全然離してくれないんだけど。てか物凄い勢いで俺の体の匂い嗅いでるんだが!?くすぐったい上にこれ見つかったら事案なんだが!?
「グラス...?そろそろ離して...」
「やー!」
「精神幼児化とはたまげたなぁ」
こういうのってルドルフとかああいうのが専売特許なんじゃないの?
□
「クシュン!風邪でも引いたのかな...?それよりも...。フフフ、君を絶対に手に入れてみせるよ...正樹君...。」
生徒会室では樋野の隠し撮り写真を撫でるルドルフがいた。
□
おいなんだすげえ悪寒がしたぞ。また皇帝かエンターテイナーがなんかやってんのか...。って、いつの間にかグラス寝てるし...。
「面接終わったら寮に返していいって東条さんも言ってたしなぁ...とりあえずヒシアマゾンに連絡とるか...」
寝てるグラスを背負って、俺は美浦寮へと足を進めた。
因みに俺がグラスを泣かしたと思われてヒシアマゾンにドン引きされかけた。俺って前世でなにかしましたかね?